沈黙する町
最初に音が消えたのは、時計の針だった。
次に、水道の滴り。風の音。犬の鳴き声。
最後に、人々の声が消えた。
この町には、もう音が存在しない。
音が聞こえないのではない。発生しないのだ。
それでも人々は普通に生活していた。口を動かし、笑い、怒り、泣いている「ふり」をしていた。
町の規則では、「音がないことについて話してはいけない」ことになっている。もっとも、話しても伝わらないが。
主人公・スミは15歳。ある日、町のはずれにある“音の残響がある場所”を見つける。廃屋の床に落ちていたのは、古びたカセットテープ。再生すると、音がした。
それは誰かの声だった。
「これを聞いてるあなたへ。この町の音は、誰かがすべて“預かった”。
音には感情が宿るから。それがあまりに危険だったから。
わたしが代わりに、全部、受け取った。」
スミは毎晩、その声を聞く。毎晩すこしずつ、記憶のような風景が再生される。母の笑い声、踏切の警報、誰かの歌。
しかし同時に、スミの中から何かが抜けていく。自分の声、自分の感情、自分の記憶が薄れていく。
ある夜、彼女は気づく。
あのテープは**音の“保管庫”**ではなかった。**音の“感染源”**だった。
それは感情を伴う音の集積体で、誰かに聞かれるのを待っていた。宿主を探していた。
スミは最後のテープを再生する。
「ありがとう。これで、あなたがわたしになる。
町のみんなが沈黙した意味、わかるでしょう?」
その瞬間、彼女の中にすべての声が戻ってきた。
けれど、もうスミという個人はどこにもいなかった。
次の日、町に一人の少女が現れた。誰も知らない顔だった。
だが、その声に、町中の人間が思わず振り向いた。懐かしさと恐怖に震えながら。
少女は言った。
「あなたたちは、まだ、聞こえたままでいたいの?」
自分でも書いててよくわかんなくなったので、ボツりましたがせっかくなので、投稿しました。