43.共闘
「いくぞッ!」
フィルはガロとともに大男に向かっていく。どうやら集団は半々に分かれて戦うようだった。
「ボっ、≪森喰花≫! いくんす!」
ガロの晶素を受け急速に成長した森喰花は、その見た目からは想像できない速度で大男に迫る。
だが、男はその身の丈程もある剣に晶素を貯めると、薙ぎ払うように剣を振り抜いた。
「≪飛撃≫」
男の大剣から生み出された衝撃波は、そのまま森喰花を直撃し、易々と吹き飛ばしてしまった。どうやら男は剣閃を衝撃波として飛ばすことができる能力を持っているようだ。
「なんだぁ、その変な植物は! 気持ち悪ぃから思わず斬っちまったじゃねぇか!」
そう言いながら、男は黒の集団の攻撃をひらひらと躱し、一人また一人と吹き飛ばしていく。
「≪晶波≫!」
「≪二獣飛撃≫」
衝撃波として打ち出された晶素の波は、男にぶつかる寸前のところで二重の剣撃によって呆気なく防がれてしまう。
「なるほどなぁ。こりゃあただの護衛じゃ歯が立たねぇ訳だ」
男はやはりかなりの実力者のようだ。攻撃の威力を的確に判断し、隙あらば反撃に移る。多対一の状況にも関わらず未だ傷を負っていないのが証拠だ。
ガロの≪眠りの木種≫も、この状況ではリスクが高すぎて使えない。懐に入ることさえできれば一撃を入れることができるのだが、俊敏な身のこなしと高速の剣術によって近づくことすらできないでいた。
再び飛来した晶素の刃を避けながら次の攻撃動作に入ろうとした瞬間、隣を黒い影が走り抜けていく。
その男の動きは凄まじかった。
まるで次に来る攻撃が見えているかのように敵の剣を避け続け、手に持つ細身の剣で大男に次々と攻撃を与えている。一発一発のダメージは大きくないが、みるみる内に大男に傷が増えていく。
「ちっ! うっとおしいんだよッ! さっさとくたばれ! ≪三銃飛撃≫」
黒衣の男に今までで最大の剣撃が迫りくる。フィルは咄嗟に晶壁を出そうとしたが、黒衣の男は一撃目を自身の剣でいなすと、二撃目をしゃがみながら避け、三撃目をその鋭い剣閃で真正面から叩き潰した。
「……てめぇ、なにもんだ?」
余程自信があったのだろう。大男は自分の技を完璧に防がれたことに驚いている。
黒衣の男は一度フィルの方を見ると再び大男へと向かっていく。大男は未だにリーダーの男を捉えることができていないが、攻撃を受けることも少なくなってきていた。すでに見切ったのだろうか、一進一退の攻防が続く。
大男は痺れを切らしたのか、一度距離を取ると再び大技を放った。
「≪飛撃≫」
リーダーの男は今までで一番の動きで大男に迫ると、飛んでくる剣撃を躱しながら跳ねるように懐に飛び込み大男の大剣を跳ね上げる。
「今だッ!」
リーダーの男が叫ぶ。
「ガロ!」
「≪森喰花≫!」
ガロから放たれた森喰花は真っ直ぐ大男の元へと走っていき、右腕をまるごと飲み込んでしまう。
「なんだこいつ! 離れろ!」
フィルは待っていた。最大のチャンスが来るのを。
フィルは大男の懐に滑り込むと、最大の晶素を込めて放つ。
「≪晶撃≫ッ!!」
フィルの渾身の一撃によって放たれた衝撃は大男を吹き飛ばし、意識を刈り取ることに成功する。
大男が動かなくなったのを見届け、フィルはカイトとノクトの戦いに参戦しようとしたのだが、どうやらその心配は杞憂だったようだ。
「な……なぜ私の攻撃が当たらないのです!」
「遅すぎんだよ、おめぇの攻撃は」
カイトが雷を足に纏わせながら飛来する針状の晶素を避け続けている。迅雷を使ったカイトの動きに、相手の男は付いてこれない様子だった。
カイトは子どもたちの避難が終わったのを横目で確認すると、決着をつける為にノクトに言う。
「ノクト、そろそろいいぜ」
「分かった」
返事とともに現れたのは巨大な水の龍だ。この狭い部屋の中では大技は使いにくいため、子どもたちに被害が出ないよう避難が終わるのを待っていたのだろう。
「≪水龍≫」
「まっ」
男はノクトから放たれた水の龍にあっけなく飲み込まれ、そのまま壁に激突すると気を失ってしまった。
これで残るは、尻もちをつき呆然としている商人だけだ。
「さぁ、これで残すはおっさんだけだ。覚悟はできてんだろうな」
カイトが晶素を纏わせながら商人に近づこうとしたが、商人の目の前に黒装束の男が立ち塞がる。
「手伝ってもらっといて悪いがこいつに用事があるんでな。ちょっと借りるぞ」
「なんだ貴様は! ワっ、ワタシに触るな! 貴様ら能力者はいつもそうだ! 晶素を扱えるからという理由で無能力者を見下す! ワタシからすれば貴様らは晶獣と同じただの化け物だ!」
リーダーの男は商人を左手で易々と掴み上げると、どこに隠していたのか右手に持っていた短刀を商人の首元に当てた。
「黙れ。お前に選択肢などない。お前の倫理観など尚更興味ない。お前は俺が質問することにだけ答えろ。いいな?」
「貴様に命令される筋合いは――――」
「俺が質問することにだけ答えろと言ったはずだぞ? 耳まで腐ったか?」
商人の首に鋭い切先がめり込み血が流れだす。
「わっ、わかった!」
男は鋭さを増した声で商人を問い詰めていく。
「お前が隠している金貨の置き場所を教えろ? 表のじゃなく裏の方だ」
「うっ、裏の方? そんな金ワタシには――――」
一言喋る度に血が流れていく。男は自分の求める返答以外の時は、容赦なく商人の首に刃を押さえつけていく。
「ひっ。やっ、やめてくれ! 話す! 話すから!」
「早く言え。どこだ」
「ワっ、ワタシの店から東に行ったところに『銀の養老亭』という酒場がある。そっ、そこの地下にある、さっ酒樽の中だ」
「なるほどな……じゃあ最後に一つ。台帳はどこに移した?」
その一言は商人の顔色を劇的に変えた。商人は冷や汗を垂らしながら顔を青褪めさせているが、それでもしらを切ろうとする。
「なっ、なぜそれを……」
「まぁこっちも情報網があるんでね。さぁ、さっさと言え」
「あ、あれだけは……あれが世に出ればワタシは破滅だ! ワタシだけじゃなく多くの人間が不幸になる!」
「不幸になるだと?」
リーダーの男は唐突に商人を掴んでいた手を放したかと思うと、短刀を放り投げ腰に差している剣を抜く。そのまま流れるように商人の腹を浅く撫でるように斬りつけた。
「ぐぁぁぁあぁ! いっ、痛い痛い痛いぃぃぃぃ!」
男はごろごろとのたうち回る商人の頭を掴むと、自分の顔まで近づけて言い放つ。
「どの口が言ってる? お前は今までどれだけの人間を不幸にしてきた? 人を踏み台にしている奴が幸せになれると思うなよ」
男は商人をそのまま吹き飛ばすと剣を突き付けながら言う。
「さぁ、これが最後だ。しらばっくれるなら容赦なく殺す」
「ぐぅ……くっ、くそっ! 金と一緒のところだ! 底の蓋を外したところに移した!」
「ふんっ。もしそこになければ俺は必ずお前を殺すぞ。覚えておけ」
そう言うと、男は部下に指示を出して横で倒れている二人の護衛も含めて縛り上げる。 そのまま部下に撤収の指示を出すと、フィルの方に向かっておもむろに口を開いた。
だが、その内容は理解しがたいものだった。
「坊主。自分を、仲間を信じろ。それがどんな形であろうと他人に判断を委ねるな。決して物事の本質を見誤るなよ」
「えっ?」
男はそれだけ言い残すと、部下を引き連れて風のように去ってしまった。
――――今のはいったい何だったんだ
言われた言葉の意味を考えるが何を示しているのかさっぱり分からない。しかも、男とは今日初めて会ったはずだ。
フィルが考え込んでいると複数の足音が聞こえてくる。恐らくリアたちが呼んだ衛兵がやってきたのだろう。
男に言われた言葉が気になるが、今は目の前のことに集中するべくフィルは仲間たちの元へ駆け寄っていった。




