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咲花先生はちっちゃいけど大きい  作者: みちづきシモン
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7話「神谷巫女の料理特訓」



 道場の師範は咲花先生のお祖父さんだと先生は話す。

「なら爺さん。俺も弟子にして欲しい」

 賢也は話を聞いて、そう言った。

「駄目じゃな」

「な、なんでだ!? 礼儀作法が悪いからか?」

「そんなものは関係ない。ワシ自身の問題じゃ」

「おじいちゃん、今年に腰を痛めてね」

 ガクりと崩れる賢也。だが咲花先生は笑った。

「その代わりに私が師範代としてあなたを弟子にしてもいいわよ」

「本当か?」

「私の指導は厳しいわよ?」

「あ、あの!」

 優斗が手を挙げた。

「僕が習うのって意味ないですかね?」

「そんなことはないわ。でも厳しくいくわよ?」

「はい!」

 そして、もじもじしている巫女。

「二人にお弁当作ってきてあげたりしてもいいのよ?」

 咲花先生は笑って巫女に言う。だが巫女はお弁当を作る事が出来ないと言う。

「それこそ学びよ。学習して練習する。今から作れるようになればいいでしょう?」

 しょんぼりしょげる巫女に咲花先生は笑って言った。その言葉を聞いた彼女は笑顔になった。

「その通りかもしれません! 頑張ります!」


 料理部に入った巫女は賢也のために料理を作れるように修行する。まずはお弁当を作れるようになりたいと願う巫女に料理部部長が力を貸した。

 一つ一つ作り方を教わって覚えていく巫女。卵焼きの作り方から始まり、ご飯を炊く基礎も母から習う。

 今までそういうことから避けて自分の美を追求する事だけに集中していた巫女の成長に、彼女の母は喜んだ。包丁も少しずつ上手くなっていく巫女。

 彼女の母は料理を上手く作ろうとして怪我をしないように言う。まずはゆっくりでも丁寧に作れることが大切だ。

 失敗を繰り返して、母にも手伝って貰い作ったお弁当を賢也と優斗に学校で渡す。それは形は不格好でもとても美味しいお弁当だった。

 だが賢也は食事制限もしている。次からは学校では少量にして欲しいと頼んだ彼は、それでも巫女の作ってきたお弁当を綺麗に食べた。

 空になったケースを返す二人は巫女に美味しかったよと言った。照れる彼女は、明日も作ってくるねと言って席に戻っていく。顔は真っ赤だった。


 料理の本を図書室で借りて帰る巫女は、もっともっと賢也に喜んで欲しくて料理に熱中する。何か一つの事に集中した時の彼女は誰にも止められなかった。

 キャラ弁にも挑戦しようとする彼女はそこでハッとする。賢也は食事制限をしているから少量でいいと言っていた。でもいっぱい食べて欲しい……それならば筋トレメニューに合ったお弁当を作るべきではないのか? と思ったのだ。

 それから巫女の研究が始まった。まずは賢也のお弁当だけ一段のみ。優斗のお弁当は二段重ね。

 賢也のお弁当はタンパク質がしっかり摂れるメニューで、賢也自身も彼の母親からお弁当を受け取っているため食事量が多くなりすぎないようにする。

 そうして出来たメモを連絡先のメッセージに入れる。返事を待つとグループメッセージから返信があった。

『いいんじゃないか?』

『僕もそれがいいな』

 優斗もどうやら母親から弁当を持たされてるらしかったから、あまり量が多いと食べられないらしい。巫女はメモを調整する。そしてお母さんに頼んで欲しい物を買いに一緒に行ってもらう。


 そうして次の日、朝早く起きてお母さんと調理に挑戦する。丁度いい焼き具合にするのが難しい。お母さんにタイミングを教えて貰ったがイマイチ分からない。

 だがなんとか今日の分のお弁当を作り終えてホッとした巫女は片付ける。洗い物もお弁当作りのうちの一つ。汚れを放っておいてはいけない。

 教えられた通りに綺麗に片付けてから学校へ行く準備をする。お弁当を二段重ねにして一段ずつ二人に渡す事にした巫女。そうやって一日が始まった。

 朝早くに起きるのに慣れてなかった巫女は欠伸をする。これからは早寝早起きを心がけようと決心したのだった。


 勉強は巫女にとって楽しいものだった。新しい事を覚えられる楽しみ。テストではいい点を取ってやろうと決めていた。

 それは優斗も同じだった。だが楽しむと言うよりは親にいい点を取るように言われて必死なだけだとも言える。テストで九十点平均取れなかったらお小遣いを減らされる、そういった環境にいた。

 優斗の環境は昔からそうだった。テストの点数を取れるか取れないか、それだけだった。優斗は必死で頑張ってテストに臨んできた。ただその代わり遊べなかった優斗は友達がいなかった。

 だから中学校では友達を作れるようにしようと思ったのだ。そのためにはテストの点を落とせない。だから学校の勉強だけは頑張るのだ。

 そして賢也と巫女との時間を大切にした。休み時間や昼休みは勿論、下校時間も一緒にいた。

 休みの日は咲花先生の所で特訓する。咲花先生には正拳突きをひたすらさせられた。親には咲花先生に護身術を習うと言ってある。

 咲花先生もまだ部活動の顧問になっていないため時間に余裕がある。とはいえ休日も仕事はあるため机を持ってきて仕事をしながら賢也と優斗の正拳突きを見る。

「ほら、拳が下がってきてるわよ? 大鷹君」

「そ、そんなこと言ったって……」

 優斗はこんなにも運動をしたことが初めてだったため、どんどん疲れてくる。

「仕方ないわね。大鷹君は一旦休憩。天谷君はそのまま正拳突きを続けなさい」

「こんな事をして何の意味がある?」

 賢也は正拳突きをしながら意味を問う。それは咲花先生にとっては大きな意味を持っていた。

「心を込めて正拳突きしなさい」

「だから何の意味が……」

「心の弱い間は身体も強くなれないのよ」

 そう言って仕事を続ける咲花先生。少しでもサボろうとしたら、もう教えないわよ? と脅しをかけてくる。

 賢也は無心になって正拳突きをする。やがて飽きてくるだろうといったところで咲花先生は蹴りをするように言った。

 高く蹴ること。それは素人には難しい事だったが、賢也には容易な事だった。いつもしている特訓と変わらない。体の硬さもない賢也は何度も蹴りを繰り返した。

 疲れを見せない彼に感心した咲花先生は、こう注文した。

「正拳突きを右手一回、左手一回した後、右足の蹴りと左足の蹴り。これをワンセットでやってみて」

 賢也は注文通りのセットをする。何回も繰り返していると普通なら体力が落ちてくる。だが若く力強い彼は全然腕や足が下がらなかった。

「基礎はできるわね」

「なら……!」

「でも気持ちが入ってないわ。それはとても大切なこと。あなたは強くなりたいと思っているのに、強くなるための動作を手段としてしか見てこなかった。それはダメなことよ」

 賢也には何が何だか分からない。動作は手段ではないのか? それにここは空道道場のはずなのに空手の動作しかしていない。

「勿論受け身もするわよ?」

 読んでいるかのようにそう言う先生。一連の空手の基礎をやってから、柔道の受け身をする。

 賢也は退屈になっていた。それこそが身が入っていない証拠だったのだが、彼は気付かない。

 咲花先生は、辞めてもいいのよ? と言う。賢也は首を横に振った。咲花先生のように強くなりたいと思っていたからだ。

 お昼ご飯は巫女の作ってきたお弁当。まだまだ見た目は綺麗ではなかったが、一生懸命盛り付けたお弁当だ。食事をテーブルのある部屋でする賢也たち。

「これ美味しいわね」

 咲花先生は巫女のお弁当を絶賛した。照れる巫女。

「薫は料理が苦手じゃからのう」

 そう言うお祖父さんを叩く咲花先生。咳き込むお祖父さんは、事実だろうがとツッコミを入れた。

 午後からも特訓する賢也たちは、巫女に見守られながら必死に『心の強さとは何か』と向き合う。

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