第六十話 帝都大備忘録・玖 火矢と黒内臓
「あんた、ダンナ、エバンドルよ。」
「そうだ、だからなんだ、最初は確かに回復で無理矢理傷を押し潰してそのまま山飛び越えるつもりだった。」
(...おはじきの要領でいくつもりが魔蘇薬があそこまで俺の...いや神術のおかげか...?確かに今まで確認しなかったが、神術の威力はもっと。)
「...無茶な人で、あっし....は、あっしは、あんたが...何ができるかどんどん期待してえんすよ!」
「あ、そうか。」
「よし!お前に真の強さを見せてやろう。」
「おい!」
「止まれ、止まれ! これ以上近づくな!」
門の上から兵士たちの怒鳴り声が降ってくる。槍がぎらりと太陽を反射した。
罵声が向かう城壁の前は、人と獣が汗の匂いで満ちていた。
大勢を率いてここまで来るのに丸一日と一夜。今、ようやく城の巨大な影が頭上を覆っている。
(本当に浮いている。)
「水を、頼む……」
誰かがしわがれ声でつぶやいた。
難民の列は、疲労で半ば崩れ落ちそうになりながらも止まった。幼子を抱いた女が立ち止まった拍子に膝をつき、砂煙が舞う。
「俺を誰か見ないか!エバンドルの名を上に告げ!彼が領地が財産を数百人に限らず、それよりも多く持ってきた!そういえ!そういえば!」
門が兵の一人は苦い顔をしたが、城門は閉ざされたままだった。
「何事だ、これは!」
上から、兵の後ろから現れたのは、緑の肩章をつけた若い書記官らしいものだ。
「数は……どれくらいだ?」
「ざっと見て……二百、いや、三百はいます!」
「そ、その倍かもしれません、まだ後ろから人が来てます!」
「...それにエバンドルと...」
報告を聞いた書記官の顔が真っ青になる。
「今すぐ伝令を走らせろ! 城主に報告だ!」
兵士が駆け出す。
「さっさと開けろ。」
静寂。
「開ける権限は俺にはない。」
役人が低く答えた。
「だが……報告は上げましたゆえもう少しお時間を。城主が判断するまでお待ちいただければ。」
「待ってる間に死ぬやつが出る。財産だ。」
後ろから女の子の泣き声が聞こえた。
「母ちゃん……のど、かわいた……」
兵士たちの顔色がわずかに曇る。
「水くらいなら……」と誰かがつぶやいた。
「持ってこい。」
役人が命じる。
「井戸から水樽を二つ持て。」
兵士が慌てて走り去る。
その間にも、城内はざわめき続けた。
「外から人が来たらしいぞ!」
「何百人もいるって!」
「病気が流行るぞ、やめてくれ!自由民じゃないやつらなんてどうでもいいだろ
「いや、あの貴族が連れてきたなら……まずいですよ、言葉を謹んで!」
城下の広場に人が集まり、門の方を指差して噂し合う。
「城主様はどうするおつもりだ……」
「今度ばかりは試されるぞ。」
やがて水樽が運ばれ、門の外に下ろされる。難民たちが群がる。
「順番だ! 押すな!」
一喝すると、群衆がぴたりと動きを止めた。
「まず護衛からだ。時間を経て次に俺とお嬢、そしてハルド。最後にお前たちだ。」
「いいか!文句を言う奴は村の時と同じく見せしめだ!」
誰かが声を上げる。
門兵たちは驚いて互いに顔を見合わせた。
「……言うことを聞いてるぞ。」
「ただの烏合の衆じゃねえのか?護衛...?貴族の?」
ゆっくりと空を見上げる。
城壁の上の役人と視線がぶつかる。
「判断はまだか。」
「……城主様は今、評議を開いてい....あのぉ...ええと...あっ、あっ大変申し訳。」
「急がせろ。」
声は低いが、門前の全員に届いた。
城壁の上で、役人は一瞬言葉を失った。
きっとエバンドルの名をかつて城主が口にしたのを聞いたからだ。とでも言わんばかりに大変畏まった顔でいる。
「...」
城内はさらにざわめきを増し、遠くから鐘の音が響いた。
「……緊急招集だ!」
兵士が叫ぶ。
「評議の結論が出るようぞ!」
人々の視線が、門と城壁に集まった。
風が止み、砂埃がゆっくりと地面に落ちる。
城の巨大な扉が、きしみながら動き出した。
誰もまだ、開かれるか閉じられるか分からない。
「開かないと族滅させる。」
門内に吹き込むように押し寄せる難民の群れを前に、城内はまるで祭りのあとに火事が起きたかのような混乱だった。
「おい、数えろ! 百、いや二百、まだ後ろに続いてるぞ!」
「水場を増やせ! これじゃ足りん!」
「いや待て、殺すぞお前たち!」
門番の隊長が怒鳴ると、若い書記官が駆けつける。
「統計を!まだですかッ!何を言った!お前...あなたは!!」
「もう一度いう、殺すぞお前!今度は兵士に続いてないからわかるだろ。」
「これじゃ暴れるどころか、外で野宿してれば明日には死体の山だ。城壁近くの場所が疫病の温床だ!それでもいいのか!!」
沈黙。
「入れろ。」
「で、で、ですが……!」と書記官が声を上げる。
「この数!いくらなんでも!」
「食料を!」
「町の備蓄はどうするのです! 秋の収穫まではまだ一月ありますし、食糧が……!」
「入れろ。」
「....」
「食わせるだけ食わせろ。災いを伝えにきた。城主の案内しろ。あとは俺の護衛たちがやってくれる。」
「頼んだぞ!ハルド!」
「おうよ!だんなぁ!」
場がざわめく。
「災い……?」
「そうだ、次に目指すは山を越えた西の集積地だ。まだ手つかずの備蓄がある。」
書紀官を地面に突き倒す。
「飛ぶさ。」
「...」
兵士たちがどよめいた。
「山?それってあの山脈を!?」
「ウドガ……!」
「おい、城主だ。お前に話して何が意味ある。そして俺からいくのすら本来おかしい、ならさっさと案内しろ。」
口元をわずかに緩んめる。
「...こちらでございます...」
「苦い顔をするな、俺の気分次第でお前の...わかるな。」
「はっ!」
「よし城主の方だいけ。」
「はっ。」
門がきしみ、重苦しい音とともにわずかに開いた。
兵士は畏まった様子で「はっ」と言っている。
うるさいから黙ってほしい。
とてもイラつく、イラついているんだ。
「...うぉ。」
埃と汗の匂いを消すように、イライラを揉み消すように、冷たい城主府内の空気が外へ流れ出す。
(随分と冷たい、何にで温度を調整しているんだ?制冷がすごいな。)
「城主の間へ案内しろ。」
低い声で響いた。
案内役の兵士はごくりと唾を飲み、先導する。
城主府の奥、重厚な扉の前で足を止める。
中から評議の声が漏れ聞こえてくる。
「……城を閉ざせば混乱は収まる!」
「馬鹿を言うな、外で死なせれば粛清が起きるぞ!かの大貴族が財産が千を裕に超えているぞッ!魔法使いの贄を死なせたなぞ!」
「だがこの数を養う余裕はない、備蓄は半減する!」
「失礼するぞ。」
会議室が凍りついた。
長卓の向こう、城主が立ち上がる。五十がらみの男で、眉間に深い皺を寄せていた。
「……エバンドル。」
その名を呼ぶ声には、怒りと安堵とが入り混じっていた。
「来てくれたか。」
「呼ばれた覚えはない。」
(つか、自分の今の身分よく知らんし誰だよお前。)
兵士から取った剣を床に突き、城主を真っ直ぐに見た。
「状況はすでに見た。外は死にかけた人間で溢れている。貴公はどうする。」
城主はそう言って、深く息を吐く。
「きっと恐ろしくて私が聞くに....」
会議室の空気が...恐怖へと。
「いらん。」
短く言い放つ。
「厄災だ、教団だ、知っているか...」
「教団だとぉ!いや、まさか!それをどこで!」
「決断だけよこせ。」
城主は唇を噛み、長卓に両手を置いた。
「……城を捨てることはできん。エバンドルよ、かつてお前の情に免じてどうにかできんのか。」
「理由を言え。」
「この城は川と街道を押さえる要地だ。ここを明け渡せば、西の街も南の集落も孤立する。
王国への献納も滞る。冬が来る前に、領地が多く死ぬ。」
「死ぬぞ、あれは魔法とか闘技でどうにかできるやつじゃない。」
「そうは言ってられん!」
城主が声を荒げる。
「だからこそ我らはここを維持し、守る必要があるのだ!」
「先に死んでどうする。」
声は低い。
「それが城主の答えなら、俺はお前を殺してここの指揮をとってもいいぞ。。」
会議室に冷たい沈黙が落ちた。
「……では、どうすると言うのだ。」
城主が絞り出すように問う。
「人も物も、動かせるものはすべて西へ送る。」
答えた。
「城は残してもいい、だが守る兵と物資は最低限にしろ。
残るなら死ぬ覚悟をした者だけにしろ。」
用人か、重臣というべきか、まあ大物らしき存在たちがざわめく。
「そんな無茶な……!」
「ここは貿易に流通が要所に一つ!
「それに、あなたが領内の街からも、あそこでは多くの商人や貴族が!ま」
「連絡はいつだ」
「はっ..」
「取ってみろ。多分来ないぞ。返事。死んではいないが処理に困る。」
「崩れる前に、崩れる先を押さえるんだよ。」
俺の声が部屋を震わせる。
(ガタガタ揺れてうるせぇやつらだ。)
「山を越えれば備蓄がある。今動けば間に合う。春を待てば全員餓死だ。そこを起点にして帝都へ向かう。海を行けば避けられるかもしれない。相手は寄生に増殖をする。わかるか?」
城主は黙り込み、やがて椅子に腰を下ろした。
「……貴公は、どこまで人を連れて行く気だ。」
「全員だ。」
「全員?」
「全員だ。全部だ。ありったけの水に食料もだ。」
城主の目を見据える。
重臣たちが一斉に反対の声を上げる。
「城主様、それはいけません!」
「城を捨てるなど……!」
城主はしばらく彼らの声を聞いていたが、やがて手を上げた。
「静まれ。」
室内が静まり返る。
「……分かった。」
その一言に、会議室がざわつく。
「城を捨てると?」
「いや、完全には……!」
「エバンドル。」
城主は真剣な顔で言った。
「この城は捨てぬ。だが子と妻は任せる。城下の民の商人が望むであるならば、お前に託そう。」
頷く。
「死は免れんぞ。」
「残る者は、残らなければならない。」
城主は目を閉じ、深く息を吐いた。
「....その覚悟を今夜中に取らせる。明日の朝には、出立の準備を...貴公が言うことは信じなければならない。」
剣を軽く振り回した。
「決断が早くて助かる。」
城主はかすかに笑った。
「昔から貴公に振り回されているな、エバンドル。」
「振り回してやるよ。」
それに踵を返した。
「生き残るためにな。」
「しかし先ほど寄生と言ったが...貴公が連れてきたものは?」
(寄生か、思いもしなかった。俺の判断になかった。)
城主の間を出ると、夜気が肌を刺した。城門外の難民たちは焚き火を囲み、ようやく水を飲み終えていた。
だがその一角で、奇妙なざわめきが広がっている。
「……どうした?」
近づくと、護衛の一人が血相を変えて駆け寄ってきた。
「ダンナさま、やばい、ひとり……!」
輪の中心で、一人の男がうずくまり、喉を押さえていた。吐瀉物が地面に散らばり、腐臭が漂う。
その吐瀉物は、まるで血と苔を混ぜたように緑がかって泡立っていた。
(...内臓?か?黒いぞ、とても)
「下がれ!」
声を張り上げると、人々は一斉に後ずさった。
泣き声が上がる。
男の体が痙攣した。背骨が異様な角度で曲がり、皮膚の下を何かが走る。
ぼこぼこと膨らむ筋肉が裂け、血ではなく黒緑色の液体が吹き出した。
「これは?」
目が細くなる。驚いている。正直に。
「ハルド、剣を! そして矢を、近づくな、くれば切って下がれ!こいつはやばい!」
「へ、へい!」
護衛たちが火をかざすと、異形化した男は甲高い叫び声をあげた。
顔の輪郭が崩れ、顎が長く突き出す。牙が生え、眼球が濁る。
「離れろ! 離れるんだ!」
叫んだ瞬間、化け物と化した男が跳ねた。四肢が犬のように地面を掻き、群衆に飛びかかる。
抑え込もうと俺は突進してみるが、男はすぐさまに体を分裂するように、胴体の中央から裂け出す。
二体になった。
そして裂けて時の揺れを利用して横へと。
「なっ、先!」
剣を振り抜き、地面に叩きつける。
ドンッ。
地面が跳ね返るように爆ぜた。
当然怪物も見回りにきた書記官などを襲えずに飛ぶ。
凄まじく、また制御された衝撃で怪物は空中に弾き飛ばされ、焚き火の上に叩きつけられた。
火がついた。
「ギャアアアアア!」
耳を裂くような悲鳴。
燃えながらのたうつ影が、やがて黒い塊となり、動かなくなった。
沈黙。
結局空中で、倒してしまうことになってしまった。
「思ったよりも弱い...」
次はゆっくりと群衆を見渡す。
(これが“寄生”か。今、目の前で同じ人間が怪物になった...
次は誰だ...)
「さっさと名乗り出ろ。体が熱い奴、喉が痛い奴、全部前へ出ろ。」
爵銀を乗せた声で無理矢理命令する。
ざわめきが起き、ためらいの末、数人が前に出た。
「連れて行け。」
兵士に命じる。
「べ、ぎにゃ」
「だ、だんなが……!あたしゃの!」
女が泣き叫ぶ。
音がする先を見る。
半分の体で二体のような生物になった、男の目は真っ赤で、唇が紫に変色していた。
口で言葉にならない声を上げては蠢く。
短く息を吐いた。
「すまん。」
剣を抜き、そいつの首を一瞬で落とした。
群衆の中から悲鳴が上がった。
女が取りすがろうとするのを、護衛が押さえ込む。
「エバンドルの旦那……!」
ハルドだ。
「迷ってる暇はない。噛まれれば全員が死ぬ。
今夜はここで隔離と処分をやる。変化したやつら、変異者は全て殺せ。現状は明日までに生き残った者だけ連れていく。」
兵士たちが凍りついた顔でこちらを見ていた。
城門の上に向かって叫んだ。
「城内にも伝えろ! 全員屋内にいろ!隔離だ!」
門兵の隊長が青ざめながら頷いた。返事する。
「承知した!」
「止まれ! 全員、止まれぇぇぇ!」
城門の元で鋭い声が響いた。甲冑の兵士たちが火矢を構え、長槍を突き出す。
(しかし火矢って名前の割に弓ぽくないし...裁断榴ぽいな。でも火が矢状に出てきやがる。これで矢を構えろって指示おかしくないか...しかも爵銀で撃てるか判断しては量で強化...ふむふむ。ほうほう、うらららら)
火矢などの兵器が恐ろしさに応じるように、民の列がじわりと止まった。子供が泣き、女が嗚咽し、男たちは互いの顔を見合った。
城門の外では、焚き火の炎がゆらめき、入りきっていない難民たちの顔を赤く照らしていた。
(いろんな方角からきているな...通りであの男たち嫌がったわけだが。)
ポタージュ
俺の剣からは滴る黒緑色の液体が地面に染みを作り、腐臭が夜風に混じる。
凄まじい形相のそれに群衆は凍りついたように動か
ず、さっきまで水を求めてざわめいていた者たちも、今は息を殺してる。
子供の泣き声すら途切れ、静寂が重くのしかかる。
(...恐ろしいぞ。)
「気をつけろ、まだ爵銀持ちに効くかどうかわからない。感染に気をつけろ。」
ハルドがそっと近づき、囁く。
「ダンナ……こいつら、どうすんだ?この際....こ...」
俺は答えず、代わりに焚き火の近くに立つ護衛たちに視線を投げた。
「火を増やせ。明るくしろ。暗闇に行く動くやつは斬る。」
護衛たちが慌てて薪をくべ、炎が勢いを増す。
赤い色の光が広がり、難民たちの顔に深い影を刻んだ。その影の中で、誰かの目が異様に光ったように見えた...いや、錯覚か?
(錯覚なけはない。)
俺が気づかないほどの一瞬で眉が顰められる。
自分でもやっと気がつく。
すぐに表情を硬くしていた。
「ハルド、名簿はどこだ。作ってもらえるか?」
「名簿? こんな時にかよ! ダンナ、時間ねえぞ!いっそころし」
「黙れ。やるんだ。彼女にも聞いてくる。お嬢だ。今は...まずわからんこいつらは隔離だ。」
(...妙だ...人が増えていないか?直感がそう言っているようだ。)
ハルドは渋々頷き、近くの護衛に指示を飛ばした。難民たちはざわつきながらも、兵士や護衛の剣と火矢に脅され、ゆっくりと列を作り始めた。
だが、その動きはぎこちなく、互いをちらちらと盗み見る目には疑念が宿っていた。
「さっきのぉ……アイツ、やべぇ。」
「水飲んだ後に急に変になったんだ……んだ、水が悪いんじゃねえか?」
「バカ言うな! なら俺たちもやばいってことかよ!」
囁きが広がり、群衆の不安はまるで火に油を注ぐように膨れ上がった。
(無視無視。)
城門の上に立つ門兵の隊長に視線を戻した。
「今夜は誰も城内に入れるな。外も中も隔離だ。動くやつは全員、許可なく斬る。」
隊長は青ざめた顔で頷き、すぐに伝令を走らせた。城壁の上やしたでは、兵士たちが弓を構えたまま、難民たちを見下ろしていた。彼らの目にも、恐怖と疑念が宿っている。
ドドドド
城が中、街が奥のところの城内街からも、ざわめきが。
「...俺は奥の方にも行こう。」
城内では、広場に集まった市民たちが門の方角を指差し、噂話を交わしていた。
荷物をまとめて逃げるように見える。
「エバンドルってあの貴族だろ? 今、魔法使いの贄を連れてきたって話の……」
「肉人形を何百人も連れてきた? 冗談じゃねえ、食料が持たねえよ!今使う必要はないだろぉ!俺は市民会議でも議席を持っているんだぞ!抗議してやる!ここを出て代表殿に悪行を伝える!」
「待て待て、それより、さっきの叫び声……何かやばいもんが混じってるんじゃねえか?」
「この城、街道の要衝だ。放棄すれば王国への交易が止まる。だが、このまま難民を受け入れりゃ、備蓄は一月持たねえぞ。」
「エバンドル様が何か企んでるんじゃねえか? あの方、昔から得体が知れねえんだよ。」
「貴様らぁ!」
その時、城主府から若い書記官が血相を変えて広場に飛び込んできた。
「全員、屋内に退避しろ! 城主の命令だ! 今夜は門を閉ざす! 外からの者は一切入れるな!」
市民たちのざわめきが一瞬止まり、すぐに不満の声が爆発した。
「なんだって? 外にいる連中を放っとく気かよ!」
「疫病持ちがいるって本当か? ならなおさら門を開けるな!」
「俺は出るぞ!市民」
書記官は叫び声を無視し、衛兵たちに指示を飛ばした。
「門の監視を倍にしろ! 火矢を番えておけ! 何か動くものがあれば、即座に射るんだ!夜間に出るものであれば処せい!」
「はっ?お前!!」
「おい名前は? どこから来た?」
「は?」
「賊人ぞ!撃ち抜け!」
シュッ ドサ ズサ
「ゔぁば!」
「な、なんだトォ!」
「全員、皆の衆、慌てるな、ただの邪教徒を撃ち抜いたのみ...しかし、まだ城内にいる。賊人が!...ここにいる限り邪教徒に襲われない保証はないぞ。」
「うっ、に、荷物をしまうだけです、そう、商売用の!すぐに!」
「おい!なんだきさま!」
「ん?今のは城門あたりのから?」
そう聞いて爵銀を流して聴力を強くする。
「俺……ガルド、村の……」 男の声は弱々しく、額に汗が光っていた。
「熱は? 喉の調子はどうだ?」
「喉……ちょっと痛えだけだ……大丈夫だろ?」
俺の方の護衛らや兵士らが顔を見合わせ、やがてハルドに視線を向けた。
ハルドは無言で近づき、男の顔をじっと見た。男の瞳はわずかに濁り、唇の端が不自然に震えている。
「隔離だ。」
「な、なんだよ! 俺は大丈夫だって! ただ疲れてるだけだ!」
「黙れ。連れてけ。」
「い、嫌だ!怪物といたくねぇ!」
護衛が兵士たちに混じり、兵士らが男を引っ張り、それを見届ける足音がする。
焚き火から離れた暗がりに連れていく。男の叫び声が夜に響き、他の難民たちの間に新たな恐怖が広がった。
「次はお前かもしれないぞ。」
「水飲むなよ、絶対やばいって!」
「いや、さっきのやつ、噛まれてたんじゃねえか? あの化け物に!」
ハルドは群衆を一瞥し、声を張り上げた。
(音で見たというのもおかしい気がするが、多分見たんだろう、衣の擦れる音や風の音からして。)
「静かにしろ! 騒ぐやつは即座に隔離だ! 症状があるやつは自分から名乗り出ろぉい!」
「隠せば全員が死ぬって!んじゃ、おめぇらがた!おうおうおう!一人でも出ればこっからあっしが全員殺す!でい!」
その言葉に、群衆は再び静まり返った。だが、互いを盗み見る目は増え、隣に立つ者への不信感が濃くなっていく。誰かが咳をすれば、周囲が一斉に距離を取り、子供が泣けば母親が慌てて口を押さえた。
「チッ、戻るか、大変なことが起こる前に。」
(それにしても驚くこれ、なんか見なきゃいけねぇんだ、怖いのは知っているが見飽きた。)
夜が更けるにつれ、城門の外はさらに緊張感に包まれた。そんな雰囲気がする。
護衛たちは焚き火を囲むように難民を円形に並ばせ、中央に俺とハルドが立っていた。
隔離された者たちは、城壁から離れた場所に作られた即席の囲いの中に閉じ込められていた。そこからは時折、うめき声や叫び声が漏れ、聞く者の背筋を凍らせるみたいだ。
「ダンナ、あの囲いの中……何人かはもうダメかもな。」 ハルドが囁く。
「見張りを増やせ。動くやつは即座に射殺だ。」
その時、囲いがない場所から甲高い叫び声が上がった。護衛の一人が慌ててこちらに駆け寄る。
(なんだ..!)
「旦那様! 隔離してないところのやつが……一人、変になってる!そこ何もなかったやつで!」
「なんだとぉ!」
急いで駆け込むが。
そこには、一人の男が地面にうずくまり、身体を震わせて、皮膚が膨らみ、骨がきしむ音...目は完全に白濁。
(どこだ、一体どこが感染源だ。
「さて、口元は...」
「口から緑がかった泡が滴っていた。」
「ハルド、構え。」
「へい!」
護衛や兵士たちが武器などを手に男を囲む。
見るみるうちに男の身体が一気に膨張し、四肢が異様な角度で曲がった。次の瞬間、化け物と化した男が囲いの柵を突き破り、飛びかかった。
「下がれ!」
剣を捻り。化け物の首を一閃で切り落とした。
頭部が地面に転がり、黒緑色の液体が周囲に飛び散る。護衛たちに松明を投げ込むよう命じて、化け物の残骸は瞬く間に炎に包まれた。
群衆の中から悲鳴が上がり、子供たちが母親の背中に隠れている。
俺は剣を地面に突き立て、ゆっくりと群衆を見渡した。
「まずいな」




