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「僕一人で全部片付けられました。やっぱり、ダリウスは余計でしたね」
帰路についたところで、ユーリイがぶつぶつ文句を言っている。
「なにをいうか! 私が四匹落としたのではないか!」
「僕が弱らせたのを落としただけです。あなたが自分の力で倒したのは最初の一匹だけでしょう」
「二人とも、あれだけ連携して強かったのに、なんで喧嘩してんの?」
「連携なんてしてません! 僕一人で全部倒せました!」
「私がいたおかげで時間が半分で済んだと認めたまえ!」
ふはははは! と、ダリウスは豪快に笑っている。
──ああ、つまるところ、こいつ本気でユーリイが気に入ってんな。
ランスは納得する。
ギルドで会った時から、ダリウスは一貫してユーリイをパーティーに誘っていた。
魔法攻撃特化型のダリウスにとって、高位貴族の所作を身につけつつ、物理も魔法も扱え、戦場の流れを即座に理解するユーリイは──。
──そりゃ〝理想の相棒〟に見えるだろうよ。
ランスは、二人のやり取りをぼんやり眺めつつ思う。
「ねえ、ランス。僕一人で全部片付きましたよね?」
「そうだな。ユリィ一人でもカタはついただろうが……でもダリウスがいたから安全に早く終わったんだ。どっちも事実だろ」
「んも〜、ランスは本当にお人好しすぎます!」
ユーリイはむう〜っと頬を膨らませている。
──ほんと、まだまだ子供だな。
ランスは肩をすくめた。
§
野営地を決めたところで、ダリウスはすっかり馴染んだ様子で自分のテントの設営を始めた。
前日に作った炉が、まだ残っている。
ランスはそこで火を炊いて、小麦粉を水で溶いたものを薄く焼いた。
帰路の途中で目につき、枝を集めておいたアイアンパインの樹皮を削り、大きめの串状に切り出す。
アイアンパインは、非常に燃えにくい木である。
焚き木として集めてしまうと、火がつかないのでくたびれ損になるが、火かき棒の代わりに使うと非常に便利だ。
異次元鞄に残しておいた、昨日のロックリザードの肉塊を取り出し、適当な厚さに切る。
やはり帰路で集めておいた香りの強い数種類の薬草と、手持ちの塩を混ぜたソルトハーブをまぶして、先程の串にどんどん突き刺し、大きな肉塊にした。
それを、炉の上に置き、時々回してじっくり炙り焼きにする。
アイアンパインを串に使ったのは、火がつきにくいこともあるが、炙られると、甘くて乾いた香りが立ちのぼり、ロックリザードの淡白な肉に、わずかな燻香を添えてくれるからだ。
ロックリザードのソルトハーブ焼きをナイフで薄く削り、焼いておいた平パンに乗せ、そこに一角うさぎなどが好んで食べる、歯ざわりは良いが味気のないエセレタスを一緒に巻いた。
「おい、夕飯で……」
振り返ると、ダリウスとユーリイがニコニコしながら並んで待っていた。
「今夜はなにを食べさせてもらえるのかね?」
「昨日と同じ、ロックリザードだよ」
大きな葉で持ちやすくしたロールサンドを渡し、薬草コーヒーを淹れる。
「いただきます!」
ユーリイは、渡されたロールサンドは片手で持てるサイズだが、わざわざ大事に両手で受け取った。
そしてキラキラした瞳で見つめたのちに、かぶりつく。
「ううむ! これは旨いな!」
シャキシャキとしたエセレタスの歯ざわりと、塩味を濃いめに付けたロックリザードの肉、そこに辛味の強い複数のハーブの香りが口いっぱいに広がる。
「やっぱり、ロックリザードだとちょっと脂みがたりんな」
ランスは食べて、反省を述べる。
「なにをいうか! こんな複雑な味わいがあるロックリザード、そうそう口にできるものではないぞ! 確かに少々コクに欠けるが、それを補うスモークの香りがあるではないか!」
「確かにコカトリスの時に比べるとパンチはありませんが、淡白な味にハーブの香りが最高です」
ダリウスとユーリイが、身を乗り出すようにして褒めちぎる。
「まぁ、腹いっぱいくえよ」
昨日と同じく岩盤浴をセットし、一行は夜明かしをした。
「ああ、これで一段落かぁ……」
最後に岩盤浴をしたランスは、毛布を風魔法で乾かし畳んで、大きく伸びをする。
夜空には、満天の星が輝いていた。




