35.ともだち
フィルたちが目指す宿屋は船着き場から真っ直ぐ伸びている商店街を抜けた先にあった。
道中には見たこともないような食材や、何に使うかも分からないような道具、はたまた、獣の肉や、晶獣の毛皮を使った防具など、興味をそそられる物を置いている店が所狭しと連なっている。
一行はなんとかその誘惑を振り切り目的の宿屋に到着するとすぐに部屋を確保し、お互いの自己紹介を終え今後の方針について話し合った。
「それで、俺たちはこれからレイシェルフトに向かうつもりなんだけど、ガロは元々フィデリオの次はどうするつもりだったんだい?」
「だから、ガロじゃなくてガガなんす!」
「いいじゃねぇか、もうガロで。なぁ?」
「ふふっ。愛称みたいなもんだよ。俺らもう友達だろ?」
龍族というより小動物のような印象が強いため、ついついいじりたくなってしまうのだ。
フィルの”友達”という言葉にガロは反応する。
「とっ、ともだち?」
「?」
ガロは全員の顔を見渡すと、次第に顔をくしゃくしゃにして再び泣き始めた。
「ぐすっ。ともだちが……できたんすぅ。うれしいんす……ぐすっ」
「おいおい、また泣くのかよ。ドラにも仲間がいたんじゃないのか?」
「ドラじゃ龍化がいつまでたってもできないから、おいらいつも馬鹿にされてたんす。小さい時もいつも一人で……ともだちも一人しかいなくて…………ぐすっ」
「すまねぇ、辛いことを聞いちまって」
カイトが申し訳なさそうにガロに言うが、ガロは泣きながらも笑顔を見せる。
「いいんすよ。だから、さっきともだちって言ってくれたのがすごくうれしかったんす」
その笑顔は心底嬉しそうな、眩しい程の笑顔だった。
「決めたんす! おいら、みんなについていくんす!」
「いいのか? フィデリオからどっか行くつもりだったんじゃねぇのか?」
「元々、里が嫌で逃げだしただけなんすよ。だから特に目的もないんす。それと、おいら、お宝がだいすきなんす! みんな強そうだし、付いて行ったらすごいお宝に出会えそうな気がするんす! だからいっしょに行かせてほしいんす!」
ガロは、先程とは違い必死な様子でフィルたちに懇願する。どうやらフィルたちに対し心を開いてくれたようだ。
「もちろん大歓迎だよ。これからよろしく、ガロ」
「やった! よろしくなんす!」
晴れやかな顔をしたガロはフィルと握手する。もう涙は流れていなかった。
旅の仲間が一人増えたことで和やかな時間を過ごしていた一行だったが、ノクトがふと、思っていたことを口する。
「ねぇ、新しい仲間も増えたことだし、みんなでご飯食べにいかない?」
「おっ、いいねぇ。なんかさっきからスゲーいい匂いがしてんだよなぁ」
「そうなのよ! なんだか香ばしい匂いがするのよね。でも、外の店からにしてはちょっと匂いが強すぎない?」
「…………ぎくっ」
「そう言われりゃ、たしかにすぐ近くから匂いがする気がする」
「…………ぎくぎくっ」
「おい、ガロ。お前なんか隠してんだろ」
「なっ、なにも隠してんなんかないんす!」
ガロはそう言いつつも、ローブのポケットを押さえる。
「じゃあそのポケットに何が入ってるか見せてもらおうか?」
おおよそ予想はついているのだが、カイトが脅すようにガロに迫る。早く白状してしまえばいいものを、なぜかガロは抵抗を続けていた。
「なっ、なにも入ってなんかいなんすよ! カイトはでりかしーっていうものがないんす! だからモテないんすよ!」
「「「ぶっ」」」
カイト以外の三人が一斉に噴き出す。
「……て、てめぇ、なんでオレがモテない前提で話ししてんだ。今日会ったばっかだろうが!」
「モテなそうな顔してるんす!」
「「「ぶふっ」」」
カイト以外の三人は、ガロの真っ直ぐすぎる感想に笑いが止まらない。リアなどは腹を抱えて笑っている。カイトは身体をふるふると震わせながらガロを指さす。
「……よし、わかった。ガロ、てめぇはぜったいに許さねぇ。そのポケットに隠してるもんをよこしやがれっ!」
カイトがガロに飛び掛かると、そこからは正に一進一退の攻防だった。カイトが捕まえようとするが、ガロは小柄な体躯を活かし素早い身のこなしで避け続ける。
最終的には宿屋のおばちゃんに雷を落とされ戦いは終わりを告げた。結局、ガロは宿屋に行く途中、フィルたちの目を盗んで露店で串焼きを買っていたということが判明した。
一行はガロとカイトをなだめつつ、この街で割と有名な料理店に向かう。そこでは、港街ならではの腐海で採れる魚介を使った料理を出しており、フィルたちは最初、出された料理の見た目にかなり戸惑った。
だが、ガロが心底美味しそうに頬張っているのを見て、フィルたちも恐る恐る口に運んでみると、その身からあふれ出る濃厚なエキスに衝撃を受けたのだ。
気付けば五人分の大皿が空になっており、それでも満足できなかった五人は、追加で注文してしまったほど魚介から出る旨味の虜になってしまっていた。
新しい味覚に舌鼓を打つと、明日以降の旅路を確認するためハーファンの地図を買いに道具屋へ寄り、宿屋へと戻った。
宿屋へ戻ると早速レイシェルフトまでの行程を確認する。どうやらハーファンは北と南でかなり様相が異なるようだった。
南は険しい山々が連なり、海岸沿いに人が住む村がぽつぽつとあるだけのようだ。反対に北側は港街が多く、漁業を産業にしている街が多いらしい。他国との貿易の玄関口となっているヴィリーム側のこのデロスの街と、レイシェルフト側のテルミネストの街が二大商都と言われている。
ちなみ行政や国の機関が集まっている街は、デロスとテルミネストのちょうど中央に位置しているらしい。
また、ハーファンは大陸と隔絶されているためなのか、晶獣の数が他国に比べ少ない。だが、独自の進化を遂げたものもいるようで注意が必要と道具屋の主人は言っていた。
ハーファンに真羅の影があるとすれば間違いなく港街のどこかだろう。そう判断したフィルたちは、途中他の町に寄りながらテルミネストの街を目指すことにした。
旅の仲間として同行することになったガロにも、今までの経緯と真羅の存在、フィルたちの目的を伝えていた。
「そ、そんな恐ろしそうな組織と戦うんすか? 嫌なんす! 怖いんす!」
「嫌って言われても放っておくわけにはいかないんだよ」
「怖いんす! 怖いんす!」
ガロは相当怯えてしまっている。攫われた経験も相まってかなり臆病な性格のようだ。
「う~ん……あっ、ちなみにこれがその『聖片』なんだけど」
「すごいんす~、めずらしいんす~、ほしいんす~、やっぱりついていくんす!」
そんなやり取りをしながらその日は体を休め、フィルたちは翌日、旅の準備を整えるため商店街を訪れていた。
「ねぇ、見てフィル! これすごくおいしそう!」
「ほんとだね。なんだろうこれ? とりあえず人数分買ってみようか」
「いいの!? ありがとう!」
フィルとリアが楽しそうに食材を選んでいると、カイトが通りを見ながら佇んでいるのに気付く。フィルは気になってカイトに話掛けた。
「カイト? どうしたんだよ、ぼーっとして」
「いや、今、あそこの人ごみの中に」
「なんだよ、誰かいたのか?」
「…………いや、見間違いだろ、きっと。さぁ、さっさと選んで出発しようぜ!」
煮えきらない態度のカイトを不思議に思いつつも、必要な物を買い揃え、フィルたちは次の町へ向けて出発する。
ガロという新しい仲間を加え、五人となった一行は、賑やかになった旅路を進んでいった。
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