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49.正義の味方

 フィルたちは一週間の間、シロの家族の件と例の噂の件の調査で忙しい毎日を過ごしていた。


 日中は全員でシロの家族を見つけるため王都中を駆け回り、夕方になると年長組四人のうち三人がレインの酒場に聞き込みにいったり、怪しい場所の調査に向かっていた。


「ここも手掛かりなし、と……」


 死人が動き出すということでフィルたちが真っ先に疑ったのは墓地だった。


 フィルたちは王都中の目ぼしい墓地に行って聞き込みをしていたのだが一向に手掛かりが掴めない。今日は東の小高い丘の上にある墓地を訪れていたのだがここも空振りに終わったところだ。


 管理人の老人は、長く垂れ下がった白髭を撫でながら『死人が動き出したことなどない』と断言していた。


 老人の夕食でもどうかという申し出を丁重に断り、フィルたちは一旦宿に戻ってここまでの情報を整理する。

 

「さてと、じゃあここまでで分かったことを整理してみようか。まずはシロの家族のことだけど、シロ、何か分かったかい?」


 シロは首を横に振る。


「そっか……」


「でも、シロは街の風景を見た覚えがある気がするって言ってました」


「そうなのかい?」


 シロは無言で頷く。ようやくシロの家族に繋がりそうな情報が手に入ったのだ。レイシェルフトに何かしらの関わりがあることはこれで間違いないだろう。


「じゃあここにシロの家族がいる可能性はあるね。明日からはもうちょっと範囲を広げてみよう」


「うん」


 最近、自然と受け答えしてくれるようになったシロのことをフィルは嬉しく思う。


「じゃあ次は死人が蘇るっていう噂の件だけど」


「そんじゃここからはオレから。どうやらここ最近でまた目撃例が多くなってるらしい。軍の方も夜間の警戒態勢を強化したって話だ。で、やっぱり王城周辺が一番目撃例が多いらしく、城にある何かを狙ってるんじゃないかって噂になっている。な? 怪しいだろ?」


「王城に入れれば何か手掛かりが掴めるかもしれないけど」


「そうなんだよ。しかも動き出した死体は年齢も性別もバラバラ。死んだ時期もまったく違う。共通点といったら全員生前は適合者アダプタだったってことだけだ」


「すごいね、カイト。よくそんなことまで分かったね」


「レインさんの店に来てた軍の奴がでかい声で言ってたぜ」


「ここまで目撃情報が多いってことは死体が動き出しているのは間違いなさそうだね」


 カイトとノクトの会話にガロが震えながら割って入る。


「しっ、死体が動き出すなんて怖すぎるんす! もうこんな話嫌なんす! 夜一人で寝れなくなるんす!」


「ガロ、お前いっつもリアと一緒に寝てるらしいじゃねぇか。普段から一人じゃねぇだろ」


「カイトはでりかしーがないんす! あほなんす!」


「だれがアホだこら!」


「カイトはほっといておいらは美味しいものが食べたいんす! せっかくこんな大きい街に来てるんす。ここでしか食べれないものが食べたいんす!」


「あたしもガロに賛成。なんかここらへんで美味しいものでもぱ―っと食べに行きましょ」


「僕も賛成。最近色んなとこに行ってもすぐ移動だったからたまにはゆっくりしようよ」


「ボクも行きたいです! この街は商人として色々刺激をもらえる街ですから」


 どうやら知らないところでみな鬱憤が溜まっていたようだ。


「よし、じゃあ明日は奮発して美味しいものを食べに行こうか」


「やったんす! 美味しいものなんす! いやっほ―!!!!!!」


「ぐぼっ」


 余程嬉しかったのか、ガロが全身で嬉しさを表現しながらその勢いのままカイトに突っ込んでいった。



 翌日、フィルたちは全員で昼の大通りを歩いていた。


 王都で美味しい店については事前に宿の主人に聞いており、大通りから王都へ向かっていく途中にある『銀千花』という店に向かっている。この店は国中から集めた食材を、複数の一流の料理人たちがそれぞれの得意分野の料理を出してくれるらしいのだ。


 もちろん相応の値段はするが、手持ちの資金はまだまだ余裕があり、みんなが喜ぶのならば多少の金額の大小は問題ではなかった。


 先陣を切っているのはもちろんガロで、小さい手を大きく振りながら歩いている。


「お~い、ガロ、あんまり離れて歩くなよ」


「分かってるんす! 早く来るんすよ~」


 あれだけ嬉しそうにされるとこちらもついつい嬉しくなる。特にガロは感情表現が豊かなので余計にそう思う。


「おい、ガロ。ちゃんと前見て歩――――」


 カイトが注意を促そうとしたその時、住民の怒声と悲鳴が辺りに鳴り響いた。



「強盗だ! 誰か捕まえてくれ!」


「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」


「殺されたくなかったらそこをどけぇ!」



 一人の男が手に何かを抱えながらフィルたちがいる方面へと走ってくる。右手にはナイフのような凶器を持ち、目を血走らせている姿に捕まえようとする住人はおらず、みな道を空けている。 


「ノクト、いけるかい?」


「たぶん大丈夫」


 フィルたちの中で一番技の制御が上手いのはノクトだ。今のように住民が多数いる状況で盗人を狙うにはノクトが最も適格だろう。


「どけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


ツェン――――」



 ノクトが今まさに技を放とうとしたその時、()()()は現れた。



「とうッ!!!」


 紅いマントに目元を覆うマスク、ど派手な衣装に身を包んだ人物がノクトと強盗の間に立ち塞がる。


「この都で悪事を働くことはこのワタシが許さんぞ! 正義の化身! ミスタ――――――――――――――――――――ジャスティス参・上!!!!!」


「わぁ――! ミスタージャスティスだ!」


 妙な決めポーズと共にその怪しい人物が名乗りを上げると、子供たちの歓声があちこちから聞こえてくる。


 口ぶりからして犯罪者を取り締まっているようなのだが、正直フィルにはまったく強そうには見えなかった。


 子供たちはとても喜んでいるのだが、大人たちはどう思っているのかと見回してみると、皆なんとも言えない複雑な表情をしている。


「なんだてめぇは! そこをどけ!」


「悪に手を染めた犯罪者め! 『正義の救世主(ヒーローズ)』のリーダーである私が成敗してくれる。みな今からここは戦場になるぞ! 避難してくれたまえ!」


 謎の人物の誘導に住民たちは大人しく周囲から避難を始める。


「なぁフィル、アイツ大丈夫だと思うか?」


「とりあえず様子を見て危なそうだったら助けに行こう」


「≪|正義の飛び蹴り《ジャスティス・キ―クッ》≫!!!」


 次の瞬間、フィルたちは目の前で繰り広げられた光景に目を疑った。


 中身はただの飛び蹴りだったが、その脚には今のフィルたちをも超える晶素が満ちていたのだ。その証拠に強盗が避けた後の石畳は大きく陥没し破壊されている。


「まだまだ! ≪正義の拳(ジャスティス・パンチ)≫!!!」


 繰り出される拳は特別速い訳ではなかったが、あんな量の晶素を纏った拳をくらえばひとたまりもないだろう。強盗も本能的に危険を察したのか必死に避け続ける。


 これなら大丈夫かも、としばらく動向を見守っていたのだが、いかんせん攻撃が大ぶりのため当たらない。逆に周りの屋台や店の壁が次々と破壊されていっており、これが大人たちが微妙な顔をしていた原因かとフィルは察した。


「な、なぁ、フィル。アイツのせいでどんどん被害が広がってんだけど」


「このままだとこの辺の店はなくなるかもね。ノクト、お願いできる?」


「了解」


 正直これ以上は見ていられなかった。


「≪水蓮ツェンレン≫」


 ノクトは強盗に照準を定めると正確にその額を打ち抜き、強盗はそのまま卒倒する。


 ミスタージャスティスは強盗を倒したのがフィルたちだと気づくと、その目を輝かせながらつかつかとこちらへ歩み寄ってきた。


「素晴らしい! 先程の技は青髪のきみが放ったものかい?」


「はぁ……まぁ……」


「そうか! 素晴らしい腕を持っているんだな! どうだい? きみたちも『正義の救世主(ヒーローズ)』に入らないかい?」


「いえ、遠慮しておきます。ちなみにそれって何人くらいで活動されている組織なんですか?」


「まだ私一人だ!」


「一人なのかよ! それリーダーって言えんのかよ」


「細かいことは気にしないでくれたまえ! わはははははは」


 目の前の男は愉快そうに笑う。あんなでたらめな量の晶素を持っているため実力はあるのだろうが、いかんせん戦闘に関するセンスが皆無のようだった。


「ところで君たち。最近この王都で流れている妙な噂は知っているだろうか」


「あの死体が動き出すっていうやつですか?」


「そうだ! 王都を脅かす連中がこの街で暗躍していると私は踏んでいる。そのため独自で調査をしているのだが一向に手掛かりが掴めないのだ。そこでどうだろうか! ワタシと一緒に――――」


「あっ、結構です。オレたち急いでるんで。じゃっ」


 そう言うとカイトはフィルたちを無理やり引っ張るように歩き出させる。


「なぁ、カイト。良かったのか? なんかまだ言ってるけど」


 後ろを振り向くと、ミスタージャスティスはこちらに向かってまだ何か叫んでいる。


「いいんだよ。あれは絶対に関わっちゃいけない部類だ。ただの変態野郎だ」


「あの人変なんす!」


「……へん」


 カイトの血も涙もない酷評に素直なガロとシロが同意する。

 

「きみたち! 正義の名のもとに私は必ずまた現れるだろう! その時は力を貸してくれたまえ!! 約束だぞ――――――!」



 またトラブルに巻き込まれてしまうのは嫌だと少し辟易しながら、フィルたちは目的地に向かって再び歩き始めた。

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