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7.光の奔流

 暗闇に野太い声が反響する。


 後ろを振り返ると、フィルたちを威圧するように獣のような男が立ち塞がっていた。


「足音が出ないようにしたみたいだが素人丸出しだな。こいつらには通用するかもしれねぇが、おれぁすぐ気付いたぜ? おい! てめぇら起きろ! お客さんだ」


 男の一言に盗賊たちが続々目を覚ます。考えうる限り最悪の状況だった。


 カイトとノクトも急いで駆け付け盗賊たちを睨みつける。


「おめぇらちょっともてなしが足りなかったようだぞ。 行け!」


 盗賊たちが一斉にフィルたちへと襲いかかる。


 盗賊は全部で八人。お頭と呼ばれる男と商人の変装をしていた男、それとその部下たちだ。部下の一人はフードをかぶり顔が見えない分、不気味な雰囲気を醸し出している。


「盗賊風情が調子に乗ってんじゃねぇぞ!」


 怒りに身を任せ、カイトが近くにきていた盗賊に殴りかかる。手下と言えどもやはり戦闘慣れしてるのだろう。ろくな戦闘経験もないカイトの拳は簡単に躱されてしまい、その隙に二人の盗賊がカイトを押さえつけ、殴りかかった男に逆に殴り返されてしまう。


「がっ」


「カイトッ!」


 フィルはリアを後ろに下がらせながら盗賊たちと一旦距離をとる。唯一武器を持っている自分が覚悟を決めなければと思っていた。


 守るために人を殺す覚悟を。


 その時、ノクトの方から苦悶の声が聞こえてくる。ノクトはカイト同様地面に倒され、黒フードの男に頭をつかまれ地面に押さえつけられていた。


「ぐぁぁぁぁぁぁ!」


「やめろッ!」


 フィルは黒フードに掴みかかるが、あっさりと躱されてしまう。黒フードはフィルの首を掴むと腹に容赦のない蹴りを打ち込み、尋常ではない衝撃にフィルは思わず膝をついてしまった。


「おいおいお前ら本当に弱ぇな。おい、そいつらに”痣”はあるか?」


「こっちの金髪と灰色はそれぞれ腕にありますぜ! 青色のガキには……見当たりませんね」


 金髪と灰色はカイトとフィルのことだ。青色のガキはノクトのことを指しているのだろう。フィルは顔を押さえつけられているので二人の姿は見えなかった。


「じゃあそいつらは一応確保だな。そっちのガキは使えねぇし適当に捨てとけ」


 フィルは男の発言がどうしても許せなかった。


「…………取り消せよ」


「あん?」


「今の言葉を取り消せ! 俺の仲間をおまえらのくだらない価値観で測るな」


「うるせぇなぁ。二度とそんな口がきけねぇようにしてやるよ。おいっ! その灰色を離してやれ!」


 部下に指示を出しながら男は腰につけていた剣を引き抜く。その剣は刃こぼれがひどくあちこちが欠けており、とても人を斬れるようには思えない。


「おれぁ剣をすぐダメにしちまうんでな、こんな刃こぼれたやつを使ってんだ。まぁ斬れ味なんか関係ねぇ。結局変わんねぇからな」


 男はフィルが立ち上がるのを見ると、獰猛な笑みを浮かべながら口を開く。


「おれぁ、ゴラム・バーデンハイクだ。この名をしっかり頭に刻みながら逝けや」


 そう言うと、ゴラムはぼんやりとしたオーラのようなものを纏い始める。フィルが纏う光を認識した直後、気が付くと成す術なく吹き飛ばされていた。


「かはっ」


――――なんだ今の動きは


 目で追うことすらできない常人の動きを越えた速度に、フィルは全身を打ちつけた痛みに耐えながらも驚きを隠せなかった。そんなフィルの心を見透かしたかのように、ゴラムが口を開く。


「これが”晶素を使いこなす”ってことだ。適合者アダプタならこれくらいできて当然だぞ?」


「がっ」


 ゴラムが喋りながら一方的にフィルを殴りつける。フィルはされるがまま何度何度も殴りつけられた。


「もうやめてっ!!」


 そんなフィルを見ていられずリアが泣きながら懇願するが、ゴラムの手は止まることはない。


「ちっ、意外としぶてぇな。ちゃっちゃと片づけるか……おい、小僧。特別に()()()()()()()()を見せてやるよ」


 ゴラムの纏うオーラのようなものが変質し始め、今までぼんやりとしか見えなかったものが、明らかに青色と認識できるほど色濃くなっていく。ゴラムは、先程とは比べ物にならない威圧感を放ちながら、まるで晶素をまとった猛獣のように咆哮を上げた。


適合者アダプタの中でも特殊な技能を発現した者。晶素に愛された存在。それが、”保持者ホルダー”だ」


 フィルはゴラムが右手に持つ剣に晶素が集中しているのを、朦朧とする意識の中で見ていた。あの攻撃を受けたらまずいと本能が告げるが、接近する敵を見ても体が一歩も動かない。



「吹き飛べや。≪旋牙ホワールファング≫」



 男は体を回転させながらフィルを斬りつける。斬られた衝撃とともに突風が巻き起こり、フィルは声も出せず吹き飛ばされた。


「フィルッ!!」


「ようやく沈んだか。やっぱりこの力を使うと疲れちまうな。おいっ! 騒がれても面倒だし他のやつらも喋れねぇようにしとけ。売る分には問題ねぇからな」


 ゴラムはすでに決着がついたかのように部下たちに話しかける。


 先程の一撃を受けたフィルの体はもう限界だった。口の中はあちこち切れ、立つだけで痛みに意識が飛びそうになる。


 だが、それでもフィルは立ち上がる。


「…………おいおい、あれだけくらってなんで立てる」


 フィルは切れ切れに、だがはっきりとゴラムに告げた。


「仲間が……泣いてるからだ……仲間を……傷つけるやつは……絶対に……許さない」


 フィルの折れない心にゴラムは怒りで顔を歪ませる。


「できもしねぇ綺麗ごとを並べるやつを見るとおれぁ吐き気がする。今度こそ口がきけねぇようにしてやるよ」


 再び剣を携え向かってくるゴラムを見据えながら、フィルは魂を震わせ心を開放する。

 

「俺はこんなにも弱い! 弱いけど!」



――――仲間のために誰よりも強くありたいと願う!




 その瞬間、フィルの体を途轍もない光の奔流が包み込んだ。


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