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青灰の地より  作者: 不病真人
第一部 龍と男に焔 第二章 迷宮と魔女

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第四十七話 考えろ、ガルシドュース!考えろ!

直線状に飛行する。

それはガルシドュース。

彼は腰を下ろして足を縮めて、跳躍、いや、飛行というべきか。


よく見ろと言いたくなるほどに腰を深く落とし、脚の腱を縮める。

彼の全身はかなりと張り詰めていて、地面に亀裂が走った。

次の瞬間恐ろしいほど大きな炸裂音とともに、ガルシドュースは跳躍した。いや、跳躍と呼ぶにはあまりに異様だった。軌道はただ一直線、もはや早すぎて空を滑るのではなく、質量の塊そのものが矢となって撃ち出されるのではないか。


両腕は前に伸ばされ、掌を突き合わせるように真っ直ぐと。肩から拳まで一本の鋼鉄の槍と化し、胸は張り出し、背骨は反るほどの真っ直ぐな姿勢、腹筋は鎧の板金のように固まる。

まさに直線飛行以外の姿勢を許さぬ身体。

直線だからこそ許される速度だろうか。

曲がることを拒む肉体の推進が、彼の存在そのものを矢のように貫徹させていた。


空気と肉体衝突のたびに、轟音が轟く。

壁を掠めれば壁は押し潰され、柱は斜めに折れ、破片は雨のように散った。

 

 轟く音。


地面に触れれば大地が爆ぜ、岩塊が宙を舞う。

彼は方向転換すらしない。曲がる必要がないし、曲がれない、触手敵などが邪魔すれば、障害はすべて直線上で粉砕される。


軽やかさや自由さは一切ない。羽ばたきも滑空もせず、ただとした直進。

それは空を舞うのではなく、大地を穿ち、空気を裂き、風景そのものを線で刻む暴力だった。


追随する視線は、彼の残す軌跡を追い切れない。残るのは、煙の筋と、破壊された残骸の一本道。


そのまま直線状に飛び出して、あたりを破壊する。


 しかしそれでもあの波からは逃れられていない。

(大きすぎて気づかなかったが、速い!)

「セオリク、投擲を!神器を、速度を高めてくれ!俺の!」


「ッッ!」

セオリクが神器を発動させた瞬間から別次元のものへと変貌した。


神器が放った光は、雷とも炎とも判じがたい。

きっと速度そのものか、それを燃料とする異質な輝きであり、矢のように、いや光に伸びるか、ガルシドュースの軌道へと吸い込まれていった。次の瞬間、彼の肉体は目に見えぬ何かに捕らわれた異次元の走路へと引きずり込まれたように見える。


とてつもなくすごい軌道だ。

「んんむ!」


爆裂音。だがそれは耳で聴く音ではない。

空間そのものが震えて軋み、鼓膜よりも先に骨と臓腑を叩き割るような振動が戦場全体を覆った。


(な、なんだ……!?空気が……消える……!)

味方も敵も関係なく呻いた。ガルシドュースの進行方向では、根源的なものが削ぎ落とされ、真空に近い裂け目が走っていく。圧力差で周囲の大気が吸い込まれ、まるで空間が捻じ切られるようだった。


両腕を突き合わせ、胸を張り、背骨を反らせるその姿勢は変わらない。

だが速度が限界を突破したことで、その肉体はもはや一個の人間ではなく、世界に穴を穿つ鋼鉄の杭と化していた。

腹筋は振動する鉄壁、脚は反動を制御する巨大なばね、肩から拳までは一本の破城槌。


衝突の度に建物は紙のように裂け、岩盤は塊ごと宙を舞い、地形は削られて線を描いた。


 普通の飛行なら、例えば空を飛ぶ鳥は障害物を避けるが、彼にはもうそんな概念はない。真正面に触手の群れが立ち塞がろうと、一本残らず押し潰され、血肉も破片も直線の轍に吸い込まれる。


「だああああああ!」

声を上げたが、自身の力では半ば制御を失っていた。神器は本来、命なき存在にかけるもの、もちろん人にもできる。実際ガルシドュースの異常な体質で受け切れて、さらにそれと合わさった瞬間、その効果は倍加どころではなく、空間を削り取る直進として発現してしまった。


きっとガルシドュースは世界の枠組みを無視している。

まるで異空間に突入したかのように加速を続ける。

誰も追えない。視線すら追随できない。

残るのは、真っ白に灼けた線の残像と、後方に置き去りにされた大地の断裂。


「ぐっ……っ! 神器が……まだ加速してやがる……!」

セオリクの腕は震えていた。神器から漏れる光は血管のように広がり、彼自身の肉体を侵食するかのよう。

だが止めることはできない。なぜなら今のガルシドュースこそ、戦況をひっくり返す唯一の“矢”だからだ。


凄まじすぎる速度。

直進の先にあるものが敵であれ、障害であれ、空間そのものであれ――すべては粉砕される。

その光景は、もはやただ一条の災厄が、線として刻まれていく。

 過言ではない。

描写に相応しく凄まじすぎる速度。


しかし異次元の軌道を走る彼に魔女の猛攻は降り注がれる。


 大地が変動して、蛇のような胴体をした魔女は、彼女の体と一体化した大地を自由がままに操作し出す。


(...くっ、セオリクのおかげで位置を自在に変動できても回避は...このままだと撃ち落とされて潰される!)


攻撃が続けてもガルシドュースはなお一直線に飛ぶ。

「ッッ!」

直線でしか飛べないのを気づかれたか、魔女は彼が

飛ぶ軌道を予測して攻撃を置く。


けれどもどれも回避される

なぜならばガルシドュースが何処からとなく、なぜかすぐ別の場所に出ていて、見るもの全てに位置が掴めないほどに奇怪である。

まるで瞬間的に移動できるようだった。


 そうして触手も彼をつかめずに、殴り掛かろうとすればその隙を狙われて、一番に弱い時点に、殴り終わったあと緩められた場所で、一番弱いところを、急にどこから出てきたかわからないガルシドュースに破壊される。

だが、その進路に大地そのものが変形し、幾百もの“障害物”が瞬時にせり上がる。

塞がれてしまう。

何もかも。


しかし魔女の体はすでに塔と一体になっている。

彼女の蛇のような胴体、それも塔と融合した部分の片鱗である。


おかげで大地を這う無数の節は隆起し、牙のように尖った岩柱を一斉に突き出し、ガルシドュースとその背中にいるセオリクを追い詰める。

まるで生きた大地が意志を持ち、彼の飛行を迎え撃つようだった。


「シィッ!」

ガルシドュースの目が細まる。直進のみを許す身体に、初めて“回避”の要求が突きつけられた。



 「セオリク!撃て!」

「ダメだッッ!視力が、うっ、げっ、私から足りぬと言う、あっ、ものだ!」


炸裂音とともに、彼は腰から胴体を捻る――だが軌道は直線のまま。

完全な曲がりはできない。代わりに彼は、飛行の角度をわずかに傾けて擦り抜けを選ぶように飛ぶ。

結果、頭上スレスレを巨大な鋼と岩でできる大きすぎる槍が通過し、背後で破裂するように砕け散った。

それでも破片が炎の雨のように彼の背を追いかける。


魔女は塔と融合している。

(だから攻撃は止まらない!回避すれば、迎え打っても)

裂ッッ!

再び攻撃される。

(考える時間もない!速いッッ!捌ききれない!)


 魔女は怯まない。次に大地は鞭のようにしなり、石の触手が何本も束になって襲いかかる。

一本一本が大木の数十倍ほどの太さを持ち、横薙ぎに走るその動きは、まさに暴力かつ強力。


 そして今まで戦ったことのある傭兵や魔物たちも織り交ぜられて溶かされているから、神術やほかの異能と共に攻撃はくる。


「ヌゥ……!」

ガルシドュースは両腕を槍の形に保ったまま、腹筋をさらに硬直させる。

瞬間、体をひねるようにして岩の触手の隙間へ突入――衝突と同時に一部を粉砕しながらも、残りは髪の毛一本を掠める距離で擦り抜ける。岩に触れた手先の端に裂傷が走り、血が直線の飛沫となって後方に散った。いや早すぎて消えたと言うべきか。


次の瞬間、魔女の影が大地に走った。

蛇の胴体が円を描くように地表を抉り、巨大な口を模した穴が開いた。

そこから吐き出されたのは、岩と炎が混じった奔流まるで灼熱なる溶岩。


「来いッ!」

叫ぶと同時、ガルシドュースは体を限界までそらせた。

胸を反らし、頭を下げ、両腕をさらに突き出す。姿勢をより真っ直ぐに絞り上げることで、飛行は一段と鋭さを増した。


灼熱の奔流が彼を包み込む――しかし彼の速度はその熱を受け止めるよりも早く、裂いて通過していく。

背後で轟々と燃え上がる炎や影を引き裂きながら、彼は灼けた空間の中を一直線に駆け抜けた。


その進路はすでに乱舞する大地の障害物と、炎と、無数の石弾で埋め尽くされている。

だが、彼は止まらない。

顔を歪め、牙をむき出す。



 背後には、裂かれた大地と、砕けた岩塊と、炎の残光が、一本の道として残されていた。


塔の内部はもはや「建造物」ではなかった。

魔女が大地と塔を融合させてからというもの、その空間は呼吸するように脈打ち、意思を持つかのように形を変える。

ガルシドュースが直線に飛ぶごとに、壁は歪んでせり上がり、床は砕けて裏返り、天井は液体のように垂れ落ちる。

もはや塔という閉鎖空間は、魔女の体内そのものと化していた。


「っ、息が……!」

セオリクが叫ぶ。

一瞬で周囲の空気が抜け落ち、肺が裏返るような圧迫が襲った。

人間の域を完全に超越したわけではないセオリクはすでに皮膚が裂けるように、顔や体の血管が少しずつ爆ぜて、血を吹き出していた。

塔そのものが呼吸をするように、蠢き、大気を集めては彼らを真空の渦へと吸い込んでいくように誘う。。

しかもただの真空ではない。そこに異能の嵐が乗る。


――氷が、風と共に無音で滑る。

――雷なるものが、圧力差を利用して直撃の軌道を強制する。

――炎の弾が、空気のない空間でなお燃え盛り、どれも絶え間なくに降り注がれる。


「があああああ!」

ガルシドュースは両腕を突き出す姿勢をさらに固めた。

真空が肉体を削ぎ、皮膚を裂き、血液を沸騰させようとも、直進を崩さない。

その姿はまさに、矢のように研ぎ澄まされた鋼鉄の杭。


(止まったら死ぬぅ!)


轟音すら失われ、無音の世界の中で直進する彼の肉体だけが、空間そのものを震わせて音を生む。


故に。


故に。


魔女からすればとても見つけやすくある存在だ。

(まさかそこまで気づいて!?)


 ガルシドュースが思うや否や、何を考えようが環境の異変は止まらない。

壁がねじれて迷宮のように絡み合い、まるで塔そのものが巨大で醜悪なる存在となって牙を突き出した。

床が裂けて重力が逆巻き、直進するはずの軌道が下へと吸い込まれるように歪められる。

直進しかできぬガルシドュースにとって、それは最大の死地。


「ぐっ……!セオリク!」

「神器よ……ッ!ガルシドュース!耐えろ、もう一段階速度を――!」


 セオリクが体、すなわち神器の力で迸る光が、再びガルシドュースが軌道を包む。

真空の裂け目に吸い込まれる軌道を、強制的に戻す。まるで別次元への直線に引き戻すようなものだ。

結果、ガルシドュースは塔の内部構造そのものを貫き、壁の迷宮にただ一本の白線を残し、それも引き裂き抜けた。


だが魔女はすぐさま応じる。

塔全体が裏返り、いや、まるで曲ったか?

(隆起?!何か上に?どういうことだ!)

殻の王の力である。

「ッッ時間!!」

上下が反転した瞬間、彼らの進行方向は突然「地面へ激突」する角度に変化した。

合わせて異能が放たれている。

氷が壁のようにせり上がり、雷槍が無数に並び、炎流が川のように迸る。


 時間操作による空間の捻じれと異能の乱舞。

逃げ場など存在しない。


ガルシドュース自身を操れなくともあたりを操作すればいくら凄まじすぎる軌道や速度でも何も意味はない。


「ぬぅぅおおおおおおおッッ!」


轟ッ破。


空間ごと弾け飛び、真空と重力がねじれ合って崩壊していく。

その裂け目に巻き込まれた障害物は、炎も氷も雷も関係なく、すべて細切れにされて飲み込まれていった。


 罠だ。

何度もも同じ技をかけてくるなんて。

何度も効かない技なんて

(きっと、何度も効かない技をかけるのはきっと罠だ。)

直感で感じるももはや手遅れ。


魔女だった存在がが光景を見下ろし、醜く笑った。

口が顔の横まで裂けるほどの、そして鋭い牙が見える。

「デレ……アルダシグル=タルゴス・ウガリダウ・ミカ・ニリマ・サルナグ=マカエル=ラ(ならば……塔そのものを、棺に変えてやろう)」


周りがが閉じ始める。

 

 ガルシドュースが突き破ってきたものは彼が命を奪う決め手になるか。

彼は魔女が狙う最適な路線にいるだろうか。


(これが俺の最適路線だっ!そうしてやる!)


飛ぶ速度が遅くなる。

違う、内側に動いているのか、ガルシドュースから煙のようなもの、見るとそれは細い粒状のもので、粒子と呼ぶべき形だろうか。

彼の体から湧き出るそれはまるで今までに飛行の時に使った、自身を押し出す衝撃、手足を伸ばして戻すことで生み出す動力を自分自身に押し込んでいるかのように、どれもどんどんと湧き出ていく。


まるで内部が置き換えているかのように、別の領域にでも達したかのように、彼は一瞬だけ、周囲の圧を無視できる。そう瞬間的。

 

 掌を叩く。

 ――掌を叩いた瞬間。


 轟きは炸裂ではなく、反転。

 押し出されるべき衝撃がすべて逆流し、ガルシドュースの肉体の内側へと叩き込まれた。


 細かい粒子は煙ではなかった。

 あれは“加速の残骸”――これまで直線飛行で世界を裂き続けてきた衝撃の破片。

 そのすべてを、ガルシドュースは自分自身へと吸収し直した。


 「――おはじきッ!」


 真空は弾かれた。

 周囲に散った粒子が同時に炸裂、無数の反射面のように働き、ガルシドュースの肉体を一点に収束させる。

 世界を引き裂くものだと思わせるほどの線を残す彼が威力。それを内側へ丸め込み、叩くことをして、外に放つ。


 視界が歪む。

いや、あたりが歪んでいると言うべきだ。

彼が手を叩いた場所から、歪んでいる。

 それは回避ではない。

 直線の反転。

 暴力的な加速を自ら弾き返した。


 次の瞬間、塔という魔女の肉体は大きく口を開いた。

 閉じる棺に吸い込まれるはずの彼の反転の一撃で全ての威力が逆流し、閉じる壁そのものを粉砕した。


 爆裂。

 押し潰されるはずの空間が逆に吹き飛ばされ、塔の内部が一気に裏返って外界へと曝け出す。


 「ダルグ…!(吠える...!)」

 魔女の声が地鳴りのように響く。


 黒い粒子はなお溢れ続ける。濃厚な煙幕へと。

その粒子はガルシドュースが放つ強い一撃の衝撃を増強させるようなものだった。

長い衝撃波が続く。

魔女の声とぶつかり合う。



塔が散る!

「しゃあっ!もっと時間かかると思ったのに!歓喜!!」

急に人が変わったように、喜ぶガルシドュース。

先ほどまで険悪な顔であったにも関わらず、心から喜んでいるようだ。


 だが手の動きは止まらない。


なぜならば、証拠に。


 砕け散った塔の内側で、なお崩れきらぬ壁が波打って迫る。

 棺はまだ閉じようとしている。


 そのとき━━背後から声が飛んだ。


 「――ガルシドュース!」


 セオリクだった。

 神器を握りしめながら、彼は拾った石をただ一つ、全力で投げつけた。


 小さすぎる。脆すぎる。

 巨人のような、巨大すぎる魔女の攻撃を貫けるものではない。


 だが、ガルシドュースの周囲にはなお黒い煙が渦巻いていた。

 


 「━━受けるぞッ!」


 彼は掌を開き、投げられた石を粒子の奔流で受け止めるように粒子吸い込み、弾く!

 煙幕が石を覆い、いいや、ぶつかったと言うべきだ、どれも正確かつ最短な道へと。反射面のように折り畳まれていく。


 石の移動はそうして煙が積み重なり、圧縮され、ただ一点に収束した。

 小石と融合して矢となり、杭となり、破城槌へと変じる。


 「ッらああああああああッ!!!」


 次の瞬間、爆発。

 「おはじき!」

ガルシドュースの力がセオリクの力の媒介として炸裂し、衝撃が魔女の反撃を跳ね返した。


 塔の壁が裂ける。

 無数の神術が弾かれ、外へと裏返しに吹き飛ぶ。

 内部に満ちていた闇がついに消える。

「光が見える!もうワクワクして落ち着かない!」


「これで死んでもいい、力で何かができればいい、死ぬつもりはないが、死に方は選ぶ。だからくたばれ!長くよりも一瞬で死ぬ方が相当にたのしい!ヒャッハー!」


ガルシドュースの狂喜の宣言と共に魔女は何かが体を内から切り裂いたように避け出す!


 全てが弾け飛び、空間はひとつの光に飲み込まれる。


 ガルシドュースは息を吐いた。

口からは今まで一番濃厚な煙が出た。

光と煙に包まれる。

正確には灰に近いものに変わっていった。



(懐かしい。)

 空気は乾燥している。


(久々の地上だ。)


静かだった。あまりにも。


 風が止んだわけではない。灰も舞っている。


(...灰...俺からか...)


「....ガルシ....ドぅ」


 「セオリク...そうか、勝ったのか。」


「...そうか....勝ったんだ!よっしゃー!久々にこう伸びて、顔潰れてたりもしていない!」


轟く音。

それはガルシドュースの歓喜。


「━━━□□□」

歓喜...なのだろうか。


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