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75.這い寄る気配

 レイシェルフトの王都からドラへと進むこと二週間。


 国境を超えフィデリオ南部の、メセロンという農業国あたりまでフィルたちは進んでいた。


 フィルたちは、レイシェルフトを南下し、フィデリオの南沿岸沿いを通ってドラへと入るルートを選択している。


 ガロ曰く、ドラに入るためには龍族であるガロが結界を解く必要があるのだそうで、フィルたちは入れるのかと聞くと、どうやら龍族が認めた者は特別に入れるようになる仕組みが結界に組み込まれているらしい。


 フィデリオの国境を越えてしばらくは、腐海を右手に穏やかな沿岸沿いの街道を進んでいたのだが、徐々に次の町までの感覚が長くなり、前の町を出てからすでに四日が経過していた。


「なぁ、エインのおっさん。次の町まであとどれくらいなんだ?」


「おっさんではない。次のクレオの街まではそうだな、あと三時間程というところだろう」


「うげぇ。あと三時間も歩き続けるのかよ」


 カイトは舌を出しながら苦々しい表情を浮かべる。この四日間、たまに野生の獣や晶獣オーロを狩っていたのだが、それ以外は特に何もイベントはなく、ただひたすらに歩き続けていた。


「はぁ。早く宿でゆっくり休みてぇよ」


「おいらも早く休みたいんす~」


「おい、ガロ。そういうのはエインから降りて言え」


 エインに肩車されながら休憩しているガロにカイトが思わず突っ込む。ガロはエインの頭に自分の頭を乗せお休みモードだ。当のエインに重くないのかというと、「これも一つの修行だと思っている」と、自己鍛錬の方向性を間違えた発言をしていた。


「なんとか今日中には次の街に着きそうだね。さぁ、みんな。もうひと踏ん張りだ」


 フィルは仲間たちを鼓舞しながら、真っ直ぐ伸びる街道をひたすら歩き続ける。



 そして、歩くこと三時間。街への入り口がようやく見えてきたのだ。


「ようやく着いたんす! 美味しいものとお宝がおいらを待ってるんすよ~!」


 目線が高いので一番先に気付いたのだろう。木々の間を吹き付ける風で翡翠色の髪をたなびかせながらガロがエインから飛び降りて駆け出す。


「おい、ガロ。いきなり走るとこけるぞ」


 カイトが注意を促すがガロには関係ない。一直線に二人の門番が立っている街への入り口まで向かったが、なにやら様子がおかしい。


 基本的に今までの町や村では簡単な身分の確認などはあったが、言ってしまえばその程度の確認で、基本的には誰でも入ることができた。


 だが、今は街の中へと入ろうとしているガロを、二人の門番が険しい表情で止めている。


「なんでおいらが入れないんすか!」


「だから何度も言っているだろう! この街はいま外からの人間を入れる訳にはいかんのだ!」


 ガロに追いついたフィルは揉めているガロと門番の間へと割って入る。


「ガロ、ちょっと落ち着きなって」


「きみたちがこの子の保護者か? 今この街は外の人間を入れることはできん。悪いが引き取ってくれ」


 門番は頑な態度でフィルたちの入街を拒むが、その目は何か問題を抱えている人間の目をしていた。それが気になったフィルは思わず聞き返してしまう。


「失礼ですがこの街で何かあったんですか?」


「おいおい、この流れは」


 カイトが焦り出すがもう遅い。フィルがこうなった以上、どうやっても何かしらの厄介ごとに巻き込まれていくのだ。


「いまこの街では”呪い”が流行っている。そのためきみたちを街に入れる訳にはいかんのだよ」


「”呪い”?」


「あぁ。その呪いにかかると首に緑色の痣が出て全身を蝕むような痛みが体中に走り、次第にその痣が全身へと広がって最後には死に至る。最初は流行り病か何かなのかと思ったのだが、他の町や国では同じような症状が出ておらず、実際に連合首都から解呪術師を呼んで効果が出たのでみな確信したのだ。これは”呪い”だと」


 フィルたちは顔を見合わせる。


「ソフィア。人を呪って死に至らしめる方法なんて聞いたことがある?」


「ないわね。そもそもこの世に呪いなんてものはないと私は思ってるわ。可能性があるとしたら”保持者ホルダー”の能力とか、ね」


 聡明なソフィアのことだ。ソフィアはこれが”真羅ルーラーによる仕業”じゃないかと言っているのだ。


 可能性はゼロではない。保持者ホルダーの能力は千差万別であり、人を呪う能力があったとしてもなんらおかしくはないのだから。



 フィルは思い切って門番に提案する。


「すみません、もしかしたら私たちで何か力になれることがあるかもしれません」


「きみたちが?」


「はい。もしかしたらこれは呪いなどではなく、保持者ホルダーの能力による可能性があります。私たちの中には保持者ホルダーがいますから何か力になれるかもと思いまして」


「なんだと!? そのような能力が本当にあるのかね?」


「なのでこれはあくまで私たちの推測です。もしかしたら本当に呪いというものが存在するのかもしれませんし、違う要因で人々を苦しめているのかもしれませんから」


「分かった。少しここで待っていてくれ」


 フィルの提案を聞いた門番が街の中へと走り去ってから数分後。


 話を聞いてくれた門番は、後ろに二人の人物を引き連れてやって来た。一人はどこか暗い表情をした老齢な男性だで、もう一人はどこかが儚げな印象を与える女性だ。紫がかった髪をかき上げ、その目はフィルたちを興味深そうに見ている。


「待たせてすまない。紹介しよう。こちらがこのクレオの街の長のダンさんで、隣の女性が連合首都で解呪術師をしておられるレミエーラ殿だ」


「クレオの街で長をしているダンだ」


「解呪術師のレミエーラ・モロウと言いますわ。どうぞよろしく」


「フィリックス・フランツと言います。この街で起こっていることに何か力になれればと思いまして。お話を伺ってもいいでしょうか?」


「もちろんだ。聞けばレイシェルフトからはるばるやって来たんだろ? 今はどこも空いているだろうから、食事でもしながら話をしよう」


「やったんす! ようやくごはんなんす!」


 待ちに待った街での食事にガロは興奮するが、案内するダンの足取りはどことなく重い。さらに、これだけ大きい街なのにも関わらず、通りを歩く人が少なすぎる。


 しばらくダンの後を追って歩いていくと、大きな邸宅とその横に併設されている料理店が見えてくる。

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