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2.灰に

「やっぱりここはいつ来ても眺めがいいわね」


 頂上に着き、広大な腐海を見ながらリアが気持ちよさそうにつぶやく。そんなリアを見ながらフィルはノクトに言われた質問をリアにぶつけてみた。


「ねぇリア。リアは聖都に行って何かやりたいことはある?」


「どうしたの急に? やりたいことねぇ……あたしはやっぱり自分の店を持ちたいわね。料理が好きだから色んな人に自分の料理を食べてほしいの。聖都にはここにはない色んな食材もあるだろうしね。あとはあたし物語読むの好きじゃない? だから自分も人をわくわくさせるような物語を書いてみたい」


 フィルはうらやましかった。自分のやりたいことがあって、それを将来の目標として見据えて動こうとしているリアが眩しかった。


「リアはやりたいことがいっぱいあるんだね。うらやましいなぁ……カイトは?」


「オレは世界中を旅して色んなことを自分の目で見たい。その為には色んな知識がいるだろ? だから聖都に着いたら働いて金貯めて『国教院』に入る。それが今の目標だな」


 『国教院』とは聖都にある教育機関で、入学するには一般知識を問う試験に合格できうる学力と多額の入学金が必要なのだ。


 そんなカイトを尊敬の想いで見ていると、はっとした表情でカイトが叫ぶ。


「あっ! しまった! 家に忘れてきちまった!」


「何を?」


「酒だよ。フィルが成人したから親父の酒を持ってきてここで飲もうと思ってたんだよ。ちょっと取ってくる!」


「あっ、ちょっ」


 止める間もなくカイトは風のように村の方に走り去ってしまった。


「まったく……」


 カイトを待っている間、フィルとリアは理想のお店の話や国教院の話など聖都での暮らしの話で盛り上がっていた。

 

 しばらくリアと話していたフィルだったが、ふいにノクトが会話にまったく入ってこないことに気付く。


「ノクトどうかした? さっきから全然喋ってないけど」


 その表情はどこか不安げだ。ノクトは頭に浮かんだ考えを整理するかのように、西の森を指しながら真剣な面持ちで言う。


「……西の森の様子がなんだかおかしい。今の時間なら夜告鳥フーバが飛んでいるはずでしょ? なのに今日はまったく飛んでない。それに、何か変な臭いがしない?」


 そう言われフィルも五感を研ぎ澄ませるように集中する。するとフィルにもその異様さを感じ取ることができた。たしかにいつもあれだけうるさい夜告鳥フーバがいない。


 そして鼻腔を突くこの臭い。まるで何かが焼けているような――――



 その時、突如、村の方から地面を揺るがす程の轟音が響き渡った。



「なんだッ!?」


 村の方へ目を向けると黒い煙が濛々と吹き上がっている。


 全身から血の気が引くのを感じながら、何があったのか確かめようとフィルたちが村の方へ向かおうと立ち上がったその時、カイトが血相を変え丘を駆け上がり、息を切らしながら叫んだ。



「村がッ! はぁっ……はぁっ……晶獣オーロの大群に襲われてるッ!」



 先程聞いた轟音が脳裏に蘇ってくる。汗が吹き出し嫌な予感がぬぐえない。


 襲撃の話を聞いたノクトが必死な形相でカイトに詰め寄る。


「どうして……ヴァンは無事なのっ!?」


「無事だ。やつらなぜか()()から来やがった。ヴァンと聖公軍が交戦してるが、数が多すぎる。しかも、よく見えなかったがたぶん後ろにいたあいつは……『晶魔ゲート』だ」


「「「晶魔ゲート!?」」」


 その言葉を聞いたフィルたちに衝撃が走る。


 『晶魔ゲート』。


 それは多量の晶素を取り込んだ際に、まれに結晶化しきらずに狂暴化し身体が変質した異形の存在。体表だけでなく全身が結晶化しており、晶獣オーロの数倍の身体能力を持つと言われる。


 晶獣オーロよりも発生数は圧倒的に少なく、ゾネの村周辺で出現したという話は聞いたことがない。


「ヴァンも加勢しに行ったが、数が多すぎる。それに晶魔ゲートがいるならまず勝ち目はねぇ。村のみんなを連れて早く逃げるぞ!」



 フィルはうるさく鳴り響く鼓動を抑えつけながら、仲間とともに丘を駆け下りていった。

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