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第2話 始まりは静かだった

第2話です。

暑いですね、夏はいつ頃終わるんでしょうか。

「美花さんは何故女優を目指そうと思われたのですか?」

もう何度答えたか分からない。記者という人種は、どうしてもこの質問を外さない。私は半ば呆れながらも、いつも通り答える。

「昔女優の松川らんさんにとても憧れていました。私は高校生の時進学するか女優を目指すか悩んでいた時に、両親を事故で失いました。その時は絶望でいっぱいでしたが、松川さんも早くにご両親と弟さん亡くしていたと知って、そんな事実を抱えながらも人を笑顔にする彼女を見て、私も前を向かなきゃ、彼女のようになりたいと強く思ったんです。」

こう言うと大体の人は頑張ったんですねなどと感動するか、まるで良くないことを聞いたかのような顔をする。どうやらこの記者は前者らしい。私はまたもや幼少期の記憶が頭をよぎる。あの工場を見たからだろうか、はたまた両親の死を思い出したからか。そこからのインタビューは詳しく覚えてない。


多忙な父とスーパーのパートで働く母の間に産まれた双子の女の子。何度も何度も名前を間違われ、お揃いの服を着させてしまえば両親さえもどちらか分からなくなってしまうくらい私と妹の愛花は容姿が似ていた。

物心ついて私が愛花に抱いた感情は“変なの”。この一言に尽きた。例えばクリスマスや誕生日、両親はよく欲しいものを聞いてきた。私は幼いながらにもぬいぐるみやおもちゃなど、毎年必死でお強請りしていたが、愛花はそうではなかった。「何も無い。」愛花は毎年そう言った。

無欲なのか、興味がないのか。欲しいものを何でも買ってもらえるというのに、そう言う妹に両親も手を焼いていた。それだけでは無い。好きな色や将来の夢、愛花の考えてることはいつも分からなかった。恥ずかしがり屋なのではなく、何を聞いても妹は自分の意見を言わなかった。まるで自分という存在を隠しているような子供で、私は愛花のことが理解出来なかった。小学校や中学校で私にはたくさん友達が出来た。そうすると何も言わない愛花よりも友達との時間の方が大切に思うようになり、会話も徐々になくなっていった。しかしそんな妹でも血を分けた姉妹であり、成長していく姿も私は愛花とよく似ていた。この頃私はまるで自分とは住んでいる世界が違うような、別の生き物のように思うような妹と似ていることが苦痛でしかなかった。高校は地元の高校に入学した愛花とは別に、地元から少し離れた街の学校を選んだ。そうすれば、誰にも‘’双子”だと気付かれず済む気がした。そして16歳の高校1年生の夏、両親が死んだ。夕方にたまたま仕事が早く終わった父は最寄り駅から家まで歩いているところに、夕食で使うとんかつソースを切らして出かけていった母がばったりと会い、2人で帰路の歩道橋を歩いていたところ転落事故が起きた。警察は2人を事故死として処理し、両親が二度と帰ってくることがないと知った時に私は泣いた。一晩中泣いた。母が最後に作ったとんかつの味は涙でしょっぱかった。次の日遠くの親戚が集まって葬儀が行われた。知らせを受けた時も葬儀中も愛花は泣かなかった。声1つあげなかったのだ。その時の感情を、私は今でもうまく言葉に出来ない。軽蔑だったのか、怒りだったのか…ただ、確かに愛花が許せなかった。悲しいはずなのに腹のそこから這い上がるような嫌悪感、一度それを感じてしまったら両親が死んでも何故涙ひとつ流さないのか、悲しくないのかなど言いたいことはたくさんあったが、言葉を飲み込んだ。私と愛花の性格の違いによく悩んでいた両親の前で、喧嘩はしたくなかった。親を亡くした私達を親戚が引き取ることになり、私達は地元を離れた。幸いにもお互い高校は通える範囲内だったので、卒業後は私はフリーターとして働きながら女優を目指し、愛花は就職が決まったため、2人とも親戚の家を出た。

私は愛花と相変わらずどこか一線を引いていたが、お互い緊急連絡先や家を借りる時の保証人として必要最低限の連絡をするようになった。親戚にこれ以上迷惑をかけないためにだ。高校卒業して家が決まって以降、私は愛花と会っていないが、あの工場に務めていると知っているのはそういうことなのだ。


インタビューを終えた私を三郷が自宅まで送ってくれた。オートロックのマンションのロビーで管理人の仲田さんと警察官2人が何かを話している。仲田さんは60代で白髪混じりの髪の毛でとても物腰が低く穏やかな人だ。その仲田さんが何やら複雑そうな顔をしている。もしかして近くで事故でもあったんだろうか?そんな考えが過ぎりながら、私はそこを通り過ぎようとした。

「あっ清川さん清川さん、ちょうど良かった。」

管理人の仲田さんが私を見るなり駆け寄ってきた。

「今ね清川のこと聞かれたんだよ警察に。少し話してくれるかい?」

仲田さんに続くように警察官の1人が口を開いた。

「東警察署の者です、清川美花さんで間違いありませんか?」

私は撮影とは別の緊張が身体に走るのを感じた。警察が何の用なのか?心当たりが全くない。何故私を探していたんだろう。そう思いながらも私は頷き、警察の言葉を待った。


「実は、貴方の妹…清川愛花さんが行方不明です。」

最後までお読みいただきありがとうございました。

これからどうなっていくのでしょうか。ご感想等お待ちしております。

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