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29.事情

 二日後、フィルたちは教会本部が併設されている聖宮へと呼び出されていた。ヴァクロムが引き起こした一連の事件と教会の件について、フィルたちから事情を聴くためだった。


 しばらく応接室のようなところで待っていると、三人の人物が部屋に入ってくる。


 身なりからかなり高貴な人物だと想像はできたが、それはフィルたちの想像を遥かに超える人物だった。


 三人は腰掛けると、真ん中に座った白髪交じりの男性が名乗る。


「今回はこの国を代表して感謝申し上げる。私はベルハイム・セインという。こちらが宰相のフェイナス、それでこちらが聖公軍で軍団長をしているオルキスだ」


 予想だにしない重鎮の登場にフィルたちの緊張は一気に高まる。国のトップが急に現れたことで、フィルたちは一斉に立ち上がり頭を下げた。


「顔を上げてくれたまえ。この国を救ってくれた英雄殿に頭を下げさせたとなれば民たちに叱責されてしまうよ」


 顔を上げると、聖公は穏やかな顔でこちらを見ていた。表情は非常に柔らかく、民からの人気が高いのも頷けるとフィルは思った。


 ベルハイムはその柔和な顔を真剣な表情に切り替え、フィルたちに尋ねる。


「怪我も治りきっていないなか呼び出してすまないね。こちらとしても失踪事件とダリアの教会の件を早急に調べる必要があってね。早速だが、あの夜、何があったのか話してもらえるかな」


 フィルは自分たちが聖都で見たものを包み隠さず話した。ベルハイムを含め三人は真剣な顔で聞いているが、特に軍団長は眉間に深い皺を寄せている。


 それもそのはずで、操られていたとはいえ軍の人間が関与していたのだ。民に知られれば軍の信用失墜になりかねない。


「以上がこの事件の真実です。奴の目的は不明な点が多いですが」


「そうか。皆、しばし祈りを捧げよう。犠牲となった民に神の加護があらんことを」


 その場にいる全員が頭を下げ、各々の想いで故人を偲ぶ。フィルは心の整理ができている訳ではなかったが、せめて犠牲になってしまった人々が安らかに過ごせるよう、強く祈りを捧げる。


 しばらくして顔を上げたベルハイムがフィルたちへ労いの言葉を掛ける。


「皆、その勇敢さに心から敬意を払う。本当にありがとう」


「信じていただけるのですか?」


 最悪、身元も分からないフィルたちの発言自体が嘘だと言われ、突っぱねられる可能性もあると思っていたのだ。


「もちろんだとも。私はこれでも人を見る目には自信があってね。君たちは決して嘘は言っていないよ。それに、上に立つ者として真実は常に明らかにしなければならない。例えそれが一方にとって都合が悪い事実でも、必ず民には真実を伝える。信頼関係とは本音をぶつけなければ得ることなどできないのだから」


 深い蒼色の目を見返しながら改めて思う。


――――これがこの国の王なのか


 こちらの考えていることを慮った上で、今回の事件が与える影響を理解しつつも、常に民のことを第一に考えている。


「それに、”自分たちで解決できるものしか神はお与えにならない”」


 ベルハイムは笑いながらフィルたちに話す。それは聖教で最も基本となる理念だ。


「事件の方はこれで進めるとして、後は『聖片』をどうするか、だな」


 ベルハイムは顔を曇らせ、宰相と軍団長も同様に険しい表情を浮かべていた。


「『聖片』?」


「聖教では『聖片』と呼ばれる、神の言葉が書かれていると言われている重要なものなのだよ。他にも神の言葉を記していると言われている書物や石札などもあるが、これは少し特殊でね。二十年前、この『聖片』から光の柱が立ち上り、しかも世界各地で同様の現象が起こったらしいのだ。聖宮にある特別なものといえば、間違いなくこの『聖片』だろう」


「世界各地で、ですか? 何か意味があるんでしょうか」


「それは我々にも分からない。ただ特別な何かを秘めているのは間違いないと思っている。『聖片』も、ある日この国の前身であった国の王の元に、突然現れたと言い伝えが残っているくらいだからね」


「なるほど。これが奴らが求めているものの可能性があるということですか。奴はいずれ世界は自分たちのものになると言っていましたが、どういう意味なんでしょうか?」


「世界を自分たちのものに……か。『聖片』自体に何かを引き起こすまでの力はないと思うが、世界各地で起こった光の柱と無関係とも言えない。この世界で何かが動き出そうとしているのかもしれないな。もしかすると我々の敵はこの国だけではなく、他の国々をも巻き込もうとしているかもしれない」


「奴らの目的はいったい……」


「分からない。ただ、一つ言えるのは、今回のようなやり方で奴らが民を陥れるのであれば、それは間違いなく我々の敵だという事だよ。我が国は君たちのおかげで比較的早く救われたと言っていいだろう。だが、他の国々ではすでに何かが起き始めているのかもしれない」


「……」


「すまない。少し脅かしすぎてしまったようだ。私が言いたかったのは、どの国でも民が傷つけられるようなことはあってはならないという事だけだよ」


 真羅ルーラーなる組織が何かを起こそうとしているのは間違いない。『聖片』にしても、ヴァクロムのような輩が狙っているものを手元に置いておきたくないが、この国にとっても大切なものでもあるために判断が難しいという事なのだろう。


 ヴァクロム自身も能力者として相当な力を持っていた。今回辛うじて戦いの形になっていたのは相手が油断していたからに他ならない。自分の力に溺れ、試すように能力を使っており、最初から全力で能力を使われていたら間違いなく殺されていただろう。


「さぁ、これで聞きたいことは終わった。今日は急に呼び出してすまなかったね。後日食事でもしながら、今度は君たち自身のことを聞かせてくれたまえ」

 

 ベルハイムは最後に気になる台詞を残すと、軍団長たちと共に部屋から出て行ってしまい、後には気が抜けたフィルたちだけが残されていた。


「なぁ、フィル。また聖公と会わなきゃいけねぇのか?」


「呼び出されるのは間違いなさそうだね」



 フィルたちは思わぬ重鎮との出会いに戸惑いながら、宿への帰り道を急いだ。

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