57.力の本質
瞬間、急速に光が収束したかと思うと、先程のエインが技を放った時のような暴風が吹き荒れる。風が収束した時その場にいたのは、リアを守護するように身を固めている一匹の蛇だった。
その蛇はとても美しかった。
リアの髪色と同じ赤味がかった体表は滑らかな光沢を放っており、その目には知性が読み取れる。その額には≪勇敢小兎≫と同様、リアと同じ晶紋が刻印されていた。
「予想通りっすね。リアちゃんの能力はこれで間違いなさそうっす」
「この子たちが」
リアは≪勇敢小兎≫と≪信信蛇≫をじっと見つめる。二匹も同じようにリアのことを見つめ返していた。
「最後にリアちゃんに伝えたいことがあるっす。さっき測定した時に気付いたっすが、リアちゃん、その子たちはもちろんそのまま戦うこともできるっすが、本来の能力はたぶん違うっす」
「えっ?」
「リアちゃん、君の能力の本質は君自身の強化っす。≪勇敢小兎≫は攻撃力を、≪信信蛇≫は防御力を上げてくれてるはずっす」
――――この人は本物だ
フィルはマキナの研究者としての実力に圧倒されていた。ただ能力を測定するだけではなく、それぞれが秘めている可能性を引き出そうとしてくれている。それがどれほど難しく高度な理解力が必要かフィルには想像もできない。
「そんな力があったなんてあたし今まで全然知らなかった……でもこれで今までに以上に強くなれるってことね。ありがとうマキナさん!」
「お礼なんていいっすよ。研究者としての仕事を全うしているだけっすから。ふぅ、じゃあ、お次はノクトくんっすね」
「はい」
指名されたノクトは少し緊張している面持ちだ。
「ノクトくんは保持者ではないっすから特殊っすけど、他のみんなと原理は一緒っす。吸収と放出をその指輪が担ってくれてるっす。正直その指輪、分解してめちゃくちゃ研究したいっすよ」
「だっ、駄目ですよ」
「冗談っす。そんでノクトくんはたぶんこの中で一番晶核が大きいっす。晶素の波動も大きくて循環させるスピードも驚くほど滑らかっす。ぶっちゃけ人間離れしてるっす。だからあんまり助言できることは少ないっすけど、ノクトくんはその指輪が生命線っすから、指輪がなくなった時に自分がどう行動するか、考えておいたがいいっす」
「……はい。ありがとうございます」
ノクトにとっては厳しい言葉だ。村を出てから仲間たちが次々に覚醒していく中で、ノクトが劣等感や焦燥感を感じていたのをフィルは知っている。
指輪のおかげでノクトの戦力は仲間たちの中でもトップクラスになった訳だが、その力を失った時のことを考えておけというマキナの指摘はとても厳しいように思えた。
「ふぅ。あ~、疲れったっす。こんな密度の濃い研究発表は初めてっすよ。疲れたんでフィルくんのはもういいっすか?」
「いいわけないじゃないですか! もったいぶらず教えてくださいよ」
「え~? だって言えることなんてほとんどないっすもん。ぶっちゃけフィルくんの能力は何にも分かんなかったっす」
「は?」
「晶紋も不明、どんな力なのかも分からない、原因も不明。能力の発現の方法は他のみんなと一緒っすけど、それ以外は一切分かんなかったっす」
フィルは他の四人と同様、何かしらの情報が分かると思っていたが、まさか何も分からないとは思いもしなかった。
納得できないフィルは食い下がる。
「いや、何かないんですか? 能力の傾向とか方向性とか……何かあるでしょ」
「びっくりする程ないっす。通常、保持者の能力は一つの指向性を持つっすが、フィルくんはバラバラっす。なんで、ごめんすけどほんとに何も分かんないんすよ」
「そんなぁ」
自分が思っていた以上に期待していようだ。晶素研究の第一人者であれば何かしら分かると思っていたが、自分の力は余程特殊なのだろうかと思う。
「そっ、そんな落ち込まないでほしいっす! 気になることは一つあるっすよ」
「ほっ、ほんとですかっ!?」
「これが何を意味するのか調べたけど分からなかったっす。フィルくん以外の四人が力を使う時、僅かっすけどフィルくんの晶素を感じたっす」
「俺の晶素が? そんなことあるんですか?」
「晶素はまだまだ未知の部分が多い物質っす。だからすべての現象がないとは言い切れないんすよ。とりあえず分かってることは以上っす」
フィルの能力については不明なことが多かったが、仲間たちの能力についてはこれ以上にないくらい情報が手に入った。本当にマキナを訪ねて良かったと改めて感じる。
フィルが一人思考していると最後にマキナから助言をもらう。
「共通して言えるっすけど、くれぐれも自分の循環能力を超えて過剰に晶素を取り込まないことっす。晶核の許容量を超えれば結晶化が始まって取り返しがつかなくなるっすから。それと能力の使いすぎも厳禁っす。使えば使うほど身体の機能が低下していくっすから結晶化のリスクが高くなるっすよ」
「肝に銘じておきます。マキナ所長、突然来たのにありがとうございました。本当に助かりました」
「いいっすよ。研究者としてこっちも楽しい時間だったっすから。さぁ! 時間があるならぜひ研究所を案内させてくださいっす! 晶素研究の最先端をお見せするっすよ!」
その後、フィルたちはマキナの案内で研究所の様々な施設を見学させてもらった。その言葉に嘘はなく、フィルたちは晶素が持つエネルギーの多様性とそれを生み出す技術力に圧倒されるばかりだった。
他の研究員たちとも少し談笑し、まだまだ説明し足りなさそうなマキナたちを残してフィルたち一行は研究室を出た。
正面扉を出たところでノクトがフィルたちを引き留める。
「あっ、ごめんみんな。ちょっと聞き忘れたことがあるから待っててくれる?」
「聞き忘れたこと?」
「この指輪のことで聞こうと思ってたことすっかり忘れてた。すぐ終わるからちょっと待ってて!」
そう言うとノクトは再び研究室へ戻って行く。
数分後、戻ってきたノクトに話を聞くと、どうやら指輪の耐久性が気になって聞いていたらしい。ノクトにとってはこの指輪が生命線となるので、戦いを重ねていくにつれ摩耗していくことが心配だったようだ。
「じゃあ耐久性は特に心配いらないってことか?」
「みたいだね。晶素が固まって造られてるみたいで摩耗していくことはないと思うって所長は言ってた」
「へぇ~。やっぱりすげぇんだな、その指輪」
「みたいだね。まぁ、これからも大切に使わせてもらうよ。ごめん、みんな待たせちゃって。行こうか」
今回マキナを訪ねていて本当に良かったとフィルは思った。
ミスタージャスティスから色々と質問を受けながら、フィルたちは成果の多かった研究所を後にした。




