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103.曇り、出会い

「えっ? さっきまで山の中で……えっ?」


 リアが戸惑いの声を上げるが、その言葉は全員の想いを代弁していた。


 木をくり抜いた住居等ではなく、レイシェルフトで見るような立派なレンガ造りの家々が立ち並んでいる。綺麗に整備された家々の先にある広場には噴水のようなものも見えた。


 非常に近代的なその景観は、このような山奥には似つかわしくなく、どこか造り物めいた印象を受ける。


 それよりも、フィルには気になる点があった。


――――所々争ったような跡がある?


 建物の隅や通りの一部分が焦げていたり欠けていたりしている。それがフィルには何かが争った跡のように見えた。


「家があるんす……急に家が出てきたんす」


「なんですかここ……」


 皆、突然現れた光景に驚きを隠せない様子だ。不思議な光景にしばらく見とれていると、通りの向こうから一人の人物が歩いてくることに気付く。


 いつの間にかフィルたちを先導した白い生物は消え去っていた。


 近づいてくるにつれ、その風貌が徐々に見えてくる。非常に端正な顔立ちの男性で、腰まである太陽のような灼髪を一つにまとめている。フィルたちの誰よりも長身で、見た目から感じる圧はあるのだが、先程の白い生物と同様に存在感が非常に希薄だった。


「こっちに近づいてくるな」


 カイトが掌に晶素を溜め警戒感を強める。正体が不明な上、恐らくこの場所、この空間はこちらに近づいてくる者が創り出したのものだと直感的に理解できたからだ。


 その人物は会話ができる距離まで近づいてくると、歩みを止め口を開いた。


「希望か」


「? ……ッ!」


 フィルを含め仲間たちは驚きに言葉を失う。


 ついさっきまで目の前に立っていたはずの男性が、いつの間にか背後に立っていたのだ。

 

 まるで最初からそこに立っていたかのような錯覚に戸惑うフィルだったが、警戒心を緩めることなく目の前の人物に自分たちの状況を確認する。


「あなたは誰ですか?」


「私の名はオクリ。命の見届け役として現世に留まっている存在」


「見届け役?」


 噛み合わない会話にどことなく不安がよぎる。本当にここがメルセナが示した”龍と精霊が指し示す場所”なのかは分からない。イーネンが最後に言い放った言葉の真意は何だったのかも分からなかった。


 自分たちはここで真羅ルーラーと戦えるだけの能力ちからを身につけることができるのか。そんな思いのフィルを尻目に、オクリと名乗る人物は淡々と事実を確認するように話し始めた。


「なるほど。力を求めて”白眉”に導かれたんだね」


「えっ!?」


 なぜその事を知っているのだろうか。そう、まるで心を読んだような――――


「ふむ。心とはすなわち口だよ。発すれば届くのは道理じゃないか」


 どうやら何かしらの力で、フィルたちが心の中で思っていることはオクリには筒抜けのようだ。


 フィルは開き直って会話を続けることにしたのだが、それすら見越されていたようで、話そうとする事をすべて先回りされてしまう。


「ふむ。他方から見れば敵なのかもしれないね。私はただ寄り添う事ことしかできない。それで、フィル。何故力を求めるんだい?」


 オクリはこちらを見据えて質問をしてくるが、恐らくフィルが何と答えようとしているかは分かっているのだろう。だが、それについては先回りすることなく、じっとフィルが口を開くのを待っている。


――――力を求める理由


 幾度となくぶつけられ、その度に答えてきた質問。


 戸惑いながら、迷いながら戦い続け、今ははっきりと答える事ができる。


「今の日常を守るためです」


「ふむ。それはここにいる者たちが成すべき事なのかな?」


「はい。自分らしく生きる、そう決めたんです。こんな俺と戦ってくれる仲間たちと共に」


「……ふむ」


 フィルの答えに対して何か思うことがあったのか、オクリはしばらく無言を貫くと、突然くるりと振り向き、自らが歩いて来た誰もいない道へと声を掛けた。



止揚シヨウ剔抉テッケツ狗尾コウビ一丁字イッテイジ三隣亡サンリンボウ鬼哭啾啾クヌズキ――――おいで」


 誰もいない。


 そう思っていたのは思い違いだったことに気付かされた。


 オクリが声を掛けると、両側に立ち並んだ家々から続々と人間が出てきたからだ。


 年齢も性別もバラバラに見える。だが、それよりも。


「フィル」


「あぁ。あそこにいる全員、今の俺たちじゃ勝てないだろうね」


 覚醒したレイ・デルやドラで戦ったゼンと対峙した時のような、生物としての強者たるオーラを放ちながら、六人はオクリの元へと集まってくる。


 保持者ホルダーとして戦ってきたからこそ分かる力量の差を嫌でも理解させられる。真羅ルーラーといい、自分たちがどれだけ弱いのか、現実を突き付けられる。


 オクリは六人が集まったことを確認すると、再びフィルたちの方へと向き直る。


「みんな。彼らは自らの信念を貫く”動”の者たちだ。我ら”静”の者と反する者たちだよ。どうやら力を求めてここまで迷いこんだらしい」


「それで?」


 黒髪を無造作に撫で付けた男が口を開く。それは疑問というより、どちらかといえば”戸惑い”だった。


「彼らは”希望”だ。龍と精霊に誓おう。彼らにはみんなの力が必要だ」


「俺たちはすでに光を失っている」


「だからこそだよ。彼らじゃなければ、みんなじゃなければ、この時でなければ。来るべき時が来たんだ」


「期間と目標は?」


「六日。目標は……そうだね。”みんなに勝てるようになるまで”、かな」


 オクリの一言で場を包んでいた空気が一変する。距離が離れていても分かる程の肌を刺すような怒気が六人から放たれる。


 あまりの迫力にフィルたちは思わず後退ってしまうが、オクリは特に気にも留めていない様子だ。まるでそうなることが当たり前かのように話を続ける。


「俺たちが引き換えに得てしまった力をたった六日でコイツらに超えさせろと? 本気でそう言っているのか?」


「私はいつだって本気だよ。言ったでしょ? 龍と精霊に誓うって」


「……」


「みんながここにいる意味を、彼らに託そう」


 オクリたちが話す言葉の真意は分からないが、彼らにとって重要な会話であることは雰囲気から伝わってくる。


 六人は怒気を収めると、お互いに意志を確認し合うように目を合わせる。



 重苦しい沈黙が場を支配する中、しばらくして黒髪の男が口を開いた。

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