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青灰の地より  作者: 不病真人
第二部 海が父

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第八十八話 長老

「か、勘弁してください!怪物じゃないです!!貴族...あいえ、吸血種ですどうか」


 「黙れ!悪魔狩りに渡されたくねぇんだろうぉ!!?」


「うわああああ!やめろもおお!!!!俺はフルウュスの血を引く男だぞぉ!」

 

 「ウルセェなあ!オラァ」

そう言って男は泣き叫ぶ相手を殴る。


「今じゃ化け物でしかも縛られてなんもできないゴミだろうええい!?違うか?」


 「うぅう...」


「答えろよおい!」

そう激昂して再び殴打は開始する。


「お、俺は怪物じゃない...誇り高き血族.......ン....の....もの.....人の、定命の身だった頃に....古... フルウュス....」


「チッ叫ぶなり、喚くわ、なんなら有益な言葉もねぇな....」


 「いい加減にしろ!」


ドン ズサ 


 「...?おい。声抑えろ、大勢の足音が聞こえるぞ」



「そうじゃそうじゃよ!」


 「なんだよ....騒ぎを立てやがって、弓の奴らに気づかれるのは怖くないのか?」


「お、声抑えろ...今はロームシャさんらを待つんだ」


 「...そうだな、悪かった兄弟」

「あの人らがくれば...吸血狩り...ロームシャ」


 「……ロームシャ、だと……?」


 縛られた男の顔が、ゆっくりと上がる。腫れた瞼の隙間から覗く眼は、先ほどまでの怯えとは違う、どこか乾いた光を帯びていた。


 「来るのか……“狩り屋”が……」


 「おうよ」

 殴っていた男が、唾を吐く。

 「お前みたいなのはな、あの人に渡すのが一番いい。生け捕りの方が値もつく」


 「……値、か」


 かすれた声で笑う。

 それは自嘲か、それとも――


 「誇りだの血族だの言ってたやつが、今は縄付きの商品だ。笑えるよな?」

 別の男が肩をすくめる。


 「……違う」


 「は?」


 「誇りは……奪われるもんじゃない……」


 「だったら何だよ?」

 拳がまた振り上がる。


「てめぇらはこの島から出れねんだよ!!!」

急に血相を変えては叫ぶ血族を名乗る存在。


 「なっ、なんだこい!」


「待て、化け物同士の感覚か、取り憑かれてる」


 「ウルセェなぁおい!お前らはこの俺を売るのも出来ん!!」


「チッ。喚くだけ喚いて、有益な情報は吐かねぇな。…オラぁ!」

ドゴォ

「…おい、いい加減にしろ! 殺しちまったら元も子もねぇだろ」

一人が仲間を制したその時。

――ドン、ズサッ。

建物の外から、微かな、だが統率された気配が伝わってきた。


 「……!? おい、声を抑えろ。……大勢の足音が聞こえるぞ。遠くにいるはず」

 さっきまで威勢の良かった男たちの顔が、一瞬で青ざめる。

「ほ、ほうら見ろ! そうだ……奴らが来たんだ!」


「なんだよ……騒ぎを立てやがって! 弓の奴らに気づかれるのが怖くねぇのか!?」

「お、おい、静かにしろ……。今はロームシャさんたちを待つんだ。あの人が来れば、どうにかなる……」

「……そうだな。悪かった、兄弟。あの御方……吸血狩りのロームシャさえ来れば……」

男たちは互いに目配せし、武器を握り直して暗がりに身を潜めた。


 遠くから響くのは、彼らが待っている存在、この獲物を追い詰めてトドメを刺すロームシャの足音か。

それとも、彼らが望まない道なるの影か。

縛られた吸血種は、絶望と恐怖の混じった瞳で、固く閉ざされた扉を凝視していた。

不屈か。

憤怒か。


 

様々な感情が淀むその瞳がゆっくりと震え始めた。

 最初は小さな痙攣。

やがて、回り始める。眼窩の中で。

複雑な心情の表れとして。

「……来る……」

 彼は喉の奥から絞り出すように呟いた。

「血が……呼んでる……古い……古い血が……」

一人は後ずさり、拳を叩きつける。

 勢いを乗せるための後退りだ。

「お、おい……ンルビズ、何だこいつ……!」

 そのの瞳が、ゆっくりと拡散するように、広がりを見せていく。

そこに宿っていたのは、もう人間の色ではなかった。

その目の白くあるはずの場所はすでに深い、燃えるような紅となる。

底に、底知れぬ闇が渦を巻いているのか、黒い影もまたある。

「……フルウュスは……言っていた……

 『失敗作は、最後の瞬間にこそ……最も美しい』って……」

 彼の唇が、ゆっくりと裂けるように笑う。

やがてぱきん、と音を立てて裂けた。

 いや、裂けたのではなく、ルシアンの歯が、異様に長く鋭く伸び、皮膚を切り裂いたのだ。


人間の形を辛うじて保っている顔だ。


 「チッなんのつもりだ怪物」

 しかし、明らかに人間の姿や動きではないそれを見ても、彼を殴打していた存在らは恐怖するどころか、激昂を見せ、殴る


 「まぁ、どのみちお前はあの人が来ても悪魔狩りのところ行きだ。アホ」

だが彼は言葉を投げつけられるも、言葉を返さず。

その交流はただ彼が体の変化に体現される。


 滑らかで、不自然で、まるで影そのものが形を成したかのように。

背中から、黒い霧のようなものが湧き上がり、ゆっくりと翼のような形を成していく。

それは実体なのか、幻なのか

「……見ててくれ……

 俺が……最後の……美しさを……」



「フィレン、ビネ、ジダン」


「は?」


血の純度は嘘をつかない。


 「ぎゃああああ!!」

「グがああああ!」


 「ググガガ」


「誇り高き血族を商品扱いかか。だが今の君らは、ただの『渇いた獣』にしか見えない。つまりそれ以下だ……まぁ...商品価値が下がろうが偉大なる貴族は使うとも。下等な定められし存在を、偉大にしてやったぞ。」



「なっ何がッッ!」


 「さぁ見据えろ、ここまで準備したんだ。」


荒涼とした孤島の岩陰に、潮風が低く唸っていた。

 夜の海は黒く、波が岩に打ち寄せる音だけが、単調に繰り返される。

光が薄く差し込むその狭い窪みは、まるで世界の端に切り取られたような暗がりだった。


「ここまで準備をした、さぁ贄は宴をもたらすべき!来い!我が祖よ!いかなる長老でも良い!」

 

 岩の隙間から漏れる淡い光が、数人の影を長く地面に伸ばしていた。

長老らの名を叫ぶ吸血鬼なりしものに振りかかると、それは翼のようになる。

蝙蝠の翼のような姿に。

 最初は、ただの岩の凹凸が作る自然な影に過ぎなかった。

だが、その影は次第に自らの意志を得たように、ゆっくりと膨張を始めた。

 照らされる輪郭が、内側から何かに押し広げられるかのように、岩肌を這い上がり、蠢き、脈動を帯びていく。

 影の元を辿ればその存在は肩の線から背中、胸元へと不自然に広がり、まるで闇そのものが息を吹き返そうとするかのようだった。


 「見つかろうがどうでもいい!ここまで準備をした!長老がくれば俺は助かる!この俺は!!」


それは答えるかのように変貌した。

 衣服の下で骨が音を立てて折れ、脊椎が弓なりに反り返る。

肩甲骨が外側へ突き出し、新たな骨が生成されるような耳障りな軋みが連続した。

祭壇にでもするのか。まるで生物ではなく人工により作られしものであった。

彼の 腕が不自然に長く伸び、肘の関節が逆方向に曲がり、指先が尖って黒く硬質化した爪へと変わっていく。

 皮膚が薄く引き伸ばされ、裂け目から黒い粘液が滲み出し、代わりに粗い剛毛が生え始めた。

 ゴキン

胸板が爆発するように膨張し、肋骨が一本一本音を立てて広がり、肺が異常に発達して荒い息を吐き出す。

 顔面の変化は、さらに残酷だった。頬骨が前方へ突出し、鼻梁が潰れて獣の鼻面となり、唇が引き裂けるように広がって牙が次々と生え揃うか。

 

 「あ、が」


 歯茎から突き出た長大な犬歯が、血の滴る唇を突き破った。

故に声も、発する言葉も歪になる

「み、みえ」

 目は窪み、白目を失って深紅の輝きを放ち、瞳孔が細く獣のような縦の裂け目に変わる。額に二本の角状の突起が浮き上がり、皮膚が硬く鱗状に変質した。

 「ぎゃああああ!! 体が……熱い……何だこれは……!」

もはや自分の姿を見るにも難しく、もっとも見ても無意識だろうが、この姿を見たとなれば苦痛でしかない。


 だが、すぐにそれは人間の言葉を失った。喉が膨張し、声帯が引き裂かれるような咆哮へと変わる。

苦しさからだろうか、それの体全体が前傾し、腰が低くなり、羊や牛の後肢のような脚先が岩の地面を抉った。

背中からは黒い霧のようなものが湧き上がり、膜状の翼を形作ろうとする。もはや人間の姿は残っていない。ただ、渇きに支配された巨大な獣――血を求め、闇を彷徨う怪物のみが、そこに立っていた。


 「さぁ歌え!讃えろ!深淵に住まいし存在すらをもうち滅ぼさんとすると長老らへと!」


 誇り高き血を引き継ぐとする、その吸血鬼の言葉はすぐに獣じみたの咆哮に飲み込まれた。

吸血種族からすればそれは至極簡単だと。


「下等すぎる、お前たちを贄に使うのも醜い、まぁ...この情勢、まずい、やつらが何かをする前に帰らないといけない。」

 それは、古き血の純度が、下等なる肉体を強制的に昇華させたのだ。

 人間の理性は剥ぎ取られ、ただ永遠の渇きと破壊衝動のみが残る。皮膚は裂け、骨は砕け、影は膨張し、しかしもっとも大きくあるものは、別だった。


 古きフルウュスの血を引く男は、腫れた瞼の隙間からその光景を静かに見つめていた。

自身の背中から湧き出る黒い霧が、ゆっくりと翼を成し、岩肌を切り裂くように広がる。

唇が裂けた口から、満足げな吐息が漏れたと同時に、霧でその唇や皮膚を隠せば、霧散すれば、すでに皮膚は癒えていた。

 「随分と時間がかかったが...やはり苦痛の道は間違いじゃない、嗚呼....我が荊の道途....」


 ヒュン


「贄だって言えってる場合か!」


 「まぁ安心安心、わしゃ、団員すごい!」


「数が多いぞ」


 「いいや、男の方....司.... 司鐸...まずいことがあるんで...わしが見た先を見ろ....複雑だな」


 「隊長!!如何なさいますか!」


「おう!気づいたかおまえさん!」


気づいた、それはなんだというのか。

 ガルシドュースの企む何かか。彼が作りし何か。

子爵の信徒によるものか。その使徒は何か

島に住まう人々の行為か。遺跡は何をもたらすか。

それらは全て絡み合い、影響を起こす。

そうに違いはない。


 だが今のことは、一番に影響あるとすれば。

天をも隠す影。

すなわち吸血なる存在が起こしたことだ。

彼は影響を与える。

彼に遠いものから

近いものまで。

そう近いもの、それは精神における存在でも。

ガルシドュース

彼に恐怖を与えた存在は未だに自身の精神を投影させるようなことをした。巨大な獣のそれを倒す時に起こした、信奉を捧げるように命じた、心を共鳴させる力。


彼は行使する


 「....山が起き上がるか....魔女の頃の...鳩になれとはこれのことか?」

(鳩それは磁場をも知るきく...だが俺がどうやれば平和を持たらすと言うんだ...この島のどこでそんなことが....酷く後悔をするな...調査をすればいいものを...なぜエバンドルの...いいや、勝つため、勝利こそ俺の価値だ)


ことを考えればガルシドュースはさらに自分の目を配らせる。

形容ではあるが、彼はそんな風に全ての要素を捉ええようする。


場は吸血鬼へと。

 彼の変貌する影は一瞬で岩陰を越え、夜空へと昇っていた。

光を飲み込み、天を塗り潰し、島全体を覆う巨大な黒い天蓋となった。

まるで空を支配したように、ガルシドュースが行使した力のようにここを変える。


 (やはりか....俺の力...エバンドルの言う神域...そして天を浮かぶ湖...おそらくはどれも同じだ....神域なる存在へと...だがこいつは明らかに借り物だ...俺がリドゥたちに借りたとの同じ原理か。

ガルシドュースが言うようにその影はただの闇ではなく古き血の意志そのものであり、生きて蠢く力だった。

空を覆った影の下で、島の地形が激しく変貌を始めた。

呼吸をする生物のように。

 地面が唸りを上げて隆起する。岩陰を中心とした岩場が、まるで生き物のように持ち上がり、鋭い尖塔のような山脈を形成する。

 谷が起きれば、それは深く裂け、海へと続く断崖ができては崩れ落ち、波が異常な高さまで跳ね上がった。

 

 「我が血よ、島そのものを変えよ」

 声の主の吸血鬼、ヴェルドラン、ヴェルドラング(謙遜な一人称)が一歩を踏み出すと、地面がさらに激しく割れた。

 祭壇となったように怪物らは、痛みに咆哮を上げながらも、その身を捧げ続けた。

ガルシドュースがかつて使用した魔法のように体の血が紋様へと増殖...増し、島の変貌を加速させる。


 体の変貌はあたりに影響するかのように岩が砕け、崩れ、新たな形に生まれ変わり、やがて島の輪郭そのものが歪み、神殿のような存在が住まうこの地でそれは許されるだろうか。

 もちろんそれは神殿の主人(持ち主)に許されるだけだ

 遠くの岩場では、一団と他の人たちの紛争が続いているも、その紛争が島の激しい変動に巻き込まれるだけで、この行動を止められはしない。

ただ喧騒な叫び声が地響きに飲み込まれていく。

 

 「ラン=アッガ!」

だが一つだけがこの大地にあるうねりを超えていく。


ラン=アッガ(長老)


 「ラン=アッガ!(長老!)」


「ラン=アッガ ニリマ グレナ=ヴォルトア

イェルグナ デレ レグ……トラドゥル。」

 

事を聞いてすぐに数名は思う事がある。

(ドルザ語ッッ)

長老なる灰のような新しい者よ、

血を弱く啜るならば還れ……まことに。

(古びて弱った長老よ、薄く血を吸う形でこの世に還ってきてくれ……然り)


 「灰だと!赤帝轟拳!(ドゥラグ=ゴウグ=ダルグ=グラグル)おまえ!!」

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