第七十一話 我が名を赤帝とする。
「しゃあ! どうだ!」
俺は雷火塔槌を片手で握りしめ、肩に担ぐように構えた。重みは予想以上だった。塔の残骸や魔物の血肉を圧縮しただけあって、ずっしりと体に食い込む。でも、それがいい。
雷の網が武器全体に広がり、内部の歯車がカチカチと微かな音を立てて動き始める。柄の表面が熱くなり、手の方では錬成に血河陣を出すために開けて傷口から血で、それで柄の末尾の位置に巻かれた革が血を吸い込んで赤く染まる。
全体では青白い稲妻の紋様が輝き、いくつかある噴射口はガラガラ音を立てて変形などをしてはそこから微かに蒸気が漏れ出していた。
周囲はまだ屍の雨が降り注いでいる。黒い霧が視界を覆い、敵の嘲笑が響く。
くそエバンドルだ。
(俺の方がお前よりよっぽど優れたエバンドルだぞ。)
「ふん、玩具を作ったところで何になる? 貴様の思考は既に私のものだ!」
声が空間を震わせ、感じるは俺の意識に侵入しようとすること。
でも、雷の感覚でそれを弾き返す。網状の電流が霧を切り裂き、まだ声の本体を依然と捉える。
奴は霧の奥で手を掲げ、黒い光を放とうとしている。
「殺す!」
俺は雷火塔槌をぶん回した。柄を握ったまま、腕を大きく振り抜く。槌頭が空気を切り裂き、風圧で周囲の屍が吹き飛ばされる。重い。重すぎる。でも、それが勢いになる。回転の遠心力で体が引っ張られ、自然と足が地面から離れる。飛ぶんだ! 雷の糸を足元に集中させ、跳躍を加速させる。体が浮き上がり、屍の群れの上空へ舞い上がった。
「うおおお!」
空中で武器をさらに回す。歯車が噛み合い、噴射口が起動する。柄を時計回りにひねると、内部の触媒室で血液混合物が加熱され、赤い焼炎が背面から噴き出した。ゴウッという爆音。炎の反動で体が前へ押し出される。方向転換だ! 左へ傾けると、噴射口が同期して旋回し、螺旋状の蒸気を描く。体が急旋回し、屍の雨を避ける。火が屍に触れ、瞬時に溶かして灰にする。
(にしてもうるせいな、雷火塔槌って名前よりも喧騒の方が向いてはいそうだ。よしそうしよう、雷火塔槌 ラグナウ(喧騒)だ!)
敵が反応した。
「ほう、凄まじい成長だな。」
「俺もよくわからんがとにかくできそうなことをやれば勝ててきた!だからお前もここで仕留める!」
話の中でも黒い霧が上昇し、俺を追う。
霧の中から石像が飛んでくる。予測の産物か。俺は喧騒を振り下ろす。槌頭が石像に命中し、衝撃波が爆発。内部の振動が位相を変え、打撃点に集中して雷が飛び散れば石像が粉砕され、破片が霧を散らす。
だが、止まらない。霧が再び俺の周囲を包み、思考を乱す。幻覚が襲う――幼児の像が泣きながら落ちてくる、教団の信者が祈りを捧げながら爆発する。雷の網で本物を見分け、槌をぶん回して薙ぎ払う。回転の勢いで体を引っ張り、再び上空へ。噴射口から蒸気を吹き、急降下。敵の本体めがけて突っ込む。
「くらえ!」
槌頭を振り下ろす。敵が手を掲げ、黒い光の刃を放つ。認知の刃だ。なんとなくそう思う。
きっと俺の中の記憶のおかげだ。
(そもそも俺の記憶ならば...俺のものにできるのでは...?)
だが、今はそれよりも戦闘の中で体が勝手に判断をした。
俺の雷が先んじて空間を上書きする。槌の溝から放電が誘導され、青白い光が敵の刃を相殺。衝突の衝撃で空間が歪む。やつは後退し、掠れた声で言う。
「第二境の先に触れたか……だが、まだ未熟!」
「黙れ!見えた!」
本体だ
中から何かが...あれは紋様?
(俺と同じように血管が浮かび上がっては紋様と化しているだと?)
(くっ、それにまだ増援はあるぞ!屍だ!)
屍の数がさらに増える。四方八方から肉塊が降り、蠢く。俺は空中で武器を回し、遠心力を利用して体を旋回。噴射で加速し、屍の群れを貫く。槌頭が屍に当たるたび、内部の摩擦で熱が発生し、火と雷が融合した爆発を起こす。屍が溶け、蒸発し、黒い煙が上がる。
(感じる……この武器は俺の延長だ。思考を形に変える!雷霆のままに動く!)
敵が嘲る。
「予測を捨てても、無駄だ。貴様の意志自体が私の餌になる!」
「黙れクソカス!」
霧が濃くなり、俺の意識に侵入。雷の網が揺らぐ。だが、火の神術で心臓を加速させ、血流を速める。熱が体を活性化し、雷の感覚を強化。
俺は直線の飛行の中で喧騒を横に頭上に掲げ、下の落としては回転させる。
駆動で歯車が高速で回り、噴射口が全開。
円錐状の炎が噴き出し、体を別方向押し上げる。槌を振り下ろしながら、噴射で軌道を変える。直線から曲線へ、予測不能の動き。
霧が対応しきれず、隙が生まれるのを見た。
「今だ!」
槌頭がやつの肩に命中。衝撃波が体を貫き、雷が神経を焼き切るはずだ。
だが、反撃が来る。黒い光が爆発し、俺の意識を塗り替える。視界がねじれ、夢と現実が混濁。屍が無限に増殖しているかと錯覚して、それほどまでに数が多く、俺を包む。
雷の網が乱れ、感覚が鈍る。
(わけねぇだろうが!意志か!?すでに戦闘は言葉だけでは。いいや考えるな!考えない!)
「オぉうらぁ!」
「ぐっ」
(くそ……肉体よりも手強い...俺はセオリクの回想時にも庇うために連打で魔女の触手を砕きながら、盾として殴られて知ったが、肉体はそれほど辛くはない...だが精神の攻撃にはまだ苦手だ...)
「押し潰してやる!」
そうだ、力が足りないだけだ。
なら今は火を集中させ、槌の内部で触媒を活性化すればいいんだ。
贄だ。
噴射口から蒸気と炎の混合を吹き、霧を吹き飛ばす。体を引っ張る回転で脱出。空中で方向転換し、再び突撃だ。
(見える!見えるぞ!)
速さの軌道で押しきる!
槌を横薙ぎに振るい、脇腹を抉る。血が噴き、黒い粘液が飛び散る。
(黒い粘液だとぉ!?まさか、こいつ肉)
手を振る。
「屍よ、集え!今こそは吉なる日を!新なる魔法が!」
降り注ぐ肉塊が融合し、巨大な怪物となる。教団の信者の顔が無数に浮かぶ、気持ち悪い塊。怪物が腕を振り上げ、俺を叩き落とそうとする。俺は噴射で回避する。
「燃えろ!」
火の神術を武器に注ぎ、噴射口から高熱の焼炎を放つ。怪物が溶け始め、屍の顔が悲鳴を上げる。
(なんと...醜い顔なんだ...)
ぶるんと頭を回したくなる。
「...いいざまだ!止めだ!」
そうしては足を縮めて飛ぼうとするが、何かがおかしく感じた。
膝が抜けた。
いや、抜けたというより、膝そのものが“古びた”気がした。
(すでに恐ろしいぞ!)
皮膚が乾き、骨が軋む。筋肉の弾力がどんどん失われ、血流が遅くなるのがわかる。
まるで時間の濁流を逆行しているかのようだ。
「老い。それは存在の摩耗だ。雷でも火でも焼き切れぬ“概念”そのもの。お前は今、私の“記憶”に喰われている。」
(こいつ頭に!)
ぐらりと視界が傾く。
喧騒を支えようとしても、指の感覚が鈍く、武器が重くて仕方ない。
この感覚。
本当に気がつくと俺は老いていた。
どうしてだ。
腕の筋が萎え、握る力が抜け落ちていく。骨が軋み、皮膚は乾き、息が白く散った。
やつの仕業か。
「……まさか、“思考速度”を老化に見立ててんのか。と君は思う。」
「くそぉがぁ!」
笑えねぇ。まるで脳の処理を奪って現実を書き換えてる。そんな考えでいっぱいだ殺す!
だが、噛み締めた。歯が折れても、血が滴っても、構わない。
お前の負けだ。
「俺の脳を腐らせるって? だったら――焼き直すまでだろ!」
俺は自分の頭部に雷を流した。
雷火塔槌――いや、“喧騒”から放たれた稲妻が、皮膚を焼き、脳髄を焦がす。
視界が白く弾けた。だが、痛みの奥で、何かが戻る。
思考が加速する。老いを超える速度で、雷が神経を繋ぎ直す。
「ナグ=ラハ・グル=デザラッ!!(棘よ穿て、血肉の王より賜りし呪槍)」
そうだ、そうだ、今度は喧騒を贄にする。決戦に持ち運んでやる。
決してきれない贄だ。
殴れば殴るほどに血肉は中の貯蔵庫たる、血肉を入れる部分に流れ込んでは途切れん!
(だから一瞬だ!)
「……戻ったか。」
声が震えていた。
「ミルグドラス=マカエル!!!(血葬棘衝)」
追い討ちのように話す。
喧騒の歯車が再び鳴動する。
赤と青の火花が絡み、武器全体が心臓の鼓動に合わせて脈打った。
雷と炎が螺旋を描き、空間を焼く。
屍の山が崩れ、霧がざわめく。
「終わりだ、エバンドルッ!!てめぇのようなゴミは...ああああ!」
俺は噴射を全開にした。いい言葉が思いつかなかった怒りでいつもより激しく燃えている。
体も、我が兵器も。
炎が背から爆ぜ、体が閃光のように走る。
空間が歪むほどの加速――雷鳴が遅れて聞こえる。
敵が黒い何かの防壁を展開したが、もう遅い。
喧騒の槌頭がそれを叩き割る。
衝突の瞬間、空が反転した。
雷と火の奔流が交錯し、世界が白に染まる。
空間の奥で、奴の悲鳴が裂けた。
……だが、同時に、俺の内側でも何かが切れた。
筋肉が千切れ、神経が焼け、体内の血流が逆流する。
視界が滲む。
それでも、笑いが止まらなかった。
「いひひひひびひい!」
炎と雷の残光が天を貫く。
霧が焼かれ、空が割れ、夜の帳の向こうに微かな光
“黎明”が見えた気がした。
「ハァ....ハァ...どうだ!」
「舐めてんじゃねぇぞごぅラァ!殺す!殺す!殺す!」
ハァ……ハァ……
俺は雷火塔槌こと“喧騒”を地面に突き立て、よろめきながら体を支えた。
(全身が悲鳴を上げてやがる..無理もないが持ってくれ。)
ああ、筋肉は裂け、神経は焼け焦げたように痺れる。血がドロドロと逆流し、内側から体を喰いちぎるような痛みが走る。
(ん?この分析勝手にでき..)
「出てきやがれー!」
(さっきの一撃で黒い霧が焼き尽くされたのに本体は見えるはずだが....?)
あの瞬間、確かにエバンドルの本体を叩き潰した感触があった。なのに、空気はまだ重い。
屍の残骸が地面に散らばり、静寂が、ある。
「ははは...」
「くそっ……まだ終わってねぇのかよ!」
地面がゴゴゴと震え、空間の裂け目から黒い粘液が染み出した。うねりながら形を成し、人型の何かが浮かんでは屍に入った。
多分エバンドルか。粘液に入られた屍は肩など体が抉られて黒い血が滴るが、やがて外見が変わった。目はギラギラと輝き、口元に狂気の笑みが浮かぶ。
「ふふふ……殺す!」
エバンドルの声が空間を震わせ、黒い霧が再び湧き上がる。霧の中で赤い目が無数に瞬き、異形の影が蠢く。
俺は喧騒を握り直し、雷の網を張って構えた。
柄が熱を帯び、血で染まった革が赤く脈打つ。歯車がカチカチと唸り、噴射口から蒸気が漏れる。
(体は限界に近い...だがこの武器があれば最悪逃げられる...!)
「来い!」
エバンドルが手を掲げ、霧が一気に渦巻いた。
戦場が歪み、足元が揺れる。空気がねじれ、俺の雷と火を試すように、次々と技が襲いかかる。
エバンドルが両手を広げた瞬間、地面から錆びた鉄の破片が無数に浮かび上がった。まるでゴミどもの竜巻が咆哮を上げる。
「うーおおおお!ゴミが!」
破片は鋭く変形し、矢のように俺を貫こうと襲いかかる。ギィン!
空気を切り裂く音が耳を劈く。
俺は喧騒を振り上げ、雷の網で防御。だが、破片が体をかすめると、皮膚がジリジリと溶けるような激痛が走る。
腐食!?触れたものを侵食し、骨まで蝕む毒素か!
「シャオ!」
俺は喧騒をぶん回し、風車のように風を起こせばそれで破片を弾き飛ばす。
次に雷の電流を槌頭に集中させ、青白い稲妻が破片を焼き尽くす。
(後続はさせん!)
ズガガガ!
鉄が爆ぜ、地面に溶けた金属が広がる。だが、溶けた鉄がうねり、さらなる脅威を呼び込む。
エバンドルが指を鳴らすと、地面から屍の骨が飛び出し、鎖のように鉄がそれに絡み合っては体を覆うことに被さって金属質な化け物が襲いかかってきた。
ガチガチと不気味に鳴り響くそれは俺の足を絡め取ろうとする。
蹴り上げようとしたら鎖の節々が爆発し、破片が飛び散る。 俺は口から赤い焼炎を放ち、鎖を焼き切る。
ゴウッ! と炎が炸裂し、骨が粉々に砕けては俺の体に向かって飛ぶ。
「ふん!」
体を振動させて衝撃波で吹き飛ばす。
だが、衝撃で少しだけ体が浮き、エバンドルの次の攻撃に晒されそうだ。
「隙はやらねぇ!」
空中で喧騒を回し、噴射で位置変更の加速。
鎖の残骸を回避しながら、エバンドルの本体を狙う。すると、霧の中から炎をまとった蠍のような魔物が無数に湧き出した。神術持ちぽくない戦い方だ。
エバンドルの指先から放たれる赤い火花が蠍を操り、俺を包囲。蠍の尾は燃え上がっている。
見た目が苦手でゾゾッと背筋が凍るが、怯んでる暇はねぇ。
俺は喧騒を地面に叩きつけ、衝撃波で蠍を吹き飛ばす。
追い討ちに雷の網で動きを封じ、槌を空に飛ばして手を叩く!
バチン!
おはじきに雷が炸裂し、蠍が灰と化す。
(これが神術を載せたおはじき...)
ズズズ
どうやら、エバンドルはすでに次の手を打っていた。
地面に黒い鏡が浮かび上がる。鏡は俺の姿を映し、俺が雷を放つと、鏡から倍の威力で雷が返ってくる。
「俺の技を真似しやがる!」
跳躍してかわそうとするが、残念ながらに雷の速さにはまだ及ばない。
「ぐっ..」
がたつく体を噴射で急旋回し、飛びやすいようにして、足を腹に縮めて飛べは、鏡のようなそれを死角を狙う。
回線の噴射が勢いに乗って喧騒を横薙ぎに振り、鏡を粉砕だ。
ガシャン!
破片が散るが、破片が宙に浮き、新たな鏡を形成し始める。
「増えた!」
雷の網を広げ、破片を電流で焼き尽くす。
(思ったよりも脆い奴らしかない。まるで神術を感じない。)
だが、エバンドルの笑みが消えない。
(お前の企みはなんだ?)
エバンドルが口笛を吹くと、霧から無数の毒蛾が飛び立った。羽が虹色に輝き、鱗粉が視界を揺らす。地面が溶岩に変わり、足元がふらつく。
火の神術を喧騒に注ぎ、噴射口から高熱の炎を放射。
「溶岩が火に勝てるか!お前は曲芸でもやるつもりか!」
しかし燃え尽きるが、火山灰のような鱗粉が肺に侵入し、呼吸が苦しくなる。
歯を食いしばり、雷で体を活性化。
さらには統制法で毒を消す。
「下から突いてやる!雷撃!」
俺の声でエバンドルが地面を叩く。
(バカが!)
嘘だ。
この隙に全速力で突進して、距離を見てと喧騒を投げ飛ばす。
だが結晶化のような鋭い尖塔が突き上がる。尖塔は俺を串刺しにしようとするから少し速度が遅くなる。
(くそ、すぐに後続で喧騒を拾っては持ち上げて殴るはずがッッ!)
その隙に奴は喧騒を蹴り飛ばして逃げる。
「雷よ!応えよ!」
内部装置で雷に惹きつけられるものを呼ぶ。
(手で殴るよりは弱いから遠くでやらないけど、蹴るとはバカめ!)
「なっ!」
(蹴り飛ばしてくれた!!!!)
「うおおおおおお!俺の喧騒!戻って来い!」
(くそ神術持ちが!神術流れてねぇからっても重いんだぞこれ!戻れええ!)
喧騒が雷光を引いて飛翔する。
槌頭から噴き出す電磁の尾が軌跡を描き、空気を震わせながら俺の掌へと戻ってくる。
その瞬間、掌にぶち当たる衝撃――骨が軋み、腕が逆方向にねじれそうになる。
(いくらなんでもおかしい?止めてこないだとぉ?)
「はぁッッ!!」
喧騒が完全に手に戻ると同時に、俺の全身の電流が再び一点に集中。武器に神術を覆い被せる。
雷が皮膚の下を走り、焼け焦げるような痛みとともに握りしめる。
「うおおおお!」
俺が叫ぶと同時に黒霧が再び渦を巻く。奴の姿は霞み、まるで人間を模した影の塊に戻っていた。
顔もない。ただ、歪んだ輪郭の中で口だけが笑っている。
「終わり……? お前はいつから“終われる”存在だと錯覚していた?」
声が重なる。ひとつじゃない。十重、百重に重なり、頭蓋に響く。
まるで無数の人間が同じ声帯を共有して喋ってるようだ。
(あれ?これ前にもあった..)
「記憶は続く。屍に刻んだ魂はすべて私の演算回路。うぬがの思考も、その雷も、すでに私の式の一部……」
「シャオ!!」
喧騒を地に叩きつけた。
轟音。
地面が反転し、雷の文様が地を走る。
雷撃が地表を這い、黒霧の中にある“影”の全てを貫いた。
次の瞬間、空気が一変――
「――ぬるい」
奴の声が、真後ろから聞こえた。
「ッ!?」
反射的に振り返る。
すでに背後に立っていた。影が具現化し、人の形を取り戻している。
血と腐敗臭が入り混じる、異様な再生。
あの粘液が骨格を作り直し、皮膚の下で蠢いている。
「何度でも立ち上がる。それが“記憶”の本質だ」
「デタラメ言うな!てめぇの能力はんなんじゃ!しゃあ!」
俺は喧騒を頭上に掲げる。
血河陣を展開。腕の傷口から血を滴らせ、歯車の隙間に染み込ませる。
内部の触媒が赤熱し、雷と火が再結合。
「“喧騒・過負荷形態”」
(どうだこの命名力!人が聞けば皆伏して我が神術の力が一部と化すだろう!)
歯車が唸り、噴射口が悲鳴を上げる。
熱で空気が震え、俺の足元から雷火の円陣が立ち上がった。
皮膚が裂け、血が噴き出す。
「うおおおおおおッ!!」
雷と炎の奔流が合体し、武器の中心軸が紅と蒼に二分される。
それが螺旋のようにねじれる。
踏み込む。
地面が砕け、空間が鳴動する。
雷鳴が轟き、空気が爆ぜる。
エバンドルの影が逃げようとするが、その動きより速く
「ミルグドラス=マカエル!!!(血葬棘衝)」
喧騒の一撃が直撃。
声が聞こえる前のすごい速さでぶつかっていく。
ズガァァァァァァン!!!
爆炎。
雷の閃光が世界を真白に塗り潰す。
エバンドルが瞬間に裂け、黒い霧が蒸発する。
その体が弾け、粘液と骨の残骸が四散する。
「くそ!またどこから出す!どう復活ダァ!」
「なっ━━」
喧騒が、止まった。
まるで時間そのものが固まったように。
エバンドルの片手が槌頭を掴んでいた。
その腕は、先ほどまでの黒い粘液でも骨でもない。
金属。 いや、それすらも違う。
生きてる....金属のようで...脈打つ筋が皮膚の下を走り、内部で液体のように動いているのが...
「……馬鹿な」
俺の喉が震えた。
片手で“喧騒”を受け止めたまま、奴は笑っていた。
いや笑みが増えていた。顔という顔が幾層にも重なり、無数の口が一斉に歪む。
(顔の中に顔で顔顔山と...冗談の場合じゃないな)...)
「神術の差異が実際に力量に出ることをわかったか。」
奴の声が多重に重なる。
「くそ!お前のようななッッ!」
喧騒が震える。
歯車が悲鳴を上げ、内部の血河陣が暴走を始めた。
俺の手から煙が上がる。皮膚が焦げ、筋肉が溶けていく。
「離れろ……喧騒ッ!!」
離れない。
柄が俺の手に食い込んでいた。
まるで武器そのものが俺に融合したように、離れない。
――ガギギギギギッ……ッ!!
「やめろ!!」
雷と火が逆流する。
俺の腕を通って、心臓に――!
全身が膨張し、血管が破裂する。
視界が真紅に染まった。
「ハァッ、がああああああ!!」
「見ろ、これが“真の共鳴”だ。貴様の武器も、貴様自身も、すでに記録の中にある。
つまり――私の延長。」
喧騒の光が、黒く濁った。
青と紅の螺旋がほどけ、代わりに現れたのは黒雷。
雷鳴ではなく、呻き声のような音を伴う黒光が、力を、力が入ってくる。
(か、体が...腕が痺れて...そうか!)
「阿呆が!」
俺は咆哮を上げ、黒く濁った喧騒に逆らった。柄を握る手に全力を込め、逆流する黒雷を押し返す。血管が破裂しそうな痛みの中、火の神術を心臓に集中させる。
やつの技に乗って体を崩し始める。
熱が体を駆け巡り、雷の網を再構築。青白い電流が体が内部で爆発的な摩擦を生み、それは手先まで、さらに武器たる喧騒までも伸びていく。
ガギィン!
喧騒が歯車の軋み、噴射口から赤黒い蒸気が噴き出す。
「ぬ……!?」
奴の多重の声に驚愕が混じる。俺はそれを待っていた。
本当の目的はまだだ、驚くには早いぞ。
瞬間、俺の体全体を振動させる。雷の網を皮膚の下に張り巡らせて、筋肉を高速で収縮させる。まるで体そのものが巨大な歯車になったように、内部で衝撃が蓄積される。
「不死身で南国果実……!」
「.....?その冗談今言うべきか?貴様?」
決して恥ずかしさではなく武者震いで体がぶるぶると震え、地面が亀裂しては破裂する。
(俺はとても饒舌で話で敵の心を揺らぐことができるんだ。)
空気が歪み、周囲の屍の残骸が跳ね上がる。エバンドルが警戒し、後退しようとするが、遅い。
掴んだのはお前だろうが。
俺
「飛べ!」
何かの威力が前進し、エバンドルに向かって拳を振り下ろす。拳が大気を圧縮し、殴ったような衝撃波を飛ばす。
否これは粒子を放っている。
龍が粒子。
ズドォン!
ならば奴の体を直撃。
黒い粘液が飛び散り、多重の顔が歪む。
そうあるだけだ。
だが威力は凄まじく神術持ちの強敵にも効くようだ。
「ぐあぁぁ……! 何だ、これは……!」
(俺、飛べ、そう自分に祈れば結果は見たらされる...そう信じた..しかしいけるとは....)
「いいか!俺は神になる。次に最大の皇帝になる。覚えろ!恐れろ!我が名を!赤帝と!」
「なんだと!記憶は不滅だ……貴様の技など、すべて取り込む!そして貴様を!」
「そうしてやる!」
「何をわけのわからないことをこの私を愚弄するかー!」
黒い光の嵐は放たれる。その光が俺を包み、肉を溶かそうとする。
俺は雷の網を最大限に広げ、衝撃波を盾にする。
だが狙いはほかにある。
(俺やお前はどちらも今は動けない、ならば俺が有利だ。)
「うおおおおおお!」
(そうだ、俺の怒り、俺の強さが勝利を導く、動けない今こそ技を繰り出す!名付ければ....)
「答える!赤帝轟拳!」
その音は、世界の始まりか終わりか、聞く者にはもう判別がつかない。
ただ一瞬、空気がひっくり返った。圧が消え、音が潰れ、重力すら黙り込む。
拳が空を切った瞬間、もし今想像つく最小の存在は龍粒子並の大きさだろうが、それも、そんなあらゆる粒子がいても、今はおそらく粒子も命令を忘れたように停止し、次の瞬間、爆ぜてるだろうか。
事実山が一列まるごと沈んだ。
爆音は遅れてやってきた。耳を突き破る轟音とともに、地平線が揺れ、稜線が波のように折れ曲がる。
空は赤く裂け、雲が真上から押し退けられて消滅。
拳が着弾したのはわずか一点だ。それなのに、周囲の大地が全てを止められたたように揺れすらもなく崩壊するだけ
谷の底に広がる森は、燃え上がるより早く蒸発した。
木々が火を上げる暇もなく白く散り、そこに吹き上がったのは溶けた土の柱。
熱と風がぶつかり合い、空気そのものが金属のような音を立てた。
それは“破壊”という言葉では足りない。
拳圧が大地を通り抜け、地下水脈を蒸気に変え、地面の内部で連鎖爆発を起こしている。
谷の反対側の山肌が膨れ上がり、内側から破裂した。
岩が砕け、巨石が舞い、風が形を失う。炎の渦が天へ昇り、太陽と見紛うほどの光が世界を焼いた。
「……な、なんだあれは……!」
遠くから見ていた者たちが言葉を失う。
山が燃えるのではない、“消えていく”。
拳の中心から広がる赤い輪が、まるで世界のデータを削除するかのように地形を削り取っていく。
草木、岩、金属、構造物。すべてが光の膜のような衝撃派か何かに触れた瞬間、形を失い、粉塵と化す。
全ての存在が見当たるような万能な感覚から繰り広げられる。
今の者は誰かわからない、だが見られていることは分かった。
そこまでに凄まじい男ひとりが放った技の威力はとてもある。
「……消えた。山が……」
誰かの呟きが拳の風に飲まれた。
本当に消えたのだ。
燃え尽きたのでも、崩れたのでもない。
そこにあったはずの山岳が、存在の層ごと削ぎ落とされてるのか、白い霧と共に、否、霧として空へ散っていった。
(己がままに感じるぞ、全ての声が。遠くで誰か驚いているな。)
息を吸う間もなかった。
誰かの驚きよりも長く、速く、多く。
赤帝轟拳の衝撃がまだ大地を揺らしている。
今や拳の主人が男はもう次の動きに入っていた。
(そう、俺はすでに動く!)
背中の火花が爆ぜている。
筋肉が噛み合い、背骨が唸るのか。あれは。
「装甲形態!」
地面を蹴って飛ぶ。
装甲を身につけた重さよりも風を切り裂くことでより長くは飛ぶ。
風が、追いつかない。
空気が悲鳴を上げ、空が裂ける。
やがて喧騒を振り回した――巨大な槌が閃光を描き、円を描くたびに雷が走った。
その回転があまりにも速すぎて、腕の筋肉が浮き上がるどころか、視界が歪む。
「うおおおおおッ!」
振り回す勢いが限界を超えた瞬間、自分の身体ごと引きずられる。
喧騒の回る力が男を軸ごと持ち上げ、
普通の人間なら、その時点で骨が砕ける。
だが俺ならばやれる
回転の勢いを殺さず、逆に乗る!
喧騒の持ち手を足場に変える。
なぜならば
回転の途中、片足をその柄に乗せ、身体を傾けたまま曲線を描くようにしたからだ。
片脚を前へ伸ばし、もう片脚を後方にしならせる。
空中でしなった姿勢のまま、喧騒の軌道を蹴りつけた――。
「ッッッ!」
火花が散った。
足と柄が擦れた瞬間、雷の火が弾ける。
反動で身体は二段目の加速を得る。
瞬間、身体が空間を裂くように弾け、雲層を貫いた。
山を見下ろしそこに拳を構える。
掌が赤く光る。
拳を握るたび、関節の奥から雷光が漏れる。
呼吸と同時に、雷霆が掌の内に溜まり、拳の表層を走る。
「赤帝━━轟拳ッ!」
パンッ。
その一撃は空から落ちた雷とともに地を穿つ。
着点を中心に、山の稜線が裂けた。
稜線は音を上げる間もなく粉砕され、谷が裏返る。
岩塊が空へ浮き上がり、火花の中で弾ける。
たった一撃で山を砕く。
衝撃波が連鎖する。
破壊された地面の下層で、圧縮したような大気が弾け、第二波の爆音が轟いた。
山の腹が内部から爆発するように膨張し、内部の溶岩質が吹き出す。
大地の構造が、拳一つで再構築されていく。
「もはや主体のなるには拳、喧騒がただの移動だ。」
再び喧騒を引き寄せる。
手を開き、雷霆を放つ。
雷が鎖のように伸び、空を貫き、喧騒の金属を引き寄せた。
「逃げても無駄だ俺が言ったように...言ってはいないが全てを感じる!この雷霆だけでなく!我が感覚はすでに膨大である!」
雷を背負ったまま、空を滑る。
喧騒を片手に構え、旋回。
殴りながら跳び、跳びながら殴る。
拳の一撃で風を作り、その風でまた次の拳を運ぶ。
連撃の一つ一つが、山岳を一段ずつ削っていく。
パンッ! ドゴォォォンッ! バリバリィィィンッ!
音形が変わっていく。
山脈が崩れ、谷が埋まり、川が逆流する。
彼が拳を放つたび、周囲数キロの空気が入れ替わる。
熱風と雷光が交互に世界を塗り替え、すべてが閃光の中に沈んでいく。
「赤帝轟拳ッッ!!」
「赤帝轟拳!!!」
連発。
拳の音が大地を叩く。
そのたびに地形が震え、破壊の波が走る。
風景が変わる速さは、もはや自然災害を超えていた。
喧騒を振り回す━━横薙ぎ。
山のごと切り裂かれ、土石が空に舞う。
再び引き寄せ、背後に回りながら今度は下方に突き立てる。
喧騒の刃先が地面を穿ち、拳が追撃する。
地面が反転し、山の半分が裏返って落ちた。
男だがまだ一瞬たりとも止まらない。
腕が伸びれば脚が畳まれ、膝が曲がれば胴が捻じれる。
動きそのものが一つの巨大な円環。
その円の中に、赤と白の閃光が何度も弾ける。
「ッはぁああああッ!」
息と共に雷光が溢れた。
落下、そして拳。
空を裂き、地を殴る。
そんなのが繰り返されるから勢いは全く衰えない。
落下の勢いをそのまま拳に乗せ、赤帝轟拳が再び炸裂する。
地面が抉れ、巨大な穴が形成された。
穴の縁から炎が吹き上がり、内部が光る。
地下の岩石が一瞬で溶けてしまう
「バカなどこでそんな力をもうじじいのはず」
「知るか、多分龍は老いても強くなるからだろう。」
焼け焦げた岩の下、潰れたはずの屍が震えていた。
その肉が膨れ、骨が裂け...
「まだ乗り移るのかよ...」
俺は拳を握り直し、まだ蒸気を吐く喧騒を構えた。
だが、それよりも速く、屍の群れが蠢いた。
頭のない死体が自らの胸を裂き、別の首を埋め込み、肩の間から生えるように再構成されていく。
「気持ち悪いなお前。」
「貴様は、何度でも…形を取り戻す……より強く。
喉の奥から響く声。誰のものでもない。
屍の集合体そのものが喋っている。
俺は一瞬だけ笑ってしまった。
(いいことが思いついた。)
何かを思いついた。
脳の奥で、雷がパチリと閃く気分。
呼吸の間に、俺の体の奥で焔が沸き上がる。
胸骨が鳴り、胃袋のあたりに熱が走る。
まるで溶鉱炉が腹の中で噴いたようだった。
「答え合わせだつまり!俺の中に閉じ込めばいいじゃないか!こっちから喰ってやるよ。」
吸い込むように息を吐き、拳を握ったまま胸を開く。筋肉が軋む。これはもう慣れた感覚へと変わってきた。
体の内側で、なにかが捻じ曲がっていく。
血液が逆流し、熱が喉を焼く。
それでも止めない。
屍が悲鳴を上げる。
腕がもがく。
頭が千切れる。
だが、その断片すらも吸い込まれていく。
まるで胃袋が“口”になったように、吸い込んでいた。
比喩じゃない。
喉が焼ける。
脳裏に、数百の声が流れ込む。
死者の残響。痛み。怨嗟。叫び。
「――貴様、何を……!」
「飲み込むだけだ...記憶がたくさんあればお前ひとつなどどうてことは...あれ?とくに変化を感じない?」
「やめろ!私を飲み込んだら教団の化け物も、もっと凄まじいのも支配から外れる恐怖の怪物へと。」
「うるさい!落ちろ!」
━━落ちていく。
暗闇でもなく、炎でもない。
何もない空間を、ゆっくりと沈んでいくような感覚だった。
やつの胃の奥にあった熱がすうっと冷え、代わりに無音の世界が広がる。
色も、匂いも、痛みもない。
――ここが、新しい私の中か。
じわじわと言うことを聞く奴隷にしてやる。
(まずは今感じた感覚から私のものにする。)
「こうも簡単に……入れるとは、単純な。」
「肉は強靭だが、魂はむき出しだ。
ここで根を張れば....」
「――誰が入っていいと言った。」
「……何だ、貴様は。」
「この地はお前みたいな後から来た汚れが、踏み込んでいい場所じゃない。」
「うわあああ!」
「ん?なんか音がしたような...ないような?まいいか。」
「なんたって俺は赤帝だ!してやったぞ!」
「おーい!?おい!友よ!」
「おおおお、これは、だが我が名は赤帝だ、赤帝ガルシドュースだ!反応してくれ!名前に!」




