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青灰の地より  作者: 不病真人
第1章 龍と男に焔
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第二十話 大群

 あたりは明るく、燃えていた。

爆ぜる火花は周囲を照らしながら何かの血飛沫を蒸発させた━━━━

そのあと、洞窟内はしばらく轟音に包まれる、やがては静寂があたりに充満する。


 見える人影はゆっくりと立ち上がり、手に持つ武器を下げる

近くで見るとガルシドュースが裁断榴の砲身を下げていた。

それは、

 

 息が荒く、視界がゆがんでいるか目を見開かせていた。

 嫌な汗を滲ませている。

 脳の裏側に鈍い痛みがジンジンと伝わってくる。。


 使いすぎだった、神術を。


少し息を整えて見渡す。

 周囲には、焦げた肉の破片らしきものと、燃えかけた骨だけが散らばっている。

 かつて人だったかもしれない異形の群れ。あれのほとんどは、すでにバラバラになって燃えていた。


 「……何体いた?」


 問いかけに答える者はいない。終わりを確認できないのは不安だが疲れた。

 そうしてリドゥは洞窟内の壁に背を預けては、臨時の改造で威力が計り知れなく大きく、凶暴な弾薬な裁断榴の反動に苦しんでいる。

彼は少し腫れた腕を押さえてうずくまる。

 

そうも知らずに、アスフィンゼはまだ眠ったまま。だが、眉間がわずかに動いた。

 ようやく、意識が戻りつつあるのかもしれない。

俺もああしていたいと思うガルシドュースであった。


 そんなガルシドュースは焼けて炭化しては、灰になる死体の破片を踏み越えてきた。

わたる道先において、場所によっては灰が彼の膝下まで堆積するほどで、そうやって多くのを裁断榴で撃ち殺していた。また地面などは熱で部分的にガラス化している、裁断榴単体ではおそらく無理であると、リドゥが撃った時を思い出す。

(あの時は普通の弾薬か。)



 「ガル……シドュース…………」


 かすれた声。リドゥが、恐る恐る口を開いた。


 「……さっきから、足音がしてます……。でも、違うんです……」


 「は?」


 「その音……、複数人分の足音が、人の形のあれのが、こう同時に重なってるんです。全部、同じ速度で……」


 ぞくり、とした寒気が背を走る。


 いくら訓練を積んでも、多少は歩調がずれる。

少なくともさっきいた町の守衛を見たりしてればわかる。

 だが、同じリズム、同じ間隔、同じ踏み音とすると、それならばもはや練度の高い集団ではなく、一人に意識を共有しているのではないかと疑う。

童話ぽく聞こえるが、リドゥは龍するも空想上の話と言っていたから、意識を共有するのもあるかもしれない。そうだろ。



 そして、洞窟の奥から、また音が響いた。


 ズ……ズ……ズ……ズ……グ


 何かが這っている。


 頭上を、天井を


(もうやりたくない。)

嫌な気分で火の揺らぎが乱れる。

 ガルシドュースはそれを目で捉え、集中しようとする


 「来るか……!」


 灰を巻き上げ、空気が一瞬沈んだ。


 ガルシドュースは地面を蹴り、空中で回転しては気流が少し起き、炎勢いでかなり速い速度で回転をして左の壁に足を当てては、壁を滑るように片足で走り、同時に火をつけて滑らせた。


 次に体を捻り、足を折り畳んでは普通の人ではあり得ない体制のまま跳躍して向かい側の右にも着地して火をつけた、それを何度も繰り返して火をつけていく。蛇のような火の軌跡を描いた。

 

火をつけた両壁はその軌跡沿って熱圧が走り、細く蛇のような火の線が伸びる。

できた気流のわずかな変化に目を配る、その目的は位置の探知。

 最後にそれらは中央で交差され、閃光を一点に集中。


 パアン━ッ!


 音と共に火の蛇の先が炸裂。灰が跳ね、洞内に潜んでいた一体があぶり出された。


 それは、ボロボロの服装らしき布切れがいくつか体についてあった。


「!?ほ、どういうことですか?!法務部!?」

驚くリドゥ。

そも横でガルシドュースは平静としている、彼はほうぶ?なんてのは知らないし、よくわからないからだ。


 故に冷静なままに動く、火弾を再形成する。

 今度は灰と石だけでなく、先ほどの敵の断片も混ぜる。

 敵が燃えるかどうかで、攻撃の仕方が変わる


 ゴッ―!!


 放たれた火弾が、奥へと突き刺さる。

しかし、炸裂する寸前で空間が沈黙した。


 音が消えた。


 風も止まった。


 炎だけが、その先で静かに揺れていた。


 「……?」


 “それ”は、こちらを見ていた。


 目はない。

 顔もない。

 だが、見られているという確信だけがある、それは皮膚の裏からの嫌な感覚で伝わってくる。


 (なんだこの……!)


 視界の端で、リドゥが小刻みに震えていた。

 アスフィンゼがわずかに体を起こそうとしていた。


 ガルシドュースは、再び掌を燃やし、地面の灰を左右に裂いた。


 散った灰が、巻き上がる。


 「よくわからんが、死ねぇい!」

ガルシドュースはその飛び散る灰を自分の方に手繰り寄せるように、妙な動きで手を動かしながら一定の拍子で呼吸をしていた。

 

そしてその足元から体にかけて目に見えるほどに蒸気が上がる。

彼が体に纏う火は彼の呼吸と共鳴して、まるで生き物かのように揺らめく。


 そして、闇の中から

 いよいよ、“それ”が近づく!


だがガルシドュースにはどうでも良かった。

なぜならば

(ここで殺せば、どうでもいい!)

 そのとき——天井から低い轟音。


 「ズッ……ズ……ズ……!」


 何かが、六つの方向から同時に動き出す音。


 「六つ……」リドゥが震え声でつぶやいた。「掘り当てた……穴が……」

 そう、落ちた時、六つの通路どれも塞がっているものではなく、何かに繋がっていた。

水気を含むやつに、空気のやつ。それをガルシドュースたち一行は見えていた。気絶しているアスフィンゼを除いては全部それが見えた。

ならば繋がっていたとしてもおかしくはない。


それが本当ならば今聴く音はおそらく...


包囲されていることになる。


どぉーん


大きな爆音と共に杭が洞窟の上に突き刺さり、そしてそれを突き破る。

突き破った穴の奥で杭はさらに爆発する。


(よくわからんが、恐ろしい!だからしねぇ!)


 穴が崩れていく。

(え!?)解体人が考えもしない一撃で洞窟が崩れ落ちる、その事に驚きを隠せない彼であった。

(しま!?)

「逃げろ!リドゥ!立て!」

そう聞いたリドゥはアスフィンゼを抱えて立ち上がらせようとする。


 一方で反対側から猛速で近づくガルシドュース、それはリドゥがアスフィンゼを起こす前に彼の位置に着く。そして二人を抱えて高く跳躍した。

 だが水が降り注いてきて流されてしまう。


「ああ!?ぶぅぶぅぶくぶぅ。」

(敵って思ってたけど、水!?それ!?音!!!?)


 しかしだいたいの人影はガルシドュースらみたく、水に流されては身動きも取れずに濁流に飲み込まれる。それをガルシドュースは見た。

だから今のところ心配するものはないと、そう、ガルシドュースは少し安心した。


ただ一体のみ、目のないもの、ほかに比べて異質な見た目の“それ”は近いてくる。泳ぐ素振りを見せて、自分から猛速でまだ足元にも来ていない水に向かって飛び込む。


(なっ、しまった!)


 ガルシドュースは裁断榴を手に取り反撃しようとするが、水の動きのせいでうまく狙いが定まらず外れる。

そして“それ”はドンドンと近づいてくる、徐々に速度を上げながら距離を詰めていく。


(くそ、どう...あ?)


近いてくる “それ”は死体のように白く異様に浮腫んでいた姿をしていた。

そして滑り気があって、水の中でも湿っているように見える。そう、どこか、湖の底に沈んだ死体のように。


(黒い湖!そうか、地形が確かに丘だ。だが違う!)

このことを今に二人が考えた。考えている、それはガルシドュースとリドゥであった。


 リドゥは思う。

生と死の対決、その本当の意味はおそらく地形変動であった。地図の老朽化を見てもそれは童話が伝わる時期から遥か遠く、童話の後に書かれていた、そんな地図のはず。

なぜこれが生と死の対立になるのか。

もう少しでわかりそうだが

(息がもうもたな...)


「おい!寝るな!」


それはガルシドュースだった。


あたりを見渡すと地面があり、水もない。

ガルシドュースが穴が繋がっていることを思い出して、ほかに空気ある場所に逃げていたのだ。

「もう時間はない、水が迫ってくる、水中じゃあ“あれ”が有利だ。」


「わかるだろ、秘密。」

ガルシドュースはリドゥに問いかけた。


リドゥは答えずに瞼を瞑った。

頭の中に集中して。

あることを思い出していた。


それは石碑。


  陽は巡れど 鷹は来ず

  胎裂けて “読み取れない文字”

  風は消え 火は濁り

  水は腐り 骨は戻らず

  声は響かず “読み取れない文字”

(読み取れない部分は....わからない、だが。)


 「……この地は...変動……地形が、変わったのです……外からでは見えない……何か、誰かが蓋をしたように。」


 「風雨による侵食でできるんですよ丘は!」


「落ち着け!?」

「普通は岩とか泥が積まれるんです!」


「ああわかった。」ガルシドュースはリドゥの反応に少し引いていた。危機的な状況であるが。

「....空洞は岩が溶けたり、大きな隙間が生じないと無理です....」

「つまり相対しています...溶岩で溶けるって聞いたのです...母君から...地の変動、うううぅ」

蹲るリドゥ。

その背中をガルシドュースは撫でながらに話しかけた。

「おい、いいか?ここまでわかったのはお前のおかげなんだ、お前はよくやった。だからもう少し頑張ってくれないか?」


「ガルシドュース、それ、慰めてるつもりですか?全然できてませんよ。」

しかしリドゥの口角は少し上がっていた。

安心するからだ、こうした状況でも慰めてくれるほど落ち着いているガルシドュース。彼を見てそう思った。


リドゥは言う

 「雨風は水と風にあたり、溶岩は火、そして地割れは土にあたります。」


 「この地の変動は……循環を壊すための構造です……」


「四大元素があるならば循環するのでは?」

「いえ、丘に空洞はできないって言いましたよね?つまり循環してはならない部分を循環させてしまって、“外”との循環が断ち切ろうとしたはずなんですか。」

「だから人が蘇るのか?」

「いえ、そうではあります...しかしまだあります。」


 リドゥはさらに続ける。石碑の文の次を読む、さらに謎を明かしていく。


 


 生の手 伸ばせど 返らず

 死の眼 閉じねば 沈まず

 鴉の翼 に隠れず 影を消す

 その名を問う者 老いて朽ち

 その名を知る者 地より這う


 「小生らが見た石碑はおそらく墓標をモチーフにした呪物的なものです。それはおそらく、ガルシドュース、あなたに似た能力...」


「神術だ。」

「それで...そうれで、ケホ作ったもので...環境は変わりました。


「少し脱線したかのように次は言いますが...ケホ...うっ家族が見えなくなった人間たちは、」


「見えなくなった?なんで?」


「水を見ましたよね?」

「そうだけど?」

「あれは流れるじゃないですか。」


ああそうかと言わんばかりの表情をしてガルシドュースは頷きを繰り返した。

(ああ、流れて死体の場所がわからなくなるんだ。穏やかな湖と違って。へぇ〜)


「話を戻します、ケホ。ここはさっき言った通りに“外”と切り離されて異世界のようになってしまったんでしょう。

  その上、拝みに来た生者たちは家族の..その名残りすらも感じ取れずに、そう死んだ者への思念は積み重なっていきます、そうしいぇ、うっ、ケホケホ、生きた者の心を引きずり込むんです。」


 


 「……あの……穴の中にいた“それ”は……ただの亡者では……ない……死んだものは蘇らないんです。」


 そう、蘇りではない。人間は蘇らないはずだ。

 ならばあれは生きしものが、死者の形をなぞって地に手を伸ばして、死者の死後を想像して変化した産物でありはず。

家族を思う人々のなれ果てで、それは地に沈んでは。やがて地より這い出た生きる屍のような存在になった。


(そうリドゥは言っているがいくつか違う気もするな。何人か離れたばかりの町の服装だし、あそこは普通に町外れの土地に墓地あったぞ。こんなところに来るのか?それにあそこから一日はかかるぞ、俺の脚力でも。)


「嗚呼なんて事...」


(そういえば....リドゥの思う循環の打破ほどのすごいものではなく、環境そのものを暗示や催眠に使うために変化した?じゃないのか?もしかして)


「ガルシドュース!我らに導きを!」


「なんだそれ。」

 


 

 「……これは、止めなければなりません……繰り返してはいけません。

この地の力を、断ち切らなければ……!」

リドゥは弱った青白い顔をしていた。

それにもかかわらずその言葉は力強く、大きな声で話していた。

 


 「……誰かが、こんな土地を作ったってなんて。

 死なせて、生かせて、また縛って……

 そういう循環を、誰かが意図して。いや、“願って”造ったなんて!命を!」


 その時だった。

 ひとつ音がした。


 ズ……ズ……ズ……


 再び来る。正体が少し明白とした奴らがくる


 死して沈まぬ生きる屍たちが。

そうガルシドュースは思った。

 


 ガルシドュースはリドゥの身体を背負い、アスフィンゼを抱え、灰を巻き上げながら地面を蹴った。


 「だったらよ……」

 「ここで解体してやるよ。」


「え?」


「死んだ龍ですら解体すれば、腹の中で動かないから。こいつらもそうだろ。」

 生と死の対立が均衡を失ったこの偽物の丘陵にて。

男がひとり。

「火が怖かっただろ、こいつら。つまりさぁ!俺たちで元素を足せば壊せるんじゃないか?」


 「この循環とかいう!」


どーん!


 激しい揺れを感じた。


だがこんな事で行軍を遅めるわけにはいかない、少しでもだ。


(...?!なぜならば!デミアン閣下に殺せされるからだ!!!!)


「おい!貴様ら何を動揺している!それでも帝国法務部か!なっとらん!」


「ぜぇんーいんん!軍歌を歌え!このムハノ・マイブン法佐警が命ずる!」


「はっ閣下!」


「ええぇい!歌えよ!そう言っている!返事などどうでもいい!」


「はっ閣下!」


「貴様らコケにしているのか!?私を!?」


「いいえ閣下!」

「歌わんか!全員処刑するぞ!貴様!」


「はっ閣下」


 少し時間を経て合唱の声が聞こえる。

大人数で出されたそれはあたりの鳥獣が逃げるほどの響きであった。


「そうだ!それでいい歌え!」


ガルド ニリマ バルシオ シグライ

(私の命は従軍にある)

ムハノは剣を抜き、空に掲げた。


「軍歌だ、歌えぇ!!それに歩調を合わせろぉ!いつもみたく!」

バリブル ニリマ シュガルダ ヌアギル

(お前の剣に火を灯せ)


ドリアダ ニリマ フィラムス ケルトア

(それは我らの誇りそのものだ)


アルダシグル ニリマ ヒリザルン オルダシウス

(我が名は 不滅の王なり)


「隊列を乱すな!」

ドリ ガ オス

(まさに そいつだ)


ンガルマオス

(覚悟しろ)

「進め!」この言葉と共に剣を振るムハノ。


シュガルダ ニリマ ザグルメン ビルカト

(剣の響きが 夜を裂く)


土砂が舞い始めては、槍のように突き刺さる軍靴の音が増えていく。


バルシオ ニリマ ギュランド トラエズ

(命の炎が 闇を追い払う)


「進め!」さらに剣を振るムハノ


ガルド バリブル ドリ ドリアダウン

(俺も お前も そいつも それも)


ウラダシ ラゴス ニルフェ ザルン

(滅びを超え ゆけ 暗き太陽の下へ)


「我ら帝国が精鋭!高貴なる言葉たるヒュードルザ語すふぁ」


「なんて言ってるけど……あれ煩くないか?」

小さな声で口を仲間に漏らしている兵士であった。

彼は途中からムハノの言葉を無視して、上の空になっていた。

「...そうだな、デミアン閣下の真似かわからないが確か煩いな。閣下ほどの激励にもなっていないし、本当に問題ないのかな...」


「閣下でしたらきっと揺れの方を優先したでしょうに...やはり...」


 「おいそこ!言葉を慎め!私語など!私の前では許さん!」


「そんなこと説明せずともわかれ!バババッバーン!」


 やがて私語も消えてなくなり、あるのはただ一切の違いもない、完璧に揃われた軍歌の響きと足音だけで、それがこの地を揺らすようになる。


それは自画自賛でもない。


彼らの行軍を見たものは皆がこう口を揃えて言うからだ。


 「遠くから見れば、あれはもはや一つの生き物に見える。」

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