26.貫く意志
フィルは、突如発生した禍々しい晶素のうねりに巻き込まれながら感じていた。
ヴァクロムとの圧倒的な力量差を。
重くのしかかる途方もない晶素の圧を。
「さて――――まずは邪魔な方々に退場いただきましょうか」
そう言うと、ヴァクロムは闇人たちと必死に戦っているカイトたちへ向け手をかざす。
「≪闇夜風≫」
もや状の闇がヴァクロムの掌から生み出され、見るとそのもやが通った箇所の草木などが跡形もなく消え去っている。
――――まずい
フィルが気づいた時にはすでに遅かった。あっという間に戦闘中の四人が飲み込まれ、その場から跡形もなく消え去ってしまう。
「みんなッ!!」
「邪魔だったので退場いただきました。さて、虚空の世界でいつまで体力が保ちますかねぇ。くくくっ」
フィルはいてもたってもいられずヴァクロムに突っ込んでいく。
「打ち砕け! ≪晶撃≫!」
ヴァクロムが手をかざすと闇人たちが立ち塞がるように壁となり、フィルの攻撃をあっさり防いでしまった。だが、壁の向こうではヴァクロムが驚いた顔をしていた。
「なぜあなたがあのお方と同じ技を……」
「同じ技? 何を言ってる!」
「あなたが知る必要のないことですよ。さぁ、そろそろ終わりにしましょう」
ヴァクロムの元にすべての闇人が集まっていくと、ヴァクロムは掌に晶素を集め闇人に向け一気に晶素を開放した。
「≪宵の終結地≫」
すべての闇人が一箇所に集められると、一つの集合体として巨躯を形成する。フィルの目の前に現れたのは闇の巨人は、その足を一歩踏み出しただけで強烈な圧を放った。
巨人は不定形の口をのっそりと開けると、闇を纏った舌を凄まじい速度で振り下ろす。
「≪晶壁≫!」
フィルは咄嗟に防御の態勢をとるが、衝突の衝撃で周囲の土壁が吹き飛ばされる。そして、途轍もない威力を持った一撃はあっさりと晶壁を破り、フィルの左腕を直撃してそのまま身体ごと吹き飛ばした。
地面に叩きつけられたフィルはなんとか立ち上がるが、左腕に鋭い痛みが走る。だが、傷を確認する間もなく、間髪入れずに巨人から高速の打撃が打ち下ろされる。
フィルは体を捻ってぎりぎりの所で躱すと、痛む左腕を引きずりながら、闇巨人の脚へ向けて再び拳を放った。
「≪晶撃≫!」
フィルが放った一撃は闇巨人の体勢を崩すことには成功するが、ただそれだけだった。仲間たちがヴァクロムに囚われているため、フィル一人では絶対的に攻撃力が足りていないことを痛感する。
決して油断した訳ではなかった。
だが、体勢が崩れている巨人の背後に隠れて忍び寄っていた影にフィルは気付くことができず、無防備な腹に直撃すると、フィルは体を民家の壁に叩きつけられ呼吸が止まる。
「かっ……は」
今の一撃で肋骨が何本かやられてしまったようで、痛みに耐えながら次々と迫ってくる攻撃を避けるので精一杯で、攻撃に転じることができない。
「ワタクシの『闇巨人』からは逃げられませんよ。闇がある限り永遠に追い続けますから。ではそろそろ終幕といたしましょう」
フィルは避け続けながら考える。このままだと絶対に勝てないと。闇巨人ではなく、操っているヴァクロム本人を倒すしかないと。
だが、接近して倒すことはあの闇巨人がいる限り無理だ。あの巨体からは考えられない速度で攻撃が飛んでくるため、正面から防ごうにも今のフィルの力量では凌ぎきれないのだ。
状況を打破する可能性は一つ。この距離からヴァクロム本体を攻撃するしかない。
――――考えろ。あいつを倒す可能性を。思考を止めるな
遠距離で攻撃できる技を放つしかない。だが、晶撃以外の技は晶素が霧散してしまい、今まで一度も発現したことはなかった事実が心に重くのしかかる。
――――速く、より強いイメージを
「何かしようとしてるみたいですがもう遅い。すべてが手遅れですよ」
ヴァクロムは闇巨人を呼び寄せると、その後頭部に手を置き不吉な詠唱を始める。
「さぁ、狂人たちの宴に。盃を捨て、骨を掲げよ」
「≪狂宴招待≫」
再び開かれた口から溢れ出すのは死の風だ。通る道は朽ち果て、整備された石通りは一瞬で見るも無残な状態となっている。
闇巨人は口から凶悪な風を吹き出しながらこちらへ迫ってきており、あれを仮に避けきれたとしても、次の瞬間には間違いなく命を刈り取る一撃が襲ってくるだろう。
――――覚悟を決めるしかない
今ここで自分が倒されれば、他の仲間たちも、闇に囚われた人たちも二度と帰ってこない。それだけではない。いずれこの国も闇に塗り替えられてしまうだろう。
「俺が助けるんだ、絶対に……ッ!」
今までとは違う感覚がフィルの掌に収束し始める。”助けたい”というフィルの意志に呼応するように晶素が形を変え始める。
――――この感覚は
収束した晶素は目の前の敵を打ち払う波となり、フィルの掌から放たれた。
「≪晶波≫」




