14.操作
巨大喰蛇はフィルたちにその巨躯をもって襲い掛かる。
「壁となれ! ≪晶壁≫!」
晶素の壁が巨大喰蛇の鼻先に出現し攻撃を弾くが、最初に戦った蛇の比ではない力で逆に押し戻されてしまう。
「ぐっ」
「もたせろフィル!」
カイトは何かを巨大喰蛇の口に投げ入れると、直後、全身をくねらせながらもがき苦しみ始める。
『グギャァァァァァァァァァァアッァアァ』
「何を口に入れたんだ?」
「これだよ」
カイトが見せてくれたもの、それは啖礼草の実だった。ノクトが解毒薬になると採取していた実を、フィルが攻撃を受け止めている間に蛇の口へ投げ込んだのだ。
今が好機だと思ったフィルたちは、巨大喰蛇の腹に向け一斉に攻撃を叩き込む。
「打ち砕けッ! ≪晶撃≫!」
「≪勇敢小兎≫!」
「おらぁぁぁぁッ!」
すべてを乗せた一撃は巨大喰蛇の腹部に直撃し、湖面に波紋を広げながらその巨体を見事に吹き飛ばした。
「やったのか? なんだ、案外あっけなかったな」
カイトがそう言いながら背を向けた瞬間、ノクトが叫ぶ。
「みんな! まだだ!」
次の瞬間、フィルたちへ向け一斉に無数の刃が飛来し、背を向いていたカイトは反応が遅れ、左足と右足を切り裂かれてしまう。巨大喰蛇は短い呼吸を繰り返しながら、忌々しそうにこちらを見ていた。
『毒なんぞに頼りおって……忌々しい人間どもめが』
毒で弱ったところに今出せる全力の一撃を放ったつもりだった。だが、その厚い皮膚を突き破る程の力が今のフィルたちにはなく、通常の喰蛇は貫通できたリアの力をもってしても、王を貫くには力不足だった。
『この世の理不尽さを嘆きながら果てるがよい』
巨大喰蛇は口を大きく開けたかと思うと水中に潜ってしまう。次の瞬間、大量の酸を含んだ夥しい数の水弾が、フィルたち目掛けて飛来する。
「みんな! 俺の所に集まるんだ! 早く!」
フィルは仲間たちを水弾から防ぐ為、ありったけの力を込めて晶壁を発現させる。だが、一発、二発と当たる内に次第に押されていってしまい、地面を見ると、水滴が落ちた個所の草花はすべて強烈な酸により溶かされていることに気付いた。
このままでは晶壁が途切れた瞬間、全員どろどろに溶かされて終わってしまうことは目に見えていた。水弾も一向に途切れる気配がなく、フィルたちはただひたすら耐えることしかできない。
そんな絶望的な状況の中、ノクトが不思議な事を言い始める。
「ねぇ、みんな、なにか声が聞こえない……?」
フィルには何も聞こえない。聞こえるのは激しい水しぶきの音と、足元で草花が溶けている音だけだ。
「声? んなもん聞こえねぇぞ?」
「あたしも何も聞こえないわよ?」
「たしかに聞こえるんだよ。ほら、また! 力? この指輪を嵌めればいいの?」
ノクトがフィルたちには聞こえない声と会話している。だが、ノクトの手の中にある指輪はご神体として使用されてたもので、しかも巨大喰蛇が持ち去られるのを防ごうとしたものでもある。罠の可能性もあり、迂闊に身に着けるのは危険だとフィルは判断した。
「ノクト、止めた方がいい。罠の可能性だってある」
だが、ノクトは静止を振り切って自らの想いを吐露した。
「罠かもしれない。けど今のままじゃどの道勝ち目はないよ。声は力を借してくれるって言ってるんだ。少しでも助かる可能性があるななら僕は……賭けるべきだと思う」
フィルは必死に壁を張り続けているが、ノクトの表情から決意の固さを感じ、その気持ちに応じる。
「ノクトがその声を信じるなら俺も信じるよ。それに……そろそろ限界が近そうだ」
フィルの一言でノクトの決心は固まったようだ。カイトとリアを見てうなずき合うと、ノクトは自らの指にくすんだ指輪を通す。
特にノクトに変化は訪れず、晶素が集まっている気配も感じない。
やはり罠だったのか、ノクト以外の三人がそう思い始めた時、ノクトの口から予想外の言葉が出てくる。
「きみは……そういうことだったんだね……わかった。フィル、僕が合図したら≪晶壁≫を解除してくれるかい?」
劣等感に苛まれていたノクトはもうどこにもいなかった。ノクトの目は自分を信じてくれと訴えかけている。
「分かった」
ノクトは目を瞑り、右手に急速に晶素を吸収し始める。
直後、ノクトの背後に無数の水弾が出現し、一発一発に途轍もない量の晶素が込められているのを肌で感じた。
「フィル! 次が着弾したら解除してくれ!」
「分かった! いくぞ!」
フィルは巨大喰蛇が吐いた水弾が着弾した直後、晶壁を解く。どっと押し寄せる疲労を堪える中、敵が再び水弾を放とうとした瞬間、ノクトの新たな力が解放された。
「≪水蓮≫」




