第七十八話 帝国とまたもや再会
事を追えばまたガルシドュースの威力が発揮する時。
またもや彼が力にて轟音が大地を震わせ、彼の拳が人の贋作となりし巨獣の胸を貫いた瞬間にて、そこで世界が白く染まった。
まるで光を望んだかのように、彼が神術と関係がない光があり、その光の奔流が空を裂き、雲を蒸発させ、地面を抉る。及びに巨獣の体は内側から崩壊し、圧縮された肉塊が爆発的に散らばる。
神術の残滓が悲鳴を上げ、虚空に溶けていく。エバンドルの声が何処となく最後に響き、絶望の叫びを残してはガルシドュースの体内の記憶を震わせた。
「終わりだ…お前はとっくに終わったんだ。」
赤帝こと、そのガルシドュースは息を吐き、膝をついた。
体はボロボロだ。骨が折れ、肉が裂け、血が雨のように滴る。角は折れ、髪は焼け焦げ、視界が揺れる。
(汚ねぇ...前が血だらけ...ん?なんだこれ?)
手では紋様がさらに異変し、体を纏う炎も腕に集中したようで、さらに色も変化して青い火になっていた。
(焼かれ続けたせいか?腕が...塗り絵でもされたみたいだ...)
「ふっ」
彼は笑った。勝った。祈りが届いた。村人たちの声が、祈りが、セオリクの助けが、無駄じゃなかった。
「...俺の力で...俺の力が」
だが、終わったと思えば——。
空が再び裂けた。いや、違う。空間が歪み、巨大な影が降臨する。鉄の匣のようなものが、地面に叩きつけられ、衝撃波で土煙が舞う。
匣の表面は黒く、金属の輝き、金色の紋章が刻まれている。
「んんん!帝国が法務部の名の元に!!!」
法務部?...ムハノとかいう奴らの残党か? いや、それ以上だ。
「やっとだ! これで貴様ら罪人を処刑する! これより! 死刑!」
声が轟く。匣の扉が開き、中から現れたのは——ムハノ。法務部が執念深い男。
彼も疲弊していて、何か心の内にて考えている。
(あと...50か...)
しかし、断じて引く気配、まして恐れなどはない。大凡の部下が死んだというのに、士気は衰えていない。
部下もだ
「ムハノ閣下!どうかご命令を!」
明らかにわかるのは、やつらは精鋭だ、精鋭揃いだ。
轟ッ!
ムハノは巨大な鉄の人形——明らかな兵器に乗っていた。
人を模した機械の巨人。
身長は村のぼろぼろな住宅を遥かに超え、腕は奇妙な柱があり、脚は装甲で覆われ、目には赤い光が灯る。
「我らは武装した秩序!我らに刃向かうか、混沌が尖兵どもめ!我らが主の意思のもとに汝等を処す!」
(大型ほど転送に時間がかかるが、位置が掴めないせいもあって手間をかけて! もう時間はない!)
また考えだ、ムハノの心の中で、そんな計算が渦巻いていた。
帝国の何かの移動装置は完璧じゃない。
さらに場所の影響か、そして巨獣の戦いの余波で空間が乱れ、座標がずれまくったか。
それでも、来た。残党を寄せ集め、部下たちを率いて。
「汝らが敵するは法劫帝が築きし帝国の法!すなわち世界が法則!」
言葉を共に、ガルシドュースも騒音を立てる、彼はは立ち上がろうとした。
しかし体が言うことを聞かない。セオリクは遠くで倒れたまま、セルバーブの屍骸を抱いたままに倒れて微かに息をしているだけ。
アスフィンゼ、リドゥ、ハルド——皆、村の守りに回っているか、倒れているだけだ。
「ガルシドュース様!!!」
(....リドゥ)
誰もいない。ここは彼一人だ。
助けは来ない。
「ムハノ…てめえ、まだ生きてたか。」
ガルシドュースの声は掠れ、血反吐を吐く。ムハノは鉄の巨人の肩から降り立ち、部下たちを睨む。法務部の残党——大凡、五十人ほど。
皆、泥などで汚れたぼろぼろの制服に身を包み、その上には爵銀の流れを感じる、ウガリスラの加護を受けた鎧を着ている。
精鋭だ。帝国の牙だ。
「ガルシドュース。お前は罪人だ。巨獣を呼び、帝国の領土を荒らした。執行の邪魔までをした!村を破壊し、帝皇が民を恐怖に陥れた。死刑だ。」
ムハノの目は冷たい。狂気じゃない。義務だ。
法務部はそう。帝国の法を守る犬。巨獣の戦いは関係ない。お前に罪がある。それだけ。
わかっている、だが判決は全てムハノがする。そう言わんばかりの口調であった。
ガルシドュースは笑った。痛みが体を貫くが、笑う。
「罪人? 俺が? 巨獣を止めたのは俺だ。この地が苦痛に満ちたのは何年だ?殺す理由ができるぞ!お前のせいで!お前たちを殺す理由が!」
「俺はてめえらのわけわからん国よりも!法務部が来るより先に、俺がぶっ潰した。あれを!どれも!俺だ!」
「村は守った。民は祈った。てめえの死刑なんか、クソ食らえだ。俺が信じられているならもうここはお前のいう帝国の場所でもねぇ!」
(こ。この威圧..第一...従心..まさか....唯吾...?同在..?こいつは第二境か!!?どの道を...ええい!)
ムハノは首を振る。鉄の巨人が一歩踏み出す。大地が震える。
「弁明は無用。法は絶対だ。貴様らッ!陣を張れ。魔蘇網を展開し!転送装置を固定せよ!あるだけの液も入れろ!身にある装備はいい!すぐに援軍がくる!」
「弁明..?我が名を」
「黙れ!総員構えろ!」
「....帝国に叛く罪人め!貴様がこの地にてなんの儀式を見つけて登塔し、経者人となったか知らんが殺す!」
(我が策よりもそこに気にするかッ!この大罪人めッ!)
兵士たちが動く。円陣を組み、作り、地面に杭を打ち込む。
光が広がり、転送の門が安定する。
やがては援軍が来る。もっと来る。法務部の本隊だ。
(もっとも...やつらのいう通りであればの話だが...)拳を握ってみるも力は残っていない。
赤帝轟拳すら打てない。神崩龍滅の余波で、体が限界だ。それでも、立たないと...
(祈り…まだ聞こえる。村から。皆の声が。)
だが、弱い。巨獣の死がもたらした暴風が壁になったようだ、それにムハノの魔蘇網が祈りを遮る。
神術を封じている
(くそっ!弱くなったが、神術だぞ!どういう事だ!)
ズサ
セオリクが微かに動いた。神器を握り、這いずる。
「ガル…シドュース…逃げろ…我...が…時間を…」
「おい!くるな!お前!死ぬ気か!」
ガルシドュースはセオリクを睨む。愛馬の屍が、静かに横たわる。セルバーブの目が、まだ輝いている。最後の意志だ。
ムハノが手を上げる。鉄の巨人が腕を構える。柱が光る。おそらくは飛んでくるようだ。一撃で山を砕く威力を感じる!
(こ、これは神術!やつから流れる神術とこの鉄の中にあるウガリスラが!はんの!」
「処す!」
光が迸る。ガルシドュースは跳んだ。体が悲鳴を上げるが、避ける。爆発が後ろで起き、土煙が舞う。部下たちが裁断榴を構え、逃げ道を塞く。
ガルシドュースは走る。拳を振るう。近くの兵を殴り飛ばす。骨が砕け、血が飛ぶ。
だが死までは追いやれない。
一人、二人。三人。だが、多い。五十人以上はいる!
そして鉄の巨人が追う。
「無駄だ。逃げられん。」
ムハノの声が響く。転送の門が開く。援軍だ。百人。二百人。法務部の大军が雪崩れ込む。一人でに動く戦車のようなと思えば、上には飛行する兵。
(逃げ道がねぇ!)
ガルシドュースは息を切らす。村の方角を見る。アスフィンゼたちが戦っている。異形の残党がまだいる。
巨獣の破片が、腐敗を撒き散らす。
(くそ…くそくそくそ!)
祈りが弱まる。結界が強い。やつらの、法務部の仕業か。
(まずい!!!!したくない!!!)
「ああああ!しにた!」
だが——。
突然、空が輝いた。いや、地面が。村から、光の柱が立つ。祈りの光だ。結界を貫く。誰かが、突破した。巨獣とガルシドュースが闘いで大気に舞うウガリスラが人の動きに反映している。
「旦那ぁ!」
声だ。リドゥか? 旦那呼びなら!んな訳あるか!
ハルドだ!!!!
瞬間だが祈りが洪水のように流れ込む。
ガルシドュースの体に。傷が癒える。力が満ちる。筋肉が膨張する。まだ動けないが死なないようにはなった。
「なに…? 結界が…破られた?」
ムハノが驚く。部下たちが動揺する。
ガルシドュースは笑う。大きく。
まるでガルシドュースの声で凍りついたかのように騒乱は一瞬消える。
それを打開したのは
「かかれっ!」
ムハノの叫びが空気を切り裂いた瞬間、戦場全体の時間が先ほどの一拍遅れから再び動き出した。
巨大な鉄の箱──いや、正確には人の形をした重装甲機構が地を踏みしめるたび、振動が骨の髄に届く。鋼と歯車の匂い、魔蘇薬の香りが血と雷と混じり合い、鼻を貫きながらに近づく。
「死刑!」彼の叫びは嗜虐と正義がねじれあった音で、法務部の残党たちの士気を一層高める。
(んなわけあるか!神術やろうが!)
まだどれも若い顔なのにどこか冷たい、その眼差しは冷たい。
彼らは数を減らしても、訓練と秩序で足りないものを補っていた、いやむしろ死を経て兵士として成長したのか。
(来るか)
彼は待っていた。
祈りを、祈りの本を。
それを助けるべく。
それが自分を助けられるように助けると。
彼の中の祈りは、もはや単なる願いではなく、意思の濾過装置になっていた。人々の祈りが彼の血に混ざり、筋肉に浸透し、皮膚を震わせる。
村々の祈りが薄くではあるが確かに届いている。
ムハノの重いそれは彼にとって未知の脅威だが、戦場にはいつも別の論理が働く。力の渦はぶつかり合い、どちらかが転じる。
(ハルドならいける!俺がついているからッ!)
法務部兵たちの体につけていた何かの容器が大型の金属なあれ、ムハノが乗るものが重装甲の窪みに食い込む。
プシュ
噴き出す火花は短く、しかし機構の関節が軋んだ音した。
次に装甲の板がビリビリと震え、内部から何かが鳴る。
ムハノは扉を閉じては中で何か操作盤のような前で前で大きく口を開く笑みを浮かべ、血と土でできた泥にまみれた手で操縦桿のようなものを押す。
今度はどこかの窪み口が開き、幾重にもなった丸い穴がある筒がこちら、ガルシドュースの方に向く。
(まさか裁断!!」
それ光線が──だが、砲口から出る光はさらに裁断榴よりも恐ろしい、ウガリスラで打ち出す、ウガリスラの結晶と金属を配合した超大型の裁断榴の弾薬のようなものを放った経路にすぎない。
光はウガリスラ!
(やつは!)
爵銀で爵銀を秘めた発射物を送る。
「うああぁ!」
「なに――!」ムハノは怒号を上げ、機体の制御桿を更に引いた。
神術なくしてもガルシドュースの硬さは恐ろしいほどだったため、死どころか体が裂ける事もなかった。
ザ ザ ザ
ムハノの怒号を背景に法務部の兵たちは前進を続ける。彼らにとっては秩序と裁きこそ唯一か。または戦友への復讐のためか。
「我らが全てだ。貴様のような死人に何ができる!貴様はすでに動けんぞ!」
(そうだ罪人の処刑、それは正当化された殺戮であり、秩序の再生だと信じている。)
だが、神がこの世界に舞い降りる日よりすでに彼らの秩序がひび割れ....
「...すまない...少し休憩としよう、いくらなんでも邪教の説を書くのは行き過ぎだった...」
「はい、先生。」
━━信仰と暴力と祈りが混じり合った濁流の中では、真理はどちらにでも流れ得るのか....
「どいでもいいから!そんな!やめろ!俺が何をしたッ!」
ガルシドュースは、鉄の手に抱えられたまま顎を上げた。
「あの女、お前の行い全てだ、重体の今殺す以外何もない!遅れた刑罰、死刑だ!お前はここで処す!大罪人!我らを攻撃したとなれば死あるのみ!」
内側からの圧力と外側からの機械の砲火が、彼の体を千切れさせんとする中で、彼は怒りが抑えられない。
「終わるのは──お前らの方だ。」
「しぶといやつめ!握り潰されるお前が何を言う。見ていろ、すでに体の半分が凹んで...なっ!」
ムハノは冷や汗を流し、機体の扉をひらけば神術部下に向かって命令を吐いたが、返ってきたのはない
「何を!何があった!」
その混乱の隙を突くように、空の裂け目から新たな影が舞い降りる。
ムハノの部下の一人がその影を見て、息を呑んだ。
「閣下あああ!」
言葉はそこで切れた。影は瞬時にして近づき、法務部の兵の一人の首に触れる。その触れた箇所から黒い蔓のような傷が伸び、兵の肉体を内側から腐蝕していく。兵の眼は恐怖と共に無為に開き、そのまま静かに消えた。
跡形もなく兵の体は溶け落ちては、土に還る。
「あ...あ、あ、あ...あああああ!」
兵士の叫び。
恐怖からくる叫びである。
「うわああ!」
恐怖は伝播する。残る者たちにも動揺が広がる。
だが異常の恐怖でもある。
(神術!?いや!闘技!神術持ち以外ならばおかしくない!この威力!!!)
「くそっ、うわああ!」
ムハノは機体を後方に引き、脚部を踏ん張らせる。だが脚の周囲に落ちた粉塵が奇妙に吸い込まれるように舞い上がり、地面に接する箇所から奇妙な粘膜が湧き出すように凹んでいく。
(闘技ッ!神術でも魔法でも!)
「総員、集中!死角を作るなッ!」
機体の全方位で筒状のそれが光を放ちあたりを照らす。
もはやムハノが乗るそれは太陽のように眩く、周囲の色や輝きを吸い取り始めようだ、だが、その収束点にガルシドュースの眼が据えられていた。彼
は力をため、握った掌をさらに固くする。周囲の祈りが高鳴り、彼の心音、力が強くかかった証、証拠に彼の血管の紋様はさらに激しく、再び燃え上がった。。
彼の意志が一点に集まる。
「──受けてみろ。」
掌を突き出すと、収束した光を受け止めた瞬間、それはすべて彼の内側へと吸い込まれる。光は肉となり、雷となり、祈りの詩句をウガリスラに変換し、彼の体を通して放射された。
爆発は起きたが、それは破壊ではなかった。むしろ再創造の震動だった。周囲の物質が骨砕きとなり、砕けた大地が音もなく積み重なり、微細な光の粒が空に散らばって雲を織り直す。
まるで何かの方へと向かうように。
それでも衝撃はあった、土煙が動くせいか。
「ど、どわぁ!」
ムハノを乗せた鋼の巨躯は、その衝撃で後方に倒れ、甲板の一部が剥がれ飛んだ。ムハノはその中で叫び、神術を使い部下たちを援護と命令し、次にどことなく乱雑に手を伸ばす、しかしすでに機体は動かない。
「閣下!陣形が!何か!」
法務部の部下たちは散り散りになり、一部は祈りの意思が波に触れて膝をついた。
恐怖の中で、幾人かは自らの胸に手を当て、無意識に祈りを漏らす。
「偉大なる法劫帝...我が導き」
ムハノは倒れた機体の中で呻き、視界の端に黒い影が近づくのを見た。
影のせいで法務部の部下は狂信の中でさらに散っていく。
ガッ
バシュン!
跳ッ!
彼は歯を食いしばり、乗っているものから跳躍した、高く飛んではまだ動ける部下を掴んでは叫んだ。
「恐るな!やつの狙いがわかった!あの影だ!あいつの闘技を強化したッ!我が名の下に意識を戻せ!何を恐れる!やつは神術持ちですらない!お前たちと何も変わらないぞ!!!」
とても速い、とても速く言葉を投げかける。
しかしその声は以前のような力を持たなかった。ムハノは理解した。
「....ああああ!....偉大なる...劫帝!法劫帝よ!今よりあなたが座す地へと!」
「我が力の元に立てよ!戻れよ!我が帝国が兵器!」
轟ッ!
「よくもよくも!して弓遵商界の地か!ここは!やつら含めて捌いてくれる!やつらにも裁きをくれてやる!」
「このポンコツが!動け!動けって言ってんだ!我が力の尽きるまでに!最後の神術だあぁあああ!」
ザン斬ッ!
「我闘技(ウル トゥリダグ!)
剣撃、闘技がムハノが乗る鋼の巨躯に当たる。
「ンッ!」
「ハルド!!!」
「待たせたなぁ!旦那!」
轟ッ!
「ッ!!んんん!援軍はすぐにくるお前たちは全て死刑だああああ!」
「俺の!俺の手で先に引き裂いてくれる!神術すら持た!ッ!」
「死にかけのあんたが何を言う!我闘技!」
「ッ!!!」
(助かった....けどもう意識....)
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生まれた場所を忘れたのは、
風のせいか、
それとも 歩きすぎたせいか。
山の上の家は 今も
雲の縁で眠っている。
そこから見た世界は
ひとつの未完の円だった。
私はその欠けた線を埋めるために
雨林を渡り
沼に沈み
森の奥で名を失った。
誰も知らない草原で、地図はようやく満ちた。
だが——
私の中の空白は、少しも埋まらなかった。
帰り道で風が問う。
「おまえはどこへ還るのか」
私は答える。
「まだ見たことのない、
最初の場所へ。」
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