11.狩りの時間
バントの街は活気に溢れている。それでも聖都に比較すれば田舎には違いないが、村から出たことのないフィルたちにとってはすべてが新鮮だった。買い出しの時も、カイトがあっちこっちにフラフラ入っていき大変だったらしい。
「リアこそ『なにあの食材! まだ動いてるわ!』とか言って露店に突撃したじゃねぇか。店番のおっさんちょっと引いてたぞ」
「だって足だけなのにまだうねうね動いてたのよ!? しかも焼いて干物にしたらものすごく美味しいっていうじゃない! 欲しかったなぁ……」
フィルたちは基本貧乏だ。残金も旅に使うものを買ったらほとんど残っていない。悲しそうな表情を浮かべるリアにノクトが慰めるように言う。
「これから少しずつ動物狩りながらいくんでしょ? 狩人は危険だけど実入りはいいって言うし、頑張ったらけっこう稼げるんじゃない? まぁ、僕はみんなみたいに戦力にならないから役に立たないけど」
やはりノクトは自分だけ晶素が扱えないことを気にしているようだ。フィルは昨日のノクトの様子が少しおかしいことに気付いていた。あれは、きっと自分だけ晶素を扱うことができず、人知れず劣等感を感じていたのだろう。
「役に立たないなんて言うなよノクト。たしかに俺たちは襲ってくる敵には力で対抗できるかもしれない。でも、俺たちは周囲の異変を敏感に感じることはできないよ。それはノクトにしかできないことだ」
周囲の景色が流れ、行き交う人の数が次第に少なくなり、いよいよ街の出口が見えてくる。
「人が持っているものと自分が持っているものなんて違って当然なんだよ。ノクトは俺たちにないものをちゃんと持ってるんだから」
カイトがフィルの言葉に続く。
「そうだぜノクト? オレにできないことなんてもちろんいっぱいあるんだ。それはノクトが補ってくれよ。それにお前はこの中で唯一の癒しなんだから」
「ちょっと待った。唯一の癒しってなによ? ここに麗しき美少女がいるんですけど? あたしは癒しじゃないって訳?」
「ノクトこれで分かったろ? 人それぞれ得意なことは違うんだ。な? 中身は牙土獣みたいなやつだって世の中にはいるん――――」
「だれが牙土獣なのよ!!」
「ごふぁっ」
「ふふふっ」
いつものやり取りをしながらバントの街を抜けると、見晴らしのよい草原が彼方まで続いていく。森と違い視界が広く、野生の獣に襲われる心配も比較的少ないようだ。
フィルたちは身に着けた力を使いこなすため、あえて草原を通らず、街道が目視できる距離で左に逸れ森沿いを歩いていた。
森に住む獣を狩りながら行こうと考え、動くものがあれば逐一確認しながら進んでいく。
「おらぁ!」
カイトがこれで三匹目となる小耳兎を仕留める。大分自分が思うように晶素を使いこなせるようになったようだ。
「やっぱり晶素を取りこみすぎると逆に動きずらくなるな。やりすぎると結晶化するんだろ?」
「みたいだね。過剰に取り込まないよう気をつけないと」
フィルはゴラム戦の時に出現させた壁を、出したり消したりを繰り返している。こうすることで晶素を循環させるトレーニングをしているのだ。
ゴラムとの戦闘の時は必死だったため無意識に戦っていたが、いざ日常で使おうとするとこれが案外難しい。取り込んだ晶素を循環させ晶壁のような技能まで発現させるのは、並大抵の集中力ではできない。
フィルは休憩を挟みながらトレーニングを続けていたが、予想以上に体力の消耗を感じていた。カイトもリアも同様で、一緒に小耳兎狩りをしているが、二人とも肩で息をしている。細胞を晶素で強制的に活性化状態にしているため、体に相当な負荷がかかっているのだろう。
戦闘やトレーニングで注意散漫になっていたのだろう。
フィルたちはそれの接近に気付けなかった。
「ドゥルルルルルゥゥゥ」
口から生えている対の牙、土を掻くために発達した鋭い爪、そして恰好の獲物を見つけたと言わんばかりにこちらを見つめる血走った目。”牙土獣”の凶暴さは大人でも仕留めるのに苦労する。
こちらを威嚇しがら近づいてくる牙土獣に、フィルたちは最大限警戒する。フィルが晶素を取り込み始めたのを察知したのか、唸り声をあげながらこちらへ猛進してきた。
「ドゥルルルラァァアア!」
「≪晶壁≫!」
牙土獣の強烈な突進をフィルが正面から受け止めると、カイトが後ろに回り込み、牙土獣を抱えるとそのまま投げ飛ばす。
「うらぁっ!」
投げた先にはすでにリアが待ち構えており、連携の最期を締め括るように晶素を込めた一撃を放った。
「はぁぁぁっ!」
頭部を直撃したリアの一撃は、脳を揺らしたようで牙土獣の四肢はふらついている。だが、致命的なダメージを与えるには至っていない。三人は目線で会話をすると、作戦を変更し再び敵と対峙する。
牙土獣は一撃を頭部にもらったことに苛立っているのか、標的をリアに変え突進してきた。
リアは視界の端に動くカイトとフィルを認識すると、ぎりぎりまで引きつけ突進を躱し、構えていたカイトが牙土獣の牙を両手で掴み、フィルがいる方向へ力の限り放り投げた。空中でもがいている獣を視界に収めたフィルは、落下してくる牙土獣の脳天に向け渾身の一打を放つ。
「打ち砕け! ≪晶撃≫ッ!」
すさまじい衝撃がフィルの拳にも伝わる。正面からまともに受けた牙土獣はフィルの一撃で完全に沈黙した。
動かないことを確認すると、フィルたちはそのまま解体に移る。ただ、牙土獣の肉は硬く泥臭いため、市場でも大した値段にはならず、フィルたちは自分たちの食べる分だけの肉を捌くと、晶核を取り出して後は土に埋めた。
晶核は様々な用途に使われる。それは王城等で使われる空調設備から、家庭で使われる火起こし器まで、幅広い使い道があるのだ。どんな小さな動物でも存在するため、狩りの際は採取しておくのが常識となっている。
戦いを続けながら一晩を明かし、フィルたちは二匹の牙土獣と四匹の小耳兎を仕留めながら道を急いでいた。
名物の湯に各々想いを巡らせながら、フィルたちは日が暮れる頃、ようやくファンマルの村へと辿り着いたのだった。




