5.隙
三日ほど村長の世話になった後、フィルたちは隣村を立った。
村長が見送りに来てくれたのだが、フィルたち四人分の簡易的な食料とナイフ、少しばかりのお金まで渡してくれ、四人とも村長には感謝しきりだった。
目的地の聖都はゾネの村の反対側からさらに南、ヴィリームの西端にあり、かなりの長旅になると予想される。懐も寂しいため、次のバントという少し大きな街で日雇いの仕事でも探し、聖都行の路銀を貯めるつもりだった。
街道を歩きながら、フィルが疑問に思っていたことをカイトに尋ねる。
「なんであそこまで俺たちに良くしてくれたんだろ。隣の村って言ってもそんなに交流はなかっただろうに」
「たぶん、他人事とは思えなかったんだろ。多少あの村でも晶獣の襲撃はあるらしいしな。あと、ゾネの村が今まで晶獣との壁になっていたことへの負い目もあるんだろうよ」
「そっか……まぁ好意だしありがたくもらっておこう」
カイトはそんな話をしながら、未だ落ちこんだ様子のノクトへ話しかける。
「ノクト元気出せよ! 元気だけが取り柄のやつだっているんだぜ? 明るく行こうぜ」
「誰が元気だけが取り柄なのよ!」
「誰もリアなんて言ってねぇだろうが!」
「明らかにあたしのこと言ってるでしょうが! その馬鹿にした感じが特に!」
リアもこの数日でカイトの軽口に反論できるくらいには回復したようだ。まだ一人になると落ち込んだように暗い表情を見せるが、徐々に以前の元気を取り戻しつつある。フィルとカイトはなるべくリアとノクトを一人にしないよう、ここ数日過ごしていた。
「ふふっ」
そんな二人の様子にノクトが思わず笑みをこぼす。フィルは久しぶりにノクトの笑った顔を見た気がした。
「ようやく笑ったな。辛いかもしれないけど俺達がいるんだ。一緒に乗り越えていこう」
「そうだね。まだ気持ちの整理はつかないけど少しずつ頑張ってみるよ」
いくつかの村を経由し、街道を進むこと十日。野営にも慣れ始めた頃だった。
バントへ続く街道を進んでいると、行商の一行と思える集団がこちらへ向かってきており、フィルたちは邪魔にならないよう端に寄ってすれ違おうとしていた。
――――変な感じだな
フィルはすれ違いながら違和感を感じる。
商人一人に対し六人も護衛がいるのだ。よほどの高額商品を運んでいる行商でない限り普通六人もの護衛はつけない。ましてや、こんな辺境にそんな行商が来るとは思えなかった。
そして、違和感の最たるものが、商人が帯剣していることだ。
商人であればせいぜい護身用のナイフ程度を携帯しているのが普通である。にもかかわらず、商人自身が戦闘を想定しているかのように帯剣している。
――――もしかしてあいつら
フィルがその考えに至った時にはすでに遅かった。
「きゃぁ!」
フィルの目に飛び込んできたのは、リアが先程すれ違った行商の護衛たちによって荷台に連れ込まれている姿だった。
「てめぇらなにしやがる!!」
カイトがナイフを持って果敢に向かっていくが、複数の男たちによってあっけなく押さえつけられてしまい、フィルとノクトも抵抗するが複数人に囲まれどうすることもできず、地面に叩きつけられてしまった。
「おし、てめぇら引き上げるぞ!」
フィルはリーダーらしき男のその言葉を最後に、手下の男たちによって意識を刈り取られた。