54.訪問
無事に城から脱出し宿に戻ったフィルは、待っていた仲間たちに今回打ち合わせた事とソラベルから聞いたソフィアとレオンの話を伝えた。
「……なるほどねぇ。国王には三人子どもがいたって訳か」
みな一様に複雑な表情をしている。それはレオンとソフィアに対する同情も多分に含まれていた。そんな中、ノクトが対真羅の為に練り上げた案について切り出す。
「フィルが提案した作戦だけどさ、そんなに上手くいくのかな?」
「分からない。だけど奴らにすれば、今まで必死に探していたものが目の前にあるんだ。必ず何か仕掛けてくる」
「フィルさん、当日はボクたちはどういう動きをするんでしょうか。ボクは自己防衛くらいはできますが、本格的な戦いとなるとお力になれそうになくて……」
そう言い出したのはネイマールだ。戦闘能力としては低いかもしれないが、先日のシロ救出の際は子どもたちの保護から衛兵への通報まで、どう動けば目的を達成できるかを常に考えながら行動していたことをフィルは高く評価していた。
それは商人としての資質なのだろうが、ネイマールがいるとフィルは戦闘に集中することができる。フィルはネイマールの状況判断能力を信頼していたので、正直戦いとなった際にもいて欲しかったのだが、今回は別動隊として動いてもらった方がいいだろう。
「じゃあ、ネイマールはシロと一緒に王城にいてくれるかい? 俺とリアで会場までの通りを、カイトとガロは裏手にある墓地側の見張りを、ノクトは会場内で待機で」
「了解しました」
「分かったわ」
「はいよ」
「了解」
話が一段落し、フィルは部屋の中で遊んでいるシロとガロの方を見る。あの二人は歳も近い事もあってとても仲が良い。シロの家族探しはこの事件が一旦落ち着いてから再開することになるだろう。
「それと、国王に聞いたんだけど明日国立研究所に行ってみようと思うんだ」
「なんで?」
「もちろん自分たちの為でもあるんだけど……」
「あの変態王子と引きこもり王女の事をなんとかしてやりてぇんだろ?」
「うっ」
鋭い指摘を入れてくるのはカイトだ。やはり付き合いが長いだけあってフィルの性格をよく理解している。たとえ王族であろうと、誰かが困っているのであればなんとかしてあげたい、手を差し伸べてあげたい性分なのだ。
「正直俺たちみたいな部外者が簡単に立ち入っちゃいけない問題だと思ってる。だけどレオン王子もソフィア王女もきっと助けを求めてる。暗闇の中で藻掻き続けてるんだよ。それが俺には分かるんだ」
フィルが二人と会話した時間はものの数分だろう。だが、そんな短い時間の中でも今の状況を打破したい、抜け出したいと願っていることは伝わってきた。
”助けて欲しい”
フィルには確かにそう聞こえた。
「少し強引だけど、俺たちみたいな面識の浅い部外者だからこそできる事もある。その為にはあの二人がなんで力の制御ができないのか、理由を知る必要があると思うんだよ。俺たちにとっても重要なことだろうし」
「どうせフィルの事だからダメって言っても聞かないんでしょ? いいわよ、もちろん」
「よし! じゃあ方針も決まったことだしメシ食いにいこうぜ! シロ、ガロ! メシ食いにいくぞ!」
「ごはんなんす! ごはんなんす! いっぱい食べるんす!」
リア以外の仲間たちも異論はないようだ。毎回フィルも付き合わせて申し訳ないと思ってはいるのだが、なんだかんだ付き合ってくれる気の置けない仲間たちに感謝しかない。それに、この仲間たちなら本当に嫌であればはっきり嫌だと言ってくれる。
ガロの喧しい声で今までの硬い空気は霧散してしまった。元気いっぱいなガロとシロを先頭に、フィルたちは腹を満たそうと大通りへと歩いて行った。
翌日、フィルたちは昨日王城で聞いた国立研究所の大きな門の前に立っていた。
研究所まではフィルたちの宿から歩いて三十分程度で、賑わっている中心部からは少し外れた場所にある。
「ここがレイシェルフトの頭脳、国立晶素研究所か」
「でけぇ」
それは王城に負けず劣らず巨大な建物だった。上に高いのではなく横に長い。
どのくらいの面積があるのか、今立っているの位置からでは全貌が見えないほど広大な施設だ。奥の方には煙を噴き出している施設もあり、時折鉄と油の臭いが漂ってくる。
「とりあえず所長の所まで行ってみようか。いつもなら中央研究室で実験しているらしいから」
「分かった。じゃあ行くか」
フィルたちが研究所の門をくぐろうとしたその時、突如上空から聞き覚えのある声が降ってくる。
「ちょっと待ったあああああぁぁぁぁ、ぐぇ!」
着地に失敗した様子の赤いマントの男は、打ち付けたであろう肩を押さえながらよろよろと立ち上がりお決まりのセリフを吐く。
「……よし。正義の化身! ミスタ――――――――――ジャスティス参上!!!!!」
「「「…………」」」
「君たちが事件解決に協力してくれると風の噂で聞いてね! ぜひワタシも同行させてもらおう! いやぁ、君たちなら協力してくれるとワタシは信じていたよ!」
「あの、レオン殿下」
「ん゛ん゛!? レオンとは誰のことかな? 私は正義の化身、ミスタージャスティス。ミスターと呼んでくれたまえ」
「めっ、面倒くせぇ……」
カイトがぼそっと呟く。
だが、王子がその設定を貫き通すならこちらも付き合うしかない。
「え~、ではミスタージャスティスさん。事情はどの辺まで聞いておられます?」
「概ね聞いている! 来る日のために戦いの準備をするのだろう? あとワタシに敬語は不要だ!」
赤いマントをたなびかせながら堂々と答えているが、本当に分かっているのだろうか。そんな疑惑の目をレオン、ではなくミスタージャスティスへ向けていると、その後ろから見覚えのある黒髪の男がこちらに向かって来ていることに気付く。
「エインさん? どうしてここへ」
「急にすまない。実は陛下から伝言を託っておる。え~、”そちらにレオンを派遣した。一緒に調査に同行させようと思うので宜しく頼む……すまぬ”、以上だ」
「…………」
隣でマスクをかぶっている人物の瞳は一点の曇りもない。あんな一瞬でいったいフィルたちの何をそこまで気に入ったのか理解できないのだが、どうやら断る訳にはいかないようだ。権力には逆らえないのだ。
「……では、ミスタージャスティス、エインさん。一緒に行きましょうか」
「うむ!!」
総勢九名となったフィルたちはがやがやと研究所の門をくぐり中に入って行く。お世辞にも綺麗とは言い難かったが、ここから様々な叡智が生み出されていると思うと少し胸が高鳴ってしてしまう。
ごうん、ごうんという機械の音や、時折聞こえてくる爆発音のようなものが気になりながらも、フィルたちはレオンの先導のもと、奥へ奥へと進んでいく。
しばらく歩くと、他の扉とは異なった一際大きな鉄の扉が目の前に現れた。
「着いたぞ。ここが、中央研究室だ。たぶんこの中にいると思うのだが、あっ、いたいた! マキナ所長! ミスタージャスティスが参上しましたぞ!」




