17.三洋蛭
翌朝、村長から傷薬や携帯食をもらい、一行は晶獣が現れるという東の森を進んでいた。
鬱蒼と木々が生い茂っている大陸東側の森と違い、この辺りは湿地帯のようになっている。ぬかるんだ道なき道を歩きながら、痕跡を辿って森の奥に進んでいく。
「今回は三洋蛭の晶獣らしい。動きが遅い分、一回触れられたら終わりだ」
フィルは確認の意味も込めて仲間たちに説明する。終わりと言った理由は三洋蛭のその習性にある。奴らは人間でいう目にあたる器官がない代わりに、夥しい数の足が生えており、その足で獲物の振動から位置等を察知し襲いかかる。一度獲物にくっつくとその足から棘を出し血肉を吸い尽くしてしまう。
知性が高いわけではないが、本能的に獲物を襲う生物で群れで行動する。村長が言っていたように、一匹倒しても群れを殲滅しないと意味がないのだ。
「しっかし歩きずれぇな。地面がべちゃべちゃじゃねぇか」
「ほんとよ。もう泥だらけになっちゃった」
カイトとリアがぶつぶつ文句を言いながら歩く中、一人冷静なノクトは周りの状況をつぶさに観察している。
「この辺りは三洋蛭が好きそうな場所だね。動物が集まる場所に奴らもいるはずだから、大きい水飲み場みたいなところにいる可能性が高いと思うんだけど」
三洋蛭は普段は木の根本あたりでじっとしていることが多い。フィルたちは足元を注視しながら、水飲み場のようなものがないか探す。
しばらく森の奥の方に向かって歩くと、比較的大きな池が目の前に現れる。周辺には小型の動物たちが喉を潤している姿が見えるが、肝心の姿は一匹も見えない。
「……いないみたいだ。ノクト、何か気付いたことがあるかい?」
「いや、辺りを見たけど手掛かりになりそうなものは…………ちょっと待って」
そう言うと、ノクトは先程小動物たちが水を飲んでいた場所まで移動し、しゃがみこみ池の中をじっと見ている。
「なに見てんだ?」
「底の方に動物の骨と皮が堆積してるんだ。けど水はそこまで濁ってないでしょ? あの量は異常だよ。やっぱりこの辺にいるのは間違いないと思う」
そう言われ他の三人も池の中を覗く。ノクトの言うとおり、かなりの数の死骸が蓄積しているようだ。
「僕たちが来た方向よりこっち側の方が死骸が多いから、たぶんこの先に三洋蛭の住処があるような気がする」
ノクトが森の奥を指さして説明する。おそらくこの先で奴らと戦闘になる可能性が高いということで、フィルたちは改めて装備と荷物の確認しあった。
準備を整えた一行が池を抜け、再度森に入って行くと異変はすぐに現れた。異常なまでに濃い血の匂いが辺りに漂っている。
細々とした木々を分け入ると、そいつはいた。
ずるずるとおぞましい音を立てながら、動物の死骸に覆い被さっている。村長の言う通り通常の三洋蛭の倍は大きく、背中の部分が結晶化していた。
三洋蛭は振動を感じ取ったのか、フィルたちの存在に気付き振り向くと、食事を止めこちらにゆっくりと近づいてくる。食事を止めてでもこちらに向かってくると言うことは、本能的に人を襲うという話は間違いないようだ。
「来るぞッ!」
通常の三洋蛭はどちらかといえば動きが早い方ではない。だが、コイツは違う。夥しい数の足を激しく動かし、信じられない速度でこちらに近づいてくる。
「シィィィィィィィッ」
「壁となれ! ≪晶壁≫!」
フィルは飛び掛かってきた三洋蛭を受け止めると、その隙にカイトが回り込み晶素を纏った足で蹴り飛ばす。さらに、後ろで構えていたリアが緑の輝きを放つ。
「立ち向かう勇気を。≪勇敢小兎≫」
リアの言葉とともに猛然と小兎が飛び出していく。小兎はそのまま三洋蛭飛び掛かり、その緑みがかった斑点模様の体表を抉り取った。やはり通常の個体と違い身体が強化されているようで、致命傷には至らない。
「≪水蓮≫」
ノクトの放った水弾によって吹き飛ばされ、そのまま動きを停止させる。フィルたちは三洋蛭が本当に動き出さないことを確認すると、体内にある晶核を取り出しようやく一息つくことができた。
「ふぅ~。なんだ、たいしたことねぇじゃん」
安堵の息を吐きだしながらカイトが呟くが、フィルは今の戦いに余裕を感じることはなかった。
「たしかに一体だけだと問題ないけど、群れで来られたらかなり厄介だよ。なんせ触れられたら終わりなんだ。今の戦いだけでも相当神経を削られた」
フィルは緊張感を顔に張り付けながらカイトに返す。
「二~三体くらいならなんとかなるだろ。群れがどのくらいいるのか知らねぇが、このペースで倒していこうぜ」
カイトが一歩を踏み出した瞬間、奥から再び三洋蛭が現れる。だが、その数が問題だった。
六体もの群れがこちらに向かって来ていたのだ。
「おいおい、ウソだろ……」
「囲まれたらまずい! 右の個体から一体ずつ倒すぞ!」
フィルはそう言うと晶獣の群れに飛び込んでいった。




