51.誠実さとは
「さて、改めて急な申し出にも関わらず引き受けてもらい感謝する」
「いえ。先程も申し上げたとおり私たちもちょうど調べていましたから」
「差し支えなければなぜ調べていたのか教えてもらえるかね?」
「えぇ。実は――――」
フィルはソラベルに自分たちの出自とこの旅の目的をかいつまんで説明した。
「なるほど。それは大変な思いをしたようだな。フィル殿、その決断はとても勇気あるものだ。誇りなさい」
「はい。ありがとうございます」
「だが、その話を聞くとますます可能性が高くなってきたな……」
先程仲間たちがいた時に浮かべていたいた王の表情からは一転し、非常に厳しい顔つきになっている。
「可能性?」
「うむ」
ここで、今まで黙って聞いていたエインが発言を求める。
「王よ。発言を許可していただきたい」
「述べよ」
「その先は機密情報となります。安易に教えるべきではないかと。いくらレオン王子のご進言とはいえ素性も分からぬ者たちです。もしかしたらこの者たちの仕業かもしれないのですぞ」
「余自らの目で信じるに足る面々だと判断したのだ。異論は認めぬ」
「しかし」
「その時は王として責任を取ろう。よいな?」
「…………御意」
フィルがエインの立場だったとしてもきっと同じことを言うだろう。
ヴィリームでも思ったのが一国の王になる者は皆このような感じなのだろうか。フィルは、王様というのはもっと威圧的で近寄りがたい存在だと思っていた。
「フィル殿。ここからの情報は機密事項にあたる。決して口外しないと約束してくれるかね。もちろんフィル殿の仲間たち以外でだが」
「分かりました。仲間以外には決して口外しないと誓います」
「うむ。先程ヴィリームの話の中であった『二十年前に起こった光の柱』だがね、実はこの国でも起こっていたのだよ。余が今身に着けている王冠があるが、ここに埋め込まれているこの緑の宝石が見えるかね? これが二十年前のある日、眩いばかりの光を放った。この宝石が周囲にどういう影響を与えるのか分からなかったため、一度研究所に送り今は余の私室に置いてある。ここに嵌め込まれているものは”偽物”だ」
事実であれば一国の王の手元にあるのは非常に危険だ。奴らが狙っているのはその宝石である可能性がとても高いのだから。
「フィル殿の話を聞いて確信に変わった。死人が蘇るという騒ぎはこの王城周辺に集中し、時には城の内部で見つかることもあった。余には何かを探しているように思える。その答えがこれという訳か」
「可能性の一つではあると思います。『真羅』という組織の目的は不明ですが、ヴィリームでの件を考えると狙われる可能性は高いと思います」
「どうしたものか」
フィルはしばらくの間考えこむと、一つのアイデアをソラベルに進言する。
「陛下。この王都で周囲に人がなく墓地が近い空き家はあるでしょうか?」
「空き家? 探せばいくらでもあるだろうが墓地の近くとなると限られるだろう」
「奴らが王城を初めから狙っているということは恐らくその宝石が目的のものだと知っていたのだと思います。だが、王が身に着けているはずの宝石が王冠から取り外されていたため、何らかの力で死人を操って調べていたと推測されます。なのでそれを逆手に取ってやりましょう」
「逆手に取る?」
「はい。ここに置いていてはいずれ陛下や王城にいる方々が危険な目に遭う可能性が高い。ですので、誰もいない空き家を使って”王家の宝石”を期間限定で公開すると国民に知らせれば、必ず犯人の耳にも届くはず。在処が分かれば奴らは必ず何か仕掛けてくるはずですから」
「ふむ……だが、それは危険すぎるのではないか? 民を巻き込んでしまう可能性もある」
「もちろん危険です。でも私たちはその危険を承知でここまで旅をしてきましたし、強くなるための努力も続けてきました。それに、今までの状況から、奴らは夜にならないと活動できないのではないでしょうか。展示は夕方までとすれば、住民を巻き込む可能性は低いと思います」
フィルはレイシェルフト王の目を見ながら物怖じせずはっきりと答える。
「なるほど。詳細は詰める必要があるだろうが方向性としては悪くない。となれば我が軍も全面的に動員しようではないか。高みの見物は性に合わないのでね」
レイシェルフトの国軍は軍といっても他国との戦争をする為のものではなく、主に晶獣や晶魔に対抗するために組織されている。
第零師団から第五師団まであり、各々が広い王都の守護についている。第零師団は王城内の守護をする兵だ。
レイシェルフトの軍は世界中でも屈指の実力を持つと言われており、適合者であることが第一条件となっているため入軍の敷居は非常に高いそうだ。
「陛下、まさかご自身で……危険すぎます!」
「エインよ。覚えておけ。人の上に立つ者の資質として最も大切なことは”誠実さ”だ。民が不安がっているのに自らは動かない王にどれ程の価値があると思う」
「ですが御身に何かあれば――――!」
「今動くべきなのだ。それがこの国の王としての役目よ。エイン、お前はお前の大切なものを守り抜けばよい。そこに余は入っていないのか?」
「もちろん入っております。御身は私が身をもって必ずお守りいたします」
「うむ。それでよい」
フィルから見てもエインの忠誠心は本物だと分かる。良い臣下がいるというのは良い国の証だとフィルは思った。
「では具体的な内容を詰めよう。エインよ、各師団長を至急集めて参れ」
「御意!」
フィルは先に戻った仲間たちを気にかけながら、この国の最高戦力と共に見えない敵との戦いに備え準備を進めていった。




