38.期日
――――二週間後
例の男がトラムの店の扉を叩きながら叫んでいた。
「おい! 二週間待ってやったぞ! 金は用意できたんだろうな!」
トラムは右手に袋を抱えながら出てくると、男に手に持った袋を差し出す。
「はい。利息分も含めてこちらに準備しています」
「それなら仕方ねぇ! てめぇの娘とこの店を………なんだと?」
「ここにお借りしたお金を全額用意しています」
そう言ってトラムが男に袋を押し付けると、男は差し出された袋を訝しそうに見ている。
「てめぇどうやってその金用意した」
「おかげさまで商売がようやく軌道に乗りましたので」
「ふざけるなよ! 潰れかけていた店が二週間でこんな金用意できる訳ねぇだろうが! てめぇどんな汚い手を使いやがった!」
「汚い手など使っていません。店も多くのお客さんに来ていただいてます」
「なんだと?」
店の中を覗くと多くの客で賑わっているのが見えたのか、男は驚きの表情を浮かべており、フィルたちは物陰で様子を伺いながら、作戦が成功したことに安堵していた。
フィルが思い付いた案はいたって単純で、フィルたち自身が”広告塔”となることだった。
まず、近隣で出る晶獣を徹底的に調べ上げ、素材が高値で取引されるているものを洗い出した。その晶獣をトラムの店の防具を装備した上で大量に狩ってきたのだ。
狩ってきた素材は、半分はトラムに渡し防具に仕立ててもらい、残り半分はデロスの素材取引所に持ち込んだ。トラムには、防具に共通の印を入れてもらうよう指示をし、トラムの店の防具だと分かりやすくしたのだ。
フィルたちは取引所や酒場など、他の狩人や冒険者がいる前でトラムの店の防具の品質の良さを大声で話し人伝いで噂を広げていった。
実際、トラムの店の防具の品質はかなり高い。トラム自身が適合者であり、晶素を混ぜながら加工するため薄くても強靭な防具に仕上がっていた。
定期的に持ち込むことで安定して狩ることができるという印象を他の狩人や冒険者に与え、それに加え、悪評を吐いた商人の店で販売されているものより圧倒的に安い価格も併せて言い回った。
その結果、フィルたちが急いで戻った時には店は大盛況で防具は飛ぶように売れ、トラムと家族はとても忙しそうにしていた。
ちなみに、フィルたちは今回短時間で晶獣を大量に狩るため、全力で保持者としての力を振るった。駆け出しの冒険者がフィルたちの噂だけを信じて、実力もないのに晶獣に挑んでいかないか心配だったのだが、そこはさすが商売人だ。トラムは販売する際に必ず晶獣の危険性を教え、噂だけを信じないようにと言っているらしい。
「さぁこれでお金はすべてお返ししたはずです。どうぞお帰りください」
「っ!」
男は悔しそうな表情を見せているが、次第にその口角を上げ、下卑た笑みを浮かべながらトラムに言い放った。
「いや、これじゃあ足りねぇなぁ」
「ッ!? この前言われた金額とこの二週間分の利息は入っているはずです!」
「わざわざこの俺様が待ってやったんだ。こっちも商売でな? この二週間金を返してもらえなかったせいで他の商売が滞ってんだわ。迷惑料をもらわねぇとな」
「ちなみいくらなんですか、その迷惑料は」
「まぁ、銀貨十枚ってところだな」
「ぎっ、銀貨十枚ですって!? 借りたお金より多いじゃないですか!」
「うるせぇ! それだけこっちは迷惑かけられてんだ! さっさと払えや!」
「そんなの払える訳がない!」
男はより深く笑みを浮かべると店の奥を覗きながらトラムに言う。
「じゃあしょうがねぇな。この店と娘はもらっていくからな」
「そんな……!」
「さっさとそこをどけ! もう決まったことなんだよ!」
男がトラムを蹴り飛ばそうとした瞬間、成り行きを見守っていたフィルたちが男とトラムの間に飛び出す。
「それ以上この人に言い掛かりをつけるようなら俺たちが相手になるぞ」
「なんだてめぇらは? 餓鬼が大人の会話に入ってくるんじゃねぇ!」
「トラムさんの店が無くなったら俺たちは困るんだ。迷惑料がかかっているなら銀貨十枚の根拠を教えてくれ」
「ごちゃごちゃうるせぇ! この店は無くなるって決まってんだよ!」
「決まってる? どういうことだ」
「うるせぇ。とにかくそこをどけぇ!」
男は雄たけびを上げながら襲い掛かってくる。身のこなしから多少の戦闘の経験があることが分かるが、今のフィルたちにとって相手ではない。
フィルは男が放った拳を軽々避けると、手首を掴み体を屈ませ、男の懐に滑り込みながら地面に投げ飛ばす。
起き上がりかけた男に一気に近づくと、意識を奪うための一撃を放った。
「≪晶撃≫」
「っ」
膝をつき崩れ落ちてしまった男を見て、フィルはこの先のことをまったく考えていなかったことに気付いた。
「思わずやってしまったけど……どうしよう?」
「そうだなぁ」
全員で男の処遇について頭を悩ませていると、デロス方面から行商らしき一行がこちらに向かってくるのが見えた。高級そうな馬車に、家紋のような印が付いているのが見える。
「あれは……みなさん、あの行商です! 私の店の悪評を散々言って回ったのはあいつです!」




