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青灰の地より  作者: 不病真人
第一部 龍と男に焔 第二章 迷宮と魔女

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第十六話 老衰の嘘

 (「「リドゥ。協力してくれ。迷いや後悔もろとも、我が手で打ち砕き、この命題の果てに到達してみせよう。」)


(ああああ、我らが勇ましきガルシドュースよ。)


(こいつ、妙に上機嫌じゃないか…)


陽がまた少し上った。

宿屋の屋根に差す朝陽。

鷹の灯台の影もまた地上に揺れている。

ガルシドュースたちの影もまた、朝陽に従って長く伸びていく。


そんな中、ただ一人、胸にざわつく期待を抱えている者がいた。


他者が理解してくれないという、その胸のざわつきを紛らわすように、彼は魔女の童話から民謡に至るあれこれを口にしていく。解体人が「うるさい」と言っても、耳に入ってこない。

ゆえに解体人も反応を示そうとしなくなった。


(にしても暑いな。)

もうひとつ、無視する存在があった。

何もかも無視する登り行くもの、それは日。

その日もまた、確実に、そして着実に空へと上っていく。


同刻、陽が上っていくという時、光あるところまた影強まる。

大きな闇が近付く気配もまた、少しずつ濃くなってきてはいた。


ガルシドュースは真っ赤に照りつける陽の中に身を投げ込み、空へ跳ね上がる。

足元に影が降ろされた時、地上に足をつく。


「…闇というか、あれは大きな石碑じゃないか。こんなもの、遠くからじゃまるで気付かなかった。俺の10倍はある。」


 「....んんん小生でもこれは難しいなぁ。」

リドゥは激しく悩み散らかしていた。

主に首を捻る動きからわかる。

俺にあれだけ謎を言って回答もしてくれないあいつが。


「リドゥ一つ良いか。」

「ッはいなんでしょうか、ガルシドュース様。」


「ガルシドュースで良い、それとも俺はそこまで老けてるのか?」


「え....はい、ガルシドュ、さま。いえ、ガルシドュース、なんでしょうか。」


上の空のまま、石碑の文字に視線を向け続けるリドゥ。


「お前を疑って悪かった。…それだけ。」


「な…そ…」

そう聞いてリドゥは横目にガルシドュースを見る。

そんな姿勢をも遮る。

そんなリドゥの反応を遮るようにガルシドュースは近づいては話した。

「いいや、すまない。——近頃ろくにいい出会いもなく、苛立って当たってしまった。ごめん。」


 「はい?って。うわあああああ」



リドゥの話しが止まった、それもそのはず、ガルシドュースに突如投げ飛ばされたからだ。


「いっくら無視されたからってこんな!」

リドゥが初めて顔を顰めて言う。


「それ以上は考えるな、その手を見ろ、お前の手を。」


「え?これ...え皺?」


「魔女は老婆が多いと、痛いほどにお前の童話で分かった、なら、お前もそれを覚えておけ」


 時を戻して数刻、リドゥが妙な脳内劇場らしきものを膨らませている時、俺は考えていた。


何もわからないということを。


そして思った。

 (やはりよくわからない。)


(よくわからないなら、感覚を信じる。)


そして現在に至っても、俺は微かな確信からこいつに言うことしかない。


「どうもお前妙だな。」


俺の言葉に、リドゥは肩をビクリと振るわせた。


 「文字なんてものはなかったんだ。お前魔女にいつからそんな関心があったんだ。」


 「それはもちろん小さい頃...?な!?」

(あっ…なんで…10年以上興味もないものに、こんなに…。)



「気づいたか、お前、この町に入ってから何処かがおかしい。」


「明らかに仕込まれている。何かに。それも本当のことだ、歩いてきた途中に飛んで確認したがお前の言うように地形になっていた。」


「魔女というやつは本当の事だけでうまく嘘を言えるようだ。」


(このことに付け入る気はないが、やはりどうも何かが違った。)

そんな俺の考えは現実に変わっていく。


 いろいろと都合がよく、おかしい。


だが設計された脚本ならば全てに示しはつく。

どこからの設計なのか、どこまでかも不明。


だとすると確信できるものもない。


「だからお前を信じている、リドゥよ、だから俺にまたその謎を伝えてくれ」

正直無責任な言葉だ、逃げたい。

逃げようとも考えた。


だが逃げるのも信用できない、行動自体がダメなわけではなく、飛んだ時に見えた先には何もなくなったからだ。


 それに...リドゥが知ったら、恐ろしいから言えなかった。これもきっと逃げrれない事の証明の一つにはなる



 だから今はただ謎を解かなければならない、例えその規則が不完全で、信用できないとしてもだ。



「リドゥ、何か言ってくれ、俺は考えるのが苦手だ。」


「もう...無理です。」


「頼む!頼れるのはお前しかいない。」


 ここでアスフィンゼの目が覚めてくれれば、それもそうでもないが、俺の行動で体力が消耗されて起き上がってはくれない。


「だって…ガルシドュース、いつも吟遊詩人の戯言って笑うじゃないですか!」リドゥは頬を膨らませた。


「あなたに言われて初めて気づきました。」

リドゥが少し深呼吸をする。


「あるご婦人と話したこと、おそらく、もうその時に線引きはすでにされています。」


「つまり、今からやることは単なる謎解き以上となります。情報はすでに信用できないのです。」


 「信用できない情報を元に、正解を見つけると言うことだな。」


「えぇ、しかも相手は以前の獣などと違って、我々では正面からどうにもできません。」

言われて痛い言葉だが正解ではある。


 「見てください。」

三つの場所に直線を引く。

赤く交差して生まれた図案。

直角なる三角の形


 地面に広げた羊皮紙。

リドゥの指が、赤く結ばれていく聖域の線上を滑っていく。

“実な鷹”と“死の鴉”と“黒い湖”

「ここは三角の“実な鷹”と“死の鴉”が交差する点でありました。」


死と生の中間点のそれは、

「老衰。」


「えぇ。」


まさか 

 「命題の怪しい場を見つけて、この謎を解くのか!?」


疲れた身体に応えたのは優しく甘えさせてものではなかった。筋肉は重く、日を浴びて暖かいはずが、その心は芯までもが冷たかった。



「参考できるものはあります、ここは丘の地ですから。」

まずは。

「“丘の上の娘は、父の死を経験していないのに泣いている。”


次に。

「最北に位置する“鷹の灯台”

丘の上の娘と関係深く、山や丘などで丘陵地帯となっている。灯台はどこにあるか」


そして。

「“鷹の正体”自由なる鷹の正体とは何か。」




「信頼できるものをこの中から探さないといけません。」


 「仮に丘が丘であればそれだが...もし...」


「━━丘が外見でないのであればどうだ。」



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