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青灰の地より  作者: 不病真人
第1章 龍と男に焔
12/14

第十二話 水急不流月

月が街を照らす。

まるで夜のようだ。

静かで、冷たい月光――しかしそれは静寂を引き起こすのではなく、暴力の始まりだった。


ゴゴゴゴ……ッッ!


低く重たい振動と共に、街の地盤が軋みを上げる。

その中心には、青い髪の男、レウェイチョが立っていた。



街には月が空に掛かっていた、その月の光は異様なほど強く、異様なほどに近かった。



まるで、この月の光は、誰かに造られたようだ。

「来て。」


その言葉を皮切りにレウェイチョ背後に、さまざまな姿の人間がが現れる。

しかし姿こそ違えど、似ているとこは多々あった。

 どこか虚ろな目。

筋肉は血管の膨張により膨れ上がって、肥大化している。

月の光を浴びれば浴びるほど、異様なほどに膨張して行く筋肉。

まるで獣のような呻きをあげながら体を震わせていた。

その数、数百、いや、千を裕に超えるか。


レウェイチョが片手を掲げて月の方角へとかざすと、その者たちはいっせいに膝をついた。


「歴史上の人物だって呼べちゃうんだ。」


前に出るロン、中年の顔に怒りと困惑が混ざる。


「おいたんを誑かすんじゃねぇ、小僧ッ……!」


「禁衛は嘘つかないよ」




一人の男に対峙する軍勢


“古の軍勢”vs“黄金の男”


「でもほんとうに呼べちゃうんだよね。デミアンさんと話して知ったこの記憶。

 過去の記憶のおかげで呼べちゃうんだよね」


彼にそう言われて、タンは再び軍勢を見た。

そして次の瞬間、軍勢の外見が変わる――


急所を露出させている鎧を着た剣闘士、

全身を白銀の鎧で覆う長躯な騎士。

黒鉄の鉄仮面を被った審問官。


そしてなんと、その奥に佇むレウェイチョの姿までもが変化していた。

レウェイチョは青白い鎧をきた騎士となっていた。身につけた鎧には無数の亀裂があり、銀の彫刻がびっしり刻まれ。

兜の覗き穴には緑色の宝石の眼鏡で覆うわれている、その頭部にかけては小さな銀冠が掛かっていた。


「二世さんとの能力が合わさってね。

あっ、教えてあげるよ、僕の能力は暗示、人を思うがままの操れちゃうんだ。そして」


「おい待てなら、なんでぇそんなにはやく走れんだよぁ!」



「暗示って教えたでしょ?

話の続きね、二世さんは好きに人間を転送させられる。

だからこうして歴史上の存在すらも呼べちゃうんだって。それで、いろいろ。やっぱりこの街は、いいねぇ……」


「今はこうして遊んでるけど君のことだって、催眠して。それで二世さんに内臓を引きずり出させることだってできるんだよ?もう降参した方がいいよ。」


(本当は半分嘘、なんだか気が気じゃないけど、信じてくれればそれはできちゃうから。)


「メロオ=二世とあれほど」

「ごめん、それ言いにくい。」


月光を背景に、広場はすでに異質な場と化していた。異なる時代の存在が今蘇り、喧騒としている

その全てがレウェイチョという男によって、一人の男によるものであった。



「王の盾たる我らに、恐れるものなし!」

白銀の鎧が月光に照らされて、数百の喉が揃って吼える。

「陣形を崩すな――進軍!!」


続いてすぐさま


「信奉なき罪に名を、逆する刃に罰を――今こそ審きの時なり!」

鉄仮面の指が掲げられると、沈黙が爆発する。

「火を――放てッ!!」


そういったような様々な声が、怒号が軍勢から聞こえてくる


そんな軍勢が今より一人の男に嗾かる。


槍の名手、古代の剣士、飢餓の拳闘士、皮剥ぎの踊り手、それらが軍勢を成しては大地を揺らす。

 数十年も平和が続いたこの世の中、せいぜい山賊や小規模な戦争があった程度のこの世に、また、こうしてこの街に、遠い過去にあった戦乱の歴史が転写された如くに、街は混沌へと飲まれていく。



「ざっけやがって!」


剣と槍がタンに襲いかかる。

刃が重なり、空気が裂け、火花が飛ぶ。


だがロンは――一歩も退かない。


(ミダスウス)

(金剛顕拳)


蹴りを捻り、拳を巻き込み、拳→肘→肩→全身に回転力を通す。


剣が当たった瞬間、衝撃が逆流して戦士の腕が弾ける。

鎧の関節を逆の方角へと再構築


(ザナドゥルス)

(金断返衝)


タンの戦いは、拳だけじゃない。

全ての構造を“黄金の物理”を書き換える。

もっとも黄金のみだが。


「ただ極悪人催眠しンだろうが、くそがきども!!」


「何人かおれぁ知ってんぞ、おいブジィ!お前なんてカッコしてんだ。」

「ヒュー」

レウェイチョは、戦況を見ながら口笛を吹く。


「ふーん。タンおじさん、なんか頑張ってるね。

歴史の人物って言ったけど、復活させたって言ってないじゃん。

 でもね――そろそろ、もっと面白くさせるよ?」

  

「てめぇ!やっぱくそがきじゃねぇか、なんの言い訳にもなってねぇぞ!」


 ロンの言う通り

レウェイチョの兵団は、デミアンと言う存在が集めていた凶悪犯たち。


 起因はレウェイチョが彼らを憐れみ、少しでも長く生かすために。兵隊として再利用の提案をした。


当事者に知らせて、意見聴取して、同意すら求めた。


 


だがその軍勢は本物だ


  彼らは、もはや単なる囚人ではない。

タンの言う催眠なんてやわな物じゃない。

それはレウェイチョの神術によって、“歴史上の人物”として蘇らされている。


 実際、この戦士たちはただの囚人だったはず。

だが、レウェイチョの声と、月光に乗った暗示が囚人の意識を塗り替えた。


「君は、誇り高き騎士だった。君主の裏切りによって殺されたな。でも君の剣には意味がある」


「我が名は....」


「君は、栄光も掴めずに倒れた剣闘士だね。今こそ名誉の時だ」


「ううう...名誉がために!」



 言葉を繰り返しては、暗示を強めた。

それだけでいい。

身体が、筋肉が、身勝手に肉体を変化させる。

月光の暗示により記憶を捏造された人間は、恐ろしいほどまでに原典に近づき、変貌をして行く。

そして神術の加護によって、その原典すらも上回り、やがて神術にすら対抗し得る。


「鬱陶しい!」


バシ、ザシン、グチャあ!


だだ、いくら強化しても実力の差が大きすぎては無意味だ。

神術持ちとただの人間ではなおさらのことだ。


タンは――強すぎた。

紛い物の英雄が群れを成しても止められない。その男はそこまで強かった。


だからもうやるしかない。


レウェイチョは口角が少し下がり、そして俯いては、自身が作り出した月明かりの下、指を立てる。


 「だからさ使うんだよ、使えないコミどもを。」


背後の、ノノンが話した。手を光らせて兵士に近づく。


そして、レウェイチョは言った。


「行ってらっしゃい、みんな。」


「あまり気を負うな、これに進んで参加した死刑囚どもだ。何人も殺した殺意の強い殺人鬼しおらん。」

 月光が滲み、囚人たちの皮膚が燃えては筋肉が浮き出る。

元はただの囚人。しかし、レウェイチョの暗示で意識を書き換えられ、肉体強化された

今、その強化された体が砲弾として放たれようとする。


 続いて最後に、メロオ=二世の神術、これにより軌道を手動で修正させる。


一斉に、砲弾として囚人たちが空や大地を裂いた。

数千にも及ぶものが、仮初の都市全域に向かって超音速で墜落していく。

 タンを包囲するかのように、足場を壊し、逃げ道を断ち、空気を裂き、次から次へと無尽に降り注ぐ。


爆風の中、タンは地を蹴る。

鎧が裂け、皮膚が破れても、彼は前へ走った。


それを止めるようと、メロオ=二世砲弾たちを転送させては、レウェイチョがそこで最大の暗示をかける。


それにより肉体は限界を迎えて大爆発を引き起こす。


「……少し大変かも」


レウェイチョが汗を拭う。大量の砲弾を撃ち切った今、彼にも反動は来ている。


タンが逃げる、ただ逃げ続きているように見えた。


「ここで逃がしたら、意味ないよ」


 滑るように前進し、タンの足跡へ向かうレウェイチョ。

だが、それが“罠”だった。


なんと空からロンが舞い戻ってきたのだ。


「…日はまた登る」


 空から地上へとロンの声が響いた瞬間、地面が変形する。

そこには、タンが攻撃時に砕けたと思われた鎧の破片があり、それはは変形しながら大地を包み込む。

 しかしそれは反撃の手段としてわざと落としていた。一見ただの破片のように見えるが、タンの神術は黄金を自在に操る、空中でも、あるいは大地の奥にいても。


黄金の輪が地を走り、天をも飲み込む。

その黄金はレウェイチョの足元や頭上に噛みつくかのような勢いをしてた。

やがてそれらは一点に集中して圧縮されては。

破壊を続け様に引き起こす、熱、振動全てがレウェイチョの足元から頭上にかけて集中される。


「ぐッ……あ、ああああッ……ッッッ」


 足がねじれ、骨が砕け、内臓が逆流する。

血反吐を吐きながら、レウェイチョは地に膝をつく。


だが


「兄者!そいつは偽物だ!」



「……あらら、バレちゃった」


その言葉を聞いて、レウェイチョは微笑む、そして膝をついていた彼の体がスゥーと溶けていく。

それは光の粒となり、月光の神術による月の軌跡に溶けた。


そしてビューンと言う音と共にタンが準備していた攻撃は、当然その残影には当たらず、遠くじぇよ飛ぶだけだった。




「幻影……?」


タンが反射的に振り返る──


そこにいた。

レウェイチョが月の光を身に浴びたかのように輝いた姿をして、突如タンの背後に出現していた。


「戦場で目立つってことは、“見られる”ってことだからね。僕の神術って輝いてるんでしょ?

隠れるべきだよね、でもできない。」

 

  「……だからね、あえて光らせたんだ、僕は月の光ほど輝いていたから誰にも見つからない、そして、光は影を産む、その影は他の人すら惑わせる。」


(うん...そろそろ時間だね、相当驚いたのか、僕の時間稼ぎの演説に付き合ってくれるだなんて。」


次の瞬間にレウェイチョは幾つにも分身した。

 それは月光の差す角度に合わせ、数十体の幻影を産んでいた。。

 レウェイチョは自身を輝かせることによって、目立たずに眩しい月光の軌跡にそって移動していたのだ。


「君たちの協力技とか、確かに良かったよ。でも、技の強さだけが勝敗を決める、そんなわけじゃないんだよね。」



レウェイチョが指を立てる。


「おい!ロン、これ以上聞くな、やつの行動には催眠効果がある!」




 瞬間、ロンの腕の装置に置いてる鏡が反転する。

本来、光を観測・反射するための装置。

それの装置は裏返り拡声器のような姿となった。




 そしてレウェイチョは一瞬で月の暗示が解かれては、タンに反撃されて粉砕された。




「あれが幻影だって気づいたぐらい、だからもう...彼は術の中にいるよ」


「うぉおおおお」

タンの雄叫び




その声と共に黄金に輝く存在が現れる。


タンだ。

変化させた黄金を纏いながら、肉体ごと突っ込んでくる。


レウェイチョが咄嗟に回避する。幻影を介した視界の遅延がタンの動きと反応を遅くする。


「おい!青髪のあんちゃん、あんたの術式、光がなきゃ成立しねぇんだろ?」


名に覆う黄金の密度や角度を操り月の光だけを見えなくするように反射させるタン、同時に外も見える。タンの神術を持ってして初めてなせる技であった。

「ッ……!?」

(本当は暗示が本体だし、作り出した光で確かに強くなるけど..大丈夫か?この人)

 加速した感覚であれば考える余裕すらあるレウェイチョであった


 一方でタンは、爆風で幻影を破壊しながら本体目掛けて突っ込んでいたのだ。

物理で月光の角度そのものを変えたことにより本体を一瞬にして発見させた。


「一瞬でも軌道がズレれば、騙せねぇんだよ。人間の勘ってのはよ」


一発、拳が入る。

もう一発、肋骨を砕く膝が入る。


レウェイチョが吹き飛ぶが、その刹那。



「あに...じゃ?」




吹き飛ばされていたのは、タンの弟のロンだった


(だから暗示は弱くなるだけだって...って僕くちに出してなかった。)


 そしてロンの口からは漏れた言葉が音楽のような律動を奏でていた。

もはや言語による干渉ではない、肉体の脈動をその律動で支配するみたいだ。


「タン。走れ」


命令。否、血流の流れのような脈動の如く自然の、律動が身体に刻まれていく。


タンの脚が勝手に動き出す。


「なっ……!」


ロンが急いでタンの身体を押さえるも、レウェイチョに操られた口が止まらない。


「走れ。逃げろ。僕を殺すな。僕を忘れろ。」


「っっ……ああああああああ!!」


タンが叫ぶ。自らの意志を噛み砕き、咆哮で上書きしようとする。


音よりも大きい叫びで、術を打ち消そうとする。


 「ふざけんなよ、レウェイチョ……!弟の能力はおれが1番しってんぞ」



その瞬間、ロンの鏡が再起動する。


「オレたち兄弟の力は誰のものでもない」


 黄金が走る。タン・スウがくる。

 今度は、“月光”に干渉されない。

 ロンの神術によるものだった。


「お前の光には触れさせない」


(なっ)


地面に落ちていた黄金が再び空を覆う


黄金が、レウェイチョ足元から、背骨へ、頭蓋へ

そして視覚さえも奪おうとする


眩しいね⸻月の光だって。


⸻「月光に手を伸ばすの好きだねレウェイチョ。」


「やめろよ、気色悪い」


「僕は何もできないんだ、偉人にもなれない!ああああ、憧れたあの存在を裏切ってしまった。」


「まるで、初めて出会った気分だった」


「君を悩ませたそれはなんだ?たいしたことはない?そのはずなんだ、考えてみたまえ、それは君が恐れたんじゃなくて、そう思われるのが怖いだけなんだよ。」


⸻それでも、レウェイチョは手を伸ばした。

月を掴むように。


「……でも……掴んだよ……光を……やったぁ……」


実体のない光が黄金を⸻止めた。

タン・スウという男と共に。


 月の下、レウェイチョは膝を抱えながら笑っていた。


「貴様ぁ!兄者!俺がゆく!待ってろ!」


遠くメロオ=二世は黄金を突き抜けた彼の光を見て、小さく息をした。


(確かに……月光の転送は成功した。彼奴の意思が、此方に伝わってくる、誘導は成功だ……)


彼は少し、レウェイチョを見直していた。


「見直したぞ、少年よ」


そう言うと、彼は手を翳し、神術を用いて転送にを行う。

これで

「やめろ」


ロンの声。


いや、“声”ではない。

彼の装置が、音波を収束・拡張・空間射出する。


鏡の中から飛び出した“音の杭”が、メロオの転送座標へと微細な誤差を刻む。


「位置がズレた!?」

メロオは驚く、当初の目的であるレウェイチョの救出が阻まれる。


「な……!」


「うっ」

止めたロンの方もただでは済まなかった。

(空中で位置はかりやって良かったぜ..タンのあにぃ...)


パーン 新たな攻撃の音だ


(第三者だと、スウ兄弟のほかにもいるのか!まずい。レウェイチョでは、この数に太刀打ちなどできん!)


「ノノン!」


―座標の誤差はあったが、メロオの尽力によりスウ兄弟の攻撃や死刑囚たちの砲弾などは転送され、レウェイチョに届かないようになった。

しかし先程の手違いにより、転送される先は、解体人のいる座標へと変わっていた。


「うぁああああ!」


鳴り響く轟音


それをいなす男がいた。


(メロオさんたちならきっと助けにくる、それまでには耐えないと。)

 月光のレウェイチョであった。


 だが、援軍がくる前に、レウェイチョの腹を何かが貫いた。


槍だった。黒鉄の。地面から突き出すように撃ち込まれた黒鉄の槍。


「ぐっ……あ、ぐぅっっッ……」


血が溢れる。

彼は最初、何が起きたか分からなかった。


目を伏せると、自分の影の中に、誰かがいるのが見えた。

何かが、何かが、もうひとりが、動いていた。


「なぁ……?」


 レウェイチョの視界が歪む。

胸の奥が破れ、内臓が針を飲んだほどに痛む。


槍を振りほどき、血を撒き散らしながら、彼は叫ぶ。


「月よ、月よ、月よ。なぜ僕を、僕にとっての傷は、あなたにとれば一番痛いはずだ。」


 無機物にすら暗示をかけるか、それとも自分自身にか、あるいは両者か


だが、すでに間に合わなかった。


なぜなら彼はそれほどには強くない、だから避けねばならない、そうしないと死んでしまうから。


ズーン


風を裂き、轟音を上げる何か近づく


レウェイチョの背後から音がした。


「…………え?」


音がした瞬間に目の前が暗闇に包まれる。

レウェイチョの後頭部を杭が貫いた。


形を見ると解体人の杭だ


先ほどの攻撃により解体人は、反撃体制に回ったと思ったからだ。


 あれは欠伸が出るほどの長い待ちであった。

静かだ。

遠くで鳴り響く轟音さえ無視すれば。


静かな街になっていた。


そんな時であった。

ドォンッ――!


何かが彼の背後の方角に激突する。

爆炎が球状に膨張するほどで、熱風が通路ごと蒸発させる。

無数の鉄片、あるいは人体の断片が飛び散る。


それを直撃した解体人は燃えるような感覚をした。


すでに燃えている体でも感じた。


それを感じ得ては。


「うわぁぁ!あっちか!」


直感的に装置を、武器を、なんと、転送させたメロオの方角を目指した、だが。


ところ変わってレウェイチョを見れば。

貫かれたのは彼だ。



 まだ痛みはしない。

  泣き叫んでもいないからだ。

 あるいは聞こえていない。


ただ、ゴリッと骨が砕ける重い音だけが残り、頭骨の内部を反響させては鼓膜を揺らし続ける。


やがては気づいてしまう。

 

 杭は後頭の頭蓋骨から入り、眼窩を突き抜けて、目から突き出ていた。


「が……ぁ、っあ……ぁあ……?」



視界が歪む。

いや、ひっくり返る。


彼はまだ理解しようとしていた。

何が起きたのか、ではなく、それはなぜなのかを。


「止められた……はず、なのに……どうして……?」


 事実そうだ、スウ兄弟たちの攻撃は全て彼に止められていた、例え胸を貫いた槍さえもこれ以上動かない、動かせないようにそう、ぎっちりと固定したからだ。


 その事実は打った本人の、あの解体人に聞いたとしても意味ない。杭では飛距離に限界があった。そんな簡単なことだけだった。


だから、わからない。


声が震える。

手も震えてる。

足ももちろん震えてる。

全身から嫌な震えが漏れ出る。


その時だった。



 いつも通りにその杭は爆発した。


爆煙の中で、レウェイチョは叫び、ただの“少年”に戻っていく。

誰に救われることもなく。

ただ。

ただ。

少年の時みたく、自分に折り合いをつけては泣き叫んだ。



あたりの景色が揺れる、泣いている時みたいに。


 月は遠く、冷たく光っている。

 いつもそうだった、初めて近くにあった時。

 僕はそこに手を伸ばした。

 そして知った、湖水の冷たさというもの。


 湖で溺れて、倒れ込んだ僕、寝込んだ僕をどうして捨てたんだろう。


きっと死んだことにしたかったんだから。


「そうかね、私には可愛い子だが。だろメロオ」


「はっ、私にはよくわかりませんが、確かにレウェイチョは女人に好かれています。」


「あぁ、そういうのじゃないけど....おいノノンお前どういう教育してんだ」


「仕方ねぇだろこいつが石あた⸻



 ドーン


轟音と共にあはりが揺らめく。

明らかに爆発だけによるものではなかった。


「まさか...座標が....レウェイチョ!!ああああ!」


「おい、メロオ待て!がキィ!」


レウェイチョの死によって暗示されいた区間の座標は揺れ始める。


それは解体人の方にも及ぶ。

まずいと思った解体人はすぐさま女に駆け寄り、彼女を抱えて、次の瞬間、体に浮遊感がしては空が遠くなる感覚が伝わってくる。


 男はあたりが暗闇に包まれる前に自分自身が下敷きになるように調整をする。


やがて闇は全てを覆う。


最後の聞こえたのは数人の怒号と轟音のみであった。


──────────────



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