34.成果
「おい、フィル。あいつら全員やっちまっていいんだよな?」
カイトが右手に雷を纏わせ、血走った目で男たちを睨みつけている。だが、フィルはできればここで騒ぎを起こしたくはなかった。
「カイト、まだハーファンに上陸したばっかりなんだ。ここであんまり騒ぎを大きくしない方がいい。派手な能力を使うのも周りに被害が出る可能性があるからダメだ」
「じゃあどうしろってんだよ! ここで大人しくこいつを渡せっていうのか!」
ガガが不安そうな目でこちらを見ている。
「この子はようやく解放されたんだ。あんな奴には絶対に渡さないよ」
「じゃぁどうするん――」
「十秒」
三人とも意味が分からずフィルが次に発する言葉を待っている。
「俺が左奥の二人、カイトが左手前の二人、リアが右手前の一人、ノクトが右奥の三人、これで十秒だ」
三人はフィルが言う意味を理解したようだ。つまり、無駄な騒ぎを起こさないため、派手な技を使わず、且つ、今までの練習の成果を実践経験としてここで出そうと言っているのだ。
目の前の男たち程度の実力であれば、晶素を循環させた身体能力だけで勝てるとフィルは判断した。それは驕りではなく、今までの戦闘の結果から導き出した結果だった。
相手の実力を多少なりとも見極めることができるようになったのも訓練のおかげだ。相手の所作や体の使い方、筋肉量等々、戦闘前からでも分かることはたくさんある。
風貌は盗賊風だが、身に着けている装備は比較的新しく見える。おそらく金で揃えられたものだろう。剣を抜いてはいるが明らかに扱い慣れていない様子だった。戦闘においては、いかに情報を先に手に入れるかが重要だとバルトから教わっていたことが今に活きている。
フィル、カイト、リアは身体能力のみで、ノクトは水蓮で、十秒あれば十分だとフィルは判断した。
ノクトは適合者ではないので、晶素を循環させて身体能力を上げながら戦うことはできない。自動的に指輪を通して放出してしまうからだが、ノクトの技の精度と威力は四人の中でも群を抜いており、正直ここにいる護衛たちならノクト一人でも倒すことができるだろう。
今までのフィルであれば十秒で倒すなどといった、ある意味自信過剰ともとれる発言はしなかった。
だが、フィルはヴァクロムとの戦いを経て、戦うことに対する意識を変えた。目の前で何の罪もない人が死んでいった。人数ではない。死んだという事実がフィルの中で何かを変えた。何かを守るためには戦う必要があると。
「なんだよ、そういうことかよフィル! いいねぇ、燃えてきたぁ!!」
「騒ぎを起こさないためだから。静かに、一瞬でね。リアとノクトもいけるよね?」
「もちろんよ」
「こっちもいつでも大丈夫」
自分そっちのけで話し合いをしているフィルたちに、商人が激怒する。
「貴様らぁ、何をごちゃごちゃと……おいっ、お前ら! やれっ!」
その一言で一斉に男たちが動き出す。だが、そこからの展開は一瞬だった。
――”一秒”
ノクトが放った小さい水弾が一人目を吹き飛ばす。吹き飛ばされた男は撃ち抜かれたことを認識すらできていないだろう。
――”二秒”
カイトがそのスピードを活かし剣を振りかぶって向かってくる男たちの間をすり抜ける。男たちが驚き振り向く瞬間にその顔に拳が打ち込まれた。
――”三秒”
男たちはそのまま後ろに倒れこもうとするが、カイトは倒れることを許さない。追従するように腹に回し蹴りを叩き込み男たちを吹き飛ばす。
――”四秒”
リアは向かってくる男が振るった力任せの拳を、晶素纏った掌でいなすと、体の重心が崩れた男の顎に掌底を打ち込む。
――”五秒”
リアが放った一撃によって倒れこむ男を傍目で見ながら、フィルは向かってくる二人の男を視界に入れると、向かって振るわれた剣をあっけなく避ける。素人が振るう剣など、二人がかりで斬りつけられても余裕で避けることができる。
――”六秒”
フィルは剣を避けながら、一人目の男の鳩尾に拳を叩き込む。男は体を折り曲げ膝をつけ苦悶の表情を浮かべているが、フィルは男の意識を刈り取るため晶素を纏った手刀を振り下ろした。
――”七秒”
手刀を振り下ろしたと同時に、もう一人の男が再び斬りかかってくる。男の荒い横薙ぎの剣閃を飛び避けると、驚く男の顔面に拳を叩き込んだ。
――”八秒”
ノクトが残りの二人に水弾を撃ち込む。一人目は一発で沈んだが、もう一人はぎりぎりのところで水弾を躱した。
――”九秒”
そのままの勢いで向かってくる男に対し、ノクトは冷静に五発の水弾を空中に出現させる。
――”十秒”
驚愕の表情を浮かべる男に向かって、ノクトは容赦なく五発の水弾を放った。男は全身に衝撃を受け、商人を巻き込みながら吹き飛んでいく。
「す、すご……」
ガガがその大きな翡翠色の目を見開きながら、感嘆の声を漏らす。
「ふぅ。ちょうど十秒だったね」
「あいつら全然戦闘慣れしてねぇのな。楽勝すぎるぜ」
カイトが若干不満そうな色を滲ませながらフィルに答えた。
男たちは全員地面に倒れ伏しており、意識のない者もいれば悶絶しながら地面に転がっている者もいる。最後の護衛をノクトが吹き飛ばした際に巻き込まれた商人は、呻き声を上げながら唯一起き上がっていた。
「ぐっ、くそっ……、使えない連中め……いったいいくら金を使ったと思ってるんだ……」
「さて、護衛は全部やられちまったぜ? まだやるかい?」
カイトがその手に雷を纏わせている。暗に自分は未だ本気じゃないぞと脅しているのだ。それが止めとなったのだろう、商人は顔を青くさせると捨て台詞を吐いて走り去っていく。
「ワッ、ワタシを誰だと思っているのだ! 貴様ら、おっ、覚えていろよっ!」
走り去っていくでっぷりと肥えた男の後ろ姿を見送りながら、フィルたちはガガの元へと駆け寄る。
「大丈夫だったか、えっと……ガロだっけ?」
「おいらの名前はガガ・ロガなんす! 名前はガガなんす! 間違えないでほしいんす」
「ガガね! 悪い、悪い。それでよ、ガロは身体は無事なのか?」
「だからガロじゃなくてガガなんす! ぜったいわざとなんす!」
「だってよ、ガガよりガロの方が呼びやすいんだよ」
ぷりぷりと顔を膨らませて怒っているガガをカイトがからかっている。カイトは初対面の人と距離を詰めるのが非常に上手い。フィルはカイトのこういう所を尊敬していた。
「仲良くするのもいいけど、早めに場所を移動しよう。あの商人も後ろめたいことがあるから衛兵に言うことはないと思うけど、面倒なことになっても嫌だし。俺たちはとりあえず宿に行こうと思うけど、きみはどうする?」
「おいらもいっしょに行くんす!」
「分かった。それじゃあ移動しようか」
フィルたちは倒れている男たちの横を抜け、目的地である宿屋に向かって歩き出した。




