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77.疑念

 翌日。


 レミエーラの自宅前に集合したフィルたちとレミエーラ、ダンは、今日の治療先である街の宿屋の前に来ていた。


「今日はここの主人の解呪をしますわ。今日は五人ですからまだいい方ですけど、多い日は十人診ることもありますの。それでも新しい発症者が出ますので追いついてないのが実情ですわ」


 レミエーラは少し疲れた表情で今のクレオの街の現状を語る。この街は今レミエーラが支えているといっても過言ではないのだ。他人のために力を尽くすその姿勢は素晴らしいと思うが、それで自分が壊れてしまっては元も子もないとフィルは思う。


「ごめんくださいませ。解呪に伺ったレミエーラですわ」


「あら! よく来てくださいました! ダンさんと……後ろ方々は?」


 元気よくカウンターから出てきたのはこの宿屋の女将だろう。レミエーラの後ろにぞろぞろと入ってきたフィルたちの素性が気になっているようだ。


「この方たちはこの街を襲っている呪いの原因を突き止めるために協力していただいている方たちですわ。怪しい方々ではないのであしからず」


「そうですか。なんにしても主人を見てやってください。三日前から例の痣が出始めて苦しみだしまして」


「分かりました。案内してくださいな」


 女将はレミエーラを主人が寝ている寝室へと案内すると、部屋の中で一人の男性が苦しそうな表情で横たわっているのが目に入った。男性の首元にははっきりと深い緑色の痣が浮き出ている。


 男性は部屋に入ってきたレミエーラたちが目に入ったのか、無理やり身体を起こそうとするのだがレミエーラに止められてしまう。


「そのままでよろしいですわ。少しお腹を触らせていただきますわよ」


 レミエーラはそう言いながら男性の寝巻を捲り腹に手を当てて目を瞑る。何かを探すように手を動かしながら徐々にその体から青い光を放ち始める。



「≪天女の涙(サキエル)≫」



 男性の腹に当てられたレミエーラの右手が淡く光を放つと、段々とその光が男性を包み込むように広がっていく。


 変化は劇的に現れた。


 まず、男性の顔が苦悶の表情から穏やかな表情へと変化し、首元に大きく浸潤していた痣は綺麗さっぱり消え去った。


「ふぅ。さぁ、これでもう大丈夫ですわ」


「これは……痛くない! どこも痛くないぞ!」


「本当かい? あんた、本当にもう痛くないのかい?」


 女将は目の前の出来事と夫の元気な姿が信じられない様子だが、主人の方は肩を回しながら快復したことを妻に見せている。


「このとおりもうどこも痛くない! レミエーラさん、本当にありがとう。なんとお礼を言ったらいいか」


 男性は目に涙を浮かべレミエーラに感謝の言葉を述べる。隣で手を握っている女将も同様だ。つい先日まで死を待つだけだった死の呪いが治ったのだから、その喜びと安堵は想像できないほど大きいのだろう。


「レミエーラさん。本当にありがとうございます。それで、いくらお支払いすればよろしいですか?」


 女将は主人の解呪を本当に感謝しているようで、レミエーラに今回の解呪に係る費用を問うが、レミエーラから返って来たのは意外な言葉だった。


「お礼は不要ですわ。元気で過ごすのが何よりのお礼ですわ」


「いや、さすがにそれは」


「いいんですの。二人でこれからもクレオの街を盛り上げてくださいまし。それだけで十分ですわ」


 レミエーラは笑顔で答える。


「なんて慈悲深いお方なんだ……レミエーラさん、何かあったら我々はあなたの力になりますから何でも言ってください!」


「ほほ。ありがとうございまし」


 それからレミエーラは、日頃の生活や他に困っていることはないかなど雑談を交わしながら一軒目の解呪を終え、一日かけて残りの四軒を回り同様に解呪を行った。


 見返りなどはすべて断っていたが、治療された住民が口々にレミエーラに感謝を述べる姿は、どこか熱心な信者のようにも感じる。


 同行を終えたフィルたちはレミエーラとダンと別れ、自分たちが借りている宿の部屋へと戻ってきていた。


「さて、みんなお疲れ様。とりあえず情報を整理してみようか」


「近くで見てたけどレミエーラさんは間違いなく保持者ホルダーだね。ただ、どんな能力かは近くで見てもよく分からなかった」


「そうなのよね。掌から晶素を流し込んでいたように見えたけど」


 ノクトとリアが、レミエーラの能力についてそれぞれの感想を言い合う。


 だが、フィルにはあれが呪いを解く行為だということに違和感を覚えていた。そして違和感を抱いていたのはどうやらフィルだけではなかったようだ。


「あれって本当に”解呪”なのかしら?」


 ソフィアが難しい顔をしながら疑問を投げかける。


「それはオレも思うんだよなぁ。まぁ、そもそも呪いなんか本当にあるのかどうかからオレは疑ってるけどな」


「ボクも呪いというよりはどちらかというと病気とかに近いような印象を受けました」


「だよなぁ」


「自分もあれを呪いと呼ぶにはいささか不自然なように思えた」


 カイト、ネイマール、エインが意見を出し合うが、みな一貫して感じているのはその不自然さだ。


 だが、今はそれ以上不自然さを追求する材料が手元にはない。原因を突き止めるためには発症者に詳しく話を聞く必要がありそうだ。


「やっぱりみんな同じように感じていたんだね。とりあえず明日から手分けして聞き込みしてみようか」


「そうだね。この街は行商の行き来も多かったらしいから、呪いに関する情報も集めやすいんじゃないかな」


 ノクトが同意を示すと、他の面々もクレオの街での活動に協力的な姿勢を見せる。今回もフィルが首を突っ込んでしまった感じになってしまっているが、仲間たちからは特に文句も言われず、自然と手伝ってくれている。それが諦めなのか信頼なのかは分からないが、ただただ仲間たちに感謝するしかなかった。



 そこから一週間、フィルたちはひたすらクレオの街で発症者に聞き込みを続け、情報収集に勤しむこととなった。

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