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19.引き合う運命

 肌を焦がすような雷の熱線が晶魔ゲートを貫き、苦悶の表情で胸を押さえのたうち回っている。


 辺りを包んでいた光が晴れた時、そこには青白い雷を全身に纏ったカイトが立っていた。


 畳みかけるようにカイトは自身の能力を発現する。


「≪迅雷ホワール≫」


 次の瞬間、カイトを纏っている電気の膜が急速に密度を増し、フィルでも目に追うことができない速さで晶魔ゲートに迫っていく。


「リアッ!」


 リアは一瞬で理解したのだろう。可能な限りの晶素を込め晶魔ゲートへ向け放った。


「≪勇敢小兎ハイネン≫ッ!」


 小兎は真っ直ぐ向かっていくと、カイトの攻撃を防いで体勢を崩している晶魔ゲートの晶核に突進する。


 晶核に決定的なひびが入り、それを確認したカイトが最後の一撃を放った。


「すべての力をこの一撃に込める! ≪大雷クラム≫ッ!!」


 青白い光が辺り一帯を照らす。収束された電気の束は雷の光線となり、晶核を完全に破壊することに成功し、晶核が破壊された晶魔ゲートは徐々に体が分解され、呻き声と共に宙に消えていってしまった。


 カイトは晶魔ゲートの消滅を見届けると、空を見上げながら一つ息を吐き出した。


「リア。フィルとノクトを連れて村に戻ろう。フィルもノクトも傷は深くねぇが、フィルの方は出血が多すぎる」


「分かったわ。あたしはノクトの様子を見てくる」


 カイトが傷だらけになった顔でこちらを覗いているのが分かった。


「さすがだねカイト……諦めた自分がバカだったよ……」


「当たり前だろうが。このオレがいるんだぞ。なんとかするに決まってんだろ」


 カイトは穏やかな笑みを見せる。その笑顔を見てフィルは急速に力が抜けていくのが分かった。ノクトが体を起こしたのを見届け、フィルはそこで完全に意識を手放した。



 気が付くとフィルはニーナの宿屋で寝かされていた。


 周りを見渡すと日が暮れ暗くなっている。誰もいない部屋を見渡すと、フィルは痛む体を起こし、階下にある食堂へと降りていく。階段を下りきる直前、食堂からやけに楽しそうな声が聞こえてくる。


「そこで、オレの能力が目覚めちゃったわけ! そんで晶魔ゲートの真ん中をズバッと貫いたのよ。いや~流石に強かったけどオレらの相手じゃなかったな!」


 カイトは赤い顔で自慢気に喋っている。あれは酒が入っているに違いなく、普段に拍車をかけて饒舌になっている。驚くべきは食堂にいる人数で、明らかに定員を超えているが一様に楽しそうな顔をしていた。外からも騒がしい声が聞こえてきており、村をあげての宴会になっているようだ。


 ノクトは怪我人にも関わらず、恐らくカイトに飲まされたのだろう。すでに机に突っ伏しており、ノクトを介抱していたリアがフィルを見つけ駆け寄って来る。


「調子はどう? 村の薬師さんから分けてもらった塗薬が効いたみたいで出血はすぐに収まったみたいだけど。薬師さんびっくりしてたわよ、こんなに傷の治りが早い人は見たことないって」


「ははは。まだ少し痛むけど大丈夫だよ。後で薬師さんにもお礼を言っておかなきゃね。ところでこれはなんの騒ぎ?」


 フィルは武勇伝として大声で喋っているカイトを指差しながらリアに尋ねる。まぁ、おおよそ予想はついているのだが。


「あれから村に戻って晶獣オーロ晶魔ゲートのことを報告したの。晶獣オーロについては未だ倒し切れてないかもしれないって言ったんだけど、『この村を救った英雄だ!』みたいなことを村長が村人たちに言い回ってね。フィルを部屋に連れて行った後、やけに下がうるさいなと思ったら、この有様よ」


「そうなんだ。まぁ、みんな楽しそうで良かったよ。この人たちの笑顔を守れてよかった」


「……そうね。みんなあたしたちに感謝してたわ。『ありがとう』って何回言われても嬉しいものね」


 フィルとリアは食堂にいる村人を見渡し、戦いの結果に得たものを噛みしめていた。


「おやっ! フィル殿起きられましたか! おい、みんな! フィル殿が起きられたぞ!」


 村長の一言で、フィルはあっという間に村人たちに取り囲まれてしまう。


「ありがとう英雄殿!」

「兄ちゃん保持者ホルダーなんだって!? 若いのに大したもんだ!」

「これでもうアイツらに悩まなくていいんですね! 本当にありがとうございます!!」

「きみ、ウチに婿に来ないかい?」


 最後は置いておいて、口々に感謝の言葉を言われ、普段そういった事に慣れていないフィルは戸惑ってしまう。だが、村人たちに連れられ宴会の席に参加するとすぐに打ち解け、一緒に酒を酌み交わすことになった。


 村人たちの未来への希望を酒の肴にしながらフィルは考える。


 今回は運よくカイトが保持者ホルダーとして覚醒したから勝つことができた。巨大喰蛇バイリンの時もそうだ。たまたま力を手に入れることができた結果、なんとか切り抜けることができたのだ。


 ゾネの村から旅をしてきて、何度も死を覚悟した瞬間はあった。運に任せるようなことでは、いずれ死が避けられない状況がやってくるだろう。そうならない為にも、フィルは聖都に着いたら、偶然に頼ることのない力を身につけなければならないと強く感じていた。


 そんなことを考えていると、上機嫌なカイトが酒を持って近づいてくる。すでに顔は真っ赤だが表情はとても落ち着いていた。


 カイトがおどけるように言う。


「よう、フィル! 英雄さまが来たぜ!」


「カイトだけじゃないでしょ英雄さまは、と、言いたいとこだけど今回ばかりはその通りだよ。英雄さまに乾杯」


 フィルはカイトの持っているグラスに自分のグラスをぶつけると、入っていた酒を胃に流し込む。


「よせよ。たまたま今回は運がよかっただけだ。オレたちはもっと強くならなきゃいけねぇ。まぁ、戦いに巻き込まれねぇことが一番いいんだけど、お前といる限りそれは無理そうだし」


「失礼だな。それだと俺が厄介ごとを起こしてるみたいじゃないか。心外だよ」


「どの口が言ってんだ」


「困ってる人がいるから助けるんだ。それがたまたま厄介な案件だったってだけだよ」


「はいはい」


 フィルとカイトは笑い合いながら周囲の喧騒にしばらく身を任せる。


「こういう光景を見るとさ、やっぱりあの時動いてよかったと思うんだ。それが自己満足のためって言われたらその通りなんだけど」


「そりゃ自己満足だろうよ。それはお前が目の前の人を助けたいと思って、自分の意志で動いてんだから。だけどその自己満足でこれだけの人が助けられてんだ。胸を張れ。偽善だって言われても堂々としてろ。正しさなんて他人に決めてもらうもんじゃねぇんだからよ」


「……そうだね」


「さぁ、辛気臭いのはやめだ、やめ! 明日もまた森で残党狩りだからな! 今日はたらふく食って飲むぞ!」


 そう言って再び村人たちの輪に入って行く。フィルも時間を忘れて村人たちとのひとときを楽しんだ。



 結局、宴会は朝方まで続いた。フィルが眠気を感じ引き上げようとした時、場はまさに混沌の一言だった。


 カイトはなぜか他の村人とともに酒樽の中に入って寝ており、ノクトは途中で起きたが再度カイトたちに飲まされ、床に転がっていた。リアは途中まではおとなしかったのだが、次第に酒の量が増えていき村人たちに絡み始めた。今も、寝そうになっている村人がいると叩き起こし、酒を飲ませている。正直一番質が悪かった。



 フィルはリアに見つからないよう、そっとその場を後にした。

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