第七話 攻防の果て
風が流れ、灰が舞い、崩れた地面や岩からできた硝煙があたりを飛散する。
もはや常人のいていい場所ではなかった。
そんな中に3人の人影らしき存在がいた。
1人は灰と硝煙が混じる空気を深く吸い込んだ。
そしてこう言う。
「恐ろしいな……すでに、俺はおまえが」
解体人の言葉が突如として止まる
解体人を見ていた一人、硝煙の中のもう1人の男。
異様な気質を纏う影のような男——ベックオ・メロスト。
その異様な存在が彼の言葉を止めた
先ほどの意趣返しのようにこういう
「自弁など不要。目的は明瞭」
そう聞いた解体人も思わず視線が泳ぐ。
両者の間に、ひとりの女がいた。
2人がぶつかり合う中、その反動で大きく位置がずれてしまったらしく、気づけば解体人の背にいた女を囲むようになっていた。
(……もう気づかれていたのか。まさか、あいつが。俺が注意を“彼女から逸らす”ためにしてる。
あえてこう話したこと、注意を自分にさせたのを──)
「...最初攻めるべきだった」
そうは言っても今の解体人にはできない。
なぜなら女は解体人に“目覚め”を与えた存在。さらに、彼女は彼の救いにもなり、そして戦闘を優位にする異能に深く関わっている。
彼女の存在は、敵としても味方としても、2人の戦場の天秤をくつ返す存在であった
だがしかし解体人の考えと裏腹に、ベックオは一切女には近づか無い。むしろ彼女に降りかかる落石などを払い除けた。
解体人はそれを見て目を細める
ベックオ・ロメストはそれに対して一切の変容を見せない。
「……恐ろしいな……正面から来るとはな……お前には、“人質”という概念が存在しないのか」
解体人の声は低く、背筋を撫でる風のように寒い。
「“目標”。依然。守る理も、触らぬゆえもある。」
ベックオは先ほどと打って変わって、ゆっくり、そして音もなく踏み込見ながら接近してくる。
だがゆっくりと動くベックオの動きと対照的に、周辺の環境は獰猛に変化していた。
普段はただ地面へと降りかかる灰が舞い上がる。
まるで暴風に巻き起こされたかのようだ。
しかし、神術とは、それほど単純なものではなかった。
「動揺は敗北」
バヒュンという鋭い音とともに、炎をまとった岩石が空を裂き、ベックオを目がけて放たれた。放ったのは、解体人だった。
「……石じゃ、燃やすのに時間がかかる。だが、それを補ってくれたのは――お前だ。」
「計画しすぎだお前は、心理とかで俺を押し潰しつもりだろう」
解体人は神術を用いて、飛来する石を空中で制止させた。だが、その瞬間、異変に気づく。
「……ッ、爆発――!」
思考が追いつくよりも早く、凄まじい爆風が轟いた。火柱が空を舐め、衝撃波が地を割る。
だが、ベックオの姿はすでにその場にはなかった。爆発の余波すら受けず、無傷で爆心から離れていた。
なぜか――それは、彼が石に対して、わずかな“違和感”を感じ取っていたからだ。
あの解体人の筋力では、どうあがいてもあれほどの速度で岩を投げつけることなどできるはずがない。これまでの幾度かの接近戦で、それは確信に近かった。
ならば、あの岩はただの飛び道具ではない。
そこに仕掛けられた“第二の意図”を見抜いたがゆえの回避だった。
「いい反応だ、それにその能力、ベックオ・メロスト」
「今、発言するは有意義。」
「解体人を揺さぶる」
「やって見せろ」
「私が神術は大気を」
バヒュンーそんな風切り音がまたなる
既視感のある不意打ちもう一撃、炎をまとった岩が唸りを上げて放たれる。だが――
爆ぜなかった。
空中でその軌道は鈍り、やがて失速して落ちる。ただの、赤く焼けた石塊へと成り果てて。
その瞬間、解体人はまたも目を細ませた。
「……やはり、そういうことか」
この不発は偶然ではない。相手――ベックオが、
能力を発動させていた。
「大気、よく知らない。
だがつまり――燃えるために必要な“何か”を、お前は遮断できるってわけか。ベックオ・メロスト」
風の流れ、温度、密度。言葉通りの知識は解体人にはないが、火が消えるのを見た経験はある。
つまり。何かが確かに遮られた。あるいは遮断されていた。
直後、周囲に立ち込めていた灰が、舞う。
大量に、静かに、空気と混じり合い、気づけばあたり一帯に灰色の幕が広がっていた。
――そうか。
真実に、気づいた。
この神術の正体は、ただ灰を固めていただけではない。
そんな解体人の思考を声が遮る
「―貴の神術火を纏う」
「多量な灰や粉は火に爆発する」
ベックオ・ロメストだ
「粉塵爆発」
「そうだ」
解体人はベックオに合わせて自身の秘密を語る。
そうでないと相手に自身の考えが読み取れる。そんな不安や不信が生じるからだ。
「そうだ。俺の火は距離を増やせば増やすほど、灰が石にまとわりつく。十分に纏えば、火は強くなる。よく燃える。」
「よく燃える火で、あたりを飛び交うのは灰、灰が火に触れることはすなわち大爆発だ。だから環境は俺に有利だっ!」
解体人は相手の言葉をまだ引き続いて遮る、まるで主導権を奪うかのように。
「逆にお前の能力。“神術”は風を起こすとかそういった、そんな低級なものじゃないな」
ベックオは静かに応じた。「……私は……」
解体人はこれを機会に石をいくつも燃や続けている。
話してしばらく、わかったことの大概は
ベックオの能力は大気を感知・分解・再構築する能力であった。つまり、「風」は結果であって、能力の本質ではない。
熱の流れ、圧力、音波の散乱、それらすべてを瞬時に把握し、操作し、形を与える、値の変化は出るが大きな問題はない。
そして全てを述べた後
「動揺は敗北へと繋がる」
突如、足元が崩れる。
見えざる気圧の“杭”が地面に突き刺さり、解体人の着地を崩した。
準備をしているのは彼だけではなかった。
(な、動揺って?!う、足場が!?)
「ぐっ……」
咄嗟に跳躍、飛び上がる地面の砕片を蹴って態勢を立て直す。その瞬間、横風が斬るように走る。
目に見えぬ——圧縮された空気が断面となり、斬撃を生む。
ゴウンッ!と空気を押しのける音がなり
その後を追うようにベックオの体からの打撃がくる!斬撃の後にすかさず攻撃。
さらに先ほどの掌の打撃とも違った打撃方法であった。
掌をすでに見せているが、ベックオはそれだけではない。
柔軟な関節を極限まで伸ばしては曲げる。
普通であればそのバネで殴る。
しかしベックオ・メロストと言う存在は違っていた。彼は全関節をまるで機械を動かす歯車として、常に回しては、動きに動力を与えていた
「か……!」
その獰猛なる一撃は一切の休止もなかった
風がうねる。解体人が滑るように距離を詰めた。
爪のように変質した手が、鋭くベックオの首筋を狙う。
攻撃していたのはベックオのはずだった!
だが今は解体人が攻めに回っている。
——瞬間、ベックオは肩を沈め、背後の瓦礫の影に飛び込んだ。視線を切る。
「どこへ……盲目を逆手に利用する気か」
解体人が追う瞬間、瓦礫の裏から伸びる足が、彼の死角を突く。
一撃、顎を跳ね上げる。
「恐ろしいのは……お前の傲慢だ」
バキィ!ブシャー!
攻撃してきたベックオの腕がちぎれる。鋼の硬さを持つ腕が、表面に大気の壁を纏っていてる腕が、キレた、折れた、そして千切れた。
「言ったはずだ、この場で有利なのは俺と」
ベックオ・ロメストは驚嘆していた。なぜ燃えるものがなくなるはずの火が強くなるのか
「戦場が変われば、道具も変わる。お前の後ろにあるその構造、風穴になっている。」
「空気の流れに逃げ道がなければ、火は踊るどころか……跳ね返るんだよ」
「つまり俺は圧力差を利用して、火で風逆流させた!全ては地の利を得たからだ。」
これを聞いて、ベックオは以前読んだ本を思い出す。
火炎の噴流は本来一定方向で維持されるが、周囲の気流や地形で小さな乱流が複雑に絡むと、主流の流れは破綻する。
そしてそれは乱流の渦となり“逆流”する。
これにより凄まじい圧力が与えられる。
ベックオ・ロメストは理解した。
私は突如として生じた圧力変化の負荷に、加速しすぎた速度の負荷が重なり、腕が千切れた。
(....ならば勝者は依然として私である!)
ベックオは即座に地面を蹴る。解体人に向かって飛ぶ。
「こっちだ!」
「……すでにお前の声帯から空気の振動を“計算”している」
火炎で気流を錯乱させている解体人の声を偽に作られた声だと考えてベックオはその逆の向きを攻撃する。
振り下ろされる掌。空気の衝撃ごと振るわれる殺意。
衝突音、爆風、そして——風の流れの乱れ。
一撃、砕片が飛び、解体人の肩口に突き刺さる。深くはないが、吹き飛ばすには十分。
「お前の術、これで完全じゃない。読めるものも、読み切れない混乱がある。そして敵を動揺させるには、俺を見習うんだな!」
ベックオは確かに動揺していた。しかし依然として冷静を保っていた。自分自身の勝利を確信しているからだ。そうさ、私は最強だ、最強でないといけない。
「女も情報も、全部“ここ”でもらう」
「やっぱ普通に喋れるんだ」
ラストの一撃の応酬。
「ここは高台。風が逆巻く——なら、その流れを“打つ”!」
解体人の炎を纏った肘が風を切る。空気圧の抵抗を使い、腕が“加速”したように見える。
打撃は突風と共に炸裂し、竜巻火炎を引き起こす。
解体人の胸に、衝撃が突き抜けた。
空気が砕けたような音と共に、男の体が地面を転がる。
風が止まる。
(うごきは私が)
「うう」
だが痛み抑えられないでいたのはベックオであった。
「不可能。不可能。不可能、不可能、不可能!不可能だ!だああああああ!」
ベックオは風穴を大きく開けられた自身の胴体を見て、ただ、ただ。大声をあげていた。
──勝利を、自分を、信念を、信じようとしても、痛みがそれを邪魔する。
(なぜだなぜ距離が見えない!なんで私の体が裂けている。強度は私の方が...)
傷口に光ものが見えた、この呪われた地では決して作れない輝き...これは、私に刺さっているこれは、子爵様から頂いた...
「脅しは悪くないが、気流の乱れを見抜けなかった時点でお前の負けだ」
(負ける?この私が?ベックオ・ロメストが?神術を持つ私が?)
「神術をもつ、神術、は、しん、戦闘、は、うっ。己が精神も、お、お、大きく影響する」
「……何を狙ってるか知らんが、俺は近づかないし、攻めもしない。早くそこで死ぬんだ。」
「自分が。最強、そう、繰り返す、も、また一つ強くする」
「舐めるなこぞおお!俺はベックオ・メロスト。フルウュスの血を引く男だ!」
そうベックオが言ってるうちにベックオの“神術”による空気圧が崩れ、巻き上げっていた灰が落ちて、少し視界が晴れていく。
見るとベックオの胸部——右の肋骨から、血が噴き出していた。
解体人の表情に、わずかな困惑と畏怖が浮かぶ。
ベックオの胸には、先ほどの金属が穿った一撃の痕が、斜めに走っていた。
だが、そこから“裂けている”のは肉だけではなかった。
「これでいい、俺はできないわけない、体内に大気を入れられる」
——ギィ、ギチチ……!大気の操作を体内で行う、ベックオ・メロスト。
大気の操作で音が鳴る。肉の奥、筋繊維の内側から、“何か”が動いた。
裂け目から覗く、異常に可動性を持った肋骨。
まるで意志を持つ蛇のように、折れ曲がり、うねり、互いに組み合い、鎧のような骨格兵器に変貌していく。骨が開いたことで内臓が地面に落ちる
変貌したベックオは骨を解体人に突きつけ、挟み潰そうとする。
「皮膚や内臓が弱いのであればもっとも硬い!この骨で貴様を殺せばいい!ウヴァヴァヴァヴァヴァ!!!」
「このまま引きちぎる!」