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8.偽りの現実

 眩いばかりの光がフィルを中心に渦巻いている。


「お頭、ありぁなんです!?」


 手下がゴラムに問うと、ゴラムは吐き捨てるように言う。


「ありぁ、保持者ホルダーとして覚醒する時の現象だ。ちっ。適合者アダプタの力も使いこなせてないやつが保持者ホルダーになるだと?」


 フィルは青い光に包まれながら、晶素に関する知識が脳に流れ込んでいるのを感じていた。温かい何かが自然と体に流れてこんできているのが分かる。


――――これが、”晶素”


 フィルは一度自分の手を開閉すると、眼に力を込めゴラムを見据える。


「なんだその目は……気にくわねぇな!」


 ゴラムは再び能力を振るわんと剣を振り上げる。


「≪旋牙ホワールファング≫!」



「”壁となれ。≪晶壁オーバー≫”」



 フィルの前に現れた薄青色の壁がゴラムの一撃を防ぎ、弾き飛ばす。


 ゴラムは自分の攻撃が防がれたことに驚きを隠せない。自分の体じゃないくらい体がよく動き、受けた傷は治ってはいないはずなのに、今は痛みをまったく感じないのだ。


 フィルはそのままゴラムを押し飛ばすと、拳に晶素を乗せた一撃を放つ。



「”打ち砕け。≪晶撃アントレ≫”」



「がッ」


 放たれた一撃は軽々とゴラムの巨体を持ち上げ、洞窟の壁に叩きつける。


「なんで保持者ホルダーになりたての奴がここまでの力を……ちっ、全員まとめておれがぶっ殺してやる! おい! お前ら、そこの小僧二人もこっちに連れて――――は?」


 ゴラムが戸惑っているのは、手下が一人残らず()()()()()からだ。その場に立っているのは、ぼんやりとしたオーラを放つカイトと緑色のオーラを纏ったリアだけしかいない。


「なんでてめぇらが……一斉に適合者アダプタに覚醒するだと? しかもそこの女、おめぇのそれはなんだ? ()なんて見たことがねぇぞ?」


 敵であるゴラムでさえあの様子なのだ。フィルはもちろん、当事者であるカイトとリアも激しく混乱していた。


「オレだって何がなんだか分かんねぇよ……ただ、力が湧き上がってくる」


 リアも戸惑いながらも、カイトに同調するように答えた。


「あたしも一緒よ。急に体が軽くなって……」


 先程まで追い込まれていたはずが、今は一転、追い込む形となっている。


「ちっ、まぁいい。初心者が集まったところでおれには一生勝てねぇ」


 ゴラムはフィルから標的を変え、未だ自分の能力に戸惑っているカイトに向け走り出す。ゴラムは晶素を剣に纏わせ、凄まじい速度でカイトに突きを放つが、フィルはゴラムの動きをすでに見切っていた。


「ぶっ飛べや! ≪抜突グリッファ≫!」


「≪晶壁オーバー≫!」


 青い障壁がゴラムの一撃を阻みカイトに届かせない。そして、カイトはその隙を見逃さなかった。


「てめぇの部下に言っとけ! 人の顔を殴るんじゃねぇってな!」


 そう言いながら、カイトは全力でゴラムの顔に拳を叩き込む。


「ごっ」


 思わぬ威力にゴラムが後ずさるが、倒れる程のダメージまでは与えることができていない。


「なめるよガキども……!」


 ゴラムを中心に、晶素のうねりが辺り一帯を巻き込みながら集まっていく。


「朽ち果てろ。≪朽刃ゼアフォールン≫」


 不穏な言葉と共にゴラムは再度距離を詰め、カイトの頭上から両手で剣を振り下ろした。


 カイトは身に着けたばかりの晶素を使い紙一重の所で避けたが、先程までカイトが立っていた地面は大きく陥没し、まるで溶けているかのように煙を噴き出していた。


――――あれはまずい


 直感的に、≪晶壁オーバー≫でも防ぎきれないだろうとフィルは思った。長期戦になれば不利なのはこちらだと悟ったフィルは、カイトとリアに目配せする。


 目線だけですべてを伝えることは不可能だと思っていたが、それでも二人なら動いてくれると信じていた。


――――隙を突いて勝負を決めるしかない


 フィルが動くと同時にゴラムも動く。


「いい加減うっとおしいんだよ! ≪朽刃ゼアフォールン≫ッ!」


「≪晶壁オーバー≫!」


 力と力がぶつかり合うが、押し負けているのはフィルの方だった。フィルが生み出した壁が煙を噴き上げ、徐々に亀裂が入っていく。


「ぐっ」


「沈めやぁぁぁぁ!」


 ゴラムが放つ晶素がさらに膨れる。これ以上は耐えられない、そう思った矢先、ゴラムの顔を何かがかすめる。


 それは、こぶし大の石だった。


 カイトが生み出してくれた一瞬の隙をフィルは見逃さなかった。


 あえて壁を消すと晶素を足に循環させ、体を横に捻り流れた剣を避ける。そのまま回転を利用しゴラムの懐に入ると、晶素を込めた拳をゴラムの腹目がけ放った。


「打ち砕け! ≪晶撃アントレ≫ッ!」


「がはっ」


 ゴラムがよろめく。フィルとカイトが叫んだのは同時だった。


「「今だ! いけッ!! リア!!」」


 リアは二人の動きに合わせたかのように走り出し、猛然とゴラムへ向かっていく。


「今の感情全部ぶつけてやれ!」


「はぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 緑色の光が一匹の獣を吹き飛ばし地面へと叩きつけると、ついにゴラムを完全に沈黙させることに成功する。


「はぁ、はぁ」


 三人とも満身創痍の状態だったが、フィルは先程見せたリアの一撃に見惚れていた。リアから放たれた緑色の光は、こんな状況でも荒んだ心を落ち着かせてくれるほど美しく暖かかった。

 

 しばらくリアに見とれていたフィルだったが、直後、その気持ちは急速にしぼんでいくことになる。


 リアはつかつかと意識のないゴラムに近づいていくと、ありったけの声量で叫び始めた。


「ちょっとあんたっ! よくもやってくれたわね!! か弱い女の子さらって許されるとでも思ってんの!? ねぇ、聞いてんの!?」


 様々な感情が爆発したのだろう。感情の枷が外れたリアを見かね、カイトが恐る恐る声を掛ける。


「……リア、その辺にしといてやれ。そいつもう意識ねぇから」


 リアはゴラムを一瞥すると投げ捨てるようにゴラムの胸倉から手を離し、笑顔でこちらを振り返ると、笑いながら言った。


「さっ! 二人ともノクトを連れてさっさと帰るわよ。こいつらはその辺の木の蔓でも使って一応縛っておきましょう。バントの衛兵に言えば捕まえてくれるでしょう」


 颯爽と作業に移っていくリアとは対照的に、残された二人はその変わり身の早さに若干の恐怖を感じていた。


「なぁ、フィル。オレ、これからあいつと旅するの怖ぇんだけど」


 フィルはカイトの言葉に何も返さず、盗賊たちを縛るための蔓を黙々と探し始めた。

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