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72.決意

「最後は私たち二人から皆に伝えたいことがある。まず私からだが、改めて御礼を言わせてほしい。今回の件、本当にありがとう。君たちがいなければ民をさらなる危険に晒してしまうとこだった。そして、私自身のことについても心から御礼を言わせてほしい。君たちのおかげで前に進むことができた。本当にありがとう」


 レオンは深々と頭を下げる。心からの感謝にフィルも言葉を返す。


「私たちは自分たちのできることを全力でやっただけですから。殿下と共に戦えたこと、私は誇りに思います」


「嬉しいことを言ってくれる。私はこれから陛下と共にこの国を支えるために全力を尽くす。もちろん『正義の救世主(ヒーローズ)』としても、ね。これからも良き友としていて欲しい。さて、後は姉さんだけだよ」


「…………」


 レオンがこの国の為に自らの決意を述べると、これまで成長を側でずっと見守ってきた師団長たちが目を潤ませている。肉体的にも精神的にも成長したレオンは、これから立派な王となっていくに違いない。


 そして、レオンから振られたソフィアの方を注目するが、話があるような素振りを見せつつもいつまで経っても話が始まらないため、見かねたレオンが助け船を出す。


「ほら、姉さん。言わないといけないことがあるんでしょ?」


「その……あの……」


 レオンが促すが、ソフィアは中々次の言葉が出てこない。言いづらいことなのか下を向きながらもじもじとしている。


 その様子に痺れを切らしたのは、この中で唯一、早く話を終わらせろと願っているであろうガロだった。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁ、も~~~~う限界なんすっ! お腹空いたんす! ごはん食べたいんす!」


「おいっガロ! 今いいとこなんだから静かにしてろ!」


「むりむりむりむりむりなんす!」


「あっ! ちょっ、待」


 ガロは一直線にソフィアの元へと駆け出すと、そのままの勢いでソフィアに抱き着く。


「きゃっ」


 絶対に王族にしてはいけない行為をガロはその無邪気さゆえ平気でしてしまう。ガロが突拍子もない行動をする度に、フィルは何度も牢獄行きを内心覚悟しているのだ。


 ガロはそのままソフィアの方を見上げると、小さい口を一生懸命動かしながら捲し立てる。


「ソフィアは、おいらたちと一緒に行きたいんすよね!?」


「なっ、なんでそれを」


「なんとなくわかるんす! ソフィアなら大歓迎なんす! フィルもいいって言ってるんす!」


「えっ? いや、あの」


「ほら! だから一緒に来るんす! おいらもう腹ぺこなんす!」


 ガロは自分の欲丸出しだが、ソフィアが自分たちと一緒に行きたいと言っていることがフィルには信じられなかった。自分たちの事情を聞いているはずで、何よりもソフィアの目的が分からない。


 それよりも、常識的に考えて王族をこんな危険な旅に連れていくわけにはいかないと思ったフィルは、諦めたような申し訳なさそうな表情でこちらを見ているソラベルの姿を見た瞬間すべてを悟った。


「と、いう訳でフィル殿。ソフィアも連れて行ってはもらえないだろうか。この国の為にも本人自身の為にも、ソフィアは変わらなければならぬ。その意志を余は尊重したい。本人は危険を承知の上で申しておる。それに一人ではなくエインも同行させよう。どうか頼まれてはくれぬだろうか?」


 国のトップからお願いされるのはいったいこれで何回目なのだろうか。


 ここまで話が固まっているということは、恐らくフィルが今ここでいくら言ったところで無駄なのだろう。エインも付いて来てくれるということだし、本人が危険を承知の上ならば断る理由がない。


「分かりました。ですが本当に危険な旅になります。それだけは覚悟しておいてください」


「……ほんとに一緒に行っていいの?」


「えぇ」


「あっ、ありがとう!」


 それはシロとはまた違う、満開の花のような美しい笑顔だった。


「ソフィアよ。中途半端な覚悟では足手まといになる。覚悟をもって自分が何を成さんとしたいのか、それをしっかりと学んできなさい。自分だけのためではなく、誰かの幸せを願える人間こそレイシェルフトの王族に求められる姿であるからな」


「はい」


「エインもソフィアを頼んだぞ。ソフィアの為を想うそなたの忠義は称賛に値する。だが、自分が進む道は自分で選択しなければならぬ。幸せの形は己が心のみだということを努々忘れるな」


「御意」


 この国の王が目の前の人物である限り、この国は安泰だろう。そう思わせてくれる程、王として、一人の人間として尊敬すべき姿だった。


「これでぜんぶ終わったんす! さぁ、早くごはん食べに」


――――ぐぅ~


 ガロがすべて喋りきる前に、盛大な腹の音が謁見の間に鳴り響いた。当然、みな最初はガロだと思ったのだが、顔を真っ赤にするソフィアを見てしまった一同は、すべての事情を察知する。


「ほら! お姉ちゃんも――――もごぉ」

「いやぁ、ほんとウチのガロがすいませんねぇ。陛下、そろそろ食事に行ってもいいでしょうか?」


「わっはっはははは! 難しい話はこれで終わりにしよう! 皆のために城内の料理人が腕によりをかけて作った料理だ。存分に食べるがよい」


 だが、ガロは自分が犯人にされそうになっていることに気が付くと、カイトに反論する。


「さっきのお腹の音はガロじゃないんすよ! あれはお姉ちゃんが」


「ガロ、お前ちょっと黙ってろ」


 がやがやと謁見の間から出ていく仲間たちの背中を見ながら、フィルも出ていこうとするが、後ろから掛けられた声にフィルは呼び止められる。


「フィル殿」


 振り返ると、そこには穏やかな顔でこちら見ているソラベルの姿があった。


「人の命を奪う行為は等しく悪だ。貴殿が最後、奴に手を伸ばしたこと。それは気高く立派な行動だったと私は思うよ。気に病む必要などない」


 フィルはソラベルの言葉に衝撃を受ける。


 それはフィルが仲間たちにも言えずに胸の内に秘めていた想いだった。


 フィルはどうしても人を殺すことに抵抗があった。どれだけの悪人であっても、それが甘さだと分かっていても、フィルにはその一線がどうしても超えられなかった。


「フィル殿のそれは”甘さ”などではない。人を傷つけるためではなく、人を助けるために力を奮うことが間違っているはずがない。自らの信念を貫きなさい」


 ソラベルの言葉に感情が込み上げ、思わず胸が熱くなる。レオンの時もそうだったが、自分がやっていることを間違いじゃないと認めてもらうだけで、こんなにも気持ちが軽くなるのかとフィルは感じていた。


 ソラベルの激励にフィルは迷いなく答える。


「はい!」


「それでよい。さぁ、共に行こう」


 フィルはソラベルに追従するように謁見の間を出る。


 レイシェルフトという国はこれから今まで以上に発展していくのだろう。


――――自分たちももっと成長しないと


 フィルは王城の窓から飛び立つ鳥たちを見ながら思う。



 長く続く廊下をフィルは力強く進んでいった。

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