50.王の資質
ミスタージャスティスという予想外の出来事はあったが、フィルたちは無事に目的の店に辿り着くことができた。評判の通り出てくる料理のすべてが絶品で、フィルたち七人は心ゆくまで料理を堪能した。
大満足で帰った翌日。
なぜかフィルたちは再び国軍に囲まれていた。
「なぁ、フィル。なんでまたオレたち軍に囲まれてんの」
「知らないよ。カイトがまたなんかやったんじゃないの」
「やってねぇよ! 普通に生きてただけだよ!」
フィルたちは今、部隊長のエインを筆頭に再び十人程の兵士に囲まれている。
「申し訳ないが王城に連れて来いと上から指示があった。大人しく従ってもらおう」
「なっ、なんなんすか! おいらはおじさんたちに用事はないんす!」
「おっ……」
ガロのストレートすぎる言葉にエインは言葉を失っており、隣ではカイトが口を押え必死に笑いを堪えていた。
「用事があるのは私ではない。とにかく来てもらうぞ。それと私はまだ二十四だ! 断じておじさんではない!」
ガロにおじさんと言われたことにご立腹な様子のエインに連れられ、フィルたちは王城へと足を踏み入れる。近くで見るとその大きさがより伝わり、堅牢な造りの城は至る所に晶素研究の成果が詰め込まれていると言われ、王都に住む住民の緊急時の避難先となるくらい巨大な建物だ。
手掛かりを掴むため王城に入りたいと話してはいたが、まさかこんな形で入るとは思ってもみなかった。
エインは迷うことなく進んでいくが、どこに連れていかれるのかも聞いておらず、いったい誰がフィルたちを呼びつけているのかも分からない。
不安なまま付き従っていくと、目の前に巨大な扉が現れる。あまりのも場違いな雰囲気にフィルの不安は最高潮に達していた。
「着いたぞ。ここからは王の御前となる。決して無礼がないように」
「へ? 王?」
フィルたちの混乱など露知らず、エインは淡々と事を進める。
「第零師団親衛部隊長エイン・ワーデンハーツ、参りました!」
エインが扉の前で声を張り上げると向こう側から落ち着いた男性の声が返ってくる。
「入れ」
開け放たれた扉の先には二人の人物が椅子に座りこちらを見ていた。
向かって右側に座っているのは金色の髪を持つ美男子だ。表情は柔和で人に好かれそうな人物だとフィルは第一印象で思った。
だが、それよりも気になったのは、昨日出会ったあの”ミスタージャスティス”という人物に瓜二つだったことだ。目元をマスクで覆っていたのだが、こうして実際に会うと、間違いなく昨日会ったのと同一人物だと言い切れる。まさか王族だったとは思いもしなかったが。
そして中央に座っている人物がこの国の王だろう。金色の髪を後ろに撫で付けた壮年の男性は、国を治める者特有の雰囲気を醸し出している。さらに、比較的ゆったりとした服を着ているように見えるが、今まで少なからず戦闘を経験したフィルたちには分かる。
――――あの王は保持者だ
強者としての圧倒的なオーラを放ちながらこの国の主はその口を開く。
「諸君、急に呼びつけてすまなかった。余はこの国の王でソラベル・グラン・レイシェルフトという」
ソラベルの挨拶に続くように、今度は右の美男子が挨拶をする。
「レオン・ファルベール・レイシェルフトといいます。みなさんにお会いできてとても嬉しいです」
フィルたちは急な展開にまったくついていけずその場に立ち尽くしていたが、見かねたエインがフィルたちに鋭い声を向ける。
「おい、貴様ら! 王の御前だぞ!」
その言葉で我に返ったフィルたちは咄嗟に跪こうとするが、ソラベルの一言によって止められてしまう。
「よい。今回はこちらから呼びつけたのだ」
「しかし」
「よいと言った」
「……失礼いたしました」
フィルはなぜ自分たちが国王に呼ばれたのかを考えていたが、思い付くことは一つしかない。自分の考えが当たっていて欲しくないと願いながら、フィルは勇気を振り絞って尋ねる。
「よろしいでしょうか?」
「なんだね」
「私はフィリックス・フランツと申します。陛下、私たちはどういった理由で呼ばれたのでしょうか」
「実は諸君らに頼みたいことがあって今日は呼ばせてもらったのだ」
「頼みたいこと? 陛下が私たちにですか?」
「うむ。実はな――――」
そう、ソラベルが説明をしようとした矢先、突如周りの空気を吹き飛ばすかのような大声でガロが叫んだ。
「思い出したんす! あの人昨日の変な仮面を付けた変な人なんすよ! 間違いないんす!」
「ばっ! しっ、静かにしてろガロ!」
「ぜったいそうなんす! カイトも言ってたじゃないんすか。”ただのへんたいだ”って!」
そこからの展開は様々だった。
フィル、リア、カイト、ノクト、ネイマールはガロをこれ以上喋らせないように必死に抑え込もうとするが、ガロは自分が一番先に気付いたことが余程嬉しかったのか、制止を振り切ってまで喋り続けようとする。
シロはいつも通りの様子で面白いのか面白くないのか表情を変えずに立っているだけだ。
一方、見事に指摘されたレオン王子は顔を真っ赤にして俯いている。フィルたちが気付いていてもあえて言わなかったことをガロが言ってしまったのだ。あの反応からすると、どうやら同一人物なのは間違いないらしい。
側近たちの表情は変わらないが、唯一ソラベルだけが声を出して笑っている。
エインと周囲を取り囲んでいる兵士はガロの無礼な言動に対してこちらを睨みつけているが、こちらに何も言ってはこない。
そんな混沌とした状況に収拾をつけたのは――――意外にもレオン王子だった。
「ん゛んッ! え~、そこの小さなレディが何か勘違いされているようですが、私は今日初めてみなさんにお会いしました。なので昨日お会いされたという方とは別人だと思いますよ」
あくまでもそういう体でいくということなのだろう。王子がせっかく作ってくれた挽回のチャンスを無駄にする訳にはいかない。
「いや、ぜったい昨日のもごぉ」
「大変失礼いたしました。どうやらこちらの勘違いだったようです。お騒がせいたしました」
「くははは。よい、よい。久々に笑わせてもらったわ。まぁ、その話もまったく無関係ではないのだ」
「?」
「諸君らは今王都で流れている噂は知っているかな?」
「”死人が蘇る”ですか?」
「そうだ。民が不安がっているので国としても早く解決をしたいのだが、なかなか手掛かりが掴めないのでな。そこで諸君らに調査をお願いしたい」
「なぜ私たちなのですか?」
「もちろん軍でも調査している。だが動かせる範囲も限界があってね。そこで何のしがらみもなく腕の立つ諸君らにお願いしたいという訳だよ。諸君らのことはとある情報筋から聞いたとだけ言っておこうか」
ソラベルはちらと横を見る。どうやらこの王は息子が仮面を付けてまで勝手に調査していることを知っているようだ。
「……ご事情はなんとなく分かりました。私たちも訳あって調べていたところですから、可能な限り協力はさせていただきます」
「おお! そうか!」
レイシェルフトに着いてからやってきたことと根本的にやることは変わらない。報告が必要になった手間はあるが、そこまで負担にはならないだろうとフィルは考えていた。それに、王族と関係を築ける機会など早々ない。
「必要な物があればエインに言ってくれれば用意させよう。よろしく頼むぞ」
「はい。私たちにできる範囲であればご協力させていただきます」
そこから今後のやり取りの方法等の打ち合わせをし、しばらくしてフィルたちが謁見の間から出ようとするとフィルだけがソラベルに呼び止められる。
「フィル殿、すまないが少し残ってもらえるか? レオン。みなさんを城門までご案内しろ」
謁見の間にはソラベルとエイン、フィルの三人だけが残っている。先程より少し空気が重くなったような気配を感じ取ったフィルは無意識に姿勢を正した。
謁見の間の大扉が閉じられたのを見届けると王が口を開いた。




