56.晶素の可能性
「一応全員の確認が終わったっすけど…………正直言って君たち何者っすか?」
「?」
「まぁ、とりあえず分かったことを伝えるっすから、ひとまず聞いて欲しいっす。まずはカイトくんから」
「オレ?」
「君の『晶紋』は【雷轟】っす。文字どおり雷を操ることができる能力だと思われるっす。カイトくんの能力は使えば使うほど伸びるタイプだと思うっす。だけど発現するスピードが遅いっすから、循環させる能力をもっと鍛えた方が効率がいいっす」
「まんまだな。それについてはオレも感じてたんだよなぁ」
「実は普通に説明できるのはカイトくんまでっす」
「「「えっ?」」」
「他のみんなは正直分からないことだらけなんすよ。まぁ、推測も含めて聞くっす。次はガロちゃんっす」
「おいら?」
「はいっす。ガロちゃんの『晶紋』は【芽守】っす。植物を操ることができる能力だと思われるっす。今までそんな能力見たことがないから正直推測っす。森龍族なんて手に負えないっすよ」
マキナは疲れた顔でうなだれており、そのままガロを抱きしめながら続ける。
「ガロちゃんは膨大な晶核を持ってるっす。だけど吸収する大きさと排出する大きさが釣り合ってないっす。ただ能力を出すんじゃなくて、力のコントロールを身に着けるといいっす」
「おいら難しいことは分からないんす……けどがんばるんす!!」
マキナはガロを開放すると、今度はリアの方へくるっと振り向く。
「お次はリアちゃんっす。リアちゃんの『晶紋』は【語部】っす。能力の説明をする前にもう一回みんなの前で力を使ってもらっていいっすか?」
「えぇ、それは構わないですけど……おいで≪勇敢小兎≫」
緑色の光がリアを包み込んだかと思うと、ぽんっと軽い音を立てて小さな兎が現れる。兎は辺りをきょろきょろと見渡すと、敵がいないのを認識したのかそのままリアの頭の上に飛び乗ってしまった。
「リアちゃんの能力で分からないことは二つあるっす。一つはその緑色の光。保持者は通常青色の光を放つっす。今まで緑色の光を放った保持者は一度も見たことがないっす」
マキナは呼吸を一つ置くとさらに続ける。
「もう一つは頭の上に乗っているその子っす。保持者の能力が意志を持って動くなんて聞いたことがないっす。だから正直お手上げなんすけど、リアちゃんの力についてはもう一人話を聞いた方がいい人がいるっす。ねっ、エインくん?」
マキナの一言で全員の視線がエインに向けられる。当の本人は飄々とした表情を崩さないが、視線はリアに向いている。
エインは、全員の注目を集める中で自分の中で何かを決めたように静かにリアへ話しかけた。
「リア殿、貴殿の出身はゾネの村で間違いないか?」
「え? えぇ」
「その前に別の国にいたということも?」
「もちろんないわ」
「そうか。リア殿、実は貴殿からは私と同じ力の波動を感じる」
「なんですって?」
「”道力”といって元々すべての人間が持っていると言われている力だ。だが、道力は六歳までに回路を開通させなければ以降使用することができないと言われ、その方法もウォルドーの一部でのみにしか伝承されていない。だから一般の人間はその力に気づかぬまま一生を終えることが多い。リア殿、貴殿はどこでその力を身に着けたのだ?」
「どこでって言われても……」
リアは困惑の表情を浮かべる。それはそうだ。適合者として覚醒した時からそうだったのだから。
「リア殿の能力には間違いなく自分と同じ『道力』を感じる。リア殿、一度自分が力を使ってみるので見てもらえないだろうか?」
エインは中央のスペースまでつかつかと歩み寄ると、おもむろに腰に帯びていた剣を抜く。
刀身は窓から差し込む日の光を反射し美しい光沢を浮かべている。フィルもナイフの手入れをしているから分かるが、あれは日頃から丁寧に扱われている証拠だ。
エインは近くにいたフィルたちに下がるよう言うと、目を閉じ集中していく。
すると、徐々にエインの身体から黄色のオーラが立ち昇り始める。エインは腰を落とし剣を下段に構えると、右足を後ろに擦らせながら静かに剣を振り抜いた。
「≪一振:紅葉狩≫」
瞬間、すさまじい爆風がエインの正面に吹き荒れる。
この研究室は端から端までかなりの距離があるのだが、一番端に置いてある書類が吹き飛ぶ程の衝撃が研究室を駆け抜けた。
「す、すげぇ……」
カイトが感嘆の声を上げているがフィルも同じ感想だ。
「今のが『道力』だ」
「確かに晶素とは違う力を感じる」
リアはそう言うが、フィルには晶素以外の力が発せられたのかを感じ取ることはできなかった。
「やはり。リア殿、どうやら貴殿は保持者であり、”道力者”でもあるようだ。道力者とは道力を発現したものの事を指す言葉だ」
リア本人も含め、フィルたち全員が困惑している。リアはゾネの村で生まれゾネの村で一緒に育ってきた。ウォルドーなど行ったことすらないはずだ。
「みんな混乱してるっすね。今まで研究者として多くの保持者を見てきたっす。そして少ないっすけど道力者の人にも会ったこともあるっす。だけど両方の力を持った人なんていなかったっす。さっきもエインくんが説明したとおり、本来二つの力を持つこと自体ありえないことなんすよ」
「じゃあなんでリアは?」
「そこが分からないっす。時間があればもっとじっくり研究したいっすけど」
マキナはちらちらとリアの方を見るが、当の本人はそれどころではない様子だ。
「まぁ、一つ言えるのはリアちゃんが強くなるためには晶素だけじゃなく道力も磨く必要があるってことだけっすかね。あっ、あと一つ試したいこともあるっす」
「試したいこと?」
「リアちゃん、今までその頭に乗ってる子と違う子が出てきたことがあったっすか?」
「いや、ないです。みんなみたいになんとかやってみようとしたんだけど、全然上手くいかなくって」
実はリアはここまでずっと訓練を続けていた。だが、≪勇敢小兎≫以外は今までに一度も発現できたことがなかったのだ。
フィルはリアがここ最近ずっと自分の力について悩んでいたことを知っている。そのことに何も力になれないことがフィルは歯がゆかった。
「リアちゃん、きみの『晶紋』は【語部】ってさっき説明したっすね? その子どこかで見たことあるなと思ったら、『四匹の英雄』に出てくる兎じゃないっすか?」
「『四匹の英雄』ってあの絵本の? 言われてみればたしかにあの本に出てくる主人公の兎に似ているかも……」
ノクトがリアの頭に乗っている兎をじっと見ながら呟く。
『四匹の英雄』。
それは子どもなら一度は読んだことがあるであろう定番の絵本だ。
仲間たちにいじめられていた兎が旅に出て、道中出会う仲間たちとともに悪さをしている怪物を退治するという話だ。いじめられていたが仲間想いの勇敢な兎、人間に裏切られた心優しい蛇、巣を追い出された不屈の鳥、自分を変えたいと思い続けた亀の四匹が主な登場人物だ。
「そうっす。その物語で出てくる兎と【語部】っていう晶紋から推測されるのは、リアちゃんの能力は物語の登場人物を生み出すことなんじゃないかと思ってるっす」
「そっ、そんなことが本当に可能なんですか? この子が『四匹の英雄』に出てくる兎だなんて」
「晶素と道力が生み出すエネルギーは未知っすから可能性はあるのかもしれないっす。それでさっきの話に戻るっすけど、試してみて欲しいのは違う登場人物を想像しながら力を発現してみてほしいっす。たぶんリアちゃんが今までその子以外が出てこなかったのはイメージが湧いてなかったからだと思われるっす。最初のその子はたぶん心のどこかで敵を倒すイメージがあったんじゃないかと思うっすよ」
「なるほど。たしかに試してみる価値はあるかもよ、リア」
「そうかしら? そうね。今までのやり方じゃ結局だめだった訳だし、駄目でも一回やってみるわ」
リアは頷くと、先程までエインが立っていた位置まで移動する。全員の視線を集める中、少し緊張した様子で汗をぬぐいながら、晶素を循環させるため精神を高めていった。
緑色の淡い光が次第にリアを包み込んでいき、徐々にその大きさを増していく。
変化が現れたのはリアが晶素を練り始めて数分後だった。
今までリアを包んでいた緑色の光が徐々に何かを形どるように一か所に集まっている。その光はまるでリア自身を守っているかのような優しい光で、フィルたちが固唾を飲んで見守る中、リアは小さな、だがはっきりとした声を響き渡らせた。
「守り抜く光を。≪信信蛇≫」




