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58.模擬戦

 研究所を出た一行は昼食を取りながら、それぞれの能力について色々と議論を交わしていた。


 驚かされたのはレオンの知識の深さだ。


 様々な分野に精通する範囲の広さと、知識として語ることができる頭の回転の速さは目を見張るものがある。


 さすが晶素研究の最先端であるレイシェルフトの王子だと思ったのだが、その恰好のせいでフィルたちは他の客の視線を集めてしまい一向に話に集中できない。


 だが、当の本人はまったく気にすることなく談笑しているためフィルも途中から気にするのが馬鹿らしくなってしまった。周囲を巻き込む力もレオンの魅力の一つなのだろうかとフィルは思う。


「フィルさん。これからどうするんですか?」


「もう一度情報収集に回ろうと思ってたけど、何かあるのかい?」


「いや、実はですね……」


 ネイマールはちらとガロの方を見る。だが、ガロはその小さなあごを突き出しながらネイマールに早く言えと促している。


「あの、なんかガロが故郷の友達にお土産を買いたいらしくてですね。王都を見て回りたいと言ってまして。まぁボクも商人として興味があるので見て回りたい気持ちは分からなくないですが」


 なんともガロらしい理由だ。


 おおかた自分で言うとカイトあたりに駄目だと言われかねないので、ネイマールに言わせたのだろう。ネイマールもそれが分かった上で、ガロだけが責められないようにああ言ったのだ。


「ふふふっ。分かったよ。じゃあ今日の午後は自由にしようか」


 その瞬間、ガロがぱぁっと表情を輝かせネイマールに飛びつく。


「うぉ! すみません、フィルさん。ドラの友達のことをすっごいボクに言ってくるんでさすがに不憫で」


「いいんだよ。休息も必要だからね」


 その日の午後は結局ミスタージャスティスの案内のもと、王都での買い物を楽しんだ一行だった。



 それから一週間、墓地を巡ったり違う酒場に行ったり王城周辺の住民へ聞き込みに行ったりと、忙しい毎日を過ごしていたが、真羅ルーラーに繋がる有力な情報は出てこなかった。


 気になっているのが、フィルたちが王城で王と謁見した日から、ぴたっと死人の目撃が止まったことだ。


 ただの偶然なのかそれとも――――


 レオンとも次第に打ち解けてきたある日、来る戦いに備え、戦力強化の目的でフィルたちはレイシェルフト軍で模擬戦をすることになっていた。


「みんな、今日の予定だけどちょっと付き合って欲しいことがあって」


「今日はレイシェルフト軍と模擬戦だろ?」


「その模擬戦なんだけど、実はソフィア王女とレオン王子のことで考えがあって――――」


 フィルは国王から王女と王子の事情について話を聞いてから、自分なりに考えた案を仲間たちに伝える。ずっとあの二人のことをどうにかしてあげたいと考えていた。そして、自分なりにこの一週間考えていた事を仲間たちへ提案したのだ。


「……なるほどねぇ。でも、そりゃちょっと強引すぎじゃね? 拒否されたらどうしようもできねぇし、国王の御前でもあるんだろ? なおさら難しいと思うぜ?」


「分かってる。けど模擬戦っていう状況で、しかも自分たちの父親が見ている状況なら、あの二人なら逃げだすことはない、そう思うんだよ」


「やけに肩入れするな。いつもならそこまで踏み込まねぇだろ」


 フィルは今まで助けを求めている人がいればその手を掴んできた。それは、押し付けではなく、その人たちが助けを必要として求めていたからだ。だが、今回はレオンからもソフィアからも、レイシェルフト王からも何かを言われている訳ではない。


 手を貸して欲しいと言われたのは事件解決の事であり、ソラベルからはレオンの支えになって欲しいと言われただけなのだ。


 だが、それでもフィルは二人の力になりたいと思った。


 普通に生きていればまず会う事のなかった歳の近い王族の二人。


 自分の力に苦しみ、嘲笑されながら足掻き続けるレオン。


 大切な人を傷つけ、信じる者たちすら失ってしまったソフィア。


「二人からしたらただのお節介だろうね。みんなはソフィア王女に会ってないから分からないだろうけど、俺には確かに聞こえたんだよ。”助けて欲しい”って。虚言を吐き続けて閉じこもってる王女の一言で片づけられても、自分の信念を曲げようとはしていなかったよ。俺はその意志を信じたい」


「そこまで考えてるならこれ以上オレは何も言わねぇよ。王女もレオンも必死なのは伝わった」


「あの仮面の人、なんだか無理してたんす。ずっと辛そうにしてたんす」


 ガロも珍しく神妙な面持ちで感想を述べている。他の仲間たちも静かに頷いているのを見ると、どうやらフィルの考えに賛同してくれたようだった。


 そうこうしている内にいつの間にか約束の時間が近づいてきていた為、フィルたちは慌てて宿屋を出て王城へと向かった。


 時刻は朝の時間を少し回ったところではあるが、人々は活発に街を行き交っており、通りは喧騒に包まれている。


 すでに何度目かの王城に到着したフィルは、顔なじみとなった門番に声を掛け今日の目的地である修練場へ案内してもらった。


「広っ」


 フィルたちは案内された修練場の広さに圧倒される。一般的な民家が二十軒は入りそうな程の広大な土地が綺麗に整備されている。


 両端には観客席が設けられており、年に一度の武芸を競う大会の会場にもなっているそうだ。


 観客席の一際高い位置にレイシェルフト王、レオン王子が横並びで並んでおり、側に遠目からでも分かる程のオーラを放つ武人たちが立ち並んでいる。


 フィルたちに気付いたのか国王がこちらへ手招きをしており、近づいていくとその層々たる面々に驚いてしまった。


「陛下、おはようございます」


「うむ。よく休めたかな?」


「はい。本日はよろしくお願いいたします。ところで陛下、そちらの方々はもしやと思いますが」


「今日は模擬戦ということで、我が軍がどれだけ屈強かということを分かってもらおうと思ってな。せっかくなので各師団長に来てもらった。存分にぶつかるとよい。わっはっはははは」


――――冗談じゃない


 いくらフィルたちが戦いを経験してきたからといって、レイシェルフト軍の師団長レベルと戦えると思っている程うぬぼれてはいない。


「……えっと」


「どうした? こちらはすでに準備できているぞ? 好きな相手を選ぶがよい」


 師団長たちのギラギラとした目線が突き刺さる。


――――好きな相手なんているわけないだろ


 予想以上の相手に当惑しているフィルを察したのか、はたまた自分がそうしたかっただけなのか分からないが、カイトが助け舟を出す。


「陛下、ちょっといいですか? まだオレたち準備する時間が欲しいんで、その間そちら同士の模擬戦を見せていただくことはできますか? 例えば……そちらのエイン部隊長とどなたかとか」


「カイト。まだ、捕まった時のことを根に持ってんの?」


「うるせぇ。別に根に持ってねぇ」


「はぁ」


 不敬とも取られかねないカイトの発言に当のエインは不快そうな表情を見せるが、意外なにも国王から許可が出てしまう。国王自身も何か考えがある様子で考え込んでいた。


「ふむ、いいだろう。エインの相手はそうじゃな……よし! ホルガー・クリストハルト第零師団長。貴殿が相手をしてやれ」


「御意」

「!?」


 驚きで目を見開くエインを尻目に、指名されたホルガーという男は冷静に淡々と準備を進める。


 白髪交じりの髪を後ろに撫で付け、額には大きな傷が目元にかけて走っている。立ち姿から分かる圧倒的な強者の風格と、同じ保持者ホルダーとして、能力者としての格差を遠目からでも感じた。


「……おい、カイト。なんかすごいことになっちゃったぞ」


「いいんだよ。これでレイシェルフト軍の実力がどんなもんか知れるじゃねぇか」


 両者が修練場の中央部に降り、一定の距離を取って対峙する。



 だが、王の号令を待つ両者を包む空気は、とても急遽決まった模擬戦の雰囲気などではなかった。

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