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84.最期の空

「なっ」


 フィルは氷の槍が飛んで来たであろうフレウラの後方を見上げる。そこには、屋根の上で不気味に佇む一人の男が立っていた。


「アイツは……あの時の仮面の男……」


 レイ・デルとの戦いの際に、最後に現れ『思念片』を奪っていった男だ。


 だが、今はあの男よりもフレウラのことだ。晶核を完全に貫かれており、すでに身体の崩壊が始まっている。


「フレウラさん! しっかりして下さい!」


 フィルが必死に声を掛けるが、もう視線は交わらない。


 フレウラはどこか仕方ないような表情を見せると、最後の言葉を絞り出す。


「ははっ……私に……相応しい最期だわ。気を付けなさい……”六界ノクターン”は……本物の化け物だから」


 すでにフレウラの両脚は粒子となって消滅し、残った上半身を地面に横倒しながら夜空に手を伸ばす。



「あぁ、星が綺麗だわ。最後、これで本当に最後――――≪呪女の涙(マリエル)≫」



 フレウラが死の間際に放った晶素の結晶は天高く上がると、上空で橙色の光を放ちながら、クレオの街へと降り注いだ。


 それを見届けると、フレウラはそれ以上何も語ることはなく静かに夜空へと消えていってしまった。


「なんで……なんでこんな残酷なことができる! 答えろ真羅ルーラーッ!!」



 フィルの叫びに応える者は誰もいなかった。



――――――――


――――――


――――


――



 フレウラとの一件から一夜明け、フィルたちはダンに昨日起こったこと、そしてフィルたちが知り得た情報すべてを伝えた。


「そんなことが……まさかレミエーラ殿がドゥの生き残りだったとは」


「彼女は復讐に生涯を捧げていましたが最後には前を向こうとしていたんです。ですが……」


 フィルは昨夜のことを思い出し、思わず唇を噛む。


「本当に何者なんでしょうね、その”真羅ルーラー”とやらは」


「分かりません。ただ奴らは平気な顔で人を殺す。それだけは絶対に許されることではないです」


「そうですね……」


 フレウラを貫いた氷の槍は一直線にフレウラの晶核を貫いていた。それはつまり、確実に殺そうとして放たれたものだということで、人が死ぬことに何も感じていない証拠だ。


「あっ、そういえば、私たちが作った解毒薬を街の皆さんに配りたいと思っているんですが」


 フィルは手に持っている小瓶をダンに見せながら提案する。未だ多くの患者がいると聞いていた為、この場に持ってきていたのだがダンからは予想外の言葉が返ってきた。


「いえ、それには及びませんよ。実は今日、多くの住民から症状がなくなったという報告を受けましてね。未だ全員の確認は取れていませんが、皆さんがやって下さったのではないのですか?」


「いえ、私たちは何も……」


 フィルは全員が一斉に回復したと言うダンの話を疑問に思う。間違いなくフィルたちではないし、解毒薬の量は少量のため住民全員を一気に回復させることは現状不可能だった。


――――まさか


 思い当たることは一つしかない。


 フレウラが最期に命と引き換えに放った、あの橙色の晶素だ。


「フレウラさん、あなたは……」


 クレオの街を恐怖で包み込んだ”呪い”は、一人の女の手によって始まり、そして一人の女の手によって静かに終わりを迎えていたのだ。



 それから一週間、フィルたちはダンの仕事を手伝いながら、ドラへと旅立つ準備を進めていた。


 呪いの噂が消滅したことで、国内からの物流が徐々に戻ってきていたため、日用品や旅に必要な食料などを買い足していたのだ。


 路銀についてはまだまだ余裕があったが、総勢八人となった一行が旅を続けていくには少し心許なく、空いた時間は周辺の野獣や晶獣オーロ狩りに費やしていた。


 今日はいよいよクレオの街から次の街へと出発するためにダンの家を訪れていた。


「それではダンさん、俺たちは次の街へ行きます。本当にお世話になりました」


「何を言われます。皆さんがいなければこの街は世界から消え去っていたでしょう。本当にありがとうございました」


 そう言ってダンは深々と頭を下げる。顔を上げたダンの表情はどこか不安げだった。


「あなた方が戦おうとしている相手は底知れぬ闇を抱えている。どんなことがあっても自分たちの命を守ることを優先してください。私から言えるのはそれだけです」


「ありがとうございます。まだ、真羅ルーラーの脅威が完全に去ったとは言い切れません。北の牢獄が襲撃を受けたのも、もしかしたら奴らの仕業かもしれません。ダンさんもどうかお気を付けて」


「はい。この街は私が必ず守ります」


 ダンの力強い言葉に勇気をもらうと、フィルたちはクレオの街を後にした。



「なんだかやりきれねぇよな」


 後方にあったクレオの街が見えなくなった頃、ぽつりとカイトが言い出す。


「きっと心のどこかで罪の意識はあったんだと思うよ。だけどそれを上回る深い悲しみと憎悪がフレウラさんを変えたんだろうね」


 きっと立ち止まるチャンスは何度もあったのだろう。


 だが、保持者ホルダーという力を得てしまったこと、そして、”真羅ルーラー”に出会ったことが彼女を復讐の鬼へと変えてしまった。


「フレウラさんのような人をこれ以上生まない為にも、”真羅ルーラー”は必ず止める」


「……おう」



 フィルたちはクレオの街での出来事を振り返りながらドラへの道中を急いだ。

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