41.追跡
総勢七人となった一行は、ついに中間地点である商都デルガロに到着した。デロスは雑多で様々なものに溢れているという印象だったが、ここは行政や国の機関が集まっている都のため整然と建物が立ち並んでいる。
その中でも一際目立つのが、街の中心部に建っている建物だ。奇抜な建築様式は、様々な異文化を取り入れて造られたと言われており、国の重要な機関が集約されている。
ハーファンは国内の一定程度の規模を持った商会の合議制で政治を行っており、それだけだと民意が反映できないため、国民の中から投票で選ばれた人物が大商会の会頭と同数入ることで、政治の一極化、腐敗化を防ぐ仕組みを作っているそうだ。
「すごいんす~。ぜんぶが大きいんすよ」
「そうだね。デルガロはハーファンで一番大きい都市だから」
「お腹すいたんす! おいらいっぱい食べたいんす!」
「それも分かるけど、とりあえず素材を換金しに行こうよ。これすっごく重たいんだからね」
ノクトが背負っている袋を重そうに持ち上げながら言う。デルガロに着くまでにも当然、野獣や晶獣を狩っており、それなりの量になっていたので結構な重さがあるのだ。
「うし! じゃあ換金所に行こうぜ」
換金所に向かってしばらく歩くと、大きな看板を掲げた豪壮な石造りの建物が見えてくる。
「ここってほんとに換金所なの?」
今まで見てきた換金所とは様相が異なる外観に、ノクトが疑問を投げかける。
「ノクトさん、一応中を覗いてきましたけど換金所に間違いなさそうですよ」
「ほんとに? ここが?」
たしかにフィルも換金所にしては外観が豪華すぎると思った。入り口の前に建てられている門にも細かな装飾がなされており、これだけでも相当な金額が掛かっていると思われる。
門をくぐり入口から入ると、外観に負けず劣らず内装にもこだわりが見て取れた。向かって右側には、高級そうな防具や武具が立ち並んでおりそれだけで圧倒される。
左手には素材を換金するための窓口がずらっと並んでおり、どこも順番待ちができているほど盛況だ。
中はかなりの人で混雑していたため、フィル、カイト、ノクトで換金を担当し、リア、ガロ、ネイマール、シロは、近くにあった屋台で待ってもらうことになった。
フィルたち三人は大人しく順番待ちをし、受付に素材が入った袋を置くと、受付の女性に声を掛ける。
「すみません、この袋に入っている素材を換金したいんですが」
「『ミールボット換金所』へようこそ! 素材の換金ですね。中身を確認させていただきますので少々お待ちください」
「あれ? ミールボットってたしか……」
ミールボットと言えば、デロスにあるあの悪徳商人が経営している武具店と同じ名前だ。もしかしてこの店もあの商人が経営しているのだろうかと疑問に思ったフィルは受付嬢に質問してみる。
「すみません。もしかして系列に武具店がありますか?」
「はい! ここ以外ではデロスとテルミネストに出店しておりますよ。ハーファンでは一番有名な武具店と自負しています!」
受付嬢は熱く語っているが、反比例するようにフィルたちの熱は急速に冷めていく。あの商人が経営している店と聞くと、どうしても良い印象が持てないのだ。
悶々としながらしばらく待っていると、どうやら今回の換金の結果が出たようだった。受付嬢から聞いた額は、フィルたちの想像していた額よりも倍近くの値段で、晶獣の素材は取引量も少ないらしくそれだけ希少なものらしい。
受付嬢からお金を受け取ると、フィルたち三人はリアたちが待っている屋台へと向かった。
良い報告ができると駆け足で近寄って行った三人だったが、リアたちの様子がどこかおかしいことに気付く。
辺りをきょろきょろと見渡し、何かを探しているように見える。さらに、四人で来たはずだったのに一人足りない。
「リア、換金が終わったけどどうかした? シロはどこか行ったの?」
「フィル! それが、おなかが空いたから屋台で何か買おうかって商品を見ていたの。シロも後ろを付いて来ていると思って振り返ったら姿が見えなくって……この辺りを探したんだけど見つからなくて……」
この辺りは店が多いため人通りは多いがそこまで混雑している訳ではない。それに、シロが一人でどこかに行くとは思えなかった。普段はフィルの側にいることが多いが、今回のような場合は必ず誰かの側を離れないはずだ。
「シロが一人でどこかに行くとは思えねぇけどな」
「すみませんみなさん。ボクの後ろがシロだったんですけど、気付いたらいつの間にかいなくなっていたんです」
「ネイマールのせいじゃないよ。ねぇ、ガロ。シロの匂いを追っていくことはできない?」
「ちょっと待つんす。すんすん。すんすんすん」
ガロの五感が鋭いことは知っているが、ここには様々な匂いに満ちている。ノクトはそう言うが、この状況の中でシロの匂いを見つけることなど可能なのだろうか。
「あっちから微かにシロの匂いがするんす」
「ほんとかよ?」
「ほんとなんす! 向こうからするんす!」
ガロは換金所の真横にあたる狭い路地を指し示している。
俄かには信じがたいがこれが龍族の能力なのだろうか。ガロには普通の人間では計り知れない部分があるため、今は信じる方を優先すべきだとフィルは思った。
ガロに導かれるまま一行はデルガロの奥へ奥へと入って行く。ガロは時折立ち止まりシロの匂いを確認しながらぐんぐん進んでいく。
「ガロ、ほんとに合ってんのか? どんどん中心部から逸れていってる気がするんだが」
「合ってるんす! シロの匂いもだんだん強くなってるんす!」
ガロの言うことを信じながら路地を抜けると、一軒の小屋が目の前に現れる。
「ここなんす!」
「ここ? この中にシロがいるの?」
「この中からシロの匂いがするんす!」
仮に本当にここにシロがいるとして、一人でこんな所に来るはずがない。間違いなく何かしらのトラブルに巻き込まれたのだろう。
戦闘になる可能性もあったので、フィルたちは慎重に小屋の扉に手を掛けると、音を立てないよう静かに扉を開く。
だが、そこにあったのは使い古された農機具や空箱だけだった。
「シロ! ここにいるのか? いたら返事をしてくれ!」
小屋の中にフィルの声が反響するが返事は一切ない。
「ガロ、ほんとにここから匂いがするのか?」
「間違いないんす! こっちの方が……すんすん……ここなんす! この下からシロの匂いがするんす!」
ガロが指し示すのは箱が積まれた場所だ。下といっても特に変わった様子はないように思えるが、ノクトが真っ先に気付く。
「みんなここ見てよ。こことここで汚れの付き方が違う。たぶんこれ定期的に動かしている証拠だよ。箱をどかしたら何かあるのかも」
「ほんとね。どかしてみましょう」
一箱ずつ積み上げられた箱を横によけていくと、持ち手のような窪みがついた床が目の前に現れる。
その床をはがすと、地下へつながる階段が目の前に現れたのだ。
「怪しい。ここまで隠す必要がある地下室なんて悪い予感しかしない」
「そうだな。シロが危ないかもしれねぇ。早く行こうぜ」
「みんな戦闘できる準備だけはしておいて。行こう」
フィルを先頭に地下へと続く階段を降りていく。一段降りるにつれ周りの温度が下がっていくような感覚をフィルは覚えた。
意外にも階段はすぐに終わり一本道の通路を進む。じめじめとしており空気が重く、視界も悪いためフィルたちは慎重に歩を進めていくが、ふいにガロの足が止まり、後ろを歩いていたカイトが急に足を止めたガロを気に掛ける。
「どうしたガロ? なんかあったのか? フィル! ちょっと待ってくれ!」
「さっきから泣き声が聞こえるんすよ。それも一人じゃないんす」
「泣き声だって? シロの声か?」
「分からないんす。けど聞こえるんす」
「ますます怪しい雰囲気になってきやがったな。とりあえず道は一本しかねぇんだ。このまま進むしかねぇ」
「すごく怖いんす。おっ、おいらこの先に行くの怖いんす」
「大丈夫だって。オレたちがいるじゃねぇか。心配すんな」
「でも怖いんす……おいら戦うの怖いんす……」
「ガロ。お前の力はすごいんだ。もっと自分を信じろ」
「……んす」
ガロは怯えつつも再び歩き始めた。臆病な性格のガロは、気味の悪さを直感的に感じているのだろう。五感が鋭いということは、それだけ入ってくる情報量も多いということだ。
それにしてもかなり長い通路だ。曲がったりを繰り返しているためどの程度進んでいるかは分からないが、もうかなり距離を進んでいるはずだ。
――――……ぞ
「待って。何か聞こえる」
更に奥に進んでいくと大きな階段が見えてくる。階段の上からは複数の気配がし、ここまで来ると、フィルたちにもすすり泣く複数の声が聞こえてきた。
「みんな準備はいいかい? ガロも大丈夫?」
「……んす」
「大丈夫だから。俺たちがついてる。必ずシロを連れて帰るんだ」
「がんばるんす」
「よし。じゃあ行くよ!」
フィルはそのまま階段を駆け上がると、光が漏れている扉を勢いよく開け放った。




