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69.仮面

「終わった……のか」


 気を張っていた力が抜けフィルはその場に座り込む。ソフィアは力を使い果たしたのか気を失ってしまっていた。


 手を動かすことさえ億劫だったが、近くで倒れているシロのことが心配になり声を掛ける。


「シロ。大丈夫かい?」


 シロはもう泣いてはいなかった。だが、何かをフィルに必死に伝えようとしている。


「ゆっくりでいいよ。自分の思っていることをそのまま言ってごらん」


 シロはフィルの目をまっすぐ見つめながら、息を大きく吸い込むとゆっくりと話し始めた。


「シロは……失敗作だって……生きてちゃいけないんだって言ってた。シロは……おにいちゃんたちといっしょにいて……楽しかった。でもおにいちゃんたちとは違うって。シロは人間じゃない? いなくならないといけない?」


 必死に自分の気持ちを伝えようとするシロに思わず胸が詰まる。


 生みの親から自分の存在を否定され、自らの”生”に疑問を持っているシロに対し、フィルはシロの問いかけを否定する。


「シロ。シロは失敗作なんかじゃないよ。俺たちの大切な仲間で、れっきとした人間だ。この世に生きてちゃいけない人間なんて一人もいないんだ」


「ほんと? シロは生きててもいい?」


 シロの目から再び涙が溢れ出す。


「もちろん。シロの帰る場所はここにあるから」


 フィルは泣き続けるシロの頭を優しく撫でる。辛い現実を突きつけられ、生を否定された。それでも生きたいと願うシロの姿を、フィルは誇らしいと、そう思えた。


「フィル、シロ、大丈夫か?」


 カイトが心配そうに声を掛けてくるが、当のカイトもフィルたち以上に酷い有様だ。意識を失っていた他の面々も起き上がっているようで一先ず安堵する。


 王とホルガーも相当なダメージを負っていたが、レイ・デルが消滅したと同時に立ち上がり、痛みを堪えながら兵を呼び、すでに事後処理に取り掛かろうとしていた。


「なんとかね。カイトは大丈夫かい?」


「肋骨を何本かやられちまったな。後はまぁ、全身が痛いのはみんな同じだろうよ」


 気丈に振舞って笑っているが、肋骨以外の部分も相当痛むはずだ。こんな時でも仲間たちを鼓舞しようとする友の姿にフィルはただただ感謝するしかない。


「さぁ! みんな無事なことだしさっさとアレを回収して引き上げようぜ。さすがに今日はゆっくり休みてぇよ」


 カイトが指し示したアレとは、レイ・デルが立っていた場所に落ちていた、『嫉妬の思念片』と呼ばれていた例の宝石のことである。それは曇り空から覗いた日の光を浴びて怪しい光を放っていた。


 奴らにとってこれが何を意味するのかは分からないが、今回の件で、奴らの狙いは間違いなく『思念片かけら』と呼ばれる代物だということがはっきりした。


 フィルは重い足を引っ張りながらゆっくりと宝石に近づいていく。ヴィリームで預かった『聖片』もそうだが、フィルはなんとなく感じるのだ。


――――嫌な感じだ


 理由は分からなかったが、何となく持っていて気分が良いものではない。


 フィルはしげしげと手に持った宝石を見つめる。なぜこんなものが必要なんだろうかと不思議に思いながら、フィルはふと顔を上げる。



 いつからそこにいたのだろう。


 

 仮面を付けた男が目の前に立っていた。



「えっ」


 こちらに手を伸ばそうとするカイトがスローモーションに見える。


 気配もなく突然現れた男にフィルは咄嗟に距離を取ろうとするが、男の手によって周囲の景色は一変する。



「≪絶対零度グラス・ゼロ≫」



 男の低く冷徹な声が木霊すると、直後、辺り一面が白銀に包まれ、周囲の気温が急激に低下し始める。体温が下がったことで肉体活動が著しく低下する中、フィルは必死に仲間たちの方へと手を伸ばした。


 不意に後ろに気配を感じると、先程の仮面の男がフィルの頭を掴まんと迫っている。


 フィルはそれを防ごうと身を捻り避けようとするのだが、寒さのせいで思うように身体が動かない。



「フィル――――ッ!」


 視界は男の手によって埋め尽くされ、フィルはそこで意識を失った。



―――――――――――――


―――――――――――


――――――――


――――――



「ここは…………」


 視界がぼやける中、フィルは目を開く。気を失う前の最後に見た光景が脳裏に過り、胸に手をあて自分がまだ生きていることを実感する。


「フィル! 起きたのね!」


 嬉しそうに駆け寄ってきたのはリアだ。手に持った果物を置くと、側に置いてあった椅子に腰掛ける。


 ここは王城の中にある医務室なのだろうか、フィルの周りには水や包帯、拭身用の布などが置かれている。


「まだ寝てた方がいいわよ。結構ひどい怪我だったみたいだから」


「確かにまだ全身が痛い。どのくらい寝てた?」


「そうね……たぶん半日くらいじゃないかしら」


「半日も……そうだ! 他のみんなは!? 王都の人たちは!?」


「落ち着いて。他のみんなも全員無事よ。王都も建物の被害はかなり大きくて怪我人もたくさんいるみたいだけど死者はいないそうよ」


「そうか。よかった……」


 仲間の無事と王都の状況を聞いたフィルは一先ず安堵する。だが、フィルにはそれ以外に気になっていたことがあった。


「そういえばあの仮面の男はあれからどうなった?」


「フィルが手に持っていた宝石を奪ってすぐにその場から立ち去ったわ。こっちを振り返ることもなくね。私たちに止めを刺さなかった理由は分からないけど、少なくともあたしたちに敵対する何かなのは間違いないわ」


「…………」


 意識が途切れる間際、仮面の男に頭を掴まれた時にフィルが感じたのは、一方的に身体の自由を奪われる恐怖だった。気配なくフィルたちの前に現れたことと、あのような大規模の力を発現できるということ、相当な実力を持つ保持者ホルダーだったということだ。


 もし、あのレベルが他にもいるのだとしたら、今のままでは絶対に勝てない。そうフィルは感じていた。


 悶々と一人思考の檻の中に囚われていると、リアがフィルのほっぺたを摘みながらたしなめる。


「こらっ。病み上がりでまたそんな険しい顔して! 今はちゃんと休みなさい」


 リアが口を膨らましながら眉間に皺を寄せている。フィルはこれ以上リアを怒らせるのは得策ではないと思い、素直にその指示に従った。


「分かりましたよ。じゃあお言葉に甘えてもうちょっと休ませてもらうよ」



 そう言うとフィルは再び身体を預けまどろみはじめる。


 部屋の入口に立っている人物がこちらを見ているのに気付いたが、襲ってきた眠気には勝てず、フィルは再び意識を手放した。

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