78.ガロの提案
二人一組で四手に分かれて情報収集をしていたフィルたちだったが、今日は今まで集めた情報を一度整理しようということで、再びダンの店に訪問している。
運ばれてきた料理を口いっぱい頬張りながら、ガロが喋り始めた。
「ふぁあ、ふぉふぉまふぇのふぉふぉをふぇいひふぉるんす」
「何言ってるかまったく分かんねぇよ」
リアに口の周りを拭き取ってもらったガロは、咀嚼したものを飲み込み一息つくと再び喋り始める。
「さぁ! ここまでの情報を整理するんす!」
「なんでお前が仕切ってんだよ。知ってんだぞ、エインと組んでた時にこっそり屋台で買い食いしてサボってたことをな」
「なっ、なんでそれを! はッ!? エイン、裏切ったんすね!?」
「裏切ってなどおらん。ただ『どんな話が聞けた』と聞かれたから『ガロが肉串を買った屋台の店主から興味深い話を聞けた』と答えただけだ」
「ったく。おっさんもあんましガロを甘やかすなよ? コイツ一回甘やかすとつけあがるからな」
ぎゃーぎゃーと騒ぎだすガロにカイトが噛みつき、エインが火に油を注ぐ形となっている。調査の話そっちのけで騒ぎだす三人を見かねて、ついにリアが雷を落とした。
「ちょっとあんたたち! いい加減にしなさい! 話が脱線してるわよ!」
「まぁとにかくここまでの情報整理しよう。じゃあまずはカイトとネイマールから」
「じゃあボクから説明させてもらいますね。ボクたちは主に街の西側で聞き込みをしてきました。ここの地域は一番最初に発症者が出たらしくて、死者数も一番多いみたいです。症状も聞いていた内容とほぼ一緒で、発症者に共通するような事項はなかったです。みんな誰かに恨まれるようなことに身に覚えはないと口を揃えて言っていましたね。あとはレミエーラさんにもの凄く感謝してましたよ。こんなとこですかね」
ネイマールの報告内容はおおよそフィルが把握しているものと変わりはなさそうだ。
「ありがとう。じゃあ次はエインとガロで」
「自分たちは街の北側を担当したが、内容的にはほとんどネイマールが言ったものと変わりはない。ただ一つだけ、メセロン首都から来ていた行商が言うには、外からの人間で発症した者は一人もいないそうだ」
エインは淡々と答えるが、外からの人間に発症者がいないというのは気になる点だ。
「なるほどね。じゃあ次はノクトとソフィア、お願い」
「私たちは東側を担当したのだけど、ここは最近になって発症する人が出始めたみたいで、解呪にも同行させてもらったの。だけど何回見ても”呪い”みたいな不定形なものに見えなかったのよ」
ソフィアの”呪いには見えなかった”という感想にはここにいる皆が同意している。
「じゃあ最後は俺とリアだね。南側はここ一ヶ月で発症者が出始めたみたいで、死者数も少ないらしい。だけど南側の中でも発症者が多い地域と少ない地域がはっきりと分かれてるみたいなんだ」
「結局どこも似たような状況ってことか」
「何人もの医者がお手上げなら単なる病気じゃないと思うんだ。それが何かさえ分かれば原因も突き止められると思うんだけど」
結局なにが発症者の身体の中で起こっているのかが分かっていない以上、原因を突き止めようにも動きようがないというのが正直なところだ。
議論が行き詰まりかけている中で、ソフィアが新たな視点で語り出す。
「ねぇ。みんなの報告を聞いて思ったのだけれど、これって北から西まで発症の時期が綺麗に分かれていない?」
ソフィアはそう言うと、近くにあった紙に時系列を書き出していく。こう見ると、確かに各地区で新たな発症者が半月周期で出始めているのが分かる。
「なんだかおかしいと思わない? まるで誰かが操作してるみたいに」
ソフィアがそこまで喋ると、今まで黙って聞いていたノクトが、何やらぶつぶつと後ろで喋っている。
「これって、もしかしてそうなのか……? でもそうだとしたら目的はいったい」
「どうしたんだよ、ノクト。何か分かったのか?」
「いや、分かったというか、可能性の話なんだけど。でもなぁ……」
ノクトは何かに気付いた様子だが、それを言おうか言わまいか迷っているようだった。そんな煮え切らない様子のノクトにカイトが痺れを切らす。
「なんだよ、歯切れが悪ぃな。なにが言いたいんだよ」
「あくまで僕の推測だよ? 今回の件はもしかしたら――――”毒”なんじゃないかって思ったんだ」
「毒?」
「うん。それなら発症者のコントロールもできるし、遅効性の毒なら徐々に身体を蝕んでいく理由も分かるよね? 毒なら病気じゃないから医者にも判別はつかないだろうし」
「なるほどな。だけどそれじゃあ……」
「うん。レミエーラさんは嘘をついていることになる。そしてこの状況で一番怪しいのはレミエーラさん本人だ」
「それは」
考えにくいというか、考えたくはない可能性だ。レミエーラが解呪と呼んで人々に接していた姿は、誰かを苦しめる人間の表情には見えなかったからだ。
フィルの苦々しい感情に気付いたのだろう。ノクトがあくまで可能性だということを強調する。
「フィル。可能性の一つだってだけだ。僕もレミエーラさんを疑いたくないし、対価をもらわずに解呪を続ける姿勢はすごいと思った。だけど、今まで出会った真羅は二人とも街に溶け込んでいたでしょ? 疑いすぎかもしれないけどね」
ノクトが乾いた笑い声を上げるが、裏付けされたノクトの言葉は確かに皆の心にレミエーラへの疑念の種を植えこんでいた。
フィルは先程ノクトが発言した内容について改めて考える。
仮にレミエーラが犯人だったとすると、住民たちに毒を盛ってそれを自分の手で治すことによるレミエーラのメリットはいったいなんだろうか。
毒による邪魔者の排除、治療による対価、住民からの支持。
そのどれもがいまいちフィルにはピンとこなかった。あと一つ、何かピースが欠けているような気がする。
「う~ん…………ん?」
辿り着けないもどかしさを感じながらフィルがふと顔を上げると、ソフィアの美しい金色の髪が目に入る。
そしてその髪の隙間から見えたのだ。
――――”緑色の痣”
「ソフィア、その首にあるはもしかして……」
「えっ?」
ソフィアが首元が見えるように髪をかき上げると、そこには薄っすらとだが、住民たちに現れているものと酷似した痣が浮き出ていた。仲間たちの反応で悟ったのだろう。普段は冷静なソフィアが慌てたように取り乱す。
「どっ、どうして……まだここに来て二週間も経ってないのに……」
「なんでソフィアに……もしかして!」
フィルは急いでソフィアの隣に座っていた人物の髪をかき上げると、予想通り同じ痣が浮き出ていた。
「やっぱり、ノクトもか」
ノクトにも薄っすらとだがソフィアと似たような形の痣が出ている。ノクトとソフィアに共通することは、二人とも東側で調査を行っていたということだ。
他の面々も発症していないか確認したが、二人以外に発症している者はいなかった。
「どうする? レミエーラさんに頼むか?」
カイトがレミエーラによる解呪を提案するが、敵である可能性があると一度疑ってしまった以上、何よりこの症状がレミエーラの手によるものかもしれないと思ってしまうと抵抗がある。
「もし、レミエーラさんが”真羅”だったとしたら、まず間違いなく、レイ・デルと戦った僕らの存在に気付いているはずだよ。そしてレイシェルフトの『思念片』を奪った仮面の男の存在がある」
ノクトが真剣に真羅だった場合のリスクを語る。この状況でレミエーラに解呪を頼むことは危険だと思うが、現状症状を改善できるのはレミエーラだけだ。
フィルが判断しかねていると、意外な人物から声が上がる。
「おいら、解毒薬の作り方なら知ってるんすよ?」




