44.未来を見通す力
フィルたちは駆け付けた衛兵たちに事情を説明すると、保護していた子どもたちと一緒に地下室を出た。
商人と護衛二人については国が引き取り詳しい罪状を調べるのだそうだ。商人についてはこれ以外にも色々と余罪が出てきそうだが。
攫われていた子どもたちは治療を受けるため治療院に運ばれ、シロは特に怪我等をしていなかった為そのままフィルたちが引き取ることとなった。
シロは元々フィルの側にいることが多かったのが、今回の件を受けてよりフィルにべったりになってしまった。よほど今回の件が怖かったようだ。
「シロ、ごめんね。怖い想いをさせちゃって」
リアが申し訳なさそうに謝っている。リアのせいではないのだが、本人は罪悪感を感じているようだ。
シロは掴んでいたフィルの袖を離し、とことことリアの元に向かっていくと、そのままリアの手を両手で掴む。
「……だいじょうぶ」
フィルたちは驚く。
なぜなら今までシロが喋ったのは自分の名前を言った一度きりだったからだ。感情もなかなか表に出すことがなく、笑ったことも一度もなかった。
それが、今は自らの意志を言葉として出している。
「ありがとね、シロ」
リアはシロを強く抱きしめることで返事をした。
その後、衛兵たちと別れたフィルたちは宿に戻り激動の一日となってしまった今日の疲れを癒した。
本当に色々なことがあった日だった。シロが攫われ因縁の商人と決着を着けることになった。さらにあの黒衣の男だ。
――――あの男はいったい何だったんだろう
フィルは夜が更けてからも天井を見つめながらずっと考えていたが、やはりいくら考えても男の顔に見覚えはない。
その日は結局そのまま眠りに落ちてしまったのだが、次の日、フィルは意外な形で男の正体を知ることになる。
翌日、フィルたちはシロの防具を調達するため商店街に来ていた。というのも、シロは戦闘に参加しないとはいえ今回のようなこともあり、身を守るものが必要だろうという話になったのだ。
実はあの護衛の二人は国から懸賞金が出ており、フィルたちの手元は昨日換金した数倍の金貨が手元にあった。ヴィリームでもそうだったが、どうやらフィルたちは賞金首に縁があるらしい。
宿屋の主人に教えてもらった武具店に向かう道の途中で、すれ違う住民のほとんどが同じ話題を話していることに気付く。
「なぁ、聞いたかよ。昨日”悪狼”が出たんだってよ!」
「ほんとかよ。今度は誰だったんだ?」
「それがよ、なんとミールボット商会の会長だって話だ」
「ミールボット商会!? 大商会じゃないか! 何してたんだ?」
「なんでも幼い子を攫って上の連中に売ってたらしい。取引のリストも見つかったってよ」
「そりゃまたひでぇ話だな。信じられねぇ」
気になるフレーズに思わず足が止まる。フィルは噂話に花を咲かせている男たちに話しかけた。
「すみません、ちょっといいですか?」
「ん? どうしたにいちゃん」
「先程ミールボット商会の会長が捕まったと聞こえてきましたが、”悪狼”とはなんですか?」
「なんだ、にいちゃん知らないのか。”悪狼”っていうのは世界中を股にかける義賊の名前だよ。全身黒い衣装に身を包んで、悪事を働いている奴のとこに現れては金を奪って貧民街とかにばらまくんだよ」
「……黒い衣装」
「これがまたとんでもなく強いって噂だ。特にリーダーのバッカスって野郎はここだけの話、”未来が見える”って噂だ」
「”未来が見える”?」
「なんでも未来が見えてるかのように攻撃が全然当たらねぇんだと。だから誰も勝てねぇって噂だ。まぁ、リーダーもそうなんだが、”悪狼”のすげぇとこは集団戦闘のプロってことなんだよ。まるで一匹の狼のように食い散らかしていく姿から付いた名前が”悪狼”」
昨日フィルが見た男と特徴は酷似している。確かにあの動きは未来が見えると言われた方がしっくりくる。
「突然すみませんでした。ありがとうございます」
「いいってことよ!」
男たちに礼を言ってその場を離れる。話を聞いていたカイトたちがフィルが思っていたことを代弁してくれた。
「アイツら結構すげぇやつだったんだな」
「みたいね。ただの盗賊じゃなかったみたい」
「すごく強かったんす! かっこよかったんす!」
ガロの言う通りかなりの訓練を積まれた戦闘集団に見えた。特にリーダーのバッカスの強さは次元が違っていた。今のフィルが戦っても十分と保たない気がする。
意外なところで正体が分かった訳だが、なぜ男がフィルに言葉を残していったのかは結局分からなかった。
――――あの男は未来に何を見たんだろう
考えても答えは出なかったため、フィルは思考を一旦止め再び歩き出す。
その日は結局シロの防具選びで一日を費やすこととなった。リアとガロがあれもこれもとシロに試着させ時間がかかってしまい、カイトが文句を言っていたのだが静かにしていろと言い返され沈黙していた。
帰り際にフィルたちは貧民街と言われる場所を通った。『悪狼』と呼ばれる集団があれだけ支持されている理由をこの目で見ておきたかったからだ。
通りにはみすぼらしい服に身を包んだ住人たちが身を寄せ合うように座っている。彼ら彼女らは、その日一日を生きることに必死で、大人も子供も関係ない。
フィルたちが通ると遠慮のない視線をこちらに投げてくる。普段であればフィルたちのような若者は食い物にしてやろうと襲い掛かってきてもおかしくはないのだが、どうやら住人たちの興味は別のところにあるらしい。
通りの中央に設営された炊き出しの大鍋からは、食欲をそそる匂いが立ち上っている。さらに、少しずつだがお金も配っているようだ。
「これが”悪狼”か」
何が正義かは人によって異なる。
ある者から見ればそれは正しく、ある者から見ればそれは悪となる。
悪狼がしていることは略奪行為だ。人から無断で金を奪うことは一般的には悪に分類される。
それが支持されているのは、私利私欲の為ではないということと、奪われる側が裁かれるべき人間だということだろう。
フィルたちは貧民街で感じたことをそれぞれの胸に秘めながら、言葉少なに宿へと戻って行った。




