48.王都の噂
エインが再びフィルたちの元にやって来たのは拘束されてから三時間も経った後だった。
「通関に確認が取れた。今回は通関の認識不足もあったようだ。最近我が国で密輸入者が相次いでおり疑ってかかってしまった。すまなかった」
そう言ってエインは頭を下げる。どうやら最初に思っていたほど一辺倒な人物ではないようだ。
「だから最初から言ってんじゃねぇか! オレたちを疑いやがって」
「だが、禁制品を持ち込んだということには変わりはない。今後疑われるような行動は厳に慎むように」
「一言多いんだよてめぇは。早く解放しやがれ」
フィルたちは長時間の拘束からようやく開放される。まさかレイシェルフトに到着して早々に拘束されるとは思いもしなかった。
捕まったことで体力を奪われた一行は街を見て回る元気もなくなり、結局その日は宿に着いて早々に休んだ。レイシェルフトでの初めての食事はもっと楽しいものになるはずだったのに、なんとも暗い夕食となった。
翌日、フィルたちは二手に分かれて情報収集に勤しんでいた。
フィル、カイト、リアは夕方にかけて酒場で情報収集を、ノクト、ガロ、ネイマール、シロは買い出しとシロの家族探しをすることになっている。
シロに何か思い出したことはあるかと聞いてみたのだが、やはり分からないという返事だったため、何かきっかけがあれば良いと街を見て回ることにしたのだ。
「あった。ここだ」
そこには『雨の宿木』と書かれた看板が立てかけてある。
ここは宿屋の主人から勧められた酒場だ。フィルたちは成人しているため酒場に出入りができるが、場所によっては断られる場合もある。なので、宿屋の主人に比較的若い世代が出入りする酒場はどこかと聞いて教えてもらったのがこの酒場だった。
店内に入ると、まだ開店直後だったためか人はまばらだった。フィルたちはカウンターに横並びで座ると各々好きなものを注文する。ちなみ酒はリアが一番強くカイトが一番好きなくせに一番弱い。フィルはほどほどといったところだ。
フィルたちが他愛もない話をしながら飲んでいると、奥から一人の女性が現れる。薄紫の長い髪を優雅に揺らしながらこちらに微笑む姿はどこか儚げで、造り物のような美しさの女性だった。
「こんばんわ坊やたちとお嬢さん。わたくし『雨の宿木』の店主をしているレイン・パーパスと申します。失礼だけどあなたたち本当に成人してる? すごく若く見えるけど」
「こう見えてきちんと成人してますよ。まぁ、つい先日の話ですが」
「どうりで若く見える訳だわ。ふふふ」
隣を見ると、微笑みかけられたことで頬を赤くさせ、ひたすら酒を流し込むカイトがいた。あれではすぐに潰れてしまうだろう。
「若いっていいわねぇ。妬ましいわぁ。お肌だってこんなにピチピチだし」
そういってレインはリアのほっぺを触りながら羨ましそうな表情をしている。フィルからすればレインもリアと変わらないように見えるがそうでもないらしい。
「それで、あなたたちレイシェルフトに住んでるの? この辺じゃ見ない顔だけど」
「いえ、俺たちはヴィリームから来たんです。訳あって世界中を旅してまして」
「へぇ~、その歳で世界中を旅だなんてすごいのね」
「すごくなんかないですよ。大変な事も多いですし。レインさんはこのお店をされて長いんですか?」
「そうねぇ、なんだかんだもう五年くらいにはなるかしら」
「五年ですか。雰囲気もいいしお客さんが来たがる理由が分かります」
「ふふふっ、ありがと。お上手なのね。お嬢さんはおかわりいる?」
「…………いいえ」
「あらあら。ふふふ、ちょっと待っててね」
「?」
レインは一度奥に消えると、飲み物のおかわりと軽食を出してくれた。軽食と言うので期待はしていなかったが、どれも今までに食べたいことのない味で絶品だった。
「どう? 美味しいでしょ? 自分で言うのもなんだけどこの店は料理が美味しいって評判なの。まぁ、最近はお客さんが減っちゃったんだけどね」
レインはその顔を曇らせる。
「何かあったんですか?」
「最近この王都で変な噂が流れてるのよ。”死人が蘇る”って」
「”死人が蘇る”?」
「そうなの。特に王城の周辺で目撃されてるらしいんだけど、深夜になると死んだはずの人間が蘇って歩いてるんですって。でも翌日にその人の墓に行ってみても特に変わった様子はないらしいの」
「なんだか不気味な話ですね。それで夜に出歩く人が減った訳ですか」
「そういうこと。お客さんがこのまま減っちゃったら困っちゃうわ」
その言葉を聞いたカイトは急に椅子から立ち上がると、レインの方を見て宣言する。
「レインさん! その噂の真相はオレが必ず突き止めて見せます! 任せてください!」
「ふふ。ありがとね。でも危険なことはしちゃだめよ?」
「!! はい! 頑張ります!」
それからレインと他愛もない話を一時間程してフィルたちは店を出た。カイトは終始でれでれとしており、反対にリアはずっと不機嫌そうだったのでレインとの話し相手は主にフィルの役目だった。
「フィル、リア! 明日から調査開始だ! 張り切っていくぞ!」
「あんたはあの店主に気に入られたいだけでしょうが! 二人ともちょっと美人だからってでれでれしちゃって」
「いや、カイトはともかく俺はでれでれなんてしてなかったけど」
「どうだか!」
リアは完全に不機嫌モードに入っている。
カイトが覚束ない足取りで宿への道を歩いているが、ふと足を止める。
「あれ? シロじゃねぇかあれ。お~い、シロ~!」
カイトに言われ通りの中にシロを探そうとするが、フィルの視界にはシロの姿は見えない。そもそも冷静に考えればシロがこんな所に一人でいるはずがない。
「なぁ、ほんとにシロがいたのか? 見当たらないけど」
「おっかしいなぁ。確かに見た気がしたんだが。いや、待てよ。そういえば髪が黒かったような……」
「まったく。どうせ酔っぱらって見間違えたんでしょ。こんなやつほっといてさっさと戻りましょ、フィル」
「おいっ、ちょっと待ってくれよ!」
今日聞いた話が真羅に繋がっているとは言い切れなかったが、レインの言っていた事件については調べてみる必要がありそうだ。
フィルたちは酒場からノクトたちが待つ宿に向かって、日が沈んだレイシェルフトの通りを歩いていった。




