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81.起死回生の雫

 街に戻ったフィルたちはすぐに治療院へエインを運び、事情を説明して緊急で治療を施してもらった。


 医者の説明によれば命に別状はないと言うことだが、一週間は安静にしておくようにということらしい。


 そして、爛れてしまった皮膚はもう二度と元には戻らないそうだ。


「そんな……」


 ガロは自分をかばって負った傷がもう元には戻らないと聞き、重苦しい表情で俯く。だが、当のエインはまったく気にしていないようだった。


「ガロよ。気に病む必要はない」


「でも……」


「これは自分の意志で自分が動いた結果によって負った傷だ。すべての責任は自分にある。何よりガロを守ることができた。自分はこの傷を誇らしいとすら思う」


 優しく諭すようなエインの言葉に、ついにガロは泣き出してしまう。


「ううわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 泣き出したガロをなんとかなだめた一行は、エインを治療院に残し今の状況を確認するために一度宿へと戻った。


「とりあえずエインはしばらく治療院で安静にしといてもらおう」


「しっかし”爆発する”晶魔ゲートねぇ。もしそんな奴が街に襲ってきたら普通の適合者アダプタじゃあ太刀打ちできねぇな」


「たしかにね。油断してたから勝てたけど相当な力を持ってた」


「だよな。まぁ会わねぇように気を付けるしかねぇんだけどな。じゃあとりあえずそれぞれの成果を報告しようぜ。まずはオレからだが」


 そう言ってカイトが鞄から取り出したものは、一本の可憐な紫色の花弁が付いた植物だった。花弁の中央部には大きな玉のようなものが鎮座している。


「これが、『鉤火草の涙』か」


「結構探すのが大変だったんだぜ? 海岸の裏手にある崖に咲いてたんだが、これがまぁ採りにくくてな。なんとか一本採れたんだよ」


 カイトが手に持つ植物は夕日に照らされ美しく輝いている。


「よし。じゃあ次は『光陽虫ライタスの光源』だけど」


 正直フィルはこの『光陽虫ライタスの光源』が一番入手難易度が高いと思っていた。市場にもほとんど出回っていないはずだが、ネイマールとリアの顔が綻んでいるのを見ると、どうやらフィルの取り越し苦労だったことが分かる。


 二人が取り出したものは、一見すると小さな繭のように見えた。


 だが、ダンを経由して商人に掛け合ってもらい入手したものらしく、『光陽虫ライタスの光源』に間違いないのだそうだ。


「じゃあ後は」


 全員の視線がガロへと向けられる。ノクトとソフィアもベッドから体を起こし心配そうにガロを見つめていた。


「じゃあ調合を始めるんす!」


 そう言うとガロは少し緊張の面持ちで背負っている鞄をごそごそとまさぐり出す。その様子を見ていたカイトが気になったように声を掛けた。


「なぁ、ガロ。そういやそのでけぇカバンいっつも背負ってるけど何が入ってんだ?」


 何気なしにしたカイトの質問をガロは一蹴した。


「乙女の秘密なんす。ほんとカイトはでりかしーがないんす」


 ぷいとそっぽを向いたガロにカイトは抗議の声を上げようとしたのだが、他の女性陣からも「最低」だの、「そんなこと正面から聞くなんて信じられない」など散々言われ、部屋の隅で反省させられている。


 そうこうしている間にも着々とガロの準備は進み、不思議な形をした調合キットが用意されていた。


「じゃあやるんすよ! まずは晶核を砕いて、それから『光陽虫ライタスの光源』を砕いてと……あとは『鉤火草の涙』を入れて、『森喰花ボスコの花弁』を散らせば」


 材料が次々に調剤皿に入れられガロの手によって混ぜられる。そして、混ぜられた材料たちに向かって晶素が放たれると、宿屋の一室は眩いばかりの光によって包まれる。


 目を開けると、ガロの手にあった皿には薄紅色の透き通った液体が入っていた。


「久々だったけど上手くいってよかったんす。これがあらゆる毒を分解する”『龍の激情』”なんす」


 まじまじとガロの手によって生み出された薬を見る。名に反し落ち着いた色合いをしており、特に匂いもしない。


「とりあえず二人に飲んでみてもらおうか」


 皿に入っていた液体を零さぬよう、慎重にコップに移し二人へと手渡す。


 仲間たちが固唾を飲んで見守る中、ノクトとソフィアの二人はお互いを一度見て頷き合った後、一思いにコップの中にあった液体を飲み干した。


 変化はすぐに現れる。


 ノクトとソフィアの顔色が目に見えて良くなり、首筋に浮き上がっていた緑色の痣はきれいさっぱり消え去っていた。


「お手柄だよガロ!」


 フィルは喜びのあまり思わずガロを抱き上げる。ガロはみんなから褒められたのが嬉しかったのか、だらしくなく顔を綻ばせている。


 ノクトとソフィアも特に体調に変化はないようだ。二人とも前より体が軽くなったと言っているので、もしかしたら解毒以外にも効果があるのかもしれないとフィルは密かに思っていた。


 そして、これで確信した。


――――レミエーラは嘘をついている。


「なんの為に”呪い”なんて嘘をついてるのかは知らねぇが、完全に黒だな。フィル、これからどうする?」


「恐らくこっちから問い質しても、その場でしらばっくれられたらそれ以上追及できなくなる。だから、実際の現場を押さえるしかない。後はその現場がどこにあるのかだけど」


「それならもう分かってるわ」


「え?」


 そう声を上げたのはソフィアだった。分かっているというのは、すでにどこで毒が盛られたかが分かっているということだろうか。


「今回の件が呪いではなくて毒だと分かったこと、ノクトと私が西側の調査をしていた時に発症したということ、そしてノクトと私が調査の時に口に入れたのは、宿屋で出してもらった水一杯だけなの」


「ということはつまり」


「えぇ、おそらく毒が入れられてたのは各地区にある”井戸”で間違いないと思う」


――――そういうことだったのか


 だからその地区の住民だけに広がっていたのだ。各地区に設置されている井戸は住民のほとんどが生活のために使用している。なので街全体で発症者が広範囲に発生したのだ。


 レミエーラは恐らく毒を井戸の中へ混入し、発症した者を”解呪”と称して解毒していたのだろう。


 後は何のためにレミエーラがそのような自作自演をしているのか、だが。


「理由については本人に聞いてみるしかなさそうだね。日中は今まで通り調査する振りをして、明日の夜から西の井戸で張り込もう。くれぐれも西地区で水を飲まないように」

 

「りょーかい」


 明日以降の動きについて軽く打ち合わせした後、仲間たちはそれぞれの部屋へ引き上げていったが、フィルは一つ気になることがあり、部屋を出ようとしたソフィアを呼び止める。



「ごめん、ソフィア。ちょっとだけ聞きたいことが――――」

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