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100.足踏みする

 別れの挨拶を済ませた一行は、ロロに連れられ、ドラへ初めて足を踏み入れたあの崖の上へと降り立っていた。


 ガロとの別れを惜しむように、ロロはガロのことを数分間抱きしめると、いつでもまた来てくださいねと声を掛け飛び去っていった。


 ロロが飛び立った際に起こった風によって、眼下に茂る若木の香りが鼻腔をくすぐる。


「ガロ、必ずまたここに戻ってこよう」


「……んす」

 

 フィルの目に見えている風景は、初めてここに来た時と同じ景色を映し出している。だがドラを守るように外界を遮っていた結界はもうない。


 これからドラは様々な問題に直面するのだろう。人間たちが大挙して押し寄せてくることは容易に予想できるし、中には悪意を持った者もいるはずだ。


 それがこのドラという国をどう変えていくのか、フィルは少しだけ後ろ髪を引かれる想いを抱きながらロロが飛び去って行った方向を見つめる。


「さて、これからだけど――――」


 気持ちを切り替え、フィルがこれからの進路について皆に相談しようと切り出したその時、肩にのしかかるような重圧と共に、突如脳内へと聞き覚えのある声が響き渡った。


『……新たな森龍族の王よ』


「メっ、メルセナ様?」


 メルセナの突然の登場にフィルたちの間に一気に緊張が走る。声が耳に入るだけでこんなにも圧力を感じる存在はメルセナ以外にはいない。


 メルセナはゆっくりと、言い聞かせるように語り掛けてくる。


『お主が選ぶ道は苛烈な道となるだろう。決して逸れることのなきよう』


「はっ、はいなんす!」


 ガロはメルセナからいきなり話しかけられたことに動揺しながらも、元気よく返事をする。


『そして異なる運命を持つ者たちよ。臆することなく、そこにいる新たな王と人非ざる者が指し示す場所へ進むがよい』


「新たな王ってガロのことか? 人非ざる者って……?」


 全員の視線がガロへと注がれるが、当の本人はただただきょとんとしているだけだ。人非ざる者というのはいったい誰の事を指しているのだろうか。


『創世の因子を持つ者よ。その力でこの世界を正しい形へと導いてくれ。ドラ様が守ろうとしたこの世界を――――』


 その言葉を最後に、ふっと身体が軽くなりメルセナの気配は消え去ってしまった。メルセナの言葉一つ一つにフィルたちが想像つかないような意味が込められているのだろう。その意味を十全に理解できたとは言えないが、込められた意志はしっかりと受け継いだ。


「びっ、びっくりしたんす……」


「あたしもよ。急に話しかけてくるんだもん」


 ガロとリアがほっとした表情で頷き合っている。見回してみると他の仲間たちもどうやら同じだったようだ。


「ガロのこと随分気に掛けてくれてるみてぇだな。それと、なんかあの野郎と似たような事言ってなかったか?」


「たしかに。”新たな王と人非ざる者”……か」


 ここで、ソフィアが何かを思い付いたようにゆっくりと顔を上げる。


「ねぇ、あのイーネンって奴が言ってたのが”龍と精霊が指し示す場所”でしょ? さっきの言葉が”新たな王と人非ざる者”。これってガロとエインと一緒にいる小精霊の事じゃない?」


「なるほど。そういう考え方もできるのか」


 ソフィアの推測にフィルは納得する。メルセナは確かに”そこにいる”と言っていた。この場にいる新たな王はガロのことを示すのは話の流れからして間違いないだろう。そして、人非ざる者と呼ばれる存在は、この中には一人しかいない。


 皆の意識を感じたのか、何も言わずともエインの肩の辺りから小精霊がしゅっと現れ、楽しそうに飛び回っている。改めて見ると非常に表情豊かな精霊だということが分かる。


 小精霊はしばらく飛び回ると、満足したのかエインの肩へと着地し大きな欠伸をしている。


「ねぇ、エイン。何か感じる場所があるか聞いてみたら?」


「そうですね。少しお待ちください」


 エインは小精霊を自らの手に乗せると、噛み砕いて今の状況を説明し、何か感じる場所があるか小精霊へと問いかける。


 小精霊はエインの話を聞くと、しばらく目を閉じ、そして小さな指である一点を指し示した。


 それを見たガロが声を上げる。


「あの方向は……『三照山』がある方っすね」


「間違いなさそうだね。後はこれが本当に進むべき道かどうかだけど」


 明確に敵と認識している相手からの発言を鵜呑みにするほど思考を止めるつもりはないが、かといってメルセナの言葉を無視できるとも思っていない。


 恐らく真羅ルーラーの次の目的地はフィデリオの可能性が高いと思っている。事実あの男、イーネンもフィデリオに向かうよう誘導していた。


 果たしてこのまま指し示す場所へ向かっていいのか、無視をしてフィデリオへ急いだ方が良いのか、単なる足止めなのか、様々な可能性がある中フィルが取捨選択できないでいると、隣で同じように考え込んでいたネイマールが手を挙げる。


「ボクは三照山に行くのに賛成です。奴が言った言葉は信用できませんが、それ以上に王龍の言葉は信じるに足るべきものだと思いますから」


「ネイマールは何があると思う?」


「文脈から察すると何かボクたちの力になってくれる人がいる、若しくはボクたち自身の力や晶素に関する何かがあるのではないでしょうか。仮に罠であった場合は……戦うことになるんでしょうね」


「なるほど」


 ネイマールが言う理由には説得力がある。そして、その推測はフィルの決断を傾かせるのに十分な説明だった。


「分かった。みんな、ガロとこの子が示す場所へ行こう」


「いいのか? 罠かもしれねぇぜ?」


「そうだよ。わざわざ敵の誘導に乗る必要はないと思うけど」


 カイトとノクトがフィルの判断に待ったをかけるが、フィルはそれを押し切るように説明をする。


「それはもちろん分かってるさ。分かってる上で、俺は今より強くなれる可能性があるなら行くべきだと思う。ドラでアイツと戦った時に痛感したんだ。このままだと誰も守ることなんて出来ないって」


 カイトとノクトはフィルの言葉に口を挟むことはない。只々静かに次の言葉を待っている。


「ここにいる全員で戦って、だけどたった一人に負けた。そんな奴が他にもまだいる真羅ルーラーと今のまま戦った所で、また同じ事を繰り返すだけだ。奴らがなぜ俺たちを殺さないのか、なぜ生かされてるのかは分からないけど、それを俺は否定したい。生かされるんじゃなくて、俺たちは自分たちの力で生きていくべきだ」


 皆、フィルの言葉を静かに聞いている。それは崖下から吹き抜ける風と共に仲間たちへと駆け抜けていった。


「分かった。そこまで言うならオレは賛成だ。ノクトはどう思う?」


「僕はそれでもリスクが高いと思ってる。だけどフィルが言うようにそれを乗り越えていかなきゃ、僕たちは一生負け続ける。そんなのは嫌だ」


「そうね。強くならなきゃ」


 残るエイン、ソフィア、ガロも同じ想いを持ってくれたようだ。特にガロは龍化した上で敗北したことで想いを強くしていた。


「よし。じゃあ三照山に向けて出発しようか。ガロ、道は分かる?」


「う~ん……途中までなら分かるんすけど、フィデリオから逸れた先は分からないんすね」


「そっか」


「フィル、道ならこの子が分かるようだぞ」


「ほんとかい?」


 エインの肩に乗っている小精霊はうんうんと頷きながら楽しそうに笑っている。たしかに先程はっきりと指で指し示していたのでどこが目的地かは理解しているのだろう。


「えっと、じゃあ案内してもらっていいかな?」


 フィルが目線を合わせ小精霊へ問いかけると、小精霊は胸をどんと叩き自分に任せろと言わんばかりに胸を張っている。道案内はこの子に任せて問題はないだろう。


 そのやり取りを側で見ていたソフィアがおもむろに提案した。


「ねぇ、いい加減この子に名前付けてあげない?」


「名前?」


「えぇ。いつまでも小精霊なんて寂しいし、この子だってすでに私たちの仲間でしょ? 可愛い名前を付けてあげるべきだわ。ねぇ?」


 ソフィアが小精霊へと同意を求めるが、当の本人は何のことか理解できない様子できょとんとしている。


 確かにいつまでもこの子とか、小精霊と呼ぶのも他人行儀ではある。フィルはしばし考えを巡らせいくつかの案を提示しようと口を開く。


「よし! じゃあ俺が――――」


「お前は黙ってろ」

「フィルは黙ってて」

「ちょっと静かにしててよ」

「言わない方がいいんすよ」


 思い付いた名前を言う前に、フィルの壊滅的な名付けセンスを知る四人から総攻撃を受け、フィルは意気消沈する。


「やっぱりここはエインが名付けるべきよ」


「自分ですか? しかし自分は名前を付けたことなど……」


「この子だってきっとエインに付けられたいと思ってるはずよ? ねぇ?」


 小精霊はソフィアの問いかけを理解しているのかは分からないが、今度はうんうんと笑顔で頷いている。


「う~む……」


 エインは小精霊を掌に乗せると、その小さな顔を見つめ考え込む。じっと見つめられている小精霊はもじもじと恥ずかしそうにしているが、エインの掌から飛び立つことはなかった。


 エインはしばらく考え込む様子を見せると、どこか気恥ずかしそうに口を開いた。


「では…………”スミー”というのはどうでしょうか」


「いいじゃない。どういう意味なの?」


「自分の母国で”花咲く笑顔”という意味です。この子のイメージが常に笑顔だったので」


「エインなかなかセンスあるじゃない。どうかしら、って聞くまでもなさそうね。ふふっ」


 小精霊はエインから発せられたのが自分の名前だと気づいたのだろう。今まで以上の笑顔で仲間たちの周りを嬉しそうに飛び回っている。


 どうやらエインが提案した名前を気に入ってくれたようだ。


「俺だって思い付いてたのに……」


 フィルの呟きは誰にも拾われることなく宙へと消えて行った。


「じゃあ名前も決まったことだしそろそろ行くか。スミー、案内よろしくな! おい、フィル! 落ち込んでないでさっさと行くぞ!」


 全員から無視され項垂れているフィルを急かすように、カイトが声を掛ける。


「くそぉ……今度は自信あったのに」


「はいはい、また今度ね。早く行くわよ」


 リアに軽くあしらわれたフィルは顔を上げ仲間たちが待つ場所へと駆けていく。



 フィルはもう一度だけ遥か彼方にそびえ立つ大樹を目に焼き付けると、それ以上振り返ることなく次への目的地へと歩みを進めて行った。

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