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95.守りたい真実

「うぉっ」

「なんだっ!?」


 揺れは散発的に続く。周囲の音はまったく聞こえないのだが、フィルは胸騒ぎが止まらなかった。


「何が起こっているんだ……?」


 先程の揺れは間違いなく自然発生的なものではない。フィルたちがお互いを見ながら戸惑っているとメルセナが腰を上げ空を見つめる。


『何者かが結界を破り侵入した。今、ドラは悪意に満たされておる』


「悪意?」


 可能性は一つしかない。


真羅ルーラー……!」

 

 どうやって結界を破ったのだろうか。結界は龍族しか通ることができないと言っていたはずだ。


 フィルが思考の海に落ちかけた時、ガロが唐突に幹の入口へと走り出す。


「ガロ! 待つんだ!」


 ガロは何も耳に入らないような様子で、猛スピードで一直線に入口へと向かっていく。


「メルセナ様、すみません。何が起きているかは分かりませんが、もし私たちが追っている敵であれば、私たちは戦わないといけない。ガロの件、本当にありがとうございました」


『かの者は未熟故、その危うい生き方を支えてやってくれ。我は理に縛られここから動くことができぬ。我らのドラを悪意から守ってくれ』


 やはりそうか。薄々感じてはいたがメルセナはこの場所から動くことができないようだ。もし、メルセナ程の力を持つ者が味方になってくれればと一瞬考えてしまったが淡い期待だったようだ。


――――弱気になるな


 フィルは自らを鼓舞し、ガロの背中を追いかける。

 

 入り口を抜けると、そこには呆然と立ち尽くすガロの姿があった。フィルはガロへと声を掛けるが、ガロは心ここにあらずといった様子で指さす。


「ガロ? どうしたんだよ急に走り出して」


「……声が聞こえるんす。里のみんなの、他の龍たちの悲鳴が。助けにいかなきゃ!」


 再び駆け出そうとするガロを必死に止める。


「待てよガロ! 一人で行ってどうするんだ!」


「離してほしいんす! おいらがいかなきゃ……おいらがっ!」


「ガロ、少し落ち着こう。俺たちも一緒に行く、一緒に戦うから」


 ガロは自分の故郷が襲われていることに気が動転しているのだろう。フィルが諭すように声を掛けると、ようやくその声が耳に入ったようでこちらに振り向く。


「フィル……?」


「心配しなくても大丈夫だよ、ガロ。俺たちは強い。それにガロのお父さんやロロだって強いんだろ?」


「もっ、もちろんなんす!」


「じゃあ簡単にやられるはずないさ。一緒に助けに行こう!」


「んす!」


 フィルの言葉によってガロは落ち着きを取り戻した。門番の龍たちはフィルたちから少し離れた位置で、増援だろうか、別の種族と思われる龍たちと話し合っている。


 襲撃地点が分からない以上、どこに向かえばいいか分からないフィルたちは、今の状況を確認しようと相談している龍たちへ話しかけようとしていた。


 だがその必要はなかった。


 なぜなら、目の前に伸びる大きな並木道の向こう側から、見知った顔がこちらに駆けてくるのが見えたからだ。

 

「ロロ!」


 ガロは思わず駆け出し、ロロに飛びつく。再会できた喜びと安堵をお互い噛みしめている様子だ。


「無事だったんすね……」


「ガーちゃんも無事でよかった」


 フィルはガロたちの方へ向かうと、顔をくしゃくしゃにしているロロへと声を掛ける。


「ロロ、無事だったんだね」


「皆さんもご無事でよかったです。恐らくメルセナ様のお側が今のドラで一番安全な場所でしょう」


「いったい何が起こってるんだい?」


「皆さんを送った後、炎竜族の住処へ戻ろうと飛んでいたんです。そしたらいきなり森龍族の里の方から何が爆発したような音が聞こえて。急いで向かおうとしたら他の場所でも同じことが起こって……それでガーちゃんが心配になって急いでここに来たんです」


「そんなことが……」


 同時に違う場所で起こっているということは、複数で襲撃を受けているのだろう。仮に襲撃の犯人が真羅ルーラーであれば、複数で違う場所を襲っているということは、『思念片かけら』は未だ見つかっていないということを指し示している。

 

 奴らが手に入れる前になんとしても探し出す必要があった。


「ロロ、この国で”国宝”として崇められているような物はあるかい?」


「国宝ですか? う~ん、龍たちが崇めているもので思い付くものはメルセナ様以外思い付きませんね」


「そうか」


 ロロは必死に記憶を探ってくれているが思い当たるようなものはないようだ。だが、その言葉で別の人物から思いがけず声があがる。


「……もしかして結界に使っている”龍珠”のことかもしれないんす」


「”龍珠”?」


「おいらたち龍族は各種族で異なる役割を持ってるんす。炎龍族は生命循環の監視、岩龍族は大地の維持、水龍族は大気の管理、そしておいらたち森龍族はドラの保護。”龍珠”は森龍族が結界を維持するために使っている珠の事で、結界の核となるものなんす」


「なるほど。確かに奴らが狙いそうな匂いがするね」


「龍珠は里の祠にあるんす。とうさまがいるから簡単には奪われないと思うんすけど……」


「分かった。みんな、森龍族の里へ急ごう」


 方針は決まったが、後はそこまで行く手段だ。歩いていけば二週間はかかる道のりなのだ。もちろんそんな悠長な時間はない。


 そんなフィルたちの空気を察知したのだろう、ロロが口を開く。


「じゃああたしの背中に乗ってください! 森龍族の里なら二十分もあれば着きます」


 ロロは好意で言ってくれているのだろう。だが、フィルは素直に同意することはできなかった。


「ありがたいけど危険すぎるよ、ロロ」


「あたしも龍族ですから戦うことはできます。それにあたしたち炎龍族は飛ぶスピードが一番早い種族ですから、いざとなったら逃げますよ」


「でも」


「フィルさん、あたしも自分の国を滅茶苦茶にされて我慢の限界なんです。どうか一緒に連れて行ってください」


 ロロは真っ直ぐこちらを見つめてくる。その目にはしっかりとした意志が込められていた。


「分かった。じゃあ俺たちを森龍族の里まで連れて行ってくれるかい?」


「はい!」


 ロロは再び龍化すると、その美しい真紅の羽を羽ばたかせる。来た時と同じように乗り込むフィルたちだったが、ネイマールがなぜか先程から動こうとしなかった。空に向かってなにやらぶつぶつと唱えている。

 

「ネイマール? 行くよ!」


「……ふぅ。すみません、今行きます」


 未だロロの背中に乗るのに抵抗があるのだろうか。どうやらネイマールにとって龍の背に乗って飛ぶことはかなりのトラウマになっているようだった。


 全員が乗り込んだことを確認すると、ロロはゆっくりと上昇する。


 そして、辺りの木々の頂点を抜けた時、フィルたちはこの国の現状を目の当たりにすることになった。


 至る所で火の手が発生しており、各地で様々な種族の龍たちが戦っている。地上から放たれる攻撃を掻い潜りながら必死に抵抗しているが、一匹、また一匹と撃ち落されているのが遠目からでも分かった。


――――急がなきゃ


「行こう、ロロ!」


『はい!』


 ロロは急転回すると、森龍族の里の方面へと猛スピードで滑空していく。もの凄い風圧により顔を上げることすらままならないが、それだけ事態が切迫しているということだ。


 ロロはそのままのスピードで飛び続け、体感では十分足らずで目的地へと到着した。ロロは肩で息をしており、どうやらかなり無理をして飛んでいくれたようだ。


 フィルたちはロロの背中から地面へと着地すると労いの言葉を掛ける。


「ロロ、ありがとう。かなり無理したんじゃない?」


「この程度……なんともないですよ」


 気丈に振舞っているが、ロロはかなり苦しそうに息をしている。小さくも大きな炎龍には感謝しかなかった。


 フィルたちが降り立ったのは、森龍族の里から東にある広場のような所で、里はもう目と鼻の先らしい。


 フィルは皆の姿を確認すると、仲間たちを鼓舞するように声を張り上げた。


「行こう!」



 ガロが先導となり、踏み固められた草道を駆ける。徐々に鼻につく焼け焦げた匂いと轟音が嫌でも不安を掻き立てるが、目の前を走るガロはそのことを考えないようにか、はたまた焦燥感からか、一心不乱に走り続けている。


 時間にして数分。


 ガロが感じている時間の流れと、フィルが感じている時間の流れは恐らく違う。


 フィルはその小さな身体に置いて行かれぬよう必死に足を動かした。


 ようやく目的地へと辿り着いた時、フィルたちの目に飛び込んできたのは、横たわる数多の龍族、なぎ倒された木々たち、原型が分からないほど破壊し尽された住居らしきもの、そして血まみれで立ち続けている一匹の龍と黒衣の男だった。


 見るも無残な姿に破壊された故郷を前に、ガロは今何を思うのだろうか。


「とうさま……ッ!」


 ガロは血まみれの龍へと駆け寄る。


 ガロの父である森龍族の王は至る所から出血しており、片翼の一部は欠けて倒れ伏していた。対する黒衣の男には目立った傷は見当たらない。


 人の身でありながら龍と対等以上に渡り合っている右目に傷を持つ男は、ただ静かに佇んでこちらを見ているだけだ。


『ガガ……か』


「とうさま……おいらメルセナ様に認めてもらえたんすよ……」


『メルセナ様が? そうか……』


 呼吸を一つする度に血の塊が森龍族の王から零れ落ちる。聡明そうな目に浮かんでいる感情はフィルには分からなかった。


 ガロはそんな父の姿をしっかりと目に焼き付けると、黒衣の男の前へと臆することなく躍り出て、堂々と言い放った。




「おいらは……おいらは誇り高き森龍族のガガ・ロガ! 龍族を守護する者としての役目を今果たす!」

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