第十七話 星と地下
ここは丘の地形というべきなのか。
緩やかな起伏に覆われ、周辺には枯れた芝がまばらに生えている。
足元の地面も柔らかく、少し沈み込む、砂礫と泥のような土壌をしていた。
歩くたびにそれはガルシドュースの体重に従っては足跡を刻んでいく。
ガルシドュースは、視線をその沈む足元下ろしながらこう呟いた。
「仮に丘が丘であればそれだが…もし。」
「━━丘が外見を指すものではないとすればどうだ?」
胸中にざわつくものがあった。
視覚に映っているものだけが真実なのか。
そうリドゥが言っていた。
足元の柔らかさも、緩やかな起伏も、陽の差す角度も、見た目は丘だ。
しかし何度も丘について考えていると、丘がなんなのか困ってくる
果たして丘には丘が丘であるというその確証になるものか。
ガルシドュースはしゃがみ込み、地にそっと手の平を当てた。
指先に伝わってくる振動。
近くに大きな生き物の音はしない、そういった足音はしない。
となれば空洞の可能性が高い。
地形は確かに丘の形をしていた。
だが空からの視覚を思い出すとそうでもない気がしてくる。
鷹は空から狩りをする。
その相手は?
「地に穴を掘る兎。」
ドン!
ガルシドュースは拳を地に当てては何度も土を殴り飛ばした。
砂塵が飛び散っていく
「うっ、いきなりどうしました!?わからないからといってそのように怒る必要もないですから!ガルシドュース!」
砂塵に覆われているガルシドュースの視野の中には、雑に掘削された坑道が広がり、地下に広がる空間だった。
(地上にある丘と地中に広がっている空洞…。)
そうやって空洞をのぞいていると空から振りかかる光と地下の暗さの差異で目がぐらつく。
(確かに明暗は対立している。)
それはなんでだろうか、きっと生と死とやらのリドゥが言ってたことを思い出したからだ。
記憶は曖昧で生きること20年は超えているとするが、死ぬことは暗いことだと思っている。
しかし地面に穴を開ける行為を果たして鷹はするのか?狐ではないか。と体を傾げながら、空洞に耳を向けては、微かな響きを聴く。
反響していく。
風の音
地上の草葉の揺らめく音。
虫のざわつき。
そして静かさからくる自分自身の血液の流れ。
響く振動を感じた。
今の所は特に罠かも何もない空洞であるという確信だけは得た。
空洞から身を引いては話しかける。
「おいリドゥ、ここは丘でいいと思うか。」
上層部の地形など。それはきっと真実にあらず、地中に隠された真実を暈かす為に他ならない。
ガルシドュースの胸中に、自身の推理が整理された。
地上にあって丘と認識していたものこそ、地下に広がっている空洞の上に形成された、虚構であったという結論に。
「埋葬地って言ってたもんな。」
「いえ、鳥葬というものもありまして、必ず土に帰るのが人にとってひとつではありませんが、確かに空洞は怪しいですね。」
実に変な気分だった、謎はおそらくも、大まかなりにわかって、あとかなりの謎が秘められていると思う。
しかしこうも簡単に初歩らしきものが、簡単で初歩的な謎なのか?
これだと誰でも解けそうだが。
「ん?....今のは水音?」
黒い湖という言葉が少し時間を経て頭に浮かぶ。
しかし空洞の中はあまりにも暗すぎて、枝分かれしているかどうかすらもわからない。
石を投げても無意味なのは明白だろうし、かといって俺が降りても足を折らしてみてもしたら全滅だ。
縄でやっても途中で切れたらどうしようもない。
今にやれそうなものと言えば石碑を見ること...でもないな。
(あれを研究したリドゥは急激に老人みたいに化ししては、今もあまり回復してないと見える、謎の鍵か囮かそのどちらでも今はそう簡単に危険を冒せない。)
「ガルシドュース様、今、水の音と?!」
「あっ、ガルシドュースでいいって..ん?そうだが。」
リドゥの呼び方を訂正しようとしたが、顔を見てはやめた。
「やはりそうでしたか、そうでした、こうも似ているとわかります、本は三点に別れてしましたが、そうではないのでした。導きと帰路の関係だって言葉から結ぼうとすればできるのではないですか!」
「またそれか、どうして俺の周りはこうも話が。」
「なんてことでしょうか、嗚呼、なんてことでしょうか。」
「お前を悪く言うつもりじゃないぞ、仲間と俺は思っている。」
「違うんですよ、これは、これは、」
「落ち着いて話してくれ。」
俺はこんな風に何度も宥めては、リドゥを呼びかけた。それを聞いてかリドゥはコクコクと頷いては、少しずつ落ち着いてきた。
そうして俺はリドゥと話をした。
「それはですね、童話は一つ、と書いては次に一つとしてまるで区切りがあるように見えました。
しかし事実はどうでしょうか、現実で近い場所では通常関係ができるんですよ。
少なくとも地図においては、田んぼの近くに水辺があるはずなんです。」
「ごめん、田んぼが何かあまり、というより、それは知らない、黒麦というものが生えてくる場所か?」
「そうです、それは正解ですね。しかし小生が言いたいのは水無くしては作物は生えず、これは全ての植物にも通じます、その裏にもっと明瞭なことがあります。どの土地においても、その周りにあるものは何かしらそれと関連があるんです。」
リドゥはそう言っては草を抜いてはガルシドュースに見せてきた。
それには水が葉の上にある。
「水無くしては葉もなし、童話や小生が地図から導き出した導きや帰路にとってもそうです、関係、関連、何かしら脳内だけで無く、現実でも繋がりはあります。」
本ではないが、地図とかであればそれは確かに読み違いはある、ましてリドゥという男は学者と自称してもなければ、吟遊詩人である。博識とは広いこそ知っていても、そう深くはないことだってあるはずだった。
「それはですね。」
吟遊詩人の彼はまだ興奮しているようだがもう大体わかったため、ガルシドュースこと我らが解体人はその音を無視しながら考えた。
情報を参考にしながら違いを見つけるのは、もしかしたら“情報そのもの”の違いではなく、情報同士の行き違いを読むことかもしれない。簡単に見えては気づかないものもあるということから。足元を見ては、風で吹く草の向きなどを改めて見直した。
(共通の部分と、違いを見ればきっと見つかるはずだ。)
丘など結びついた場所のほかにも、童話と地図の共通点は存在する、灯台塔なんてものも、その外見は一瞬だけでは同じに見えるからだ。
だとすると、三点の中には共通がある、これを地下に降りる手立て...
「そうか、鴉をお前は言っていたなリドゥ。」
「そうですが、あの腐る死体を喰らう不吉な鳥、それは死を。」
「腐るってことは何か気があるんだよ、それが空気を濁す。解体の仕事で知っている。地下が行き止まりかどうか、空気を測ればわかるが、火なんてものを灯して爆発したらまずいからな。あの灰の大地でよくわかったことだ。」
「....以前に聞いたことがあります、草葉は嫌な気とかを知れるなんて力があります、草葉はそこに生えてきます。
特に水が強いところの気をよく知ってはそこに生えます。
それを水気、水と気なんて呼ばれて、それである時に人は草を見てそう地下水脈を調べるなんてこともあるんです。」
そう言われたので二人は熱い日射のもと草毟りをしては水がよく出る葉を探していた。
安心するために葉を日に当てては水が出るのを確信して、そこに悪い気があると思った。
そして穴を掘っては、空洞を見つけるまで繰り返していた。
最後に空洞に草を当てては経過で変色することを見た。
それで得た経験は、その知識は草は確かに空気がいるがあまり嫌なやつが多いと無理だよいうことであった。少し目眩がする程度のものならそこに行ける。
「これでしたらきっと地図に示した黒い湖と関係はあります、死んだ者は確かに気体を出すと思いますが、ここまでではありません、何回も葬式で歌ったのでわかります、それに臭いがしたところによっては昔行ったことのある火山の臭いがするんです。そこで葬式なんてできないと思います。」
そうして二人はヒントの一つである黒い湖と関係あるものを目的として、穴掘りを進めた。
結果として見つけた穴は六つであって、近い穴もあれば、繋がっていたものも存在していた。
先のわからないものもあるが、どれも似た臭いをしていた。近いものでも半日はする、日も沈み始めたため、ここで少し休むとした。
「問題はどれをどう降りるかだ。」
「私は、燃えながら降りればいいと思うよ、杭とかで飛べるんだから。」
「いや、それは無理だ、なぜかあの六つの穴たちは燃えにくい、灰をしばらく喰らってもいないなら、途中で止まる...かもしれない。それは恐ろしいな。」
アスフィンゼの言葉に答えるガルシドュースであった。彼はしっかりと彼に燃える火は彼が舌にのせ、肺にいれ、胃に詰めてきた灰で燃えることを覚えていた。
薪の音を聞きながら三人はこれからのことを話した。今日は何も進んでいない、少なくともこの地からは、まるで何も変わらなかった、当初の灰の地のようだ。しかし違いはある、草があれば、風も吹く、灰が邪魔をしないからだろう。
思いに深けながらも赤い火の粉が宙に舞う。
ガルシドュースはこれで灰の動きを思い出す。
(この地もそうなるのだろうか。)
ほかの二人も似たような思い詰めていた。考えは違う。しかし考えこそ違えど三人は言葉少なに座っていた、次にふと誰かが空を見上げた。
「……星が、見えるな」
誰ともなくつぶやいたガルシドュースの声に、残りの二人も顔を上げる。夜の闇を背景に、無数の星が静かに瞬いている。
灰の大地はもちろん、森林は樹木で空は燃えず、街も屋内であれば見ることはなかなかなかった、初めて見たのも久々に見たのも、あまり見てないから、きれいだと思うガルシドュースもいた。
「こんなにあったのか、空の向こうには。」
「昔、母君が言っていました。星は死んだものの残光だって。遠くで燃え尽きた命が、今もまだ光っていますということを。」
「恐ろしいな。」
ガルシドュースは引き攣った顔をしていた。
それは至極に恐れている顔だった。
おそらくは死んだ後の世界を想像しては、そう燃やされる極刑があるかも、なんてものを想像しているだろうか。
「ぷ、くっ、クスクス、ははは」
それに気づいたかリドゥが笑う。
「ははは」
つられてアスフィンゼも笑った。
しばらくしてまた沈黙な静寂が戻ってきた。
その後三人はしばらく黙ったまま星を見つめていた。またもそれぞれの思いを胸に、何も言わずに。ただ、夜の冷たさと、火のぬくもりと、遥かな星の光だけが、未来への不安を流していたように、星空にかける銀の河に相応しい結果をゆっくりと運んでいった。
「流れるってことは水気が強い方がいいかもな、そう気体があれば、水流に乗ってどこかに出れるかもしれないし。」
ガルシドュースの独り言が静かなその場に響いて遠くまで伝わる。
そして三人は、また話をした
遠い星の下で、明日を思った。
夜が深くなっていく。
だが、その夜はもう、ただの闇ではなかった。
静寂な灰の大地とは異なる、もうひとつ外の世界の脈動に誘われ、命たちは静かに眠りにつく。




