21.束の間の
教会での日々はとても充実していた。
朝は小さい子どもたちを起こすところから始まり、教会内の掃除、食料の買い出し、礼拝と休む暇もなく動き回る。それが終わると、フィルたちは能力を活かして近くの獣を狩って食料としたり、晶獣を狩って素材を換金したり、夕方になるとリアが食事を作り、ノクトは読書好きの子どもたちへの読み聞かせ、カイトとフィルは他の子どもたちと体を動かして遊ぶ毎日だった。
そんな穏やかな日々の中でも、フィルたちはヴァンやセーラたちのことを聖都に着いてからずっと探していた。
ヴァンは必ず約束を守ると信じ、少しでも似たような人を見たという情報があれば探し出し会いに行っていたのだが、今のところ本人たちに繋がる有力な情報はない。
情報収集を続けながら、今日は、晶獣狩りの時に使っていた解体用ナイフの刃こぼれがひどくなってきた為、イリーナに紹介された武具屋に全員で来ていた。
晶獣の肉は全般的に固くて食用にできたものではないが、毛皮等は、防具の素材として重宝される。晶核と併せてかなりいい値段になるのだが、総じて皮膚が固くなり解体が大変なのだ。
「ここが『武具屋プロシオ』か」
フィルは建物を見上げながらその熱気を感じる。南通りの奥にひっそりと建っている武具屋と工房は、職人が打ち鳴らす槌の音を響かせながら一際存在感を放っていた。この店は聖都でも評判の武具屋で、新人の狩人から、熟練の冒険者まで、幅広い層が買い求める良質の武具を取り扱っているらしい。
少しばかり緊張しながら、フィルたちは武具屋の敷居を跨ぐ。
店頭には多くの武具が所狭しと並べられており、短剣から両刃の大剣、はたまた弓や防具まで、幅広い商品の数々に多くの人がここを訪れる理由を感じていた。
フィルたちが商品を見ていると、店の奥から店主らしき人物が出てくる。だが、出てきたのはフィルたちの想像とは違った人物だった。
「いらっしゃい。どんなものをお探しかね?」
そう言ったのは、まさに好々爺然といった感じの老年の男性だった。白い髪を後ろに撫で付け一つに束ねている。工房を構えている武具屋というだけあって、厳めしい人物を想像していたのだが、受ける印象はとても柔らかしい。客層に荒くれ者が多いこの業界で、この穏やかで優しそうな老人が相手取っているのだろうかと疑問に思う。
「こんにちは。実は今使っている解体用のナイフが刃こぼれがひどくなってしまって買い替えたいと思っていまして」
そう言うと、今持っている解体用のナイフを差し出す。店主はナイフを手に取り真剣な眼差しで見ている。
「……かなり使い込んでるね。刃こぼれを研いだとしてもかなり摩耗しているからやっぱり買い替えた方がいいね。狩りの武器は何を使っているんだい?」
「私たちは晶素が扱えるんです。なので武器は持っていないんです」
「君たちは晶素が扱えるのかね? 戦い方を詳しく聞いてもよろしいかな?」
フィルたちは自分たちの戦闘スタイルを店主に話す。店主は真剣な表情で、時折質問を混ぜながら聞いていた。
「ふむ……ちょっと待っていなさい」
店主は何かを考えながら店の奥に消えていってしまい、しばらくすると手に数本のナイフを持って戻ってきた。他にも色々と抱えているように見える。
「君たちに合うのはこの辺だろう。解体用ナイフといっても色んな種類があるんだよ。君たちに特におすすめなのはこれだね」
ずらっと並べられた中で差し出されたのは、今までのナイフより少し大きめのナイフだった。柄の所に紋様が刻まれおり、手に持つとずっしりと重量感がある。
「それは、晶素を流すことで切れ味を増すことができる特殊なナイフでね。刃こぼれもしにくいから長いこと使えるよ」
確かにこれから戦闘を続ければ今回のように摩耗していくだろう。それならば長く使用できる物を買った方がいいとフィルも思っていた。値段も通常のナイフより高めの設定だが、ここ最近の晶獣狩りで、このナイフを一本買ってもおつりが出るくらいにはお金はある。
「みんなどう思う?」
「いいんじゃね? 解体用のナイフは今後必要なもんだし、多少いいやつを買っといた方がいいと思うけどな」
「あたしも賛成。晶素を扱えるあたしたちなら護身用にもなりそうだし」
「僕もいいと思うよ。ここにいるとなんか他の武器も欲しくなっちゃうよね」
フィルたちはこの解体用ナイフを買うことに決めたのだが、購入の準備をしようと思っていると、店主が台の上に武具や防具を並べ始めた。疑問に思ったフィルたちが説明を求めようとすると店主が先に口を開く。
「君たちは晶素を扱えるということで今まで狩りをしてきたようだが、自身の身を守るためにこの辺りのものは身に着けておいた方がいい」
そう言うと、店主は一人一人に合った武具や防具を紹介し始めた。




