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64.襲撃

 模擬戦が終わってから二時間後。


 カイトの治療が終わり、フィルたちは宿へと引き上げ早々に体を休めた。


 翌日からは修練場で他の兵士たちと模擬戦をしたり、展示会の準備を手伝ったりと忙しく動き回っていた。模擬戦にはレオンも積極的に参加するようになり、時には師団長が顔を覗かせ、ちょっとしたイベントのようになっていた。


 ちなみに、戦いを未だに怖がっているガロも模擬戦に参加したのだが、相手になってくれていたレイシェルフト兵が向かってきた瞬間、最大火力で眠りの木種ドルミーレ・フォレストをぶっ放したため、模擬戦が一時中断になった。



 数日後、作戦決行の日を翌日に控えたフィルたちは、最終の調整を終えレオンと手を振って別れていた。


――――あの日から一度もソフィアとは会っていない


 模擬戦にも現れず、王城内でも一回も姿を見かけなかった。聞けば、あれからずっと自室に籠って出てこないらしい。


――――自分はただソフィアの傷を深くしてしまっただけなんじゃないか


 悪い癖だと思っているのだが、どうしても良くない方向に考えてしまう。


 仲間たちと談笑しながら明日の準備を進めるフィルだったが、胸の中にしこりを残したままその日は眠りについた。


 夜が明け展示会当日。


 一週間前から王都の住民に開催の知らせを流したところ、どうやら予想以上の反響があったようで、会場の警備体制を大幅に増員することになったらしい。


 今日はあいにくの曇り模様で空は仄暗い色をしており、王城への道程も普段より重く感じる。どことなく緊張しながら王城の会議室に集められたフィルたちは、改めて今日の動きについて幹部たちと打合せをしていた。


「では今日の動きを改めて確認する。レイドよ、説明を」


 レイド・フォーカス。


 レイシェルフト軍の第一師団長を務め、各師団をまとめる統括の地位に就いている男だ。短く刈り込まれた髪とその澄んだ青色の目が特徴で、この中では年齢が一番上のように思う。


「はっ! それでは私から説明させていただきます。今日は東門から出て五分程度にある演劇場跡地を展示会場といたします。敵がどこから現れるか分かりませんので、展示会場を円状に囲むように兵を配置いたします。第一師団が北、第二師団が東、第三師団が南、第四師団が西を担当し、第五師団を王都内に配置いたします。第零師団は王城の守護を。そしてみなさんは事前にお聞きしたとおり配置いただいて構いません。陛下は後ほど会場へ」


 今回は、ネイマールとシロが王城に、フィルとリアで会場までの通りを、カイトとガロは会場東側にある墓地側の見張りを、ノクトは会場内で待機することになっていた。


「うむ。皆、それで異論はないな? ではそれぞれ配置に――――」



 王が号令を出そうとした、その時だった。



 一人の兵が血相を変えて会議室へ入ってくると、不敬を咎められる前に必死な様相で伝える。


「伝令! 王都内に正体不明の敵が出現! 国民が襲われております!」


「なんだと!?」


 先程までの雰囲気は一変、動揺が会議室内を駆け巡る。


「被害状況は!? 正体不明とはなんだ!?」


「建物の被害多数! 兵により住民の避難を開始しておりますが各地で同様の事態が起こっており避難が進んでいない模様です! 敵は複数の死人を引き連れている人型の化け物とのことです!」


「……どういうことだ」


 軍を統括するレイドは急な襲撃に動揺する。


 だが、王は冷静に、力強い声を会議室に響かせた。


「我がレイシェルフトの民はこの程度のことで屈しはしない。負ける要素がどこにある? 臆する必要がどこにある? レイシェルフト軍よ今こそ使命を果たせ! 民を守る矛となり民を守る盾となれ!」


 その場にいる全員が王の言葉で冷静さを取り戻す。


 王としての言葉の一つ一つが不安を吹き飛ばし、みなを奮い立たせる。


「第一師団は北区へ、第二師団は東区、第三師団は南区、第四師団は西区へ向かえ! 各部隊長は隊を率い敵を殲滅せよ! 第五師団は各門の外側に避難所を開設し誘導せよ! 第零師団は親衛部隊以外は城内の警備につけ! 散開!」


「「「「はっ!」」」」


 レイドの一言で、師団長含む幹部が一斉に会議室を出ていく。


 後に残されたのはフィルたちと零師団の面々、レイシェルフト王、そしてレオンだ。


 仲間たちからは早く自分たちも行こうと声が上がる。


 だが、フィルは違和感を感じていた。


――――奴らの目的が急に変わったのか?


 このタイミングで王都を襲撃する理由が分からない。


 今騒ぎを起こせば警備だって余計に――――


 「そういうことか……!」


 「フィル!」

 「フィルさん!」


 見ればノクトとネイマールが目で訴えかけている。聡明な二人のことだ、フィルと同じことをすでに思い至ったのだろう。


――――王城に危険が迫っている


「陛下、敵の狙いは恐らくここから戦力を取り除くことです! 今、あの宝石はどこですか!?」


「なに? 恐らく今は運搬のために余の私室から運び出そうと……まさか」


 一行は会議室を飛び出し国王の私室へと急行する。


 張り詰めた緊張感の中、フィルは一つの結論を出した。


――――()()()()()()()()()()


 最初からこれが狙いだったのあれば、あまりにもダイミングが良すぎる。それにこの展示会でおびき出すことを決めてから、死人騒ぎはぴたっと収まっていた。


「間もなくだ! そこの角を――――」


 エインとホルガーの先導の元、国王の私室へと繋がる通路の最後の角を曲がる。


「やられたッ……」



 フィルたちが追いついた先で見たものは、通路に倒れている複数の兵の姿だった。

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